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【最終話】ご配慮王子が手離したものと手に取ったもの
今日は、リラローゼ様の内輪の婚約披露パーティにお招きいただいている。
フリッツ殿下が私の希望を聞いてくださり、色を殿下とお揃いにしたドレスを作っていただいた。
殿下はオレンジ色がお好きだと伺ったので、オレンジ色のドレスをとお願いした。
互いの髪色とも瞳の色とも違う、殿下がお好きだと言う色を纏って参加したかった。
迎えにいらしてくださったフリッツ様は淡いグレーにオレンジ色をアクセントに使ったコートが濃紺の髪にとても映えていた。
いつも厚めに下ろしていた前髪を後ろへ流して、美しい瞳がよく見えて頬が熱くなった。
パーティ会場で、アンドレアス第一王子殿下と婚約者のユーディット様、ベルンハルト第二王子殿下とイルメーラ様がいらっしゃり、フリッツ殿下にベルンハルト殿下が声をお掛けになった。
「リラローゼ嬢に婚約者が決まって残念だろう、フリッツ」
「わたくしたちも、フリッツ殿下とのほうがお似合いだと思っておりましたのに」
すると、ユーディット嬢がお二人を諫めるようにおっしゃった。
「まあ、イルメーラ様、お声が大きいですわ。リラローゼ様があんなに晴れやかなお顔をなさっているのを初めて見た気がします。わたくしたちは申し訳ないほどの勘違いをしていたのですわ」
「勘違いなのですか? フリッツ殿下はリラローゼ様と婚約なさりたかったのでしょう?」
「僕にはエルナという、心から愛する婚約者がいますので。イルメーラ嬢、今後はそういう言葉を控えてもらえるとありがたい。でも誤解をさせてしまっていたのは僕のせいです。これからは遠慮なく、エルナへの想いを表に出していきますから」
フリッツ殿下が間髪入れずに言い返したので、四人の方々は目を見開いた。
「そうか。フリッツは何だかいつもと雰囲気が違うな。それに、エルナ嬢も」
「……そうだな。俺たちが間違っていたの……だな。イルメーラが言う事が正しいのだと思い込んで、フリッツの気持ちを尋ねることさえしなかった」
双子の王子殿下は、バツが悪そうな曖昧な微笑みを浮かべた。
イルメーラ様はまだ何が言い足りないようすではあったけれど、ベルンハルト殿下に促されてフリッツ殿下に謝罪をした。
フリッツ殿下がいつもと違い前髪を上げて、三人の王子殿下の中でたった一人、陛下のお色を受け継いだ瞳をはっきり見せている。
ヘレーネ妃殿下譲りの濃紺の髪で、陛下譲りのゼニスブルーの瞳をもう隠すこともないのだ。
もちろん背筋も伸ばされて、今日は本当に堂々となさっていて……素敵だった。
ホールの中央でゆったりとしたワルツを踊る、リラローゼ様と婚約者のかたが眩しく見えた。リラローゼ様の微笑みが心からのものだと、この距離からでも分かる。
くるりと回るたびに、ドレスの裾から幸せが舞いあがっているかのようだ。
お二人のためのワルツが終わり、楽団が別の曲を奏で始める。
「エルナ、僕らも踊ろうか」
「はい」
私はフリッツ殿下に手を預け、ホールのやや端で殿下と向かい合う。
ドレスの裾を持って微笑むと、いきなり殿下が私を抱き上げ、くるりと回って下ろされた。
周りがワッと沸いて、恥ずかしさでいたたまれなくなる。
「エルナと踊るのは初めてではないのに、今夜が初めてのような気がしているんだ。朝までだって踊れそうなくらいに、身体が軽い」
「……朝までは……少し無理そうですわ」
「そうだよね、僕はどうかしているな」
それから殿下は最初に驚かされた時とは別人のように、優しく紳士的なホールドで私を楽に踊らせてくださっている。
心の声を聞いてから、私に向ける言葉も接し方もそれまで感じていた距離感のようなものも無くなっている気がする。
私自身とてもラクに感じていた。
これまで殿下がご配慮で私に対応してくださっていると思っていたので、こちらも最大限の配慮の下に言葉や態度を選んでいた。
今は心で思ったことを装飾せずに伝えても、しっかりと殿下が受け止めてくださると思えるからか、すぐに返すことができている。
心に乗せられていた重石が消えたような感じだ。
「エルナ、何を考えている? 僕とのダンスから心を離されては困ってしまうよ」
「フリッツ様のことですわ。もうずっと、フリッツ様のことばかりで頭も心もいっぱいです」
「嫉妬の相手は僕なのか! 今は目の前の僕だけを見ていてほしい」
ホールの灯りが映る眩い瞳が、私を捉える。
触れ合う手もみつめられる頬も熱い。
フリッツ殿下とのダンスが描く軌跡はきっと、くるくると回りながら明るい未来へと続いている。
おわり
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