【完結】あの日の小径に光る花を君に

青波鳩子

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【2】定例議会の後に

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定例議会はいつも通り定刻に終わった。
ブレッサン領の、十余年の歳月をかけて作られた新しい港に関わる話が主だった。
新しい港はロンバルディスタ王国にとって、重要な港だ。
ブレッサン領の山を削って作られた港は、外国の優れた技術がなければ難しかったと言われている。これまでの王国内の物流がこれでかなり変わり、また外交にも有利になるという。
開港は軍事にも関わることなので、他国の技術が優れていてもそれを取り入れることに反対意見が根強かった。
だが、海路の物流にロンバルディスタ王国の活路を見出しているブレッサン公爵が、当時の貴族たちを押し切る形で着工が決まったのだ。
我がサンタレーリも参画している。
サンタレーリに良質な石が採れる領地があり、港の建設に必要な石をそこから切り出しているのだ。まだ母が存命の頃、ブレッサン公爵からどうしてもサンタレーリの石をと請われて、母はこの事業に加わったという。
この新港開港は、私にとっても母の意志を継いだ大切な事業だった。

議会の後、いつもの五人はジュスティアーノ殿下を先頭に専用の談話室に入っていく。
シックで落ち着いた調度のその談話室はジュスティアーノ第一王子殿下専用で、四大公爵家の嫡子の椅子がある。
日頃からこのように置かれている訳ではないのだろうけど、定例議会の後には私たちの椅子がいつものように並べられている。
五脚すべてウォールナットで作られ同じファブリックながら、背もたれの角度や座面の大きさなどが異なっており、それぞれの専用の椅子だ。小柄な私の椅子は、皆のものよりも低くなっている。
とても落ち着く椅子で、許されるなら持って帰って自室で使いたいくらいだ。
お茶とお菓子がそれぞれの前に置かれると、二人の侍女とジュスティアーノ殿下の側近が部屋を出た。二名の護衛騎士は、扉の無い続きの部屋に下がっている。
私たちはお茶を飲み、最初に話しだしたのはジュスティアーノ殿下だった。

「ブレッサン領に完成する港へは、アルマンドとレティーツィアと共に参加することになった。外国の技師たちからいろいろな話を聞いてみたい」

ジュスティアーノ殿下はどことなく嬉しそうに見えた。
そう言えば、いつかの古銀のペンは、ブレッサン公爵が外国の港で買った土産だったわ。
新しい港は、大型船舶が停泊できるように作られると聞いた。
大型船舶が寄港できるようになれば、より遠い国からの物資が届きこれまでよりも安価で手に入るようになる。
ジュスティアーノ殿下は、そうした遠路からの船がもたらす物を楽しみにしている側面もあるのね。
私が取り留めも無いことを考えていると、急にジュスティアーノ殿下が声の音量を落とした。

「それから、俺の婚約者にとバウスコール王国から打診を受けていたエフェリーン王女との婚約は、正式にこちらから断った」

「へぇ、それはまたどうして? バウスコールは新興国とはいえ領土は広いから、ロンバルディスタとしては婚姻関係を結ぶことに損はないような気がするけど」

イラリオが、ストレート過ぎる言葉で尋ねた。

「陛下は、ロンバルディスタ国内の有力貴族との婚約で足場固めをするほうを選んだということだ……というのが表向きで、本当のところはここでしか言えないが、調べたところ実に奔放な王女で公務を嫌い、見目のいい令息を侍らせて日々を怠惰に過ごしているそうだ。体のいい厄介払いの先にされるのは御免だということだな。第二、第三王子相手でもいかがなものかというのに、第一王子である俺を指名してきたのは馬鹿にされたようなものだ……というところだ」

「……なるほど」

誰もが大方察した顔をした。
奔放な女性がいずれこの国の王妃に……というのは困る。
ジュスティアーノ殿下を始め、男性陣が知っているかは分からないが、私やヴィオラがそのエフェリーン王女殿下について知っていることもあった。
王女殿下は赤がご自分の色だと決めていらしているとかで、装いのどこかに必ず赤を目立つように使う。その為バウスコール王国の令嬢たちは、エフェリーン王女が参加する催しでは赤いドレスやジュエリーを避けているという情報を得ている。
招待された国を訪れる前には、可能な限り噂雀のくちばしからこぼれた話を拾うのだ。
私もヴィオラもそうした情報のもとに、バウスコール王国の公式行事に招待された時に、赤どころか暖色系を避けた装いを用意して行った。
ヴィオラもいつもはパープル系のドレスをよく着ているけれど、その時はパープルも危険と見做して外していたわ。
大ホールでの舞踏会で、一面ブルーやグリーンやベージュのドレスを纏った令嬢たちの中で、歌劇の主人公みたいな真っ赤なドレスのエフェリーン王女は、第三王女にも関わらずいろいろな意味で目立っていた。かの国の陛下を始め、王族の方々は誰も諫めないのか不思議に感じた。
その王女殿下とジュスティアーノ殿下と婚約の話があると聞いた時には、ロンバルディスタの国力はそこまで落ちているのかと心配になったくらいだから、話が無しになって良かったと思う。

「バウスコール王国からの話を正式に断ったことで、王国内の貴族令嬢との婚約の話を具体的に進めることができている」

ジュスティアーノ殿下は特に嬉しそうでもない表情で淡々と話した。
その表情が明るくないのは何となく察することができた気がする。
私自身のことを考えてみれば、婚約者を選定する難しさは本当によく分かる。
どれだけ調べ尽したところで、人間性というものはその相手が高位貴族であればあるほど真実を掴むのは難しい。
真実はいつも幾重にも包まれていて、近寄って自分の感覚で確かめてみなければ判らないものだ。
それが判るほどに近づけば、その時はもう手遅れであったりもする。
私は寒気を感じ、お茶のお替りを所望した。
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