7 / 21
沖縄決戦に向けて。
しおりを挟む
3月24日、ようやく機体と燃料のまとまった補充を得た第五航空艦隊。
特攻機72機、直掩戦闘機81機とこの局面とすれば比較的大規模な攻勢をかける。
そう司令長官の宇垣は決断した。
そして…
渡久地率いる8機も直掩戦闘機として、初陣を飾る事となる。
「おいおいおい…」
「信じられねえ感覚。海軍の面汚しだな。」
「直掩とか言って、結局特攻機に守られたりしてな笑」
荒木程アレではないとしても、8人の存在をクソ面白くなく感じる(主に)地上勤務の士官達は少なくなかった。
と、陰口の方向に振り返り視線を向けたものがいる。
中村剛介少尉であった。
とくに本人に睨むような意識があったわけではない。
だが…何故か先程の士官達は気圧された。
何だこいつらの目…。
特攻隊員の澄み切った覚悟とは違う。
いや覚悟以上に強力な意志。
闘志…殺意…!?
それ以降。茶化すような空気は消え去った。
そして、栄エンジンの轟音と共に…。
次々と、深緑色の翼が飛び立つ…。
半分は確実に還らず、そしてもう半分も還って来られる確率は低い。
敵はより万全の態勢を敷いているであろう。
それでも、彼らは征く。
司令長官宇垣纏はいつも通りの敬礼を、編隊が見えなくなるまで続けた。
高度5000メートルにとり、基地から南南東200キロまで進出。
渡久地は麾下の7人に伝える。
「来るぞ」
そして周囲の他の機体にも翼をバンクさせ合図を送る…。
「今日こそは食い放題だ。」
シャーザー米戦闘機隊隊長は舌なめずりした。
F6Fヘルキャット123機
それが優位な位置から攻撃すれば…。
負ける方がどうかしている。
相次ぐ空母中心へのラッキーパンチに、一時撤収を考えたわが艦隊だが、もっと貸しを取り立てないと気がおさまらねえ。
元の母艦を大破させられたパイロットもこの中にいるのだ。
覚悟しろジャップ!
日本編隊が射程内に入る3秒前。
小魚の群れが一斉に散るように、敵編隊は散開した。
!!?
状況が把握できないうちに、敵のゼロに後ろを取られていた。
しかもパイロットは渡久地でなく、斎藤勇希と中村の両少尉…!
「「死ね!」」
20ミリ機関砲合計4門、加速、ダイヴして逃れる暇もないとは…。
5発が左翼に集中。さしものタフネスを誇る機体も燃料タンクに火が付き、ぐらりと傾く。
両者示し合わせてコンビネーションを取ったわけではないが、上出来!
口元を緩める渡久地。
例によっていの一番に総指揮官が狩られ、それ以下の中級指揮官も渡久地が次々と墜として行く。
結局中堅以下のパイロットは、特攻機はじめ
敵機を狩らねばという使命感、あるいは功名心に狩られ、グラマンF6Fヘルキャットなる戦闘機の強みを活かせず、みすみす乱戦に巻き込まれてしまう。
「それにしてもだ…」
自身も3機目を墜しつつ、岩本は内心ひとりごちる。
あの学徒連中はどう考えても飛んで着陸するのがやっとの連中の筈。
3日か4日で何をしたらああなる?
明らかにエースパイロットの機動ではないか!?
そして渡久地自身の腕も…。
2、3発の機関砲弾の半単発撃ちで、次々とF6Fのコクピットの風防を狙い撃つ。
アレをやられては、いや、出来ればだが、如何な「鉄鋼所」の異名をとる奴でもひとたまりもない。
腕に加えて恐ろしいのは、機体や艦船以上に、「敵兵をしらみ潰しに殺す」ことを徹底させている事だ。
多分、パラシュートで脱出した敵パイロットもこいつは平然と撃つであろう。
確かに正しい。
戦争に勝ち抜き、自分や味方が殺されるリスクを排除する事に思考を特化させれば。
…まぁそんな思考を巡らせながら更に4機目を叩き墜とした岩本も十二分に人外の類なのだが。
なんやかやで態勢を立て直した、アメリカ戦闘機隊の前に、徐々に日本側の被害が拡大する。
が、知らず知らず高度3000メートルを切り、しかも護るべき艦隊の前衛が肉眼で見えてくる。
結局、特攻機41機がグラマンの手からまんまとすり抜け、アメリカ機動部隊に殺到する。
「よし、お前ら、お疲れ!警戒は解かず、しかし速やかに離脱だ。」
了解!!
麾下の7機とも無事、あとはどさくさに紛れ低空を這い逃れていく。
さて、なんとか4分の1でもかましてくれればいいが…。
逃れ切った後も半径80から100キロの巨大な輪形陣、濃密な対空砲火の嵐を突き抜けねばならないが…。
まず特攻組の餌食になったのは、4隻のレーダーピケット…前衛駆逐艦であった。
そこで生じたわずかな穴から、残りが突入。
続いて重巡洋艦ペンサコーラに命中2機。
さらには遂に正規空母エセックスに1機が命中し、いずれも大火災、各艦3桁前後の戦死者を出す事となる。
無論、特攻機サイドも26機が突入前に墜とされたが、ミッチャーやスプルーアンスらアメリカ艦隊首脳陣の苦悩を益々深める事となる。
特にエセックスは単機の突入としては甚大な人的損害。
パイロット41名含め411人の戦死者…。
何故か爆発由来以外の火災が激しく消火に手間取ったことも仇となった。
「どうせなら、特攻組にも燃料満タンで入れてやれば?」
前夜宇垣らに、渡久地がそう言ったのである。
「片道燃料と言ったって、現実飛行のロス分の考慮やよく分からん人情要素でかなり余裕を持って毎回入れてるだろ?
今更燃料節減ったって大した差はないって。
それよりも突入した時の焼夷効果が無視できない。特に甲板の弱い空母にはな。」
宇垣らは数分考え込んだ後、承諾したと言う。
いずれにせよ、他の直掩戦闘機と共に、「死に損ない」7名は堂々と鹿屋に凱旋したのまであった。
合わせて19機と言う撃墜戦果をひっさげて。
特攻機72機、直掩戦闘機81機とこの局面とすれば比較的大規模な攻勢をかける。
そう司令長官の宇垣は決断した。
そして…
渡久地率いる8機も直掩戦闘機として、初陣を飾る事となる。
「おいおいおい…」
「信じられねえ感覚。海軍の面汚しだな。」
「直掩とか言って、結局特攻機に守られたりしてな笑」
荒木程アレではないとしても、8人の存在をクソ面白くなく感じる(主に)地上勤務の士官達は少なくなかった。
と、陰口の方向に振り返り視線を向けたものがいる。
中村剛介少尉であった。
とくに本人に睨むような意識があったわけではない。
だが…何故か先程の士官達は気圧された。
何だこいつらの目…。
特攻隊員の澄み切った覚悟とは違う。
いや覚悟以上に強力な意志。
闘志…殺意…!?
それ以降。茶化すような空気は消え去った。
そして、栄エンジンの轟音と共に…。
次々と、深緑色の翼が飛び立つ…。
半分は確実に還らず、そしてもう半分も還って来られる確率は低い。
敵はより万全の態勢を敷いているであろう。
それでも、彼らは征く。
司令長官宇垣纏はいつも通りの敬礼を、編隊が見えなくなるまで続けた。
高度5000メートルにとり、基地から南南東200キロまで進出。
渡久地は麾下の7人に伝える。
「来るぞ」
そして周囲の他の機体にも翼をバンクさせ合図を送る…。
「今日こそは食い放題だ。」
シャーザー米戦闘機隊隊長は舌なめずりした。
F6Fヘルキャット123機
それが優位な位置から攻撃すれば…。
負ける方がどうかしている。
相次ぐ空母中心へのラッキーパンチに、一時撤収を考えたわが艦隊だが、もっと貸しを取り立てないと気がおさまらねえ。
元の母艦を大破させられたパイロットもこの中にいるのだ。
覚悟しろジャップ!
日本編隊が射程内に入る3秒前。
小魚の群れが一斉に散るように、敵編隊は散開した。
!!?
状況が把握できないうちに、敵のゼロに後ろを取られていた。
しかもパイロットは渡久地でなく、斎藤勇希と中村の両少尉…!
「「死ね!」」
20ミリ機関砲合計4門、加速、ダイヴして逃れる暇もないとは…。
5発が左翼に集中。さしものタフネスを誇る機体も燃料タンクに火が付き、ぐらりと傾く。
両者示し合わせてコンビネーションを取ったわけではないが、上出来!
口元を緩める渡久地。
例によっていの一番に総指揮官が狩られ、それ以下の中級指揮官も渡久地が次々と墜として行く。
結局中堅以下のパイロットは、特攻機はじめ
敵機を狩らねばという使命感、あるいは功名心に狩られ、グラマンF6Fヘルキャットなる戦闘機の強みを活かせず、みすみす乱戦に巻き込まれてしまう。
「それにしてもだ…」
自身も3機目を墜しつつ、岩本は内心ひとりごちる。
あの学徒連中はどう考えても飛んで着陸するのがやっとの連中の筈。
3日か4日で何をしたらああなる?
明らかにエースパイロットの機動ではないか!?
そして渡久地自身の腕も…。
2、3発の機関砲弾の半単発撃ちで、次々とF6Fのコクピットの風防を狙い撃つ。
アレをやられては、いや、出来ればだが、如何な「鉄鋼所」の異名をとる奴でもひとたまりもない。
腕に加えて恐ろしいのは、機体や艦船以上に、「敵兵をしらみ潰しに殺す」ことを徹底させている事だ。
多分、パラシュートで脱出した敵パイロットもこいつは平然と撃つであろう。
確かに正しい。
戦争に勝ち抜き、自分や味方が殺されるリスクを排除する事に思考を特化させれば。
…まぁそんな思考を巡らせながら更に4機目を叩き墜とした岩本も十二分に人外の類なのだが。
なんやかやで態勢を立て直した、アメリカ戦闘機隊の前に、徐々に日本側の被害が拡大する。
が、知らず知らず高度3000メートルを切り、しかも護るべき艦隊の前衛が肉眼で見えてくる。
結局、特攻機41機がグラマンの手からまんまとすり抜け、アメリカ機動部隊に殺到する。
「よし、お前ら、お疲れ!警戒は解かず、しかし速やかに離脱だ。」
了解!!
麾下の7機とも無事、あとはどさくさに紛れ低空を這い逃れていく。
さて、なんとか4分の1でもかましてくれればいいが…。
逃れ切った後も半径80から100キロの巨大な輪形陣、濃密な対空砲火の嵐を突き抜けねばならないが…。
まず特攻組の餌食になったのは、4隻のレーダーピケット…前衛駆逐艦であった。
そこで生じたわずかな穴から、残りが突入。
続いて重巡洋艦ペンサコーラに命中2機。
さらには遂に正規空母エセックスに1機が命中し、いずれも大火災、各艦3桁前後の戦死者を出す事となる。
無論、特攻機サイドも26機が突入前に墜とされたが、ミッチャーやスプルーアンスらアメリカ艦隊首脳陣の苦悩を益々深める事となる。
特にエセックスは単機の突入としては甚大な人的損害。
パイロット41名含め411人の戦死者…。
何故か爆発由来以外の火災が激しく消火に手間取ったことも仇となった。
「どうせなら、特攻組にも燃料満タンで入れてやれば?」
前夜宇垣らに、渡久地がそう言ったのである。
「片道燃料と言ったって、現実飛行のロス分の考慮やよく分からん人情要素でかなり余裕を持って毎回入れてるだろ?
今更燃料節減ったって大した差はないって。
それよりも突入した時の焼夷効果が無視できない。特に甲板の弱い空母にはな。」
宇垣らは数分考え込んだ後、承諾したと言う。
いずれにせよ、他の直掩戦闘機と共に、「死に損ない」7名は堂々と鹿屋に凱旋したのまであった。
合わせて19機と言う撃墜戦果をひっさげて。
18
あなたにおすすめの小説
北溟のアナバシス
三笠 陣
歴史・時代
1943年、大日本帝国はアメリカとソ連という軍事大国に挟まれ、その圧迫を受けつつあった。
太平洋の反対側に位置するアメリカ合衆国では、両洋艦隊法に基づく海軍の大拡張計画が実行されていた。
すべての計画艦が竣工すれば、その総計は約130万トンにもなる。
そしてソビエト連邦は、ヨーロッパから東アジアに一隻の巨艦を回航する。
ソヴィエツキー・ソユーズ。
ソビエト連邦が初めて就役させた超弩級戦艦である。
1940年7月に第二次欧州大戦が終結して3年。
収まっていたかに見えた戦火は、いま再び、極東の地で燃え上がろうとしていた。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~
蒼 飛雲
歴史・時代
ワシントン軍縮条約、さらにそれに続くロンドン軍縮条約によって帝国海軍は米英に対して砲戦力ならびに水雷戦力において、決定的とも言える劣勢に立たされてしまう。
その差を補うため、帝国海軍は航空戦力にその活路を見出す。
そして、昭和一六年一二月八日。
日本は米英蘭に対して宣戦を布告。
未曾有の国難を救うべく、帝国海軍の艨艟たちは抜錨。
多数の艦上機を搭載した新鋭空母群もまた、強大な敵に立ち向かっていく。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる