新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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蠢動

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ビルマ ミートキーナ。
主に駐留日本軍(陸軍第33軍)の将兵向けに市街地中心で発展した歓楽街。
そのなかの高級料亭の一間。
大尉以上の陸軍軍人達が10数名。
集合後、正座して待機する事20分。
「主役」が姿を表せた。
全員、その眼鏡の小男に立ち上がり敬礼。
「ははは、この様な場でそこまで大仰なのはいらんよ。」
そう言って、現在第33軍参謀長を務めている「作戦の神様」辻政信大佐は微笑みながら皆を着座させた。
そして自らも、用意されていた上座に座る。
「皆、日々の任務ご苦労様…。
さて…本日集まってもらったのは他でもない。
あの超売国奴国賊、久保拓也クソ中将閣下様の専横の件だ。」
皆、深々と頷く。
「皆も知っての通り、奴は本来一介の技術士官の身でありながら、当時の海軍連合艦隊の司令部に狡猾に取り入り、いつの間にか連合艦隊、果ては軍令部の作戦に容喙し…。
更に畏れ多き事には東條閣下を通じお上をたぶらかし、統帥権一元化などとほざいて、半ば陸軍を蔑ろにして皇軍を私物化しておる。
もはや君側の奸。そう言っても過言ではない!
奴の提唱する戦略や兵器は、一見画期的に見えて、その実皇軍の崇高な軍人精神を愚弄し、英米の合理主義に我々を徐々に毒そうとしておる…なんだあのふざけた小銃は。
日露の昔からの伝統である銃剣突撃を侮辱するものである。
極め付けは…嗚呼忘るるまいぞ、ニューギニアはじめ我らが血と泥に塗れ勝ち得た南方諸島を放棄してマリアナまで撤退した屈辱…。
あの敗戦工作員めが!
みなの考えは如何!?」

誅すべし!
誅すべし!!
誅すべし!!!

辻は満足げに頷き、さらに話を続ける。


一方こちらは…帝都の某所遊郭。
「やだあ、拓也様~出入り禁止になるわよ。」
「よいではないかってなー。ははは。
悪い悪い。いつもより酒の回り早くて。
君大きいね。」
侍らせた若い芸者の胸を戯れに触る久保。
勿論遠くウェーキに居るカリンにバレたら戦艦主砲級の拳を喰らうことだろう。
故に?同行者は中村のみ。
「浮かれるのもいいけどよ中将どの。
小耳に挟んだが、戦艦として予定通り造る筈の大和級三番艦がとっくに建造中止になっていると聞いたが。」
一瞬久保の眼光が変わる。
「…んー、そうらしいな。」
「かと言って葛城級二番艦以降の空母増産のピッチが上がってるわけじゃない。
まぁ、そっちを増やせばあの方々が黙っていないしな。
…何がしたいんだ?」
「ふむ、まぁ、さるやんごとなき筋で、色々とあるのだろうさ。」
「…俺にも言えないレベルか。
仕方ねぇな。
だがこれだけは言っておく。
自身の身辺には気をつけろ。」
「勿論だ。今日も送り迎えと護衛はつけてある。」
「なんなら俺の配下からも何人かつける。」
「それは、ありがたい。」
それだけ言うと、再び芸者と戯れ始める久保。

それから数日経ち。
1943年7月28日。
統合空技廠。第二実験棟。
「やりました!推力890kgf!」
開発スタッフや立ち合いの技術士官達は湧きかえる。

それは、プロペラを廻して飛行機を飛ばすことを前提としたものではなかった。
タービンロケット…ジェットエンジン。
送り主のドイツにおいてすら発送時点では制式採用に至っていなかった…
ユーカンスユモ004E。
それに永野治技術少佐らがそれまでの日本の独自技術のノウハウを加え、
「最大限出力、信頼性、生産と整備の簡便さ」を兼ね備えたものを実質3ヶ月で完成させた。
「ネ25」
半ばはユモの現物と図面を元にしたデッドコピーとは言え、日本技術者達が国力を超えた執念で、驚異のスピードで完成させた逸品であった。
(久保さんよ、とりあえずはこれで満足かい?)
永野は周囲の仲間と握手を交わしつつ、要所で不可解なほど的確な提言をくれた男に内心語りかける…。

間違いなくこいつは、航空戦の概念を変えるぞ…。



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