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思惑と夢と
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「す、ストップだストップっ!」
野球部監督…鈴井啓司の声である。
皆我に帰り、鈴井監督の方を見る。
「悪いがウチの部は夏の大会を控えている。
素人のそれも女子生徒と遊んでいる暇はない。まして事故が起きたら…。
そこのお前、とにかく外に出なさい!
他の野次馬も散って!練習は見せ物じゃない。」
ハァ!?
「ふざけんな…っと、ふざけんで下さい!
態度はともかく今の2球を見てあっさり追い払うとかありえんでしょ!」
猛然と反発したのは成川であった。
せめてあと一球、三振かこちらが打ち返すかの結果が出るまでは…。
いや、それ以前にこの女は…
「そんな球を投げるピッチャーは都内の強豪校にいない!
野球部結成50周年、甲子園行きを逃す訳にはいかないのだ!
まともに相手してバッティングが狂ったらどうする!?
…なんだ?まさかこの女子を使えとか?バカか!
どの道女子が混じったチーム編成など高野連が認めるわけがない。
ルールにない人間はいないのだ、最初から!
とにかく出ていきなさい…!」
おいたわしや…
彩奈の執事、平八は何も言えない無力感に立ち尽くすしかなかった。
お嬢様…。
野次馬の女子生徒達も巻き添え?を恐れてか白けてなのか散っていく。
ぽん。
ポーカーフェイスのまま、明智洸太郎にグラブとボールを返す、当の彩奈。
「じゃあねー楽しかったよー」
誰に言うともなく大声でそう言うと、
早足で、グラウンドを出て元の位置に戻る。
我に帰った平八爺は慌てて「お嬢様」の腕を掴む。
意外と素直に?校舎の方に彼女は方向転換した。
「ぼさっとすんな!シート打撃再開だ!
各自のやる事をやれ!」
それなりに迫力のある監督の声は無視できず、みんな渋々ながら守備位置や控えとしての別メニュー練習に戻る。
(さすがはミスター事なかれ主義だな)
マウンドに戻り、一旦投球練習で身体のエンジンを再始動しながら、明智は頭の片隅でそう思う。
(前例にない、女子の男子硬式野球参戦。
それを高野連に認めさせようなんて博打、伝統大事の老害OBたちの顔色見てばかりの監督には思いもよらないだろうな。)
しかし、あれほどの超才能を…
あのまま眠らせておくわけにはいかない。
それはもう野球とかスポーツ、男子女子関係なく、日本、世界に対する罪だ。
なんとかならないか。
あれこれ彼独特の思い巡らしつつも、高速ツーシームで強打者の成川を高々と上がったセンターフライに打ち取る明智洸太郎であった。
「あ、彩奈お嬢様。」
老家政婦の桐さんが出迎える。
「うん、桐ちゃん帰ったよー」
いつもは笑顔で手製のお菓子でティータイムセッティングしてくれるのだが…。
「奥さま…お母上がですね。。」
?
「彩奈!あなた追試はちゃんと受けたの!?」
「受けた。」
スマホを取り出し何かのゲームを始める彩奈。
40代にしては若々しく美しい母親、香里奈の顔には明らかな曇りがあった。
「まさか遅刻やサボりをしてたわけじゃないでしょうね?
折角入学にもお父さんが心を砕いてくれたのに、総見寺家の謎に傷がつく様なことを…大体大学…」
「あ、たんぽぽだ!ただいまー!」
猫…マンチカンの事である。
お互いに何故だか相思相愛であった。
「可愛いねえ…」
無視という以前の態度に、母親はため息をつき、2階に上がっていく。
その後を早足で平八が追いかける。
「…まあ、いつも通りお茶をご用意しましましょう」
「うん。たんぽぽ(♀)にもおやつあげてー。」
「はいはい。かしこまりました。」
部屋の椅子に腰掛け、たんぽぽを撫でながら、彩奈は自分の右手指先…あの時の感触を思い出していた。
(たまたま、付け爪は再試験の心象をよくしようと母と平八がうるさいのでしていなかった)
とにかく…本当に今までにない感覚。
コンマゼロ数秒の間に、あのゴツゴツしたボールにモチのように指先が張り付き、波のようにうねる全身のエネルギーがその一点に集中する。
そして放たれたボールは白い光線となって真っ直ぐ飛んでいき、鍛え抜いたバッターの高速スイングを置き去りにしてキャッチャーミットに炸裂する…。
何度でも繰り返すが、本当に気持ちよかった。
自分の力を机の上でも液晶画面の中ではなく、土の上で、屈強な男たち相手に存分に発揮する。
もしかして、私の運命、心底やりたいことは「それ」なのであろうか。
でも、あの監督の言葉…いや、あんなオッサン自体はどうでもいいが、言った事は真実、現実なのだ。
男に混じっては女子は硬式野球はできない。
もちろん、スマホで調べて女子野球の存在も知っている。
そこで頑張ってる選手達は無論尊敬されるべき存在だろう。なら、女子野球クラブチームに入るか?
だけど…。
自分が何かに打ち込み一生のものとするなら、絶対に誰にも負けない世界一になりたい。それ以外の事ならやらない方がマシ。
彩奈自身にもなんでかはわからないが、とにかくそのこだわりは幼少期から強くあった。
スポーツ、勉強、語学、習い事からゲームまで…色々な事で一目置かれる才能があるのだが、すぐに飽きて次の何かに興味を移してしまう。
他のきょうだいたちは「それ」を早々みつけて世間からも認められているのに。
なにか、何をやっても「ハマれない」のだ。
それが親や教師をはじめとする大人達には、飽きっぽい、気まぐれわがまま。
忍耐がないという風なマイナスに映り、彩奈も敏感に察知して自分の壁を作っていた。
それを、今回はこちらから開くべきなんだろうか。
コンコン。
すぐに桐ばあやのノックとわかる。
にゃあとたんぽぽが鳴いた。
一方、学園第二職員室。
例の再試験を命じた、彩奈の担任でもある数学教師・遠藤耕作。
この日の残業の最後に、その採点を終えた。
どうやらギリギリ…?
「最初からこうしろっちゅう話だ、全くあのご令嬢は…」
結果は満点であった。
野球部監督…鈴井啓司の声である。
皆我に帰り、鈴井監督の方を見る。
「悪いがウチの部は夏の大会を控えている。
素人のそれも女子生徒と遊んでいる暇はない。まして事故が起きたら…。
そこのお前、とにかく外に出なさい!
他の野次馬も散って!練習は見せ物じゃない。」
ハァ!?
「ふざけんな…っと、ふざけんで下さい!
態度はともかく今の2球を見てあっさり追い払うとかありえんでしょ!」
猛然と反発したのは成川であった。
せめてあと一球、三振かこちらが打ち返すかの結果が出るまでは…。
いや、それ以前にこの女は…
「そんな球を投げるピッチャーは都内の強豪校にいない!
野球部結成50周年、甲子園行きを逃す訳にはいかないのだ!
まともに相手してバッティングが狂ったらどうする!?
…なんだ?まさかこの女子を使えとか?バカか!
どの道女子が混じったチーム編成など高野連が認めるわけがない。
ルールにない人間はいないのだ、最初から!
とにかく出ていきなさい…!」
おいたわしや…
彩奈の執事、平八は何も言えない無力感に立ち尽くすしかなかった。
お嬢様…。
野次馬の女子生徒達も巻き添え?を恐れてか白けてなのか散っていく。
ぽん。
ポーカーフェイスのまま、明智洸太郎にグラブとボールを返す、当の彩奈。
「じゃあねー楽しかったよー」
誰に言うともなく大声でそう言うと、
早足で、グラウンドを出て元の位置に戻る。
我に帰った平八爺は慌てて「お嬢様」の腕を掴む。
意外と素直に?校舎の方に彼女は方向転換した。
「ぼさっとすんな!シート打撃再開だ!
各自のやる事をやれ!」
それなりに迫力のある監督の声は無視できず、みんな渋々ながら守備位置や控えとしての別メニュー練習に戻る。
(さすがはミスター事なかれ主義だな)
マウンドに戻り、一旦投球練習で身体のエンジンを再始動しながら、明智は頭の片隅でそう思う。
(前例にない、女子の男子硬式野球参戦。
それを高野連に認めさせようなんて博打、伝統大事の老害OBたちの顔色見てばかりの監督には思いもよらないだろうな。)
しかし、あれほどの超才能を…
あのまま眠らせておくわけにはいかない。
それはもう野球とかスポーツ、男子女子関係なく、日本、世界に対する罪だ。
なんとかならないか。
あれこれ彼独特の思い巡らしつつも、高速ツーシームで強打者の成川を高々と上がったセンターフライに打ち取る明智洸太郎であった。
「あ、彩奈お嬢様。」
老家政婦の桐さんが出迎える。
「うん、桐ちゃん帰ったよー」
いつもは笑顔で手製のお菓子でティータイムセッティングしてくれるのだが…。
「奥さま…お母上がですね。。」
?
「彩奈!あなた追試はちゃんと受けたの!?」
「受けた。」
スマホを取り出し何かのゲームを始める彩奈。
40代にしては若々しく美しい母親、香里奈の顔には明らかな曇りがあった。
「まさか遅刻やサボりをしてたわけじゃないでしょうね?
折角入学にもお父さんが心を砕いてくれたのに、総見寺家の謎に傷がつく様なことを…大体大学…」
「あ、たんぽぽだ!ただいまー!」
猫…マンチカンの事である。
お互いに何故だか相思相愛であった。
「可愛いねえ…」
無視という以前の態度に、母親はため息をつき、2階に上がっていく。
その後を早足で平八が追いかける。
「…まあ、いつも通りお茶をご用意しましましょう」
「うん。たんぽぽ(♀)にもおやつあげてー。」
「はいはい。かしこまりました。」
部屋の椅子に腰掛け、たんぽぽを撫でながら、彩奈は自分の右手指先…あの時の感触を思い出していた。
(たまたま、付け爪は再試験の心象をよくしようと母と平八がうるさいのでしていなかった)
とにかく…本当に今までにない感覚。
コンマゼロ数秒の間に、あのゴツゴツしたボールにモチのように指先が張り付き、波のようにうねる全身のエネルギーがその一点に集中する。
そして放たれたボールは白い光線となって真っ直ぐ飛んでいき、鍛え抜いたバッターの高速スイングを置き去りにしてキャッチャーミットに炸裂する…。
何度でも繰り返すが、本当に気持ちよかった。
自分の力を机の上でも液晶画面の中ではなく、土の上で、屈強な男たち相手に存分に発揮する。
もしかして、私の運命、心底やりたいことは「それ」なのであろうか。
でも、あの監督の言葉…いや、あんなオッサン自体はどうでもいいが、言った事は真実、現実なのだ。
男に混じっては女子は硬式野球はできない。
もちろん、スマホで調べて女子野球の存在も知っている。
そこで頑張ってる選手達は無論尊敬されるべき存在だろう。なら、女子野球クラブチームに入るか?
だけど…。
自分が何かに打ち込み一生のものとするなら、絶対に誰にも負けない世界一になりたい。それ以外の事ならやらない方がマシ。
彩奈自身にもなんでかはわからないが、とにかくそのこだわりは幼少期から強くあった。
スポーツ、勉強、語学、習い事からゲームまで…色々な事で一目置かれる才能があるのだが、すぐに飽きて次の何かに興味を移してしまう。
他のきょうだいたちは「それ」を早々みつけて世間からも認められているのに。
なにか、何をやっても「ハマれない」のだ。
それが親や教師をはじめとする大人達には、飽きっぽい、気まぐれわがまま。
忍耐がないという風なマイナスに映り、彩奈も敏感に察知して自分の壁を作っていた。
それを、今回はこちらから開くべきなんだろうか。
コンコン。
すぐに桐ばあやのノックとわかる。
にゃあとたんぽぽが鳴いた。
一方、学園第二職員室。
例の再試験を命じた、彩奈の担任でもある数学教師・遠藤耕作。
この日の残業の最後に、その採点を終えた。
どうやらギリギリ…?
「最初からこうしろっちゅう話だ、全くあのご令嬢は…」
結果は満点であった。
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