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最初の進化
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「間髪入れず、行きますよ。」
「はっ…?」
「組手を」
くみ…て…?
年齢の概念をどこかに捨て去ったかのような、カモシカのように軽やかなステップで、道場の真ん中に身を移した先生を見て、これからすることを高志は理解した。
「好きなように、打ち掛かってきなさい」
東郷先生は脱力して、構えらしき態勢を取らない。
「うぁああっ!!」
先刻までの狂熱をそのままに、高志は右廻し蹴りを繰り出…
!!??
気がついたら天井が見えていた。
「…!!!」
手足の骨折を忘れるほと、鈍くも強烈な痛みが鼻骨に。
殴られたのか?
蹴られたのか?
それすらもわからない。
突きや蹴りが速すぎて見えないと言うより、技の発動自体が全く分からなかった!
倒れている高志の頭の右側の床面に、どんと拳が振り下ろされる。
「君は、この間に5回は死んでいるね」
うすら笑みすら浮かべている先生の言葉は、けしてハッタリではないと全身で感じる。
当然、先刻の打撃も含め、相当にこれでも手加減はしているのであろう。
しかしその拳足は、これは容易に、あまりにも容易に、人を殺せるモノだと全身に伝えてくる。
「…誰もこれで終わりだとは言っていない。」
その言葉に反射的に立ちあがろうとするが、直ぐに、これまた何をされたかわからぬまま大の字になる。
「…実戦では、などとぬるいものではなかろうが、とにかくそう言った場で、相手がすんなり起きるまで待ってくれる保証はない。」
ぐうっ、確かに…あいつらだって…
様々な痛み、そして恐怖。しかしまだ、赤黒い炎が高志を突き動かしていた。
うおおっ!
身体を強引に転がし、道場の隅で呻きながら高志は立ち上がる。目の前に先生。
「ダァッ!!」
右拳を繰り出そうとした、と言うより、その指令を大脳が発した瞬間。
右肩に激痛。妙にスピンするように倒れ込む高志。
そんな…マジかよ。
相手の繰り出す技を事前に読むって…それこそ普段読んでるバトルファンタジー漫画、ライトノベルの世界…。
だが、立ち上がる、立ってしまう。
本来最低手足の5~7箇所に骨折を負い、しかも度重なるダメージ。
本来、てか半日前の高志なら、苦悶のうちにのたうちまわるか、何なら失神していたであろう。
だのに、今は、苦痛を克服すると言う感覚すらなく立ち上がってしまう。
僕が自ら燃え上がらせた、大切な存在の為の底知れぬ憎悪。
それに、東郷先生の不可思議な熱量を持つ言葉。
それらがあり得ないほどの化学反応を起こしたのであろう。
とにかく高志は立ち上がり、そしてまた倒される。
そして同じように…また…
「考えを変えず同じことを繰り返すだけならば、それは稽古とは言わない。」
東郷先生の言葉がずしりと響く。
だ、だったら…
高志はジャンプ。
見様見真似の飛び蹴り、当然高校生の垂直跳びの平均に遠く及ばぬ脚力ではたかが知れて…
床に叩きつけられる。
先生は敢えて跳躍するのを待って蹴り落としている。
文字通り「身体で教える」つもりなのだ。
全身各所の痛みに、もはや指一本動かすことも叶わぬような、またそうでもないような。
結局は立ち上がり、また倒され…。
それをまた何度か繰り返したのち、先生の声が重々しく響く。
「もしかして君は、『叩きのめされても、何度も諦めず挑み続けることに価値がある。』と思っていないかね?」
!?
「その考えでいるなら1週間どころか、10年やってもモノにならない。
今すぐ荷物をまとめて帰りなさい。」
…。
ど、どういうことなんだ?
訳が…。
「そもそも君は何を求め此処に来た?
苦痛を克服し、いじめにも耐える強い精神を養う。
それならば他に良い場所がいくらでもある。」
…!
そうか、僕は…
猛然と、再び挑み、結果を再現する高志。
しかし、その内奥には、明らかにそれまでと異質な熱と強烈な目的意識が…!
(鉄塊を叩いてて、結局一番しっくりしたのがこれしかない。
じゃあ、これ一本槍でいってやる!)
傍目には、引き続き同じ様に高志が東郷に延々と繰り返し立ち上がっては倒されているようにも見えよう。
だが…無表情のまま淡々と高志を倒し続けていた東郷の表情が、かすかに変わっていた。
一方高志には、そんな事に気づく余裕はない。
ただひたぶるに…これに賭ける!
完全に先読みされるなら、それでも尚止められない、避けられないくらいに速く!
それでも、構えた瞬間に天井が見えて…。
ん?
構え…られている…。
進んで…いる!
前に…
このまま、繰り返せば!
ただひたぶるに、反復!気魄を、憎悪を、怒りを、殺意を、全て乗せて!
気の遠くなるような時を経て…
そんな心持ちを味わった後。
ひゅっ。
右ストレートというのか、正拳逆突きというべきなのか。
あさっての方向の空振りだけど!
とにかく、放たれた。放つ事ができた!
この僕、神崎高志が、東郷先生相手に!
無論次の瞬間、天井を見る羽目になったが…。
とん。
鳩尾に足を軽く置かれただけで、全く床の上で身動きが取れなくなる。
「ひとつ。合格点をあげましょう。
初日は文字通り何もさせず完封するつもりだったのだが。
君は、明確に、私の顔に拳を叩き込む。それのみを強烈にイメージした。どの道ダメだという思いを封印して、ただ自分の拳を当てることのみに思考と動きを特化させた。
その結果、空振りとはいえ私に反撃の一撃を放つ事ができた。
その思考法をさらに極めていきなさい
…もう3時間経ったか。
10分だけ休み給え。
その後…次に移るぞ。」
「は、はい…」
全身の苦痛は既に極北に達していたが、立ち上がらないという選択肢は無かった。
肉体においても精神においても、今までの人生、「強い意志と努力でなにかを成し遂げた」ことの無かった高志。
へへっ、やったぜ。
「はっ…?」
「組手を」
くみ…て…?
年齢の概念をどこかに捨て去ったかのような、カモシカのように軽やかなステップで、道場の真ん中に身を移した先生を見て、これからすることを高志は理解した。
「好きなように、打ち掛かってきなさい」
東郷先生は脱力して、構えらしき態勢を取らない。
「うぁああっ!!」
先刻までの狂熱をそのままに、高志は右廻し蹴りを繰り出…
!!??
気がついたら天井が見えていた。
「…!!!」
手足の骨折を忘れるほと、鈍くも強烈な痛みが鼻骨に。
殴られたのか?
蹴られたのか?
それすらもわからない。
突きや蹴りが速すぎて見えないと言うより、技の発動自体が全く分からなかった!
倒れている高志の頭の右側の床面に、どんと拳が振り下ろされる。
「君は、この間に5回は死んでいるね」
うすら笑みすら浮かべている先生の言葉は、けしてハッタリではないと全身で感じる。
当然、先刻の打撃も含め、相当にこれでも手加減はしているのであろう。
しかしその拳足は、これは容易に、あまりにも容易に、人を殺せるモノだと全身に伝えてくる。
「…誰もこれで終わりだとは言っていない。」
その言葉に反射的に立ちあがろうとするが、直ぐに、これまた何をされたかわからぬまま大の字になる。
「…実戦では、などとぬるいものではなかろうが、とにかくそう言った場で、相手がすんなり起きるまで待ってくれる保証はない。」
ぐうっ、確かに…あいつらだって…
様々な痛み、そして恐怖。しかしまだ、赤黒い炎が高志を突き動かしていた。
うおおっ!
身体を強引に転がし、道場の隅で呻きながら高志は立ち上がる。目の前に先生。
「ダァッ!!」
右拳を繰り出そうとした、と言うより、その指令を大脳が発した瞬間。
右肩に激痛。妙にスピンするように倒れ込む高志。
そんな…マジかよ。
相手の繰り出す技を事前に読むって…それこそ普段読んでるバトルファンタジー漫画、ライトノベルの世界…。
だが、立ち上がる、立ってしまう。
本来最低手足の5~7箇所に骨折を負い、しかも度重なるダメージ。
本来、てか半日前の高志なら、苦悶のうちにのたうちまわるか、何なら失神していたであろう。
だのに、今は、苦痛を克服すると言う感覚すらなく立ち上がってしまう。
僕が自ら燃え上がらせた、大切な存在の為の底知れぬ憎悪。
それに、東郷先生の不可思議な熱量を持つ言葉。
それらがあり得ないほどの化学反応を起こしたのであろう。
とにかく高志は立ち上がり、そしてまた倒される。
そして同じように…また…
「考えを変えず同じことを繰り返すだけならば、それは稽古とは言わない。」
東郷先生の言葉がずしりと響く。
だ、だったら…
高志はジャンプ。
見様見真似の飛び蹴り、当然高校生の垂直跳びの平均に遠く及ばぬ脚力ではたかが知れて…
床に叩きつけられる。
先生は敢えて跳躍するのを待って蹴り落としている。
文字通り「身体で教える」つもりなのだ。
全身各所の痛みに、もはや指一本動かすことも叶わぬような、またそうでもないような。
結局は立ち上がり、また倒され…。
それをまた何度か繰り返したのち、先生の声が重々しく響く。
「もしかして君は、『叩きのめされても、何度も諦めず挑み続けることに価値がある。』と思っていないかね?」
!?
「その考えでいるなら1週間どころか、10年やってもモノにならない。
今すぐ荷物をまとめて帰りなさい。」
…。
ど、どういうことなんだ?
訳が…。
「そもそも君は何を求め此処に来た?
苦痛を克服し、いじめにも耐える強い精神を養う。
それならば他に良い場所がいくらでもある。」
…!
そうか、僕は…
猛然と、再び挑み、結果を再現する高志。
しかし、その内奥には、明らかにそれまでと異質な熱と強烈な目的意識が…!
(鉄塊を叩いてて、結局一番しっくりしたのがこれしかない。
じゃあ、これ一本槍でいってやる!)
傍目には、引き続き同じ様に高志が東郷に延々と繰り返し立ち上がっては倒されているようにも見えよう。
だが…無表情のまま淡々と高志を倒し続けていた東郷の表情が、かすかに変わっていた。
一方高志には、そんな事に気づく余裕はない。
ただひたぶるに…これに賭ける!
完全に先読みされるなら、それでも尚止められない、避けられないくらいに速く!
それでも、構えた瞬間に天井が見えて…。
ん?
構え…られている…。
進んで…いる!
前に…
このまま、繰り返せば!
ただひたぶるに、反復!気魄を、憎悪を、怒りを、殺意を、全て乗せて!
気の遠くなるような時を経て…
そんな心持ちを味わった後。
ひゅっ。
右ストレートというのか、正拳逆突きというべきなのか。
あさっての方向の空振りだけど!
とにかく、放たれた。放つ事ができた!
この僕、神崎高志が、東郷先生相手に!
無論次の瞬間、天井を見る羽目になったが…。
とん。
鳩尾に足を軽く置かれただけで、全く床の上で身動きが取れなくなる。
「ひとつ。合格点をあげましょう。
初日は文字通り何もさせず完封するつもりだったのだが。
君は、明確に、私の顔に拳を叩き込む。それのみを強烈にイメージした。どの道ダメだという思いを封印して、ただ自分の拳を当てることのみに思考と動きを特化させた。
その結果、空振りとはいえ私に反撃の一撃を放つ事ができた。
その思考法をさらに極めていきなさい
…もう3時間経ったか。
10分だけ休み給え。
その後…次に移るぞ。」
「は、はい…」
全身の苦痛は既に極北に達していたが、立ち上がらないという選択肢は無かった。
肉体においても精神においても、今までの人生、「強い意志と努力でなにかを成し遂げた」ことの無かった高志。
へへっ、やったぜ。
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