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特種錬成
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「スクワット…ですか。」
「ふむ。しかしおそらく、君がやってきた、思い描いているものとはかなり違う。まず、脱力して立つ…。」
スクワット…か…
これまた当然の如く、高志にとっては良い思い出はない。
高校に入ってからは体育教師の牟田口に目をつけられ、なにか失態を繰り返したりする度にペナルティーとしてさせられていた。
100回と言われ半分にも届かず膝が限界になって崩れ落ちると、加減はしているとはいえ顔面を踏まれ、お前女か!? と周囲の生徒共々嗤われていたものだ。
そんなんで、今…出来るのか?
思いつつも高志は例によって無意識に始める…が…ストップがかかる。
「膝を前に出し過ぎだ。それでは鍛えた人間でも壊してしまう。
こうです。」
ん…
傍目には、尻を後方に突き出し、あまり膝を曲げない。どちらかと言えば上体がより動いている感じ。そう…なんか…。
「うむ。楽にやれればそれで良いのです。」
東郷先生は涼しい顔でそう言った。
再び、見様見真似で再開する高志。
それに東郷がいくつか修正を加える。
「腿の裏側、現在はハムストリングスと呼ばれる筋肉群。
ほとんど全ての人体動作で、そこが最重要の筋肉となる。それを常に意識しなさい。
それらがしゃがむと引き伸ばされ、自然の反射で縮もうとすると、これまた自然に身体が立ち上がる。
『頑張る』意識は一切いらぬ。
無意識に、脱力して繰り返しなさい」
高志は言われた通りにした。
すっ、すっ、すっ。
最初はぎこちなかったが、徐々に楽に…。
スクワットって、こんなにも…やればやるほど気持ちよくなるものだったのか!
「そう、それでよろしい。
1週間で、君達が思い描く近代ウエイトトレーニングで劇的な効果なぞ臨めぬ。
だが、これらの鍛錬ならば、明らかに君の肉体、技の出力体系は激変します。」
結局、あっさりと500回をクリアしてしまう。
ほとんど息の乱れも、筋肉の痛みも無い。
この僕が!
骨折等の既存の激痛すら、和らいだような…
これならば…確かに変わることができるかも知れない!
その後も、筋トレともストレッチともつかぬ不思議なトレーニングを、数種類行う。
東郷先生は便宜上、「特種肉体錬成」と呼んでいるらしい。
「さて、もう少し続けたいが、もう夜11時か。
遅くなったが飯を食って、寝るとしますか。」
高志はありがとうございましたと言い、一礼する。
そのまま道場が、夕食の場となる。
膳を運んできたのは、20代後半?の女性。
綺麗だ…。
「はじめまして、神崎高志君。」
笑顔にこちらもぎこちない笑顔で返す。
「は、はじめまして、ありがとう御座います。
い、い、いただきます。」
視線がどうしても、薄手のセーターがぴちぴちになるほどに豊かな胸にいってしまう。
「さあ、もう遅い。早いところ食べてしまいなさい。
何をするにも血肉になるものを摂らねば話にならん。」
はいっ。
素人目にも、栄養バランスが考え抜かれたと分かる。
高志の母親も、毎日丁寧に作ってくれているが、申し訳ないが、それを上回る…。
食べよう…箸…
!?
もて…ない。
そりゃ当然だ。
日中の鉄塊叩きで、貫手…5本の指を揃えて固め、刃物に見立てて突き込む技…で、左右の指は各所でとうに折れていたのだ。
先刻の組手で、拳を握れたのは逆に奇跡…!?
「ぐっ…」
高志はなんとか、左右の手をこね回すようにして箸を固定する。
半分犬食いになるけど、仕方ない。
「なるべく、折れた箇所の周囲の筋肉、腱を固める意識を強めれば、どうとでもなります。
同じ、いやそれ以上の鍛錬は明日以降も続く。
折れようが砕けようが叩き蹴り続ける。
それが真の空手の鍛錬だ。」
んな無茶苦茶な、という思いを封じ込め、高志は夕食をかき込む。
「おかわりは要ります?」
先程の女性が、再び現れて、笑顔を見せてくれた。
「あ、は、はいっ。お願いします」
自分でも頬が紅潮するのが分かる。
この、佳い匂いだけでも…
東郷先生の方はと言えば、視線は変えず、淡々と自分の食事を終えつつあった。
よく見ると、自前の歯が当たり前のようにしっかりしている…
それにしても、この女性、住み込みでここで働いているのだろうか?
先生の孫かひ孫?
思いを巡らすうちに女性は去って行き、高志も早く食べてしまわねばとかきこんでいく。
そして…。
「心配せんでもこの爺いと一緒に寝ろなどとは言わん。」
とあてがわれた6畳ほどの部屋で、布団を敷いて高志は眠りに…
つけない。
それどころか、ここに来て全身各所にこれまでにない激痛が…考えてみれば、10箇所を優に超える骨折等の苦痛を、精神的狂熱や脳内麻薬で抑えていたここまでが異常だったのだ。
「うぐ…あああ…ギギギ…」
叫びたい衝動を抑え、布団の中で身を捩る高志。
ああ、駄目だ、このままじゃ…
!??
ふすまが開く音。
東郷先生?
では無い。
なんと、先程の美女。白いガウン姿。
薄暗いが、表情ははっきり見える。
「可哀想、やっぱりそうなるよね。」
なにか言葉を返そうとする高志だったが、出てくるのは呻き声のみ。
「いまの私に、してあげられることは…」
このくらいだから。
なんと、女性は高志の布団に潜り込んできたのである…
高志の動悸が、苦痛とは別枠で激しくなる。
そして…
抱き締められる感触…
「ふむ。しかしおそらく、君がやってきた、思い描いているものとはかなり違う。まず、脱力して立つ…。」
スクワット…か…
これまた当然の如く、高志にとっては良い思い出はない。
高校に入ってからは体育教師の牟田口に目をつけられ、なにか失態を繰り返したりする度にペナルティーとしてさせられていた。
100回と言われ半分にも届かず膝が限界になって崩れ落ちると、加減はしているとはいえ顔面を踏まれ、お前女か!? と周囲の生徒共々嗤われていたものだ。
そんなんで、今…出来るのか?
思いつつも高志は例によって無意識に始める…が…ストップがかかる。
「膝を前に出し過ぎだ。それでは鍛えた人間でも壊してしまう。
こうです。」
ん…
傍目には、尻を後方に突き出し、あまり膝を曲げない。どちらかと言えば上体がより動いている感じ。そう…なんか…。
「うむ。楽にやれればそれで良いのです。」
東郷先生は涼しい顔でそう言った。
再び、見様見真似で再開する高志。
それに東郷がいくつか修正を加える。
「腿の裏側、現在はハムストリングスと呼ばれる筋肉群。
ほとんど全ての人体動作で、そこが最重要の筋肉となる。それを常に意識しなさい。
それらがしゃがむと引き伸ばされ、自然の反射で縮もうとすると、これまた自然に身体が立ち上がる。
『頑張る』意識は一切いらぬ。
無意識に、脱力して繰り返しなさい」
高志は言われた通りにした。
すっ、すっ、すっ。
最初はぎこちなかったが、徐々に楽に…。
スクワットって、こんなにも…やればやるほど気持ちよくなるものだったのか!
「そう、それでよろしい。
1週間で、君達が思い描く近代ウエイトトレーニングで劇的な効果なぞ臨めぬ。
だが、これらの鍛錬ならば、明らかに君の肉体、技の出力体系は激変します。」
結局、あっさりと500回をクリアしてしまう。
ほとんど息の乱れも、筋肉の痛みも無い。
この僕が!
骨折等の既存の激痛すら、和らいだような…
これならば…確かに変わることができるかも知れない!
その後も、筋トレともストレッチともつかぬ不思議なトレーニングを、数種類行う。
東郷先生は便宜上、「特種肉体錬成」と呼んでいるらしい。
「さて、もう少し続けたいが、もう夜11時か。
遅くなったが飯を食って、寝るとしますか。」
高志はありがとうございましたと言い、一礼する。
そのまま道場が、夕食の場となる。
膳を運んできたのは、20代後半?の女性。
綺麗だ…。
「はじめまして、神崎高志君。」
笑顔にこちらもぎこちない笑顔で返す。
「は、はじめまして、ありがとう御座います。
い、い、いただきます。」
視線がどうしても、薄手のセーターがぴちぴちになるほどに豊かな胸にいってしまう。
「さあ、もう遅い。早いところ食べてしまいなさい。
何をするにも血肉になるものを摂らねば話にならん。」
はいっ。
素人目にも、栄養バランスが考え抜かれたと分かる。
高志の母親も、毎日丁寧に作ってくれているが、申し訳ないが、それを上回る…。
食べよう…箸…
!?
もて…ない。
そりゃ当然だ。
日中の鉄塊叩きで、貫手…5本の指を揃えて固め、刃物に見立てて突き込む技…で、左右の指は各所でとうに折れていたのだ。
先刻の組手で、拳を握れたのは逆に奇跡…!?
「ぐっ…」
高志はなんとか、左右の手をこね回すようにして箸を固定する。
半分犬食いになるけど、仕方ない。
「なるべく、折れた箇所の周囲の筋肉、腱を固める意識を強めれば、どうとでもなります。
同じ、いやそれ以上の鍛錬は明日以降も続く。
折れようが砕けようが叩き蹴り続ける。
それが真の空手の鍛錬だ。」
んな無茶苦茶な、という思いを封じ込め、高志は夕食をかき込む。
「おかわりは要ります?」
先程の女性が、再び現れて、笑顔を見せてくれた。
「あ、は、はいっ。お願いします」
自分でも頬が紅潮するのが分かる。
この、佳い匂いだけでも…
東郷先生の方はと言えば、視線は変えず、淡々と自分の食事を終えつつあった。
よく見ると、自前の歯が当たり前のようにしっかりしている…
それにしても、この女性、住み込みでここで働いているのだろうか?
先生の孫かひ孫?
思いを巡らすうちに女性は去って行き、高志も早く食べてしまわねばとかきこんでいく。
そして…。
「心配せんでもこの爺いと一緒に寝ろなどとは言わん。」
とあてがわれた6畳ほどの部屋で、布団を敷いて高志は眠りに…
つけない。
それどころか、ここに来て全身各所にこれまでにない激痛が…考えてみれば、10箇所を優に超える骨折等の苦痛を、精神的狂熱や脳内麻薬で抑えていたここまでが異常だったのだ。
「うぐ…あああ…ギギギ…」
叫びたい衝動を抑え、布団の中で身を捩る高志。
ああ、駄目だ、このままじゃ…
!??
ふすまが開く音。
東郷先生?
では無い。
なんと、先程の美女。白いガウン姿。
薄暗いが、表情ははっきり見える。
「可哀想、やっぱりそうなるよね。」
なにか言葉を返そうとする高志だったが、出てくるのは呻き声のみ。
「いまの私に、してあげられることは…」
このくらいだから。
なんと、女性は高志の布団に潜り込んできたのである…
高志の動悸が、苦痛とは別枠で激しくなる。
そして…
抱き締められる感触…
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