ショノウ

雪豹

文字の大きさ
6 / 6

短剣

しおりを挟む
 何か横から黒い大きな物体が俺に近づいてーー

 その後の記憶はあやふやだがそこで目が覚めた。記憶を失ってからずっとよくわからない夢を見る。

 それもいつも何か危険を予知させるような夢なのだ。

 「一体何なのだろう…」

 ベッドの壁に体を起こして上半身だけたてる。そして頭を抑えながら考えているとアナが入ってきた。

 「おはようショノウ君! ご飯食べよう~!」

いつも元気がいいアナ。せっかく魔族として生活できるようになったのだから夢のことは気にせずアナと一緒にまずは朝ごはんを食べようと決めた。

 布団から起き上がりそくさくとアナの後を追いかける。

 
大きな廊下を数回曲がり食堂へつく。実際には貸切食堂のようなもので身分の高いものしか入ることの許されない食堂なので殆ど人がいない。

 2人がこの食堂へやってきた時は誰ひとりいなかった。

 机には何故か2つお盆が置いてありその食器の中からは湯気がたっている。

 「これは誰がーー?」

 「これはね~メイドさんが私たちの来る時間を見越して置いてくれたんだよ~」

 フフンといい気分で説明するアナは食器を持ち上げる。

 「いただきま~す!」

 「いただきます」

 
見た目とともにご飯はとびきり美味しかった。

 そんな満足な朝ごはんを終え少し食堂の椅子でダラダラし始める。

 そんな時、昨日ガルディアーナがした約束をふと思い出したのだ。

 「あ! 忘れるところだった。ガルティアーナと約束があったんだった!」

 「えぇ! それは大変だよ。急がなきゃ!」

 食器は机の上に置いておいて急いで扉を出る。そしてまた廊下を数回曲がり可視化できないベールを通り抜ける。

 (何回見てもすごいなぁ)

 ベールにまた感動する俺は今度仕組みをアナに聞いてみようと思った。

 コツンコツン…

 よく響く二人の足音がガルティアーナの部屋の床を鳴らす。

 「ガルティアーナ~?」

 人の気配が全く感じられず王の名前を呼んでみる。しかし、物音一つとして帰ってこない。

 「ガルティアーナどこに行ったのかな?」

 「朝はいたわよ」

 う~んと考え込む2人。

 ガルティアーナは確かに明日ここへ来いと言ったが時間は指定しなかった…なんて思い始めていた。

 すると俺の方を叩く感触がして反射的に後ろを振り向くとそこには紫がいた。

 「ハハハハハ! そなたたちがあまりにも面白くてな。少しからかってやってたわ! ハハハハハ!」

 陽気に笑う魔王は今日も楽しそうだ。

 「おはよう、ガルティアーナ」

 「おはようございます」

  同時に挨拶をする2人にガルティアーナも

 「おはようおはよう! 今日もいい朝だな。ハハハハハ!」

 と一々笑ってくる。

 キリがなさそうなので前置きもなく質問する。

 「昨日ここへ呼んだのはどういう理由で?」

 「あ~そうそう。これを渡したかったのだよ」

 緋色の皮になにか包まれているのを見せるガルティアーナ。

 「これは…?」

 「見てみよ」

 バッと皮を広げるガルティアーナ。

 そこには2振りの漆黒の短剣があったーー

 「これはショノウの持っていたヤヌスガエラを少しいじって作ったのだよ」

 「でもあれは木じゃないですか」

 目の前の黒く光る短剣がヤヌスガエラだとは信じ難い。

 「もちろん木だよ。木ではこんな刀身は作れないから持つところだけ使わせてもらったのだよ」

 「この刀身には私の魔術とオブシディアンという簡単に言えば超硬い鉱石を使わせてもらった。そのお陰で今は滅茶苦茶ヘロヘロなんだがな…あはははは」

 笑い声に元気が無くなってきたガルティアーナ。

 「この短剣は…僕のですか?」

 「勿論だ」

 「カッコイイ…ありがとうガルティアーナ! 大切に使うよ」

 手を伸ばして短剣を掴もうとする俺の手をガルティアーナは阻む。

 「これを使う前に約束してくれ」

 「また約束?」

 「最後の約束だ。これは絶対守って欲しい」

 「わかった。守るよ」

 「この短剣を使う時は使わざらなければならない状況、もしくはーー」

 「もしくは?」

 「大切な人を守る時だけだ」

 目が優しく語りかけるようなガルティアーナがこちらを見た。

 「わかった。必ず約束する」

 「ありがとう。私の魔術も9割ほど織り込んだこの短剣は非常に強力だ。迂闊には使って欲しくないものだからな」

 そっと緋色と黒の混ざった鞘を渡すガルティアーナ。

 「これに入れている限り何があっても大丈夫だ」

 「ありがとう」

 ありがたく受け取るショノウは腰に付けて2振りの短剣を入れる。

 「そなたたちを呼んだのはショノウに短剣を渡すだけではないのだぞ。アナも呼んでいるのだからな」

 「は、はい!」

 急に自分の名前が呼ばれて返事をするアナ。

 「というのは?」

 「そなたたちにはダンジョンに挑戦してもらう。アナは2回目かもしれんがショノウを助けてやってくれ」

 「わかったわ」

 「ダンジョン…?」

 素直に肯定するアナと頭の中にハテナマークが次々と出てくるショノウ。

 「ダンジョンというのは迷宮のことでーーうん。詳しいことはアナに教えてもらえ。では達者でな!」

 説明が面倒くさくなったのか急に逃げたガルティアーナ。

 「ちょっと!」

焦るアナはオドオドしている。

 「ダンジョンって何?」

 アナに問いかけると赤い顔を向けてこちらを見る。
 
「ダンジョンというのは簡単に言えば迷宮のことでそこにモンスターがいるの。それが多分100階まで続くんだ。そのダンジョンがここラスガリラにあるからそれに挑戦しろってことなんだと思う」

 「なるほど~。ところでアナは2回目なの?」

 「そうよ。でもダンジョンの構成は日々変わっているらしいから今がどうなってるのかわかんないや」

 「だいたいわかった気がする! とにかく其処に行こうよ!」

 「もの分かりよくていい子ね。早速行きましょうか!」

 パタパタと走ってダンジョンがあるらしき場所へ向かうーー


 そしてダンジョンの入口へ着くとガルティアーナが立っていた。

 「アナ、説明ありがとうな。急にトイレに行きたくなってな…」

 「魔族はトイレなんて必要としません!」

 ムクっと頬を膨らませてガルティアーナに猛反発するアナ。だいぶ怒っているようだ。

 「とにかく説明してくれたのだからいいのだいいのだ。あは」

 感情がこもっていないかけ言葉にさらにアナは怒りそうになるが俺が手を握ってアナを止める。

 アナはこちらの顔を見て微笑み怒りが収まったように感じた。
 
「よし! それではここに挑戦してもらう前にショノウが魔族となった契約をしてもらおう。もしここで死んでも復活できるようにな」

 「復活できるの?」

 「ショノウはまだ人族だから出来ないけどな。ラスガリラ内にあるダンジョンだから魔族が死んでも復活できるのだよ。ただし魔族のみだけどな」

 何か便利な機能があるらしいので頷いておく。

 「じゃあ始めようか。目を瞑れ」

 指示通り目を瞑るーー

 そして急に視界が真っ暗になったかと思えば元に戻る。

 「目を開けてよいぞ」

 何やら不可解な現象が起きたと思い目を開ける。

 何か特に変わったこともないとキョロキョロとあたりを見渡すと

 「両腕をみてみよ」
 
 反射的に両腕を見るとーー

 右腕には見るもおぞましい角が生え憎悪に満ちた表情のする悪魔が

 左腕には翼の生え女性の顔の悪魔が

「これは何ですか?」

 「それが魔族としての契約なのだがな。それは言わばショノウを守ってくれる刺青だ」

 何から守ってくれるのかよく分からなかったがやっと魔族として契約できることが出来たのだ。

 「ガルティアーナありがとう!」

 感謝の念を押しておく。

 「どういたしまして」

 ニッコリ微笑むガルティアーナは急かすようにダンジョンの入口へ手を行けとばかりに振る。

 「あ、そうそう言い忘れておったが今回は時間を急がせるために10階層にしておいたからな」

 元々何階層まであるか知る由もないショノウは動じずさらっと聞き流していたが、アナは動揺している。

 「さあいけ行け!」

 2人を押すガルティアーナ。

そして2人はダンジョンへ転移したのだったーー
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

まみ夜
2017.06.10 まみ夜

はじめまして。
本編と内容欄が、違うので、
即死で転生?
死んだけど、記憶喪失で転移?
どちらでしょうか?

2017.06.10 雪豹

本当だ!w全然気づきませんでした。今から修正しますね

読んでいただいてありがとうございましたm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。