ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第九章 ヤマネの夜

不思議発見!

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「おかん、どういうことなん?」

 ルミ子さんに、理夢ちゃんが、尋ねる。

「アラスカに住んどった日本人のカメラマンの人や。
 “いきもの不思議発見!゛の撮影で、ロシア行ったら、羆に喰い殺されたんや。」

「え~!?ホンマ!?何で、そんな危ない撮影したん?」

 ルミ子さんの答えに驚く理夢ちゃんに、小林さんが説明する。キラ~ン!と眼鏡が光る。

「羆が出没しているから、テント泊はやめて、他のスタッフと一緒に山小屋に避難するように言ったにも関わらず、月野さんが”この時期の羆は人を襲わない”と主張し、従わなかったと、月野さんの死後、テレビ局側は特番を組んで、大々的に放送したのです。

 多くの視聴者は、それを信じて、彼を無謀で勝手な写真家だと思ったのですが。」

 続きは僕が。

「吉岡さん、でもね。遺族の人達は、”和夫さんはそんな不注意な人じゃない。山小屋がテレビの機材でいっぱいでスペースが無かったから、無理やり外に出された”と、言い張ったんだよ。」

「ホンマは、どっちやったんです?」

 聞いてくる理夢ちゃんに、佑夏が答える。

「それがね、分からないのよ。訴訟にはなってないから、月野さんにも、悪いところはあったのかもね。」

 ここで、改めて、水野さんが東山先生に賛辞を贈る

「私、先生のヤマネの写真の方が、ずっと癒されます!」

「ハハハ!ありがとうございます。東山わたしは、琵琶湖と信州の風景で満足してしまいましたし、英語を覚えて海外で暮らす度胸が無かったのも、幸いしたのかもしれませんね。

 こうして、60歳を過ぎても生きてます。

 昼間、言ったように、ツキノワグマには一度も襲われたことがありません。

 中原さん、あまり答えになってませんが、こんなところで、いいでしょうか?」

「はい、ありがとうございます。」

 そう東山さんに、お礼を言う僕の肘のあたりを、佑夏が人差し指でツンツンつついている。

 彼女と目が合うと、”ほら、私の言った通りでしょう?”と言いたいようである。

 姫から、去年、聞いた話、ヒルティの幸福論に出てくるのだという
「あまりに年少の内から海外を経験すると、次第に人生がうまくいかなくなり、若くして人生に成功した人は早死にする可能性が高い。」

 これは、ほぼ完全無欠と思われる男、潮崎一馬にも当てはまることである。
 彼の唯一と言っていい弱みだろう。

 しかし、たった一つの弱点が「若くして人生に成功」なのだから、いかにとてつもない男なのかは分かる。

 そんな潮崎氏を、佑夏は心から氣に病んでいる。
 一応、姫には、僕も彼を心配していることになってはいるが。
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