半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

文字の大きさ
31 / 129
第三節 〜サガンの街〜

031 哀れサチ、……生きろ!

しおりを挟む
冒険者ギルドの内情のお話しです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

 ◇

 仕事を求めて村から出てきた若者が初めて冒険者ギルドに登録した後、そのままほっぽり出すことはしない。簡単と思われる薬草採取だって知識がなければ、何処で、どうやって、何を取ってくればいいかわかるはずないし、森に入れば常に命の危険に晒される。
 魔晶石を得るには魔物を狩る必要がある。ちょっと力自慢の若者数人が集まった位で魔物を倒せるはずがない。即、死亡だ。
 誰も帰ってこれない。

 その事実は恐ろしく生産性が悪い。人材は有限だ。経営は成り立たない。
 だから新人には少なくない時間を儲けて必要な知識と訓練を施してくれる。一定期間の業務服務義務と言う名の軍役が課せられるが、それだって悪くはない。役立たずの訓練期間を含めて食い物と寝る場所と雀の涙だが給金、何より、生き残れる確率が上がるのだから。

 訓練終了後はギルドの採取係と言う名の徴兵団に組み込まれ、狩りと言う名の討伐戦闘に新兵として従軍する。指揮官の元で小隊が組まれ、後方支援(兵站)から地味に確実に経験を積んでいく。

 軍隊の最重要課題は敵を一振りで殲滅させる打撃力ではなく、明日も戦い続けられる持続力だ。ギルドの利としては、明日も今日と同じだけの魔晶石を採取できる確実性。もちろん明後日以降も続く計画性だ。その持続力を支えるのが“システムと知恵”だ。

 魔晶石採取業務ガッツリバトルは必ず集団で行う。人は剣を使えても魔法が使えても魔物に比べて弱すぎた。圧倒的に。だから統率され訓練された数の多さで対抗する。
 技術に劣る新人をフォローする事も出来、個々の練度を上げる事も成績を上げて給料をあげる事も可能だ。

 コストは掛かるがそれに見合う生産性の維持と向上が望める。力のある人の数には上限があるから。死んだらそこで終わりだから。死ぬとコストが爆上がりするから。
 なんだか織田信長の常備兵と徴兵農民兵の違いに似ている。

 服務期間が終わると、そのままギルドの常備討伐部隊に残ることも出来るが、除隊独立する事も可能だ。
 まさに此処から“異世界モノ”本番の冒険者ライフの始まりだ。
 その時点でランクは一律で錫下|(六級)から始まる。

 冒険者の業務は魔晶石採取を主とした討伐系、各種薬品の元となる植物採取系、サチでお馴染みの道案内等々と多種に渡るが、だいたい魔物討伐系の“A職に流れる。

 その他はノウハウや手順、慣習とか色々と新たに覚える事柄が多く、一人前になるまでの経験値も有る為に結局は今までの従軍 ギルド時代に馴染んだモノに落ち着く。何より花形ではあるし、魔晶石や魔物の素材は儲かる。
 その後、経験と実績を積んで行けば等級を上げる事も職種を増やす事も可能だ。

 ギルド内部隊に留まっての残留組や上級士官校出などに比べ、早期独立者は一般的には昇級は遅く、生涯総獲得金は低く、なにより生存率が低いと言われている。が、人はそれぞれで、一定数の少なくない人数が即時独立を選ぶ。

 何より“取っ払い”は魅力的だし、自由を求める。そして一番大事なのは強くなり出世すれば上手い事やれば英雄と呼ばれ、名声と莫大な金が手に入る冒険者ドリームそのものだからだ。勿論、その栄誉を得る者は極一部に限られるのだが、人はどうしても無謀な夢を見てしまうものらしい。

 このギルド独自の常備兵確保の為の育成システムを国政規模で採用している国家は皆無らしい。その理由も言い訳も沢山ある。
 生産性は落ちるがコストは抑えられるから。
 ただの領民なら数に上限がないし、死んだら補充すれば良いから。
 死んでもコストは上がらないと思い込んでいるから。
 強い奴はそれだけで上に這い上がってくるから。

 なんだかんだ言っても戦力とは“動員数数の勝負”だから。
 間違っているけど、気持ちはわかる。為政者なんてそんなもんだ。

 異生物産資源買取その他冒険者ギルド業務委託会社は一人の強者英雄神の代行者勇者も必要としない。求めない。
 ただ、真の実力者最強はギルド内部隊にいるとも言われている。


 服務期間終了時に戦績優秀者にはもう一つの選択として、組織幹部の養成を目的とした上級職士官校入学の道が広がる。
 上級職士官校は試験に合格すれば誰でも入校できるが、試験内容は非常にレベルが高く、合格率は低い。一番の難関は出力魔力量だと言われている。

 入学すると最初の一年で全部の職種の基礎を習得し、二年目からは細分特化した専門職種を集中的に行い練度を高め、卒業時には銀シルバー|《三級》から始める事ができ、特務指揮権限を取得する。士官オフィサーと呼ばれる。

 訓練内容は非常に厳しく卒業時に付与される階級相当の実力は忖度なしに有する事になる。自ら辞める場合もあるが、落第除籍処分も多く、修了する事は非常に厳しい。


「まあ、さっきは国に遠慮しないと偉そうに言ったが、実際には規定がある。国はギルド専属以外の冒険者などの武力保有者のチーム構成群れていい人数を五人以下と限定している。
 人を容易に殺せる危険人物がやたらと連れ立っていれば一般市民が怖がると言う建前だが、要は一番ビビってるのが王族や貴族って事だな。

 ギルドの規定としては公認チーム(五人以下の小隊)を組むにはどの職種でもいいが、シルバー三級が一人以上を含む事とし、ギルドに登録しなければならない。

 それでも、強い魔物一体を安全に狩るには現実は厳しく、五人以上の多人数が絶対に必要になってくる。だから便宜上五人以下の小隊チームを最小単位として必要に応じて複数編成して事に当たる。それが中隊規模編成隊クランだ。

 ただ、その場合、必要になるのが前述の特務指揮権限オフィサー有資格者である。
 指揮権限とはクランを組織化する特権、そのクランの指揮を取る権限を許された資格だ。言い換えれば、統括者フォアマンが居なければクラウンを組む事が出来ない。その他の大多数武力集団は全て非合法となる。
(一クラウン人員の上限は五チーム五十名以下の規定あり)

 レッドコード指定の “ネームド”討伐及びスタンピート等の特殊事案に際しては複数のクランを以て大規模部隊を組織してこれに当たるが、その大規模組織化権限と総指揮権が認められた者は当然の事ながら上級職士官校を卒業した特務指揮権限有資格者は勿論、特に等級が高い“白金|(一級)”以上の通称“グランパ”だけとなる。


「ねえ、“溜まりの深森”を出たところで猪の魔物に突撃してた怖そうな人たちがいたでしょ、あの人たちがクラン? ほら、すごく強そうな人がいたでしょ? 気味の悪い赤い人。あの人が特務指揮権限オフィサー有資格者?」

「アレらは傭兵です。非合法の。駅舎前広場で私たちに絡んできた者達や、宿屋で屯していた者たち全てが非合法傭兵マーセナリーです。
 赤い鎧の男は領主側の者でしょう。貴族は冒険者を忌み嫌い蔑んでいますから多分違うでしょう。
 私はこの街で特務指揮権限オフィサー有資格者らしき者の姿を誰一人見ていません。“うつり”を前にしたギルとしては、これは異常事態です」

 へーそうなんだって程の感想しか無いけど、なんだかやな予感がする?

 しかし、そんなプチ剣呑雰囲気を容赦無くクラッシャーな自由人ハナ降臨。
「ねえ、冒険者はみんなお友達でチームを組むんでしょ? ならサッちゃんもお友達と一緒だったの? なんで今は一人なの?」

「クッ、……」

「それとさ、さっきの説明で思ったんだけど、サッちゃんって上級職士官校卒業の特務指揮権限オフィサー有資格者でしょ、なんで銅ブロンズ四級なの? 有資格者はみんな銀シルバー三級から始まるんじゃあないの?」

 そうだった、こいつハナ元世界あっちでは間違い無しの、異世界こっちでは今更ながらの、真正高位貴族家の深窓の侯爵令カースト上位リア充組嬢様だった。空気読めよ。怖ええよ。

「ま、まあそれは、いろいろありまして……」

 哀れサチ、……生きろ!


 ✴✴✴✴

~ 冒険者の職種詳細 1 ~
 長いです。作者の妄想枠です。
 ご覧いただかなくとも物語の進行には支障はありません。

  甲(A)職
 魔物討伐系であり目的は魔晶石と有効部位の採取。価値の高いモノ(無謀なお宝)を狙いがち。一種は人界付近に出没した脅威魔物を依頼による排除を主とする戦闘系、一攫千金を狙うフィジカル種族(自分たちが一番偉いと思っているガチ脳筋)。
 しかしながら有名ランカーは大体ココ。そして大概性格が壊れている。壊れていないとやってられない。
 二種は限定された種類だけを専門的に狩る事に特化し、大陸中を動きまわる、謂所の○○スレイヤーと呼ばれる人たち。職人系偏狭者、真の強者。

  乙(B)職(サキュバスっ娘 サチの職種)
 道案内を主とする。索敵技能が高く、魔物を避けて行動する際の水先案内人となる。二種は特に索敵能力に長け、強固な魔物会敵率が非常に高い“溜まりの深森”を横断するなどの特殊地域に特化した者をいう。数は非常に少ない。各地の“溜まりの深森”侵入時に随伴する事が多い。
 二種は能力的には全職種中では最も高く、就任難度も高い。よって人数的にも少なく料金も高い、それが仇となり需要が少ない。費用対効果に疑問を抱かれ「一種でいいや」となっている。実際に二種が必至な場面は少なく、近年は職種が被る丙種に仕事を奪われている。
 結果、帰還率は大幅に減少しているものの、現実は厳しく経費が掛かる乙職は敬遠され、現在は閑職に追い込まれている。
 酷く儲からない職種の代表で、就任希望者は激減している。(サチの口癖の“費用対効果”はココから来ている。常に頭にあり考え込んでいるから)
 一種は二種より索敵能力は低め、戦闘力特化型で二種の劣化版扱いで離職が多く、殆どが丙職に転向している。
 二種の現行はかつて丙種が行っていた雑用を押し付けられ、渋々引き受け糊口をしのいでいる。そして丙職からは目の敵にされている。自分たちの上位互換版であることを判っているから。

~ 次話に続きます。長いので分割しました。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...