半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第五節 〜ギルド、さまざまないろ〜

047 跪け愚民どもが!

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ハムくんがヒドイです。ハナちゃんもですが。
ご笑覧いただければ幸いです。
―――――――――

 でも気絶からは回復しない。原因は怪我や病気ではないから。


「見ての通り、ハナの“魔法の杖ロッド”は色々な魔法陣仕掛けが組み込んであるが、実際の原動力は彼女の密度の高い大量の魔力アルカヌムに依存している。並の魔力量の者が使うと」
 と、ヤンキー君を目で示し、
「こうなる。それを赤鬼ゲートさんは僕に大量に造れと命令した、大至急と」

「それは」

「言ってくれないと分からないってか、でも委員長系ギル長は昨日の広場で一目見ただけでわかってたよな。
 だから“ハナ”も、“火縄銃型の魔杖アルカヌム・ロッド”も一点ものとして欲しがった。

 次にハナを迎撃の班に回すと言った。ハナが昨日見せた能力は超超遠距離射撃だ。精密に拘ればその射程距離は五百メトル。昨日、カトンボを落としたのを見ただろ? 
 が、それら突出した能力全てをまるっと無視して、ただ普通の攻撃魔法使い扱いで迎撃に回れとしか言わない。超超遠距離射撃のその絶対的メリットを少しも生かそうとしていない」

「そ、それは」

「次に、赤鬼ゲートさんはオレたちにこう言った。
『大丈夫だ、オレがお前達を守る。絶対死なせない』って。
 クソが。昨日、いみじくも痛烈な回転回し蹴りと共に委員長系ギル長は言っていたな『使えるモンは若かろうが何だろうが使って、何としてもこの街を守る』
 それが全くわかっていない。

 結局、赤鬼ゲートサマは戦力増加よりも俺らの安全を優先した。オレら新参者を守るなら“赤鬼”の名の元に盲信し付き従ってくれるコイツら」
 足元で蹲るヤンキー君を足先で小突き。

「大切な部下コイツらを蔑ろにするんじゃねえ。コイツらはあんたの命令で何人かは確実に死んでいくんだ。オレらは絶対守ってコイツらは死んでもイイのか?
 軽いんだよ。あんたのカッコイイ言葉はよ。
 大体、一番ムカつくのが“勝てる”とは微塵も思ってないのに足掻きもぜず、最初から諦めてる事だ」

「何を言っている。オレは」

「戦闘指揮官、それも最終防衛の軍指揮官である者の資格はただ一つ。部下に“死んでこい”と命令できるかどうかだ。それでも最後は守れる、勝てると確信させる事の出来る戦術と絶対的な信頼がある者だけだ。
 このヤンキー君は練度も実力もクソミソだが、あんたに従って死んでもいいと思っている。ココが守れるならと。それが何だ!

 出来ないなら即刻ココから撤退しろ。撤退の命令もプライドとか諸々のくだらない理由で決断できない甘々くんの正体が“赤鬼ゲート”だ。
 ただ見栄えのイイ、カッコだけの戯言事だけの無能の下について無駄に死ぬのは、俺達は御免だ」

 周りの兵士たちは何も言わない。ただ僕を睨みつける。
 ハナはキョトンとした顔で周りをキョロキョロ眺めている。
 サチは居心地悪そうに視線を明後日に。

「お前に何がわかる」
 と、“委員長系ギル長”。
 目が怖い。キレるのは彼女なのね。そうですか。いい相棒じゃないですか赤鬼さん。

 赤鬼はただ黙って僕を見つめていた。逸らすでもなく、怒るでもなく。蔑むでもなく。期待するでもなく。
 そういう事ですね。めんどくさいですね。ものすごく。

「軍事において」と、溜息混じりで僕。

「部隊の損耗率が三割に達した時点で全滅大敗となる。その戦いで敵勢力を撤退させていたとしてもだ。
 何故か? 次が無いからだ。
 軍事的戦闘で一戦したらハイ終わりなんて有り得ない。組織的戦闘能力を維持出来ない部隊は次戦で必ず損耗率8割、今度こそ本当に“壊滅”する。はいお終い。何も残らない。

 このギルドは前回、“|損耗率三割超え(全滅)”してるんじゃ無いのか?

 見たところ、この部隊は皆若いな、そして新兵ばかりだ。古参の兵士も居る事は居たが、数は驚くほど少ない。そして今朝の食堂で見たが、みな隅で背中を丸めて虚な目をしていた。

 それで納得だ、街に傭兵が溢れて居る事も、ここの若い兵の練度の驚く程の低さも。一人じゃ全てを見てやる事なんて出来ないよな赤鬼さん。
 っていうか、訓練なんて元々させてないだろ。集めるのがやっとで。

 赤鬼さん、あんたは強い。びっくりする程だ。あんた一人でも、ココに居る百人の若者を守る事は出来るかもしれないな。でもそれだけだ。
 ギルドも、街も、市民も、蜘蛛も、そしてあんた自身も守る事は出来ないよな。死ぬ気か? “赤鬼ゲート”」
 だからめんどくさいんだよ。優しい意識高い系は、大っ嫌いだ。

 一斉にゲートを見る若者百人と委員長系ギル長。

「ベラベラと要らん事を、だから嫌いなんだよ小生意気な小僧は」 
 
 そりゃそうだと思うよ。俺だって嫌いだ。
「それは失礼。だからあんたはこの軍の総司令官から降りてもらう。屈辱の降格だ」

「新しい司令官は小僧、お前か?」といい笑顔で赤鬼ゲート。

 ……。
 ……。
 ……へッ? オレ? 
 嫌な汗がブワッと吹き出る。
 
イヤイヤイヤイヤ、無いから。絶対それは無いから。
……ヤバい、調子ブッ扱いてマウント大王化してた。このままでは僕が矢面に立たされかねない。不味いです。ヒッジョーにマズいっす。

「じょ、冗談だろ、僕はそんな器はないさ(マジで)。ソレに」
と周りを見回し「オレは憎まれてるからな。誰もついてこない(自分で言っておいて何だけれども、僕の人生って薄ッすい、泣きそう。でもいいの。バッチコイなの)。
 慌てるな赤鬼ゲート、降格は総司令官と言ったはずだ。あんたには最も戦闘が激しいその前線で指揮を取ってもらう。逃さない。あんたの命令であんたの部下がすり潰され死んでいく様を見続けさせてやる」

 僕を囲む環が一歩狭まり、一歩何処ではない異様な怒気が立ち上り僕を押し潰す。

 ひぇ~~。ごめんなさい~~ぃ。不味いです~マタマタ調子ぶっ扱いてしまいました~。だって、だってさ~~ぁ。

 僕を囲んだ環が一気に襲い来るのを寸前で止めたのは委員長系ギル長の言葉だった。

「お前はどうするのだ」と。「言いたい事をほざいて、めちゃくちゃにしたんだ。どう収集させるつもりだ」

 襲い来なかったけど、また一歩環が縮まる。プレッシャーが酷い。
 フンと鼻の穴をおっぴろげ、そんなものちっとも考えて無いっちング。どうしようどうすればいいの? 頭がパニック飽和状態な危険水位域で。

「俺が赤鬼が部下をすり潰す作戦を考えてやる。そしてこの戦争に勝たせてやる」

 その場凌ぎにしてもヒドスギでしょう。
 だからってなんて事をノタマウのオレ。

 おー、と、手をパチパチして喜んでくれたのはハナだけだった。

 ノ……ノタマってしまった。

 周りはドン引きだ。僕だってドン引きさ。
 どうしてこうなった。


 どうしてこうなったの?
 なんか、最初からイライラしていたのは否めない。何か若い新兵達にも委員長系ギル長にも、特に“赤鬼ゲート”に違和感? 偽善とは違う逆の偽悪感? を覚え、ザワった。何か違うと。

 そんな僕に“似非賢者様”が囁いた。耳元で、そっと。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
 わかりますよ公彦。公彦の言いたい事はきっと……。
と結論 ∮〉

 って感じで僕の言葉に出来ない言葉をソレらしくチョイスして僕に囁きかけてくる。頭の中で。悪魔か。
 だいたい軍隊においての全滅定義なんて知らないし、また例の大脳皮質アーカイブが解凍したんだろうぐらいにしか思わなかったし、割と冷静だったような気がしてたんだけど。何か知らないうちにどんどん乗ってきちゃって。気が付いたら大ボラ吹いてた。オレ、オワッターノ!

「で、どうするんだ、小僧」

 と、言われましてもハイ……。
「先ずは各所の視察と現状把握」
 と、似非賢者様がおっしゃっております。はい。

「それだけじゃないよ。実力も見せるよ。ハムくんが。先ずは赤鬼さんと戦って見せるよ」
 一拍おいて。

「ハム君の強さに跪け愚民どもが!」
 とハナ。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
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