上 下
54 / 129
第五節 〜ギルド、さまざまないろ〜

054 凍風

しおりを挟む
ラスボス確定ご領主サマ。……て、そんなお話し。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

「二年と半年前、前回の“うつり”直前に高架高速軌道の駅の守備は我がギルドから領主の管轄となった。その際にギルドより“筒様保持式実包射出飛竜落とし魔導兵装一型”二十五丁と“擬神兵装神の如”も同量の二十五りょうが守護の為の貸与という名目で奪われた。当時のギルド長が単独で誰にも知られる事なく契約していた。その後そのギルド長は行方不明になった」

「御愁傷様と言いますか何だな、金でも積まれて転がされたのかな。まあ、いい事あるさ、気楽に行こうぜ」

「そうだな、いい事あるかな。本当に金で転がされて、何処でウハウハしていてくれてたならどんなに良かったか……。

 去年、前ギルド長は王都の場末の酒場で酒浸りで見つかった。歯が全部と右手の親指と小指が無かった。彼の当時五歳の娘と妻は今でも行方が知れない。この街のギルドの全権を奪われなかった事に、感謝するに余りある。

 大陸の全ギルドは今、酷く弱く、存亡の危機にある。我々の母体が落国の民アッシュである事も少なくない理由ではあるが、内部から崩壊しつつある。それでも私は今、何とかして守りたいと切に願って居る。の街だけでいい。その為に私は……」

 参ったなぁ。……やっぱりしっかり踏み込んでんじゃっんか俺ら。それも予想以上に大きく。今更だけどさ。判ってますって。だからハナもサチもそんな顔で俺を見るな。

 わかってるさ。
 問題なのは、その方法が未だ模索中ってことだ。そしてなんだか知らないけどその模索と対策を俺が全部しなくちゃならなくなっているって理不尽と、それを後8日間でやれっちゅうムチャぶり。泣いていいよね。

 だからってゲートが委員長系ギル長の肩にそっと手を添え、二人見つめ合わなくてもいいじゃんか。

 それと男爵様な領主さま……、そんなに頑張んなくても良くね。


 改めてこの街を見渡す。風がやっぱりちょっと冷たい。
 委員長系ギル長の話しのとおり、この街は特にギルドは“尊遺物レリクト”に下支えられて、依存して成り立っているのだが、数年前からそのレリクトが国全体で(もしかしなくとも大陸全体で)一斉に稼働に不備を起こす事が多くなっているらしい。まあ、耐用年数が過ぎなんだねって言ったら委員長系ギル長に嫌な顔された。
 その理由が、修理も新たに手に入れる事も出来ないからだと。なにせ千年前からの尊い遺物様だから。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
あの位なら、ちょちょっと……。
 |(あーあー聞こえない聞こえない。絶対聞かない。めんどくさくなるからー!)
 でも公彦、もう約束してますよね。懸念の資材等の充ても解決しそうですし。ね、ルル。
|(ハイー、わたしガンバル。ちょちょっとデキちゃうよー。ほめてー)
 いい子ですねルルは。
と結論 ∮〉

 俺をほっといて股間の奴とコミュニケーションとるな、何時から仲良くなってる? そしてルルって、名前か? 名前なのか?
 ……取り合えず、ちょっと待て、色々とヤバい問題だから。

 とりあえず、新たな“尊遺物レリクト”は大陸中央のネームド魔物ウジャウジャの旧魔王領の都市群に潜って探さないといけないらしい。真な正道ダンジョン攻略、胸躍るね。
『いつか行ってみたい。異世界来たならね』キャッチコピーかよ。
 でも魔王領産出の遺物に“尊”の字を当てるなんて……。敵なんだろ魔王って。この大陸の歴史的には。節操なさすぎ。


「街への襲撃は本来、その街を収める領主の勤めだ。例え襲撃者が他国の大軍勢でもコソ泥であっても、魔物の大群スタンピートでもだ。だが此処ここでは違う。領主が守るべきは“高架高速鉄軌道”のみだそうだ。
 だからヤツらはギルドや街が襲われても助けはしない。“飛竜落とし”を斜に構えたまま静観するのみ。いくらギルドの兵や領民が襲われ殺されたとしても。男爵の本音はそれを望んでいる」

 高架軌道上の領兵達から、何が可笑しいのか馬鹿笑いの声が、少し冷たい冬の初めの風に乗って僅かに伝え聞こえていた。

「高架軌道が今まで襲われた事はないし、破損した記録もないがな。“カトンボ”共は高架軌道は襲わない。何故なら、興味あるのは蜘蛛だけだから。
 領主、いや、この国が欲するものは詰まる所、ギルドの魔晶石を定期的に得るシステムとそのノウハウ、そして造幣技術だろう。おまけで蜘蛛の利権か。その為にの街が如何なろうと構わない。都合の良い事に此の街には二年に一回起こる“うつり”がある。
 そう、国の王族偉い人、この大陸の全ての支配者層は考えている。落国の民アッシュ如きが持っているのは勿体無い、と」


 僕はギルドの隔壁の上から最後に街側外からその内側、ギルドの敷地全体に視線を移す。
 やっぱり空母じゃん。丁度僕らは船首位置に居て、左手隅に寄るように船橋っぽい建物群が見える。群って言っても三棟しか無いけど。その中でより船橋っぽく見せているのが中央の石造りの屋根付きの櫓だ。台形で隔壁より低く、それでも半分の十メートルは超えている。正に甲板全体を見渡せる艦橋。
 空母型の敷地で、前はいっぱい人が死んだ。今回もやっぱり……。

「今度の“戦争”では、男爵ともり合う事になる。判っているんだろう。既にお前にも」
 と委員長系ギル長さま。


「それでも、所詮は領主である男爵もその手先でしかない。だがこの男爵は手強い。頭もキレる。斜陽のギルドに見切りをつけ、落国の民アッシュの孤児から男爵まで登りつめたのだからな。
 奴は本部付遊撃部隊の隊長を最後に在る不祥事を起こして脱走している。私とゲートが新兵だった頃の直属の上官であった事もあるな」
 と、一旦言葉を止め、サチを正面から捉え、実に言いにくそうであったが言葉を綴った。

「お前の育ての親であるおババ様の後継者であると目されていた、そのおババ様とオマエを本部から追い出す原因となった女、“残酷のオルツィ”だ」

大姉様オルツィが?……この街にいる?……貴族になって……貴族をあれ程に嫌っていたのに?」
 目を見開き、身を翻すと男爵の“美しい要塞”が見える手摺りに投げ出すように身を乗り出す。どんな顔をしているのかは僕らには分からない、ただ聴こえた。サチの悪魔のように伸びた鋭い爪が石積みの手摺を穿つ鋭く重い擦過音が。

 ぴゅっと首筋を吹き抜ける凍風。思い掛けずの冷たさに身が縮む。
 うん、冬は近い。


「ざっと状況はこんな感じだ。ああ、お前が指摘した通り二年前の“うつり”防衛戦で殆どの古参兵100人が壊滅状態だ。それでも街にも蜘蛛にも大きな被害が出た。残念ながら、な。

 今年は古参兵が四十八名、補充の訓練途中の新兵六十五名。合計百十三名。
 当方に残っている“飛竜落とし”は九丁、“擬神兵装神の如”に至っては三りょうだ。それが全ての戦力だ。

 なあ、お前のあの、ふざけた“宣言”に免じて色々と見せてきた。
 今いるこの隔壁も、中にいる蜘蛛も、宝物庫も“弾”の製造室も、断っての願いで関係者以外立入禁止の造幣局までも見せた。もういいだろう?
 そこで如何なんだ、壊れた“飛竜落とし”は直るのか? それで如何やって戦う? カトンボに対して、男爵に対して。答えてもらおう小僧」

 答えたくないでござる。絶対キレるし。ハぁー、いやだイヤだ。損な役回りだヨ。だからこそ。

「例え全ての“飛竜落とし”も、“擬神兵装神の如”も直せたとして、ギルドの兵隊百十三名全員に行き渡したとしても、“うつり”はもう防げない。もう、ダメなんだよ。

 男爵もそれを理解している。そして男爵の完璧で嫌らしくてスキのない“手筈”は既に、残念だけど二年前に全て整え終えている。
 だからもう詰み。もう全部が既に終わっているんだ」



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
次話は明日、17 時ちょっと過ぎに投稿します。
しおりを挟む

処理中です...