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第五節 〜ギルド、さまざまないろ〜
055 さめざめとした現実だけが
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◆唐突ですが、街に入る際の、検問所にいた“小太り門番おじさん”
の視点です。
ウチの女子二人に『臭い』と言い放ったツワモノです。
本当に唐突ですが、後々効いてきます。絶対です!
そして悪役令嬢降臨。ハナちゃんのバチが垣間見れます。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◆ (街に入る際の、検問所にいた小太り門番おじさんの視点です)
ここの男爵は働きすぎだと思う。
貴族なら貴族らしく目先の硬貨だけを数えていればいいものを。勤勉は長生きしないぜ。
俺は城門の検問所の硬い椅子に座り、外を眺めている。“溜まりの深森”だ。
今も俺の部下やその他雑兵共が“下品で赤い鎧”のヤツにケツを叩かれ叩かれ魔物に突貫している。太陽に反射して鈍く光る牙が今、俺の配下の腹を貫いた。
「今のは致命傷ですね。可哀想に」
と、全然カワイソウには聞こえない声の方向に視線をだけを向ける。「そうかい」と俺。
声の主は先程から良い姿勢で微動もせず俺と同じ様に顔だけを向けて“外”を眺めている。
「団長さんは全く以て信じてくれてませんけど、心底可愛そうだと、私は思っているんですよ。きっと近いうちにあの“可愛そうな部下さん”と同じ運命を辿るであろう“あなた達、傭兵の皆さん全員”に、同じ様に可愛そうだと。同情はしませんけど」
「まあ、カワイソウはともかく、高貴な貴族の御令嬢様は俺たち下々に一々同情なんてしないでしょうな」
「誤解ですわ。私達貴族は領民が在ってこそですから。私は愛してますわよ。
同情云々は、あなた達傭兵さんが既に受け入れているからですわ。カワイソウな現実を」
「そうかい」と俺。
再び“溜まりの深森”が見える“外”に目を向ける。死んだなアイツ、と思う。セコいけど結構イイ奴だったなと、思う。
目を移す際にちらっと見た高貴な御令嬢様の後ろで所在無げに佇む小汚い小僧は鼻をホジッていた。俺の指も自然と鼻の穴に。何も考えない頭は、なにげに見た者の真似を自然としてしまう。
誰だっけな、能書き垂れてた建ててたのは。大して意味ある含蓄じゃねーけど、ああ、確か、セコいけど結構イイ……さっき死んだんだっけな。
何でこんな事考えてんだ俺、ああ、そうだ。考えたくねーからだ。なぜなら、小汚え小僧が俺の目から視線を一時も外さねーから。乾いた目で俺の目を一直線に見据えているから。
其処に高貴な御令嬢のような哀れみも同情も無かった。たださめざめとした現実だけがあった。止まることなく静かに涙を流し、泣き続けるような現実。
俺は傭兵だ。非合法な。知っている。でも最初から非合法な傭兵って訳じゃなかった。いい訳じゃねえ、……言い訳かコレ。そうか、そうだよな。
俺は十五でギルドの養成所に入った。飯を食わせてくれた。訓練は厳しかったが辛くはなかった。座学は眠かったがやり過ごせた。悪くはなかった。ただちょっと思っていたほど居心地は良くはなかった。
実戦部隊に上がれたのは早かった。他の奴より俺は強かったから。金が稼げるようになったのは有り難かった。でも居心地は以前より悪くなった気がした。
何で俺が薬草なんて腰曲げて毟り取らなきゃならねえ。
何で俺が他人の飯を肩に担がなきゃならねえ。
俺は覚えた得意の魔法をただぶっ放して給料で買ったこの自慢の大剣を思い切りブン廻してぇだけだ。何が悪い。
俺は班長をぶっ飛ばしてギルドを出た。冒険者になるには勤仕年数が足りず資格は取れなかった。だから傭兵になった。得意の魔法をぶっ放して自慢の大剣をブン廻して生きた。居心地が良くなったかどうかは分からねぇ。ただぶっ放してブン廻してた。
幾多の傭兵団を渡り歩き気づいた事がある。居心地のいい団は稼ぎが悪く何時もヤベかった。命的にも仕事的にも。
傭兵だからやべー事も人様に言えない事もする。でも限度がある。何でも有りの境界人外者だけで構成された非合法専門傭兵団 に落ちたら良い目は見れるが、長くは続かない。何度か官兵に追いかけ回され、死にそうになって悟った。
俺はいつの間にか自分の団を率いていた。それが一番効率が良かったからだ。非道もするが最後までは落ちず、ギリギリな仕事を選ぶ。
ある日、俺は嘗てぶっ飛ばした班長が言っていたのと同じ事を配下の若いヤツにそのままそっくり訓たれていた。
気づけば、手ひどく負けての敗走中に命永らえたのはギルドの養成所時代にイヤイヤ覚えた薬草の知識だった。団を運営していくにあたってのノウハウは他人の荷を背負っていた時に何気に見聞していたあれこれだった。居心地はいいかと聞かれればイイぜと答える事にしている。それだけだ。
十何年前、俺の団は大半の装備とそれまで蓄えていた資金の全てを失うような手酷い失敗をやらかし、これはいよいよ非合法専門傭兵団 に鞍替えかと覚悟を決めた時に、“遷”直前のこの街に流れ着いた。
俺たちは住民を狩る代わりに魔物を狩りに狩り捲って一息付く余裕を得た。それからは二年毎にこの街を訪れる事にした。そして俺の団は少しずつ大きくなり、傭兵基準ではあるが割とマトモな仕事も受けられるようになっていた。
俺も年を食ったが、今も得意の魔法をぶっ放して自慢の大剣をブン廻して生きている。この夏までは。いや、二年前からか。
今回はもうダメだろう。大きなシッペ返しだ。って言うより既定路線か。いつかは訪れる傭兵の末路だな。若いヤツには済まないと思うが、まあ自分が選んだ道だ。過去の俺の様に。
「ならさ、自分ひとりで逃げればいいじゃん。あんた一人なら訳もないだろう。『名もなき傭兵団』団長、二つ名“重旋風”さんだっけ」
と、ホジッた鼻クソを指で弾いて小僧が言った。
と、正面に座っていた高貴なお姫様な令嬢はすくっと立ち上がり振り返ると背後の小僧に向かって、大被りで瞬速の垂直チョップをその頭頂部にお見舞いした。派手で重い音が響いた。
「お下品です! 折檻です」
ブベッ! と一声、小僧は床でのた打ち回っている。よく見ると喰らった瞬間までホジッていた人差し指が第二関節まで鼻に埋まっていた。足をバタバタさせている。普通は死んでる筈だけどな。
それを一瞥もせず俺に向かい合い、上品にスカートの端の皺を気にしながら優雅に座ると絶世の美少女な御令嬢はニッコリ笑い(見惚れるとかは全然で、ただ背筋が伸び冷汗が流れた)、言った。
「ところで此処はお茶も出してくれないのね。本当に話し合いに応じる気があるの」
さっき突然、強引に入り込んできたのは何処のどいつだよと言いたい。言わないけど。そして俺は話し合いに応じるべく先ずはお茶を入れようと席を急いで立った。ただ、ココに茶なんて上等なモノなど無いことに途中で気づいたが。
俺を強引な話し合いに持ち込んだのは四日前にココを通過した流れの冒険者である黒コートの若い女(今は街側の出入りドアを防ぐように立っている)と、連れの生気の無い顔をしていたが、今は輝く笑顔ポイ何かを貼り付けた御令嬢(町娘風な服を着ているが醸し出している血筋の正当性に否応ない)と、見習ギルドの『お仕着せ』を着た小僧(まだ床で身悶えている。四日前もそう思ったが、多分、こいつは相当ヤバい)。
「ビスケットも無いのね、使えないわ」とご令嬢様。
「俺らは傭兵だ。傭兵は簡単に裏切られる。だから俺らも簡単に裏切る。物の道理だ。だからソレに見合うリターンを求める。俺らが裏切らない保証の為じゃねぇ。俺らが裏切られても見合うリターンだ。親切だろ。だからソレに見合うリターンをアンタ達は俺に提示できるのか?」
「充分に」
「……」
「……」
「其れは何かと訪ねてもよろしいか」と俺。
「あら、失礼、たったひとつしか有りませんから今更言葉にしなくともと、思い込んでいましたわ。随分とお頭の回転が……」
「エリエル様、それ以上は」とドアに背中を預けた黒コートの若い女。 ただ思うのは、前の俺なら確実に切れていたはずだがなと。ホントウに頭の回転がダメになってんだなと。
目の前の妖艶な若い女が微笑む。
「失礼しました。では改めて。
チャンスですわ。
この街から無事に命あって逃げ出せる。五体満足かはわかりませんけど。……あと、そうでうね、特別にもう一つ。本当に大サービスですよ。
……見逃し|て、あ・げ・る」
性格悪いだろ、この女。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
毎日更新しています。
の視点です。
ウチの女子二人に『臭い』と言い放ったツワモノです。
本当に唐突ですが、後々効いてきます。絶対です!
そして悪役令嬢降臨。ハナちゃんのバチが垣間見れます。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◆ (街に入る際の、検問所にいた小太り門番おじさんの視点です)
ここの男爵は働きすぎだと思う。
貴族なら貴族らしく目先の硬貨だけを数えていればいいものを。勤勉は長生きしないぜ。
俺は城門の検問所の硬い椅子に座り、外を眺めている。“溜まりの深森”だ。
今も俺の部下やその他雑兵共が“下品で赤い鎧”のヤツにケツを叩かれ叩かれ魔物に突貫している。太陽に反射して鈍く光る牙が今、俺の配下の腹を貫いた。
「今のは致命傷ですね。可哀想に」
と、全然カワイソウには聞こえない声の方向に視線をだけを向ける。「そうかい」と俺。
声の主は先程から良い姿勢で微動もせず俺と同じ様に顔だけを向けて“外”を眺めている。
「団長さんは全く以て信じてくれてませんけど、心底可愛そうだと、私は思っているんですよ。きっと近いうちにあの“可愛そうな部下さん”と同じ運命を辿るであろう“あなた達、傭兵の皆さん全員”に、同じ様に可愛そうだと。同情はしませんけど」
「まあ、カワイソウはともかく、高貴な貴族の御令嬢様は俺たち下々に一々同情なんてしないでしょうな」
「誤解ですわ。私達貴族は領民が在ってこそですから。私は愛してますわよ。
同情云々は、あなた達傭兵さんが既に受け入れているからですわ。カワイソウな現実を」
「そうかい」と俺。
再び“溜まりの深森”が見える“外”に目を向ける。死んだなアイツ、と思う。セコいけど結構イイ奴だったなと、思う。
目を移す際にちらっと見た高貴な御令嬢様の後ろで所在無げに佇む小汚い小僧は鼻をホジッていた。俺の指も自然と鼻の穴に。何も考えない頭は、なにげに見た者の真似を自然としてしまう。
誰だっけな、能書き垂れてた建ててたのは。大して意味ある含蓄じゃねーけど、ああ、確か、セコいけど結構イイ……さっき死んだんだっけな。
何でこんな事考えてんだ俺、ああ、そうだ。考えたくねーからだ。なぜなら、小汚え小僧が俺の目から視線を一時も外さねーから。乾いた目で俺の目を一直線に見据えているから。
其処に高貴な御令嬢のような哀れみも同情も無かった。たださめざめとした現実だけがあった。止まることなく静かに涙を流し、泣き続けるような現実。
俺は傭兵だ。非合法な。知っている。でも最初から非合法な傭兵って訳じゃなかった。いい訳じゃねえ、……言い訳かコレ。そうか、そうだよな。
俺は十五でギルドの養成所に入った。飯を食わせてくれた。訓練は厳しかったが辛くはなかった。座学は眠かったがやり過ごせた。悪くはなかった。ただちょっと思っていたほど居心地は良くはなかった。
実戦部隊に上がれたのは早かった。他の奴より俺は強かったから。金が稼げるようになったのは有り難かった。でも居心地は以前より悪くなった気がした。
何で俺が薬草なんて腰曲げて毟り取らなきゃならねえ。
何で俺が他人の飯を肩に担がなきゃならねえ。
俺は覚えた得意の魔法をただぶっ放して給料で買ったこの自慢の大剣を思い切りブン廻してぇだけだ。何が悪い。
俺は班長をぶっ飛ばしてギルドを出た。冒険者になるには勤仕年数が足りず資格は取れなかった。だから傭兵になった。得意の魔法をぶっ放して自慢の大剣をブン廻して生きた。居心地が良くなったかどうかは分からねぇ。ただぶっ放してブン廻してた。
幾多の傭兵団を渡り歩き気づいた事がある。居心地のいい団は稼ぎが悪く何時もヤベかった。命的にも仕事的にも。
傭兵だからやべー事も人様に言えない事もする。でも限度がある。何でも有りの境界人外者だけで構成された非合法専門傭兵団 に落ちたら良い目は見れるが、長くは続かない。何度か官兵に追いかけ回され、死にそうになって悟った。
俺はいつの間にか自分の団を率いていた。それが一番効率が良かったからだ。非道もするが最後までは落ちず、ギリギリな仕事を選ぶ。
ある日、俺は嘗てぶっ飛ばした班長が言っていたのと同じ事を配下の若いヤツにそのままそっくり訓たれていた。
気づけば、手ひどく負けての敗走中に命永らえたのはギルドの養成所時代にイヤイヤ覚えた薬草の知識だった。団を運営していくにあたってのノウハウは他人の荷を背負っていた時に何気に見聞していたあれこれだった。居心地はいいかと聞かれればイイぜと答える事にしている。それだけだ。
十何年前、俺の団は大半の装備とそれまで蓄えていた資金の全てを失うような手酷い失敗をやらかし、これはいよいよ非合法専門傭兵団 に鞍替えかと覚悟を決めた時に、“遷”直前のこの街に流れ着いた。
俺たちは住民を狩る代わりに魔物を狩りに狩り捲って一息付く余裕を得た。それからは二年毎にこの街を訪れる事にした。そして俺の団は少しずつ大きくなり、傭兵基準ではあるが割とマトモな仕事も受けられるようになっていた。
俺も年を食ったが、今も得意の魔法をぶっ放して自慢の大剣をブン廻して生きている。この夏までは。いや、二年前からか。
今回はもうダメだろう。大きなシッペ返しだ。って言うより既定路線か。いつかは訪れる傭兵の末路だな。若いヤツには済まないと思うが、まあ自分が選んだ道だ。過去の俺の様に。
「ならさ、自分ひとりで逃げればいいじゃん。あんた一人なら訳もないだろう。『名もなき傭兵団』団長、二つ名“重旋風”さんだっけ」
と、ホジッた鼻クソを指で弾いて小僧が言った。
と、正面に座っていた高貴なお姫様な令嬢はすくっと立ち上がり振り返ると背後の小僧に向かって、大被りで瞬速の垂直チョップをその頭頂部にお見舞いした。派手で重い音が響いた。
「お下品です! 折檻です」
ブベッ! と一声、小僧は床でのた打ち回っている。よく見ると喰らった瞬間までホジッていた人差し指が第二関節まで鼻に埋まっていた。足をバタバタさせている。普通は死んでる筈だけどな。
それを一瞥もせず俺に向かい合い、上品にスカートの端の皺を気にしながら優雅に座ると絶世の美少女な御令嬢はニッコリ笑い(見惚れるとかは全然で、ただ背筋が伸び冷汗が流れた)、言った。
「ところで此処はお茶も出してくれないのね。本当に話し合いに応じる気があるの」
さっき突然、強引に入り込んできたのは何処のどいつだよと言いたい。言わないけど。そして俺は話し合いに応じるべく先ずはお茶を入れようと席を急いで立った。ただ、ココに茶なんて上等なモノなど無いことに途中で気づいたが。
俺を強引な話し合いに持ち込んだのは四日前にココを通過した流れの冒険者である黒コートの若い女(今は街側の出入りドアを防ぐように立っている)と、連れの生気の無い顔をしていたが、今は輝く笑顔ポイ何かを貼り付けた御令嬢(町娘風な服を着ているが醸し出している血筋の正当性に否応ない)と、見習ギルドの『お仕着せ』を着た小僧(まだ床で身悶えている。四日前もそう思ったが、多分、こいつは相当ヤバい)。
「ビスケットも無いのね、使えないわ」とご令嬢様。
「俺らは傭兵だ。傭兵は簡単に裏切られる。だから俺らも簡単に裏切る。物の道理だ。だからソレに見合うリターンを求める。俺らが裏切らない保証の為じゃねぇ。俺らが裏切られても見合うリターンだ。親切だろ。だからソレに見合うリターンをアンタ達は俺に提示できるのか?」
「充分に」
「……」
「……」
「其れは何かと訪ねてもよろしいか」と俺。
「あら、失礼、たったひとつしか有りませんから今更言葉にしなくともと、思い込んでいましたわ。随分とお頭の回転が……」
「エリエル様、それ以上は」とドアに背中を預けた黒コートの若い女。 ただ思うのは、前の俺なら確実に切れていたはずだがなと。ホントウに頭の回転がダメになってんだなと。
目の前の妖艶な若い女が微笑む。
「失礼しました。では改めて。
チャンスですわ。
この街から無事に命あって逃げ出せる。五体満足かはわかりませんけど。……あと、そうでうね、特別にもう一つ。本当に大サービスですよ。
……見逃し|て、あ・げ・る」
性格悪いだろ、この女。
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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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