半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第五節 〜ギルド、さまざまないろ〜

060 だから、逝かせねぇって!

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豪快で強いバーサンはイイです。
永く生きてしまった為の哀愁(かなしみ)も。
普通だけど。ヒロインではないけれど。
そんな肝っ玉(おんな)のお話し。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
――――――――
 約束の五十時間が過ぎた。並ぶ彼女達の後ろには補修済みの“投網”が山となって積み上がっていた。実に壮観。微動だにせず後ろに手を組み目に隈を作り髪も無造作に乱れ、僕の前に三列横隊で整列した彼女達は美しい。


「諸君、良くやってくれた。貴官らの働きに本官は大変満足している」
と、僕の頬に投げられたブーツの踵がめり込む。

「偉そうに何様のつもりだ坊ズ! ちょっと刻印が使えるかといって頭に乗るなよ」

「チョット待って、僕ったら君たちの師匠、マイマスター、偉大なる指導者様だよ」と床にオヨヨな横座りで僕。

「知るかボケ! それでどうすんだクソ坊ズ。言われるままに作業したが」積まれた成果物に目をやり「最初の方のやつはヘタクソすぎて使い物にならないぞ。使い物になるのは三分の一だ」

「大丈夫だよ」と立ち上がり、ブーツを返しながら「計算通りだよ。五十時間のノルマは個数じゃなくて練度の構築だからね。それにそんなに数は必要ないよ。有っても使う人がそもそもいないから。それよりも次の段階に行こう」

 ちょっと沈黙が落ちた。たぶん絶対的な人数不足の現状に改めて思い沈んだんだろう。

「なるほど、判った」すぐに立ち直ってくれたみたいだ。さすが。

「それで私達は次は何をすればいい……それとブーツを返す時、何で匂いを嗅いだ。キモいぞ。いや、人として疑うぞ」

「えッ」と僕「だって若い男の子だもん。普通だよ」


「これより計画の第二段階に移行する。その前に。
 知っていると思うが、既に全員が【表象印刻】を覚醒させている。これは想定外の大変喜ばしい誤算だ。当初の予定より二十パーセント程の計画の促進が認められる。諸君の尽力に感謝する。しかし計画は途に就いたばかり、そして期限は限られている。諸君の一層の努力奮闘に期待する。
 ではこれより隊を4つに分け、作業にあたる。
 ひとつは本官が今手掛けている“シン・飛竜落とし”の再刻印の引き継ぎ。
 ひとつは街の工房を指揮協力しての“投網”の射出弾及び各種装備品の製造。
 ひとつは本官と共に前のギルド長が残した新規武装魔道具の完成及び実戦投入を目指す。
 以上、3つの任務だが安心してほしい、諸君らが既に実装している【表象印刻】の派生スキルを持ってすれば容易であると本官は確信している。尚、新たに必要となる各種の魔法陣章の『設計図及び詳細仕様書』使途概要ノウハウについてだが」

 と僕はここで一旦言葉を切る。そうです、最初に彼女達の記憶媒体脳みそ違法注入打ち込んだあアレの行為だ!
 彼女達の顔が一瞬で青ざめる。

「安心してほしい、初回時に既に共用 インポート済みだ。“永遠の三十秒”は伊達ではないのだよ。君たちは二度とアノ“永遠の三十病”を、受容する事は、ない」
 ホッとした顔のその表情の裏で、見え隠れする明らかに残念そうな切なそうな眼差し。

 ふふっ、落ちたな……。
 と、後ろに殺気! 振り返るスキも見せず僕の両足の間を抜け、委員長系ギル長のハイヒールのつま先が中央部の“自我存在理由レゾンデートル”を急襲。フんみゅ。

 声も出せず膝から折れる僕、その首を内のかいなで締め上げ崩れ落ちるのを強制的に止めると耳元で「悪辣だな、これ以上私の部下ムスメ達を壊すな。潰すぞ」
 もう潰してますけど。

「使用不可になるまで壊すって、意味だ」
 40デニール黒タイツの膝が再び僕の自我存在理由レゾンデートル”を下から上へと嬲る。

「イエス、マム!」ビブラートを効かせたソプラノでイイ返事をする僕。でも僕の愉悦。違った、苦悶は続く。

 小突かれ、やっとの思いで立ち上がり(ああ、股間がジンジンする)、ちょっとカッコイイ言葉で締め括ろうとしているのを横取りする委員長系ギル長。

「とは言え、睡眠不足はお肌と仕事の効率にとって大敵だ。九時間、いや十時間後、食事と風呂と充分な睡眠をとってまた此処で会おう。解散!」
 あ、その『出来る上官っぽい』セリフは僕が言おうと思ってたのに。

「チョット待ってくれヤ、マイマスターさんよ」

「何だ?」と委員長系ギル長。

「ギルド長じゃねえよ。聞いてんのはラブリーなマイマスターさまだよ」

「へ? あっし?」と僕。
 因みに最初に声を掛けてきたのは最年長最ベテランのアイナさん。五人の子持ち。何というか、横幅が凄い。前後もだけど。
 二番目は二番目の年長で二番目のベテランのエレオノーラさん。四人の子持ち。何というか、やっぱり横幅が凄い。前後も同じく。

「聞きたいことがあるのさ、マイマスターさまと新魔道具を開発する組の子はどうして下から若い順なんだ? 何か意図があんのか?」

 と、三番目の年長で三番目のベテランのヘレナさん。なんと六人の子持ち。何というか、横幅もやっぱり六人分。前後も同じく。
「えっと……」答えに詰まる僕。そりゃまぁ僕も色々考えてますよ。うんとね。

「まさか、“若いほうが頭が柔らかくて物事も覚えるの早くて”っなぁんて、オレらの前で堂々と、そんなフザケた言い訳はしないよなぁ? それとも、下半身がかってに選んだのかぁ? それも問題だよなぁ」
 と、ギロリと僕をその鋭い眼光で睨むのは四番目の年長で四番目のベテランのイルマさん。四人の子持ち。何というか、以下省略。

「そ、そんな事は滅相もない。ぐ、偶然ですよやだなぁ」

 大ベテラン四人さん、一斉にニマっと笑ってユニゾンで「ならオレら四人でいいよな」

「そ、それは……」

「いいよな!」大音響ユニゾンで。

「……はい、ヨロコンデ」
 と、最年長最ベテランのアイナさんのぶっ太い(赤鬼の棍棒より太い)二の腕が僕の首をがっちりロックし(ああ、なんて委員長系ギル長の腕の柔らかさよ。この腕、鋼鉄で出来てんじゃねーか。だから苦しいって、息が止まってるって)。

「先ずは打ち合わせでもするかぁマイマスターちゃんよ!」

 大声で宣言した後、そのザラザラのブルドックのような頬を僕の頬にスリスリ押し付け小声で「この火照った身体の方もなんとかしてもらうぜ、火を着けたのはアンタだマイマスターちゃんよ。頼むぜ四人分。安心しろ、オレら全員戦争未亡人だ、後腐れねえ。
 それに子供バンバン生んでるからよぉ、色々おしえてやれるぜぇ。色々たのしいのをよぉ、搾り取ってやんよぉ、“わたしらの”マスターちゃん!」

 と、ホントにキャッチャーミットのようなテノヒラで僕の自我存在理由レゾンデートル”を包み込みギュッとね。

 ソ、そっちがホンちゃんかよ!
 僕は助けを求めて委員長系ギル長を探す。それなのにヤロウってば手の平と手の平を和せて俺に向かって合掌してやがった。
「自業自得だ、南無」

「ガァハハハハ! 先ずは腹ごしらえだ。ガァハハハハ!」
 小脇に抱えられ、ドナ・ドナされる僕。この人絶対赤鬼より強いだろ。絶対強い。

「ガァハハハハ! ガンガン喰ってガンガン働こう! そしてビシバシ子作りしよう‼」
 や、やめて下さい。明らさま過ぎです。十五禁に抵触します。
 だから! なんで他のおネエさん達は角度三十度の敬礼の花道で僕らをお見送りしてるのかなあ。

 ◇

 結局は、僕の貞操は守られた。
 大ベテランの四人は見た目は豪華な特大サーロインステーキ、中身も味も真正魔物クサレ肉を大いに食い酒(ビールっぽいやつ、これは本物っぽい。味は分からん、本物も飲んだこと無いから)を飲み、大いに笑い騒ぎ、糸が切れたように突然に皿に顔を突っ込ませ、気絶するように熟睡した。

 まあ、五十時間休みもなく魔力アルカヌムを練り魔法陣章の補修作業リペアを行なっていたのだ。精も根も尽き果て、って最初からスタミナなんて残ってるはずなんて無く、身体が緊急に欲していたエネルギー補給が済んだら即休息は当たり前だ。食欲、睡眠欲、ずっと下がって性欲だ。

 でも……本音も少しは有ったのかもしれないなと思ってしまう。アラクネは男が極端に減少している。この街に限ったことだが、だからこそ種族としての本能が存亡の危機を察して、あの様な行動を取らせたのかと、思ってしまう。

 大ベテラン四人組は五十時間のノルマ期間で一番手掛けた数量が多かった。成功率はトップではなかったが、最初に【表象印契】を覚醒させた。
 彼女達は“投網”の補修作業リペア中、目を血がしらせながら小さな声でずっと呟いていた「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」「すぐ逝くからね、待っててね」……。
 
 彼女は旦那だけではなく息子達も先の“遷り戦争”でうしなっている。
 その残った娘のひとり、同じアラクネらのおネイさんが突っ伏している自分の母親の傍らに立っている。宿舎に連れて行こうとして来てくれたのだ。その娘が自分の母親の頭をペシッと手のひらで叩いた。
「バカ母。

 ……。
 父さんも、三人の兄達も、わたしの旦那も普段は働きもしないクズで、どうしようも無いバカ男どもだったんですけどね……。何ででしょうかね……。ねえ、ハムさん、いえ、マイマスターさま、私も戦争未亡人なんですよ。どうですか? 子供はまだだったので母よりは色々は知りませんけど」

「済まないね、まだ精通してないんだ」

「あら残念……」

 彼女は自分の母親の看病の為に僕に背を向ける。その横顔に詰まらなそうな顔と、どこかホっとしたような顔の二つの表情が垣間見えた。
 ぶっ太い二の腕を肩に載せ、引き上げようとした時。彼女の母親の寝言が「……ごめんよぉ、私もすぐ逝くからさあ」

 娘が母親を背負い、僕に背を向けたまま「おやすみなさいマスター、また明日」

「ああ、また明日」


 だから、逝かせねぇって!



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
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