半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

文字の大きさ
62 / 129
第六節 〜似非魔王と魔物、女王と兵隊〜

062 中天で星々に埋まる藍の入った銀色の満月

しおりを挟む
認めたくないけど、ひとまず容認するようです。
スゴく、イヤイヤな様子を御覧ください。

※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 だから僕はこの鎧の修理は行わない。


花魁蜘蛛クイーンの糸”を素材として造られている。それは間違いない。それなのに、その効能は極限まで薄く軽く、装飾の精巧な造形のみに振り当てられていた。はっきり言って紙装甲ってやつだ。
 それでも、腐っても“蜘蛛糸”製、そこらの革や金属製よりは強度は高く、カトンボの牙や赤鬼ゲートの一撃には耐えられる。ただし、本当に一撃だけ。耐久性能が恐ろしく低かった。

 後ろの棚や積み上がった箱にはには粉々やヒビが入った元鎧の残骸が無造作に押し込まれていた。全てが赤黒い染みを随所に固着させて。
 その棚の隅に使い込まれたノートがそっと置かれていた。前ギルド長が残していった開発ノートだった。
 そこにはこの鎧に対しての罵詈雑言が認められていた。
『“擬神兵装”の意味は所詮が神を真似たもの。“神の如し”は決して神ではない』

 嘗て、『魔神兵装』と御大層に呼ばれた“はふりたる従者”より賜った鎧、別名『魔王の不壊鎧』なるものが有ったそうだ。ネーミングセンスに赤面しそうになるが、如何なる魔法・物理攻撃にも耐性があり、正に“不壊”であったらしい。真偽も含め、機能その他の詳細は全く分からないが、五百年前まで確かにあったらしい。このギルドにも。

 今は誰も見たことは無いが、ギルド本社は実際に三領を所持しているそうだ。その他では各国王族や有力貴族が所有しているらしいとの噂がある。
 ノートは綴る。各地方のギルドに保管されていた“不壊鎧”は時の権力者に奪取されたのだろうと結論付けていた。千年前の、早い時期に。さもありなん。僕だってそんな鎧だったらほしいし。

 権力者や為政者なら『落国の民アッシュ如きが所持していいものではない』とかナントカ言い出しそう。
 そして仕方なく元々が儀典用や装飾用、劣化簡易版として在った製造が簡単な“神の如し”を大量生産し、流用しざる得なかった。やがてそして名前をを込めて“擬神兵装神の如”と呼び始め、何時の間にか、その製造・修復技術さえ失い今に至る。
 それが擁壁上の赤黒い染みの訳だし、もう、殆ど残っていない鎧の訳だ。斜陽の国まっしぐらって感じだね。

 思えば、この街を巡る悲劇は、“魔王の不壊鎧”が失われた事が起因として、そこから少しずつ転がり始めたのかもしれない、滅亡に向けて。全ては人の“欲”が起因だ。


 本当に“前ギルド長”は凄い。ノートは愚痴だけで終わっていなかった。足掻いていた。
 先の、如何どうすればいいか、新たなギルド兵を守る“鎧”の開発を始めていた。
 その開発発想に驚く。素材は勿論“花魁蜘蛛クイーンの糸”であるが、効能を軽量かつ高強度と強靭性をもたせた炭素繊維を織り組む元世界あっちのCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)に近い構造を考えていた。未完成であるものの、その魔法陣章は実に美しい。完成も直ぐ間近だった。そう思えた。

 問題は2つ。衝撃を吸収するシェル(内包機能)が思いつかなかったことと、魔法陣章を“蜘蛛糸”に如何どうやっても定着することが出来なかった。
 ノートは続く。
『今回の“うつり”(二年前)には間に合わない。済まない、本当に済まない。また、多くのギルド兵達がその命を落とすだろう。全て私の責任だ。ただ、愚痴は止めよう。そんな事はこの街のギルド長に就任した時に覚悟したことではないか。先、二年後(今回)の“うつり”には絶対に間に合わせる。そのアイデアはもうある。後はそれを現実にするだけ。私は諦めない』

 そこでノートは終わっていた。そのアイデアは書いていなかった。そして、僕にはそのアイデアは全く思いつけないでいた。

「アンタ、こんなにスゲーんだったら最後まで終わらせておけよ」
……。
 ゲスだな俺。前のギルド長がそれを望んでいなかった訳、無いじゃないか。

 それでも、嘆いてしまう。もう、僕には無理だから。

 そもそも、前のギルド長が残してくれていた遺産、“投網”や“シン・飛竜落し”が無ければ一週間ちょっとで全てを整えることなんて土台無理だった。いや、どんなに時間が在ったとしても、僕が前ギルド長の域に達することなんて無理だ。所詮は“魔真眼”なんてコピーするだけの小手先の技しか持ちわせていない、ただのガキだ。

 嘆いても、悲嘆にくれようとも現実として今、僕らの手元には先を示すれが無い。無いものは無い。


 隔壁上の赤黒い染みが僕に重くのしかかる。
 前のギルド長なら、そう思ってしまう。アンタが居てくれれば。アンタなら、計画は進み、二年の歳月を掛ければ充分可能であったんだろう?
 全てが計画通りであったなら、二年前の“うつり”もやり過ごせてみせ、壊滅なんて悲劇も起こり得なかった。

 “投網”と“飛竜落とし”は用意出来る目算が立ちそうです。 
 でも現実は“不壊鎧”は無く。人はもっと足りません。

 悔やまれる。なぜ二年前、前ギルド長を一人で戦わせてしまったのか。助けるものが誰も居なかったのか。
 前ギルド長は二年前に“うつり”直前に謀られ、こうなる事を知らしめされたのだろう。だからギルドから消えた。妻子を失い、自らをも失い。

“絶対数の暴力”に抗える術を、街をギルドを救う術をもう少しでその手に出来たろうに。

 彼れまでだと思ったのかな。
 如何どうしようも無いじゃないか、と。
 此処ここまでなのかもしれない、と。

 二年前に既に決定していた今回の“うつり”結末。
 全ての人が理解している。既に諦めている事実を。
 人の思いをすべて踏みにじる未来が確定されている現実を。

 あと“僕”に何が出来る。
 如何どうしたらいい。
 如何どうしたい。
 此処ここまできて。
 そして、
 出来るのか? 僕に。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
 “魔王様が御所望、なら”
 と結論 ∮〉



 ひっそりと、魔法のランプの数個が落とされ、等間隔を開けて心もとないく灯るだけの地下最下層“武器倉庫兼整備ルーム室”の出口ドアに眼をやり、足を向け、一歩を踏み出す。

 ドアのノブに手を掛け、ふと、振り返って改めて見廻す。数時間前まで二十五人のアラクネの女性たちがキリキリと働いていた。休み無く、目を血走らせながら必死で。後数時間、日が昇れば又、今日と同じにキリキリと働き始めるだろう。目の下に隈を作りながら。
 それが後四日間続く。そのあと……全てが終わった朝、彼女達はやはりキリキリと働き始めているのだろうか。今はまだ、わからない。

 僕は見廻す。今はひっそりと薄暗いそこに、明るい陽だまりの中で和気あいあいと、キリキリと働く二十五人のアラクネの女性達と、ちょっと猫背で痩せ気味の前のギルド長の幻視を思い。

  ◇

 俺は、魔王じゃない。たとえそうでも、認めないし、ならない。
 赤鬼と模擬戦をした最後、“花魁蜘蛛クイーン”共に囲まれた時に語られた“言葉”。聞いていなかった訳じゃない。勝手に頭に響かせられ、勝手に頭を垂れてきたのを。無視しただけだ。
 もう一度謂う。俺は魔王じゃない。
 でも似非、お前は言った。“魔王が御所望なら”と、なら俺は蜘蛛も俺も今は騙そう。だから手伝え、魔王の賢者よ。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
 受け賜りました。
 と結論 ∮〉


 と言っても、どうしたらイイか分からないんだよなぁ、実は森で野生の花魁蜘蛛クイーンにコテンパにやられてからちょっと苦手。いや、すっごく怖い。赤鬼戦の最後に囲まれた時はめっちゃビビってテンパったもん。もうトラウマもの。どうすべ。

『ごちゅじんちゃま、ルルが怖いでちゅか?』
 “股間の小公女蜘蛛ルル”が頭の上から問いかけてくる。
 怖いだろうか? 怖いのだろうか? 怖いかもしれない。でもそれは謎の生物だからとか、魔物の蜘蛛が人語を話すからだとか。股間を狙ってるからだとか、身の危険を覚えるとかでは決して無く……。

 未知なる不思議なものに対する怖さとかでも、ない。何というか……よくわからないな。でも、そうだな、怖いかと聞かれれば怖いな。
『ひどいでちゅ、ごちゅじんちゃま。それともう『股間』を付けるのはやめてくだちゃい』
「だが断る」

 そんなよく分からないやり取りをしているうちに地上に出る。誰も居ない、空母の甲板のようなナニモナイ地。
 楕円形の、周りを囲まれた高い隔壁に切り取られた夜空が陳腐で使い回された表現だが、散りばめられた降るような星空がそこにあった。 “溜まりの深森”の中でも夜空は見上げていたはずだったけど、こんな夜空だっただろうか? 思い出せない。

 中天で星々に埋まる藍の入った銀色の満月。
 満月は嫌いだと言ったのは誰だっけな。だって『終わりの始まり』だから。あとは真っ黒になっていくだけ。まあ、そうなんだけどね。真っ暗は新月と呼ばれている。

『始まりの終わり』真っ黒だけど。
 消滅と復活、終わらなければ始まらない。……含蓄ありそうだけどクソだな。特に含蓄がありそうなところが。
 何時の間にか、藍の入った銀色の体毛を靡かせる、百に届くかと思われる数の“花魁蜘蛛クイーン共”が、彼の日の夕暮れ時の様に僕を幾重と囲み、頭を垂れていた。

『お呼びにより参上いたしました、魔王様』
 おっと、たじろぐ。

 一匹のひときわ大きな“花魁蜘蛛クイーン”が僕を囲む環から突出し面を上げると、頭に直接話しかけてきた。ルルが教えてくれた。『女王陛下お母様です』

 そうですか。迫力が、ッパないです。花魁蜘蛛クイーン中の女王陛下クィーンって訳ですね。でも此処ここは腹にグッと力を込めて。


―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...