半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

文字の大きさ
63 / 129
第六節 〜似非魔王と魔物、女王と兵隊〜

063 祈ったんだ、ただ

しおりを挟む
結局彼女たちは押しかけ女房なのでしょうか。そんな人と魔物のほのぼのなお話です。
しかしながらハムくんのおケツは小さいですね。
それが本編主人公のマインドクオリティー。でも、キライじゃありません。
弱い者の切羽詰まった時の強さが、本編の描きたいところです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 そうですか。迫力が、ッパないです。花魁蜘蛛クイーン中の女王陛下クィーンって訳ですね。でも此処ここは腹にグッと力を込めて。


『女王はお前ですよルル。既に譲位は済んでいますから』
『ですがお母様、わたくしは未だ』
『判っています。焦らないで、殿方は、ね。色々複雑なのですよ』

 何言ってるかわからん。こっちが交渉の最初の一言を発しようと身構えた処で母娘でワケワカラン話を始められて出鼻を砕かれた。ここは強引でも引き戻さねば。母娘の話の内容も妙に怖ぇーし。

「女王よ」と僕。
『ハイ』と目の前の旧? 女王と頭の上にいる新? 女王が同時に返事をする。なにげにめんどくせえ。でも今は気にしない。ビジネスでも外交でも喧嘩でも交渉事は先ずは主導権を握る。所謂マウント合戦だ。だよな? 合ってるよな? それに既にペースを握られている気も……ええい、ままよ!

「お前たちは僕を魔王と呼ぶが、だが僕は断じて魔王などではない。それを最初にはっきりさせておく」
 まず最初に其処そこをシッカリハッキリさせておく。後で言った言わないになったら嫌だし、これからの交渉内容がまあアレだし、こっちに責任取れって言われたら叶わない。流石に蜘蛛全部の相手はカンベンだし、無理。なんだよ、ビビってねーし。似非黙れ。そして鼻で笑うな。
『御随意のままに』と母娘。

 へ? いいの?まあいいや。言質は取った。
「それでも、今だけはお前らの願いを叶えてやらぬでもない。お前たちの魔王になってやる。その代わり、僕の願いを利け」
『御随意のままに』と母娘。

 へ? いいの? カモ? ネギを御背負の鴨様なのか? イイけど。ちょーらっきーなんですけどー。なにせ、似非の云う処では。
『真の魔王様でなければ“眷属私達”を本当の意味で使役することは出来ませんから』と花魁蜘蛛彼女達は言った。

 僕の額を一筋の汗が漫画チックに流れる。重いんですけど。“真”って。……俺、言ったじゃん“今だけ”って。
 前のギルド長の計画通りに進めても最後のひとつ『不滅の鎧』は手に入らない。何より、二年前より圧倒的に人が足りない。その為には『代わり』がいる。武器でも人員でも。俺には力がないから。

『申し訳ありません、魔王などの呼称は存外のものなのです。
 眷属全て私達は今も昔も、あなた様の物です。生涯の忠誠を誓い従うものです。そして同時に秩序と正統を重んじ、それを守り準じ殉ずるものです』

 百に届くかと思われる数の蜘蛛共の斉唱。
『『我が主よ、示せ。我らに『おほみたる誰か』を総べる『はふりたる従者』である証を』』

『我らは“はふりたる従者”が示す終末を招き示す鉾にて原初を守るべく示す盾なのです。示すのはただひとり、この世界をお終わりにするのか、もう一度始めるのか。顕せるのは“御身”唯一人のみ。遥か昔から、今この瞬間ときも』

 僕は、足腰に力を込めて、大地から転げ落ちないように務める。でなければ、今すぐ此処ここから逃げ出してしまうから。


『でも、このままじゃ不味いのよね』と目の前の元女王様は溜め息と共に『主様ったら、まだ娘に“お情け”を掛けていないでしょ?』

 へ? “お情け”って?

『もう、お母様ったら、止めてくださいまし。それは夫婦の問題ですから』
 と、ルルが頬を染め、顔を手で覆いフリフリ、肩を窄めて恥じ入るように。ちょっと待て、なんだそれ。

『母親が口を出すものじゃないって、判ってはいるのですけど……ほら、殿方のマリッジブルーはコジらすと大変って言うし。ほら、男性ってちょっとのツマズキで不能になっちゃうって。ねぇ。』
 ほらってなんだよ。マリッジブルーってなんだよ。ねぇって、なに? 不能になるの? 俺?

『主様、いい加減に娘と“契”ってやって下さいましな。今だけの魔王の臨時妻でも、二号さんでも、現地妻でも』とお母さんはオヨオヨと膝を流す横座りで袖で涙を隠し『親としては不憫でなりませんが、娘が、娘が望んでおりますので』
 ごめんなさい。本当にゴメンナサイお母さん。僕が、全て悪いんです。僕が不甲斐ないばかりに。

『そうですよほんとに。しっかりしてくださいよもう。ではコレで決まりと言うことで』

『お母さま、ありがとうございました』

『しっかり励みなさい。アッチの方もね』下品か。


 後で聞いた処、“お情け”とか、“契”とかは単に“パスを通す”ことらしい。単になんて簡単に言ってしまったが、“パス”自体がよく分から無いし、どうやったらいいのかなんてまるで謎。
 “パス”といえば、ハナとの間にある繋がり? 的な? 僕とハナの魔力素粒子アルカナが繋がってるゲな。
 でも、魔物である“花魁蜘蛛クィーン”との“パス”は少し違うらしい。受け取り側のほうが。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
 この世界とは別種である公彦の固有ピキュリア魔力素粒子アルカナを生み出す第ゼロピュア門同軸亜次元マニュファクチャ領域リング【恒真星型】核魔融合炉と魔女であるハナ様の【簡易】核魔融合炉が納められた基本亜次元領域とが高多次元作用線での螺旋干渉で繋がり【トルク】と【燃費】の向上に貢献するブースト機能の事です。
 と結論 ∮〉

 出た、似非のカッチョイイ漢字ただ並べてルビ付って悦に入る得意の『博学な私はアタシって頭脳明晰眉目秀麗チョーイケてる』解説。いいかよく聴け、お前の説明は何時も表面的で浅い、そして何処へも辿り着けない。

∮ 検索及び検証考察結果を報告
 ガァーン!
 でも最後まで聞いて下さい。魔女・魔人とのパスは唯のブーストですが、魔物とは直接的な公彦の魔力素粒子アルカナの受け渡しです。受託した魔物は以後、公彦の“眷属”となります。眷属とは“力”を与える代わりに、生殺与奪の権を得ることです。
 と結論 ∮〉

 オモ。重すぎる。そんなのいりません。

『まあ、大体あってますけど、難しく考えないで下さい。なにより、私達はそれを望んでいるのです。切望と言って良い程に』
 と蜘蛛のお母さん。だけどもさ……、パスの通し方なんて、知らないし……。

『誰でも自身の固有の魔力アルカヌムを持っています。主様ほど特異ではありませんが、難しく考えずにそれを伝え合うだけでいいんです。言葉による会話とか、何となくの気持ちでもいいんです。相手をちょっとだけ気遣ったり、思い合ったり。手をつなぎたいなって思ったり。それが最初の“始まり”となります』

 なんかそれ、現代社会では逆に非常に難しい事のように思えるけど。思いがあるだけに壁をつくるとか。
『ああ、それはもうひとりのサキュバスの娘さんですね。罪作りですね、主様は。特大岩石に当たって死ねばいいのに。ウチの娘泣かせたらタヒますよ」

 なにげに酷いこと言ってナイカイ。それとサキュバス娘って、サチの事だよな、あの人を上から蔑む、死んだ魚を見るような目で僕を見るサチだよね。僕は何もしてないよ、したか。納得、でも放置。

『ウチの娘に対しては……娘に、怖いと、仰っていましたね』
 確かにルルに『私は怖いか』と尋ねられ『怖いと』と返した。ただ何となく、なんとなくそう思ったから。

『それは、ご自分が抱えるある“思い”の反照はんしょうが主様をその様なお気持ちにさせていると思われます。主様はご自分でも気づいておいでです。ご自分が人外の“眷属”をお持ちになる意味を。
 我々眷属と一旦でも契れば、それは足を踏み出す事と同義なのです。足を踏み出せば、歩み始めなければなりません。何処かに向かって。
 でも、主様は未だに迷っていらっしゃる、何方どちらに決めるのが、怖いのです』

 俺は、永遠の80年代モラトリアムかいってな。手の震えが止まらねえぜ。チキンで悪かったな。だって決められるか。世界を終わらせるか、もう一度始めるかなんて。

『申し訳ありません、出過ぎた真似を。
 私達“眷属”はあなた様の永遠の下僕です。ですが、今世の主様とは“契”を結んでいない現況では真に私達を使役する事は難しいかと。主様がお望みの“力”を示すことは、叶いません』


 なんか、イイように引きずり回されイイように絞められたのは僕の方だったぽい。ずっと主導権を握られてて。さすが何百年も生きているだけ在る。

∮ 検索及び検証考察結果を報告
 主様、女性に年齢のことは。
 と結論 ∮〉

 それにルルだよ、股間の小公女蜘蛛って、ロ○路線で『ちゃま・でちゅ』語はどうした。マトモに喋ってたよね。

∮ 検索及び検証考察結果を報告
 主様、女性は魔性。
 考えたら負けです。
 と結論 ∮〉

 似非よ、お前だけでも、オレのことを“主”って呼んでくれるなよ。

∮ 検索及び検証考察結果を報告
 公彦、肩の力を抜いて下さい。
 と結論 ∮〉


 結局、“パス”は通った。“お情け”とか“契”とか、特別なことは無かった。よく分かんなかったし。
 だだ、ああ、今パスが通ったんだなあ。と思っただけだ。

 パスがっ通って、僕は“花魁蜘蛛クイーンスパイダー”を理解した。そして前ギルド長が残した“糸”への魔法陣章の定着方法も。
 れだけではなく、全てを。その先をも。


 誤算っていうかなんて言うか、パスが通ったと思ったら途端にルルは母になった。卵を沢山生んだ。もうゴッチャリと。

『ごしゅじんちゃま、わたしたちの赤ちゃん、かわいいでちゅね」
母親になってまでもまだ「でちゅね」キャラ強行するのかよ。業突くだなオイ。
 そして当然のことながらハナの詰問を受けた。

「オイよお、テメーよー。シャレんなんねーよなぁ。どうすんだこれ」
 
 結局、僕は選んでいない。選べるかそんなもん。僕はこの世界から見たら異世界人で、色々特殊っぽいけど。それがどうした。
 僕は僕だし、魔王なんかでは絶対ない。関係ない。何処かにそう明記されている訳でもなく、誰かに強要される言われもない。“はふりたる従者”なんてクソッタレだ。

 ただ、思ったんだ。この世界に来て、数も時間も少ないくせに、はからずもしまった僕の周りの人達との何かを、願ったんだ。
 そしたら、あっさりと“パス“が通っていた。
 サチとは未だ通っていないけど。


 祈ったんだ。ただ。


―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...