半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第十節 〜十字路(クロスロード)〜

119 なるほど、それが貴方達のやり方なんですね 2

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118 119 120 は“ひと綴りの物語”です。
《 その2 》
戦後処理? 的な?。
愚者エルフ見参!
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
「……話しを戻しても、よろしいでしょうか」
 と、タイミング的にナイスなエルフ。許す。


「オルツィもさしあたって命を落とす事はなさそうです。ありがとうございます。
 それでも、これで万事に彼女が救われた訳では有りません。哀れなことに。

 治癒を終えた彼女は意識を取り戻し次第、間違いなく貴女達に襲い掛かるでしょう。自らでは止めることが出来ない、尽きること無く湧き上がる激しい衝動に駆られて。
 たとえこの場から逃れられたとしても、何度避けられてとしても、執拗に何処までも貴方達を付け狙う。彼女が死ぬか、貴方がたが殺されるまで。

 今はまだ、コウイチはオルツィの最後の捨て身の大技で陣営の勝利を確信しているでしょう。だが直に露見する。自分の手駒に勝利し、この街を手に入れた貴女たちはコウ・シリーズの覇権を競う充分な資格を持つ敵対者と認定された事でしょう。もう逃げられない。

 コウ・シリーズの勇者候補達は自分のハーレムの女達に、貴女の“はふりたる従者”が行ったのと同じようにパス回路を結び、豊富な魔力を供給しますが、同時に『耽溺たんでき』と呼ばれる依存性の高い呪縛系の魔素も、本人には気づかれぬよう密かに混入しています。

 それでも通常・・に混入されている量で、直ぐにどうこうなる訳では有りません。コウ・シリーズが自らのハーレムを管理運営する為の補助バフ系魔法のようですから。その効能も大したことはなく、魔法の名前の通り依存度が増大し、命令に対する拒否感や判断力が極端に薄まる程度です。

 長年に渡り与え続けられればその傾向は増すようですが、そこまで行っても自らの意志・・で何時でも離脱は可能です。もちろんの事、依存が進めば中毒性は増していますから禁断症状を抑える相当の覚悟と、強固な意志・・が必要ですが。
 ただ、通常は離脱を望む者はおりません。離脱を行えば必然にパスを通しての魔力の供給も止まりますから。『耽溺たんでき』の存在自体も知られておりませんし。

 しかしながら稀にですが、その中毒性と本来の呪縛効果の危険性に気づき離脱を試みる者も現れます。たとえ魔力の供給を止められたとしても。彼女、オルツィもその一人です。

 私と最後に会った時は貴女たちに関わらず混乱に乗じて逃げると言っていましたが、あれから何があったのか? あるいはコウイチに露見し、もう逃げられないと諦めたのか? 分かっていたことはオルツィも『耽溺たんでき』に深い部分まで侵食されていた、と言うことでしょうか。

 それでも、貴女達の迎撃を決めたのも、実際に戦った戦術も技の数々も、全て彼女の意思であり決定でした。そこにコウイチの意思が大きく関わっていたとしてもです。
 最後の最大級広域壊滅魔法“紅い稲妻レッドスプライト”を撃つ前迄の話しですが。

 あの時、意識の無かったはずのオルツィから膨大な量の凄まじい“殺気”を感知したと思います。あれは『耽溺たんでき』の最大注入時の特徴です。
 『耽溺たんでき』に長年晒され、心身ともに深く侵されている者は、一度でもミッターを超える量を受領すると、一段上の領域の中毒症状に一気に晒されます。

 常時にわたる激しい禁断症状から『耽溺たんでき』を激しく求めずにはいられなくなる。求めるあまりに思考する意思が死に、全ての命令に拒否が出来なくなります。
 ただ相手は壊れたジャンキーですから単純な命令しか実行できないようですが。

 大概のコウ・シリーズの勇者候補達は彼女たちが敵対者に対して大敗を喫し、ギリギリ命永られている状態で命令を下すようです。単純に『殲滅せよ』と。 
 ですがやれることは少ない。ですので大体の場合は残された命をすべて使い切り、敵対者を巻き込んで自爆するようです。そうするよう日頃から“調教”しているようです。

 そちらの“黒の副官”殿なら御存知でしょうが、“紅い稲妻レッドスプライト”は最大質量で撃った場合、自滅技となります。

 本来なら、オルツィも死んでいて可笑しくなかった。だが実際には生き残っている。全ては“紅い稲妻レッドスプライト”専用の制御機能を搭載した、この魔導服のお陰です。

 魔力の供給が止まり、上乗せされた魔術が使えなくなっても、此処ここから逃げだす為に三年前から研鑽し創り上げた、自らの自個保有魔系特異技能ユニークスキルを最大限に、安全に使いこなす為のオルツィ謹製の魔導具です。今ではコウイチの魔法陣も組み込み、その機能は正に尊遺物レリクト級です。

 皮肉ですね、逃げる為の魔導具で貴女達を追い込み、貴女の“はふりたる従者”に『耽溺たんでき』を最大注入されるまで追い込まれ、逃げるどころか殺され掛けた。

 死ななかった。死ねなかった? 本人にしてみれば意識していない処での偶然の賜物であり、死に至らなかった事は奇跡ではありますが、逆に彼女にとっては悲劇でしかない。

 『耽溺たんでき』の呪縛も一緒に生き残ってしまっているから。

 一度で楽に死ねたはずが、貴女たちを殺すまで何度でも繰り返さなければならない無限地獄となったのです。彼女はもう、貴女たちを殺すことしか考えられない。
 
 それを止めることが出来るのは、貴女の“はふりたる従者”だけなのです。“コウイチ”はオルツィが死んでいると思って今は魔力も『耽溺たんでき』も供給を止めています。今なら新たなパスを通すことにより経路の上書きが可能です。『耽溺たんでき』も一緒に流せばそれも上書きされます。“コウイチ”の呪縛から解き放つにはそれしか有りません。
 新たなハーレムの一員として、加えてやって下さい。そして彼女を、オルツィを地獄から救って下さい」

 次の瞬間、ハナの姿が消えた。瞬間移動? 気がつけば僕の胸ぐらを掴み締め上げていた。足がブランブラン浮いて揺れていた。へ?

「オイよーテメーよー、『耽溺たんでき』なんてゲスなモン、持ってねーだろなー。おー!」
 子供が怯えてサチに縋り付く。サチ、何でオマエまで後退あとずさる。

「やだなー、そんなモノ持ってるわけないっしょ。勘弁して下さいよー」

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 持っておりますよ。
 先程パスを通される時に一緒に“複写取得コピー盗取”しておきましたけど、使いますか?
 と結論 ∮〉

 二つの不可思議な言葉が。
 だがまず一つ一つ。
……持ってるのかー。ヤバイ! やばすぎる‼ 今直ぐ消去。細切れにして証拠隠滅だ。

 ……って思ったけど似非よ、封印して奥底に隠せ、厳重に細心の注意を払いロックをゴリゴリに掛けて誰にも見つからない奥のそのまた奥の最深に隠せ。最低だ。わかっている。それでも、それでもよぉ。……男子おのこの夢、『お薬は用法・容量を守って正しくお使い下さい』女の子にアンナコトヤコンナコトを……。

「わかってんのか? おー! もし持ってるのがバレたら。
……モギ取るぞ、いいんだな」
 似非! 今直ぐ廃棄。持っていた形跡も含めて完全消去。急げ!……さようなら、男子オレの最低の夢よ。

 そんなアタフタな僕を振り廻し、エルフ爺ぃサトリに向き直ると腕を伸ばし、真っ直ぐに指差し。
「ふざけるなよジジイ。うちはハーレム禁止だ。これは絶対だ」

 そんな怒涛のハナを無視し、顎をパカーンと落とし、目玉をドピューンと突き出し呟く。
「……な、何をした小僧。もうパスは通っているし、『耽溺たんでき』も、消えている?……名前も変わっている? ツル? なんだそれ」
 と、普段の生意気エルフの口調に戻って。

 てへぺろ☆ そうです、パス通しちゃってました。メンゴ。
(懐かしの死語で誤魔化してみた。……和むかと思って)

 似非によると一時的な空白時間に、最大級の治癒を施しつつ、不用意にあだ名なんぞ付けちゃったから、らしい。だってすごく疲れてたし、頭廻ってなかったし。
 『耽溺たんでき』は身体の治癒時に一緒にドーンて消しちゃったらしい。酷い中毒症状だったから状態異常認識で無意識にバーンって。いつの間にか状態異常もオーケーに成ってたのね。
 ……大したことねーなーコウ・シリーズもよ。って言ってみる。

 再び胸ぐらを掴まれ締め上げを喰っう。足がブランブラン浮いて揺れていた。
「どういうことだ、これは? おー!」

「……どーなんですかねー」


 まあ、なし崩し的ではあるがエルフ老人の『望み』は叶えられたようでメデタシめでたし、っとは行かないようで、頭抱えてフリーズしていたエルフ爺ぃは『ダンドリガ……』とか『コレダカラ……』とか呟いてた後にイイ笑顔で復活した。ちょっと気持ち悪い。リアル『揉み手』って初めて見た。

「ありがとうございます。これでオルツィ改め……ツルも“コウイチ”からの呪縛から開放されました。ここまでして頂き、重ねがさねのお願いを申し上げるのは心苦しいのですが、どうでしょうか、オル……ツルにこのままこの街サガの領主を続けさせてもらえませんか。
 もちろんのこと、貴女がたにもメリットがあります。
 云々カンヌンーーーーーー」
 無理にツルって呼ばなくてもいいと思うよ。


 そこからが長かった。
 ゴチャゴチャとくどい言い回しと綿に包んで真をボカす語句や比喩のオンパレード。本当に何を言っているのか良くわからなかった。
 要約すると、ツルさんにこのままサガの街の領主を続けさせる。傀儡でも捨て駒でもない真の男爵領主として。そこまではわかった。解らないのはその際に『耽溺たんでき』を使用し、新たに俺のハーレムの一員とする事を強く要望した。

 ああ、『俺のハーレム』、なんて響きのイイ言葉だろう。ただ残念、凄く残念なことにこの世に『俺のハーレム』など存在しない。ハナが決めた。絶対って言ってた。『耽溺たんでき』も持ってない。証拠がないから持ってない。持ったこともない。だからハナが。

「却下だ。以上」にべもなく断っていた。


 僕はサガの街の領主継続に対しては了解してもいいと思っている。本意では無かったが、既にパスは通ってしまっている。ならどうしてもやってほしいことが出来たのだ。その事を二人に話すとエルフ爺ぃサトリは凄く喜び、ハナも渋々だが納得してくれた。

 ただ『耽溺たんでき』はやっぱり無理だ。だから今更敵対していたコチラのお願いを彼女が叶えてくれるかわからない。僕のパスは魔力を与えるだけで、操ることも侍從じじゅうを強要する力もないのだから。逆にサチのように反発されることさえある。考えてみると凄く嫌われている。アラクネとかギルド兵の皆とか委員長系ギル長とか……。
 ……泣かないと決め、その事を話す。

『ならやっぱり『耽溺たんでき』をてっとり早く習得して……』
 言葉が終わらないうちにハナの本気のレバーブローを喰らって悶絶してた。

 
「なるほど、それが貴方達のやり方なんですね。『与える』ですか……やはり異質だ。この二千年で一人もいない。だからこそなのかもしれない。なるほど」
 なんだか最後は一人で納得してた。

 今更だが領主継続も委員長系ギル長やその他関係各所には不認証で話しを進めているのだが、“お願い”も本人が寝ている(気絶しているとも言う)間に決めて大丈夫なのなのだろうか。

 「大丈夫ですよ」とエルフ老人「彼女は認めないでしょうが、名ばかりでも男爵授爵と領主の地位を酷く喜んでいました。彼女はその生い立ちからか、上昇志向が異常に高いのです。そこをコウイチに突かれ、結果ギルドを裏切る真似を行ってしまったとも言えますし、この街にも然程さほどの抵抗もせずに赴任してきてしまったと言えます。真の領主になれると分かれば、大抵のことはやってくれるでしょう」

 なら何でそこまで『耽溺たんでき』に拘るのかがわからない。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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