王子、私を好きになってはいけません

たおたお

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29.盗賊たち

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 そろそろ陽が西の山の向こうに沈もうかという時間、薄暗くなり始めた街道を一台の荷馬車がレッドモンド領の方角から走ってくるのが見えた。それを街道脇の森の中から窺う人影と、少し離れた位置にもう一人。彼は盗賊たちにもしものことがあった場合の連絡役だ。

 かれこれ一ヶ月間、ここでレッドモンドの馬車を襲っている盗賊たち。リーダーのガラルに誘われて参加している者が大半だが、とにかく『襲うこと』が目的らしい。荷物の中身はろくに確認もせずに捨てたり、食料品だったら持ち帰ってみたり。馬車に乗っている御者や商人を殺すことはしないが、毎回ご丁寧に金品だけは奪っている。それでも疑問を呈する者はいない。全員がいわゆる悪党で、むしろ楽しんで襲撃を繰り返していた。

 ただ、連絡役の男だけは違っていた。本当はこんなことやりたくはなかったが、どうしても金が必要で参加してしまった。いつも離れた木の陰から様子を窺うだけの簡単な仕事で、襲撃が終わればそれなりの報酬をもらえる。襲われる商人たちは気の毒だが、なんとか彼らが殺されないように願いながら今日も様子を窺うのだった。

 馬車が盗賊たちの近くまで来た時、ガラルの指示でいつものように一斉に飛び出して馬車を取り囲む。馬が驚いていななき、御者が必死で馬を落ち着かせて馬車が急停止。その後はいつもの光景で、御者は馬車から引きずり降ろされて金品を奪われていた。叫びながら逃げる御者。この後は後ろの荷台に商人が乗っていれば同じ様に引きずり降ろされ、乗っていなければ荷物を物色だ。

 しかし今日は様子が違っていて、荷台の幌を開けた盗賊が後ろに大きく吹き飛びゴロゴロと地面を転がる。同時に兵士たちが出てきたかと思うと、あっという間に三人が倒されてしまう。最後に出てきたのは赤い鎧の騎士で、監視役の男の目にはその姿が強烈に焼き付いた。騎士の指示で兵士たちはガラルを含め残っていた四人の盗賊を取り囲み、三人が兵士に斬りかかるもののあっけなく制圧。

 残ったガラルの前には若い兵士が一人立ちはだかって対峙している。ガラルは傭兵上がりで体も大きく、力も強い。あんな若い兵士では到底敵わないだろうし、ここは赤い鎧の騎士が相手をすべきなのでは? と、敵ながら不安になるが、結果は違っていた。ガラルの剣は全く若い兵士に届かず、キンッ! キンッ! と剣を打ち合う金属音はするものの、全て防がれたり流されたりしている。しかもその兵士は大きな剣を片手で器用に扱い、やがてガラルの脇腹に兵士の拳がめり込む。うずくまったガラルの首筋に剣を打ち付け、あっけなくガラルも捕らえられてしまった。

 まさかこんなことになるとは思っていなかった連絡役の男。自分が見つかっては元も子もないので、手で口を押さえて息を殺し、木の陰でじっと兵士たちがいなくなるのを待つ。どうやら逃げていった御者も兵士だったようでしばらくすると戻ってきて、捕縛した盗賊たちを荷馬車に押し込みレッドモンド領の方へと戻っていったのだった。

 連絡役の男は慌ててディクス領に戻る。ガラルから言われていた通りディクス侯爵邸に行き、ガラルの名前を出すとすんなり中に通された。

「こ、侯爵様! ガラルたちが兵士に捕縛されました!」
「なんだと!? 私の領地で勝手なことをしたのはどこの兵だ!」
「どこの兵かは分かりませんが、レッドモンドの方から来た馬車に兵士が乗っていまして……あ! 指揮官らしき騎士は赤い鎧を着けておりました」
「赤い鎧だと!」

 侯爵と一緒にいたもう一人の男が、連絡役の男の言葉を聞いて勢い良く立ち上がる。

「それは全身真っ赤な鎧だったか!?」
「は、はい。兜の下は誰だか分かりませんでしたが、その騎士の指示で皆が捕まっていましたので」
「クソッ、イヴリンめ……侯爵様、それはレッドモンド伯爵に違いありません。先日城で、その鎧を着けて現れたのがイヴリンなのです」
「おのれ、小娘め。邪魔ばかりしおって。いや、しかしこれは好機。我が領地に無断で兵を侵入させたのだからな」

 侯爵はいかにも悪そうな笑みで口元を歪めながら、なにやら企んでいる様子。ひょっとして自分も消されるのではないか……と心配になってきたところへ、侯爵はポケットをまさぐってジャラジャラと音を立て、数枚の金貨を取り出すと無造作にテーブルに置いた。

「お前はもう帰れ。今日のことは他言するんじゃないぞ、いいな」
「は、はい。有り難うございます!」

 急いで金貨を回収すると、いそいそと部屋を出る男。誰かに付けられていないかとキョロキョロしながら侯爵邸を後にしたが、尾行されている様子もない。予定よりも多くの金をもらうことはできたが、もうこれっきり侯爵や盗賊には関わらないでおこうと心に決めたのだった。
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