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Chap.8 All in the golden night
Chap.8 Sec.10
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ささやかな宴が終わりに向かっていたころ、同じ階層にある別の部屋では未だ騒がしい気配があった。
「あ~っ! なんでやって! 何してるんやってロキ!」
ハオロンの痛烈な批判が、ぼんやりとしていたロキの脳を突き刺した。
機関銃——高速で大量の弾丸を連射することのできる銃器——を構えた大柄な人間が、ハオロンとロキの目の前に立ちふさがり、ふたりを撃ち抜いて蜂の巣にしていく。視界はあっという間に真っ赤に染まって、死亡の文字が宙をかざった。
「うそやろっ? あとちょっとやったのに……何ぼーっとしてるんやってぇぇぇ……」
いわゆるVR——人口現実感——と呼ばれる架空の世界で、彼らはゲームをしていた。人間の形をした大量の化け物を、銃器やナイフを活用して倒していく——そんな、激しい遊びに興じていた。いや、興じていたのはひとりだけで、もうひとりは、
「……だから、オレ眠いんだって……言ったじゃん……」
文句を言いつつログアウトし、ヘッドセットを外した。この機器はグローブとセットで、VRの深度レベルが弱く、視覚と部分的な聴覚・触覚のみが影響を受ける。よって隣の人間と現実空間で会話しながら遊ぶこともできる。
手に着けていた薄いグローブを剝ぎ取って、ロキは座っていたベッドに転がった。
近くのイスに座っていたハオロンはヘッドセットを外し、かたわらに置いていたジュースのボトルを手に取る。口をうるおす程度に飲んでから、ロキの方を不満げに見る。
「あと少しやったのに……また最初からやり直しやわ……」
「だ~か~らァ~……オレは眠いんだってェ……ずっと言ってンじゃん?」
「ロキが夜に眠いなんておかしい……まさか、うちに意地悪してる……?」
「勝手な被害妄想、やめてくんねェ~? ……オレだって眠い日もあるし……」
「うち、この歳まで生きてきて初めて見たんやけど……ほんとに? 眠いフリしてないかぁ?」
「……オレなんでそんな信用ないワケ?」
「信用は——」
「日々の積み重ねって? もォそれい~よ…………寝ていい?」
「あかんって! クリアするまで付き合って!」
「エ~……」
うめき声をもらしながら、ロキはベッドへと突っ伏した。にぎやかな色の髪が白いシーツに映えている。「オレ、昨日から寝てねェんだって……ガチ眠いの……寝かせてよ……」くぐもった訴えを聞いたハオロンは、ヘッドセットを装着しようとしていた手を止めた。
「そぉなんか? なんで?」
「……ン~……?」
「ロキ、昨日のディナーいなかったが。私室で休んでるってサクラさん言ってたけどぉ? ……眠ってたんやろ?」
「……いや、起きてた。……昨日は、カードのあと……すこし寝て……起きて。ウサギちゃんのことがあって……ゲームしてみたけど……集中できなくて。……ひさしぶりに、大量のインプットした……のに、子供みたい、とかさァ……発音の修正が要るじゃん……データが悪ィのかね……」
「なんのこと言ってるか、よぉ分からんのやけどぉ……そんなに眠いんか? 疑ってごめんの?」
「……ン? オレ、寝てい~の?」
のそりとロキが顔を上げた先で、ハオロンの悲しげな目が……じいいっと。
「えェ~? ……そんな顔してもさァ……オレがこの状態じゃ一生倒せねェよ……?」
「うち、ロキのフォローもするわ! ほやで、頑張ろ!」
「……あのさ……ハオロンの献身っていつも方向性おかしいと思うンだけど……なんで誰も突っこまねェの……?」
「ほら! ロキ、もっかいやろさ!」
「あァ~言っても聞かねェからかァ……」
ぐだぐだと文句を吐きながら、ロキは上体を起こした。ハオロンの入室をうっかり許可した自分の愚かさを省みつつ、手にグローブを装着する。
「そォいやさ……ハオロン、明日ってウサギちゃんの順番じゃん?」
なんとなしにロキが話題を出すと、鮮やかなグリーンのジュースを飲んでいたハオロンは、こっくりと頷いた。
「ん、ほやの。…………あかんよ?」
「まだ何も言ってねェじゃん」
「一緒にしよって言おうとしてるやろ?」
「してねェし。……してもい~ケド。……そォじゃなくてさ、ウサギちゃん、あんまイジメないでやってよ、って……お願いしよォかと思って」
「えっ! 急にどうしたんやって……あっ、もしかして! あんたロキやないんか! だれっ?」
「……めんど……なんでそんなテンションたけェの? まさかオレも普段そんな感じ……?」
ロキは盛大に息を吐き出してから、ジュースが入ったボトルを手にした。炭酸がよくきいた飲料の刺激で脳の覚醒を試みる。はじける泡の鼓舞など、それほど意味を成さなかった。
「……とにかくさ、ウサギちゃん乱暴すンの、ナシね?」
「ん~……?」
「……聞こえねェフリしてねェ?」
「それってぇ……ロキのお願いってだけで、サクラさんの命令じゃないんやがの?」
「……まァね」
「ほやったら、理由訊いてもいい?」
「……サクラに言わねェ?」
「言わんよ、たぶん」
「そこは、はっきりイエスって言ってくんねェかなァ~?」
「いえす」
「……まァいいけどね。……オレ、昨日ウサギちゃん怪我させちゃってさ……」
「そぉなんか? あんたでも殴ったりするんか」
「殴るって……そんなことしねェけど。まァ……そォね、緊急アラート鳴るほどの負荷だったわけだから……ほんと冗談じゃ済まねェな……」
「うち、別に責めてないよ? そんな落ちこまんでも……ありす、元気そうやったけどぉ」
「……脳に異常は無かったみてェだから。頭のとこ、腫れてたらしいけど……」
「ふぅん? ……あぁ、それで明日は無茶せんといてってことか」
「そ」
「ん~……ロキがそこまで言うならぁ……ひかえめに……しよかぁ……」
「返答が頼りねェんだけど」
「……倒すまで付き合ってくれる?」
「……オレに、死ねって言ってる?」
「大丈夫やって! 人間そぉ簡単に死なんわ!」
「……ゲームによる死亡案件ってさ、結構あるくね?」
「クリアめざして頑張ろかぁ!」
「オレ、ダイイングメッセージでハオロンって書くから。死んでも書くから」
「証拠の隠滅なら任して!」
ロキは諦念の表情を浮かべてヘッドセットを着けた。その姿を確認したハオロンは、ニコニコと頬をほころばせる。——本当は、ロキが眠ってしまってもいいと、彼は思っている。それについてロキが気づくことはないかも知れない。ロキにいわせると、彼の献身は見当違いらしいので。
わずかに欠けた月に代わり、明けの明星が空を低く飾るまで。
彼らの部屋は、深い闇夜に負けないほど、こうこうとした明かりを宿していた。
「あ~っ! なんでやって! 何してるんやってロキ!」
ハオロンの痛烈な批判が、ぼんやりとしていたロキの脳を突き刺した。
機関銃——高速で大量の弾丸を連射することのできる銃器——を構えた大柄な人間が、ハオロンとロキの目の前に立ちふさがり、ふたりを撃ち抜いて蜂の巣にしていく。視界はあっという間に真っ赤に染まって、死亡の文字が宙をかざった。
「うそやろっ? あとちょっとやったのに……何ぼーっとしてるんやってぇぇぇ……」
いわゆるVR——人口現実感——と呼ばれる架空の世界で、彼らはゲームをしていた。人間の形をした大量の化け物を、銃器やナイフを活用して倒していく——そんな、激しい遊びに興じていた。いや、興じていたのはひとりだけで、もうひとりは、
「……だから、オレ眠いんだって……言ったじゃん……」
文句を言いつつログアウトし、ヘッドセットを外した。この機器はグローブとセットで、VRの深度レベルが弱く、視覚と部分的な聴覚・触覚のみが影響を受ける。よって隣の人間と現実空間で会話しながら遊ぶこともできる。
手に着けていた薄いグローブを剝ぎ取って、ロキは座っていたベッドに転がった。
近くのイスに座っていたハオロンはヘッドセットを外し、かたわらに置いていたジュースのボトルを手に取る。口をうるおす程度に飲んでから、ロキの方を不満げに見る。
「あと少しやったのに……また最初からやり直しやわ……」
「だ~か~らァ~……オレは眠いんだってェ……ずっと言ってンじゃん?」
「ロキが夜に眠いなんておかしい……まさか、うちに意地悪してる……?」
「勝手な被害妄想、やめてくんねェ~? ……オレだって眠い日もあるし……」
「うち、この歳まで生きてきて初めて見たんやけど……ほんとに? 眠いフリしてないかぁ?」
「……オレなんでそんな信用ないワケ?」
「信用は——」
「日々の積み重ねって? もォそれい~よ…………寝ていい?」
「あかんって! クリアするまで付き合って!」
「エ~……」
うめき声をもらしながら、ロキはベッドへと突っ伏した。にぎやかな色の髪が白いシーツに映えている。「オレ、昨日から寝てねェんだって……ガチ眠いの……寝かせてよ……」くぐもった訴えを聞いたハオロンは、ヘッドセットを装着しようとしていた手を止めた。
「そぉなんか? なんで?」
「……ン~……?」
「ロキ、昨日のディナーいなかったが。私室で休んでるってサクラさん言ってたけどぉ? ……眠ってたんやろ?」
「……いや、起きてた。……昨日は、カードのあと……すこし寝て……起きて。ウサギちゃんのことがあって……ゲームしてみたけど……集中できなくて。……ひさしぶりに、大量のインプットした……のに、子供みたい、とかさァ……発音の修正が要るじゃん……データが悪ィのかね……」
「なんのこと言ってるか、よぉ分からんのやけどぉ……そんなに眠いんか? 疑ってごめんの?」
「……ン? オレ、寝てい~の?」
のそりとロキが顔を上げた先で、ハオロンの悲しげな目が……じいいっと。
「えェ~? ……そんな顔してもさァ……オレがこの状態じゃ一生倒せねェよ……?」
「うち、ロキのフォローもするわ! ほやで、頑張ろ!」
「……あのさ……ハオロンの献身っていつも方向性おかしいと思うンだけど……なんで誰も突っこまねェの……?」
「ほら! ロキ、もっかいやろさ!」
「あァ~言っても聞かねェからかァ……」
ぐだぐだと文句を吐きながら、ロキは上体を起こした。ハオロンの入室をうっかり許可した自分の愚かさを省みつつ、手にグローブを装着する。
「そォいやさ……ハオロン、明日ってウサギちゃんの順番じゃん?」
なんとなしにロキが話題を出すと、鮮やかなグリーンのジュースを飲んでいたハオロンは、こっくりと頷いた。
「ん、ほやの。…………あかんよ?」
「まだ何も言ってねェじゃん」
「一緒にしよって言おうとしてるやろ?」
「してねェし。……してもい~ケド。……そォじゃなくてさ、ウサギちゃん、あんまイジメないでやってよ、って……お願いしよォかと思って」
「えっ! 急にどうしたんやって……あっ、もしかして! あんたロキやないんか! だれっ?」
「……めんど……なんでそんなテンションたけェの? まさかオレも普段そんな感じ……?」
ロキは盛大に息を吐き出してから、ジュースが入ったボトルを手にした。炭酸がよくきいた飲料の刺激で脳の覚醒を試みる。はじける泡の鼓舞など、それほど意味を成さなかった。
「……とにかくさ、ウサギちゃん乱暴すンの、ナシね?」
「ん~……?」
「……聞こえねェフリしてねェ?」
「それってぇ……ロキのお願いってだけで、サクラさんの命令じゃないんやがの?」
「……まァね」
「ほやったら、理由訊いてもいい?」
「……サクラに言わねェ?」
「言わんよ、たぶん」
「そこは、はっきりイエスって言ってくんねェかなァ~?」
「いえす」
「……まァいいけどね。……オレ、昨日ウサギちゃん怪我させちゃってさ……」
「そぉなんか? あんたでも殴ったりするんか」
「殴るって……そんなことしねェけど。まァ……そォね、緊急アラート鳴るほどの負荷だったわけだから……ほんと冗談じゃ済まねェな……」
「うち、別に責めてないよ? そんな落ちこまんでも……ありす、元気そうやったけどぉ」
「……脳に異常は無かったみてェだから。頭のとこ、腫れてたらしいけど……」
「ふぅん? ……あぁ、それで明日は無茶せんといてってことか」
「そ」
「ん~……ロキがそこまで言うならぁ……ひかえめに……しよかぁ……」
「返答が頼りねェんだけど」
「……倒すまで付き合ってくれる?」
「……オレに、死ねって言ってる?」
「大丈夫やって! 人間そぉ簡単に死なんわ!」
「……ゲームによる死亡案件ってさ、結構あるくね?」
「クリアめざして頑張ろかぁ!」
「オレ、ダイイングメッセージでハオロンって書くから。死んでも書くから」
「証拠の隠滅なら任して!」
ロキは諦念の表情を浮かべてヘッドセットを着けた。その姿を確認したハオロンは、ニコニコと頬をほころばせる。——本当は、ロキが眠ってしまってもいいと、彼は思っている。それについてロキが気づくことはないかも知れない。ロキにいわせると、彼の献身は見当違いらしいので。
わずかに欠けた月に代わり、明けの明星が空を低く飾るまで。
彼らの部屋は、深い闇夜に負けないほど、こうこうとした明かりを宿していた。
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