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Chap.10 DRINK ME, EAT ME
Chap.10 Sec.12
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たゆたう意識は波間に似ている。眠りに誘われる思考はゆらゆら揺れて、心の底に押し込めた恐怖を連想してしまう。
——どうした? 飲めないか?
光沢のある、優しさを演じた声が問う。青い闇色の視界には、ひとつのワイングラスが浮かんでいる。何色にも染まらない無色透明の水面は静止している。
それをじっと見つめていると、背後に衣ずれを感じた。ふっと、耳許に吐息が掛かる。
——解毒剤は用意してある。死にはしない。後遺症が残ったとしても、手足が痺れる程度だ。
……死にはしない? ほんとうに?
夢のなか、背後の人影に尋ねてみたいが、口が動かない。手足の先まで、石になったかのように、感覚がない。グラスから視線を外すこともできない。
後ろの影は重く、のし掛かるような存在感を示している。冷ややかに微笑む青い影。彼が私を見捨てないなんて、保証がない。
目の前で苦しみながら死んでいくのを見たいだけだったら?
最期まで、あの青い眼でこちらを眺め、微笑んでいる姿が浮かぶ。
——死神。初めて会ったときのイメージが、頭にこびりついて離れない。
死んでしまえば……そう夢想していたけれど、苦しみを望んではいない。
死に近い苦しみが、どれほどのものかも想像つかない。
朝を待つ、長く暗い夜と同じくらいの、息苦しい静寂だった。グラスを見つめる時が、永遠に続くのではないかと思えた。
……青い影が、私の肩にそっと手を乗せる。力はない。ぞくりとする寒気が走っていく。
——セトに感謝しているのだろう? それなら、一口くらい飲んでみせたらどうだ?
——それすらも、できないか。
——あの子の代わりに罰を受ける覚悟はどうした?
——うわべだけの台詞か?
冷たい声音で発せられた言葉が、暗い世界で反響していく。眩暈のようなそれに、何も、言い返せない。身体の感覚は完全に消えて、闇のなか、おぼろげな思考だけが残されていた。
——期待外れだな。
その言葉を最後に、ふっ、と。
影は消えた。闇に溶けかけた思考が、いまだ頭に強く残るグラスの映像から逃れようと、もがいている。
視覚以外の何かにすがろうとして、温かさを覚える匂いを感じた。ひとの香り。せっけんと、森と、ほのかな汗。どこか遠くで甘い香りも混じっている。
——あのとき、お前を引き止めちまって……今さら謝っても仕方ねぇけど、ほんとに悪かった。
記憶の声が、謝罪を唱える。
——違う。謝らないといけないのは、私のほうだ。助けてもらったのに、迷惑をかけているのに、まだ何も——返せていない。なんのために残ったのか分からない。罰を代わりに受けることもできず、身体も——自分から申し出たのに、必要としてもらえなかった。
落ちていく思考に、本人には言えない謝罪があふれていく。不甲斐なさと罪悪感で、自分という存在が、どんどん小さくなって消えていこうとしている。
——ボクが、助けてあげようか?
思考が途絶えてしまう前に、脳裏で響いたその声は。
都合の良い幻聴か、それとも——。
——どうした? 飲めないか?
光沢のある、優しさを演じた声が問う。青い闇色の視界には、ひとつのワイングラスが浮かんでいる。何色にも染まらない無色透明の水面は静止している。
それをじっと見つめていると、背後に衣ずれを感じた。ふっと、耳許に吐息が掛かる。
——解毒剤は用意してある。死にはしない。後遺症が残ったとしても、手足が痺れる程度だ。
……死にはしない? ほんとうに?
夢のなか、背後の人影に尋ねてみたいが、口が動かない。手足の先まで、石になったかのように、感覚がない。グラスから視線を外すこともできない。
後ろの影は重く、のし掛かるような存在感を示している。冷ややかに微笑む青い影。彼が私を見捨てないなんて、保証がない。
目の前で苦しみながら死んでいくのを見たいだけだったら?
最期まで、あの青い眼でこちらを眺め、微笑んでいる姿が浮かぶ。
——死神。初めて会ったときのイメージが、頭にこびりついて離れない。
死んでしまえば……そう夢想していたけれど、苦しみを望んではいない。
死に近い苦しみが、どれほどのものかも想像つかない。
朝を待つ、長く暗い夜と同じくらいの、息苦しい静寂だった。グラスを見つめる時が、永遠に続くのではないかと思えた。
……青い影が、私の肩にそっと手を乗せる。力はない。ぞくりとする寒気が走っていく。
——セトに感謝しているのだろう? それなら、一口くらい飲んでみせたらどうだ?
——それすらも、できないか。
——あの子の代わりに罰を受ける覚悟はどうした?
——うわべだけの台詞か?
冷たい声音で発せられた言葉が、暗い世界で反響していく。眩暈のようなそれに、何も、言い返せない。身体の感覚は完全に消えて、闇のなか、おぼろげな思考だけが残されていた。
——期待外れだな。
その言葉を最後に、ふっ、と。
影は消えた。闇に溶けかけた思考が、いまだ頭に強く残るグラスの映像から逃れようと、もがいている。
視覚以外の何かにすがろうとして、温かさを覚える匂いを感じた。ひとの香り。せっけんと、森と、ほのかな汗。どこか遠くで甘い香りも混じっている。
——あのとき、お前を引き止めちまって……今さら謝っても仕方ねぇけど、ほんとに悪かった。
記憶の声が、謝罪を唱える。
——違う。謝らないといけないのは、私のほうだ。助けてもらったのに、迷惑をかけているのに、まだ何も——返せていない。なんのために残ったのか分からない。罰を代わりに受けることもできず、身体も——自分から申し出たのに、必要としてもらえなかった。
落ちていく思考に、本人には言えない謝罪があふれていく。不甲斐なさと罪悪感で、自分という存在が、どんどん小さくなって消えていこうとしている。
——ボクが、助けてあげようか?
思考が途絶えてしまう前に、脳裏で響いたその声は。
都合の良い幻聴か、それとも——。
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