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Chap.15 A Mad T-Party
Chap.15 Sec.1
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温かなシーツのなか、伸ばしたセトの手に何かが当たった。寝起きのぼやけた頭で(……なんだ?)疑問に思いながら左を向く。シーツに埋もれるようにして眠る彼女の顔に、心臓が跳ね上がった。完全に覚醒した。
窓の外は暗い。しかし、遮光モードが解かれているということは、時刻は7時を過ぎている。息を止めていたのに気づいて、そうっと呼吸を再開する。目の前の彼女が起きるようすはない。横を向いて身を護る動物のように丸くなっている。……寒いのだろうか。上体を起こして、ベッドの上にあったはずのブランケットを捜し……端に追いやられていたそれを取って、薄い掛け布団の上から彼女の身体を覆うように掛けた。さらりと黒髪が流れ、彼女の目許が隠れる。とっさに手が出ていた。髪をすくい上げて後頭部に流したが、起きる気配は全くない。
——疲れさせてしまっただろうか?
深く眠るようすに罪悪感が生まれ、昨夜が思い出された。
§
——くらくて、なにもみえない……。
触れる前、照明をすべて消したセトに、彼女の小さな指摘が投げられた。完全なる暗闇で、夜目の利かない彼女の視覚が奪われることは承知のうえ。
「見えないほうが気が楽だろ。喋らずにおくから、他のやつでも思い浮かべとけよ。……好きなやつとか」
シャワー中に冷静になっていろいろと考えてしまったセトの、最終的な判断。(いっそ見えなきゃいいんじゃねぇか?)結論は極端な配慮になったが、互いにメリットはあるはず。彼女はセトを意識しなくて済み、セトは彼女の身体に残る行為の痕を見ずに済む。アイディアに対して彼女が無言になったのは気になったが……早く済ませたほうがいいだろうと思い、ためらわず肌に触れた。
優しくする。胸中だけで誓っていたが、いざ始めてみると非常に戸惑う。一般的に優しく——とは、どうするのか。痛くしない、乱暴にしない、相手の反応を確認する。そんな当たり前のことだけの話ではない気がする。触れ方は? 進め方は? 声かけ——は、できない。なら、何ができるのか。何が許されるのか。
ロキはどうするのだろう——疑問が浮かんだ途端、不愉快な気持ちになった。余計な思考は止める。目の前の存在だけに集中する。
触れた肌は、しっとりとして手になじんだ。暗いせいで反応が分かりにくいが、視覚刺激がないぶんセトには余裕があった。耳をそばだてて反応をみるが静かすぎて、(前もこんなだったな……眠ってねぇよな?)挿入でかすかに声をもらすまで、彼女が声を耐えていることに気づかなかった。
(口を塞いでんのか?)
暗闇といっても、慣れれば輪郭くらいは見える。暗順応しやすいセトの目は、ぼんやりとだが形を捉えていた。横を向き、握った拳で口を押さえているように見える。キスはしていなかったから、その唇が握られた手の甲で塞がれているなんて知らずにいた。
何をしているのだろうと考えつつ、どう見ても苦しそうなので、握った拳に手を伸ばして引き離した。「——あっ」嬌声にびっくりした声が混じったような、珍しく可愛い声が聞こえた。それが引き金になって、声を聴きたい欲求に駆られる。
“優しくする”の許容範囲内で、強く。腰を動かすたびに、細い声がこぼれていく。——と思うと、また消える。閉じられた唇をこじ開けたいが、それは“優しく”ないだろうと、思いとどまる。様子をみると、外した拳が枕の端を掴んでいて、身体には変に力が入っていた。まさか——
「痛いのか?」
思わず声をかけてしまった。無言だが首を振ったので、違うらしい……が、かたくなに口を開かないのは何故か。前回も静かなほうではあったが、ここまでではない。捉え方によっては反抗的な態度にも思える。
(早く終われ——って?)
導き出した答えは、あまり気分のよいものではなかった。そんな不確定なことで怒る気はないが——ないが、代わりに遠慮していた唇を重ねた。固く閉じた唇を開かせると、合わさった唇の隙間で吐息まじりの声が鳴った。
枕の端を握る手をほどいて、指を絡める。擦るように突くたび、ぎゅっと力が入るのが——縋られているような、求められているような錯覚を生む。以前よりもずっと感じやすくなっている気がした。どこまでが演技なのかは——知らない。ただ、演技ならば、前みたいに言葉ひとつくらい……くれてもいいだろうに。
胸に湧く自己中心的な不満は打ち消して、セトはその後、一言も話すことなく終わらせた。
§
ふと窓の外に目がいった。寝顔を見つめているうちに視界がはっきりしてきたな、と。気づけば空は白んでいて、薄明の時を迎えていた。
——アリスちゃんの寝顔を見つめる時間はおしまいだよ。
どこからかティアの鬱陶しい声が聞こえそうなので、ベッドから出てシャワーを浴びることにした。眠りを妨げないよう窓は遮光モードに。目が覚めれば、どうせ出て行ってしまうのだろうが……メルウィンの手伝いなら、まだ。当然のようにロキのところへ戻ってしまうよりは、まだマシだと思える。
顔を合わせたらなんと言おうか。サクラと何があったのか問い詰めたいが、話してくれないだろうか。ぐるぐると考えながらシャワーをさっと浴びて戻ってきたセトの前には、変わらずに眠る姿があった。起こすのは忍びない。かといって、同じ空間にいるのも……気まずい。
空腹感を覚えたので、セトはひとまず食堂に行こうと決めた。起きた彼女もまた食堂に来るはず。メルウィンの手伝いか朝食のために。ここで目を覚まして顔を合わせるより、幾分かは状況がよくなると思えた。温かい珈琲とトーストでもあれば、拒絶しがちな心も緩むだろう——と。
窓の外は暗い。しかし、遮光モードが解かれているということは、時刻は7時を過ぎている。息を止めていたのに気づいて、そうっと呼吸を再開する。目の前の彼女が起きるようすはない。横を向いて身を護る動物のように丸くなっている。……寒いのだろうか。上体を起こして、ベッドの上にあったはずのブランケットを捜し……端に追いやられていたそれを取って、薄い掛け布団の上から彼女の身体を覆うように掛けた。さらりと黒髪が流れ、彼女の目許が隠れる。とっさに手が出ていた。髪をすくい上げて後頭部に流したが、起きる気配は全くない。
——疲れさせてしまっただろうか?
深く眠るようすに罪悪感が生まれ、昨夜が思い出された。
§
——くらくて、なにもみえない……。
触れる前、照明をすべて消したセトに、彼女の小さな指摘が投げられた。完全なる暗闇で、夜目の利かない彼女の視覚が奪われることは承知のうえ。
「見えないほうが気が楽だろ。喋らずにおくから、他のやつでも思い浮かべとけよ。……好きなやつとか」
シャワー中に冷静になっていろいろと考えてしまったセトの、最終的な判断。(いっそ見えなきゃいいんじゃねぇか?)結論は極端な配慮になったが、互いにメリットはあるはず。彼女はセトを意識しなくて済み、セトは彼女の身体に残る行為の痕を見ずに済む。アイディアに対して彼女が無言になったのは気になったが……早く済ませたほうがいいだろうと思い、ためらわず肌に触れた。
優しくする。胸中だけで誓っていたが、いざ始めてみると非常に戸惑う。一般的に優しく——とは、どうするのか。痛くしない、乱暴にしない、相手の反応を確認する。そんな当たり前のことだけの話ではない気がする。触れ方は? 進め方は? 声かけ——は、できない。なら、何ができるのか。何が許されるのか。
ロキはどうするのだろう——疑問が浮かんだ途端、不愉快な気持ちになった。余計な思考は止める。目の前の存在だけに集中する。
触れた肌は、しっとりとして手になじんだ。暗いせいで反応が分かりにくいが、視覚刺激がないぶんセトには余裕があった。耳をそばだてて反応をみるが静かすぎて、(前もこんなだったな……眠ってねぇよな?)挿入でかすかに声をもらすまで、彼女が声を耐えていることに気づかなかった。
(口を塞いでんのか?)
暗闇といっても、慣れれば輪郭くらいは見える。暗順応しやすいセトの目は、ぼんやりとだが形を捉えていた。横を向き、握った拳で口を押さえているように見える。キスはしていなかったから、その唇が握られた手の甲で塞がれているなんて知らずにいた。
何をしているのだろうと考えつつ、どう見ても苦しそうなので、握った拳に手を伸ばして引き離した。「——あっ」嬌声にびっくりした声が混じったような、珍しく可愛い声が聞こえた。それが引き金になって、声を聴きたい欲求に駆られる。
“優しくする”の許容範囲内で、強く。腰を動かすたびに、細い声がこぼれていく。——と思うと、また消える。閉じられた唇をこじ開けたいが、それは“優しく”ないだろうと、思いとどまる。様子をみると、外した拳が枕の端を掴んでいて、身体には変に力が入っていた。まさか——
「痛いのか?」
思わず声をかけてしまった。無言だが首を振ったので、違うらしい……が、かたくなに口を開かないのは何故か。前回も静かなほうではあったが、ここまでではない。捉え方によっては反抗的な態度にも思える。
(早く終われ——って?)
導き出した答えは、あまり気分のよいものではなかった。そんな不確定なことで怒る気はないが——ないが、代わりに遠慮していた唇を重ねた。固く閉じた唇を開かせると、合わさった唇の隙間で吐息まじりの声が鳴った。
枕の端を握る手をほどいて、指を絡める。擦るように突くたび、ぎゅっと力が入るのが——縋られているような、求められているような錯覚を生む。以前よりもずっと感じやすくなっている気がした。どこまでが演技なのかは——知らない。ただ、演技ならば、前みたいに言葉ひとつくらい……くれてもいいだろうに。
胸に湧く自己中心的な不満は打ち消して、セトはその後、一言も話すことなく終わらせた。
§
ふと窓の外に目がいった。寝顔を見つめているうちに視界がはっきりしてきたな、と。気づけば空は白んでいて、薄明の時を迎えていた。
——アリスちゃんの寝顔を見つめる時間はおしまいだよ。
どこからかティアの鬱陶しい声が聞こえそうなので、ベッドから出てシャワーを浴びることにした。眠りを妨げないよう窓は遮光モードに。目が覚めれば、どうせ出て行ってしまうのだろうが……メルウィンの手伝いなら、まだ。当然のようにロキのところへ戻ってしまうよりは、まだマシだと思える。
顔を合わせたらなんと言おうか。サクラと何があったのか問い詰めたいが、話してくれないだろうか。ぐるぐると考えながらシャワーをさっと浴びて戻ってきたセトの前には、変わらずに眠る姿があった。起こすのは忍びない。かといって、同じ空間にいるのも……気まずい。
空腹感を覚えたので、セトはひとまず食堂に行こうと決めた。起きた彼女もまた食堂に来るはず。メルウィンの手伝いか朝食のために。ここで目を覚まして顔を合わせるより、幾分かは状況がよくなると思えた。温かい珈琲とトーストでもあれば、拒絶しがちな心も緩むだろう——と。
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