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Chap.17 ロックンキャロルでワルツを
Chap.17 Sec.13
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星空に戻った部屋は、本当の外ではないというのに、寒々と感じられた。気づけばサクラは私の斜め後ろにいて、同じように映像を眺めていたようだった。
振り返った私に、少年よりも暗い青を向ける。揺らぐことない瞳は、少年の面影が残っているが——その下の唇は、少年の閉じられたものとは違い、うすく開いた。
『この女性は、この少年を殺すだろうか?』
『………………』
問いかけに、目前の青年を確かめる。
彼は、映像ではない。正しくここにいて、生きている。——殺されていない。
『……昔から知りたいと思っていることのひとつでね。この女性は、本気で——私を殺そうとしていたのだろうか?』
『…………サクラさん、』
『——どう思う? お前の意見を、聞かせてくれないか?』
『………………』
『……頭を開いて答えを確かめようにも、彼女の脳はハウスになくてな。博士のほうは見てみたが、彼の頭に彼女への理解は無かった。彼のなかで、彼女は未知の存在だったようだね』
他人事のように話す唇は、まるで、よくできた人形のようだ。人間になることを夢見て、何度も練習したかのような——でも、人間に必要な大切なものを、最後まで見つけられなかった——出来損ないの人形。
『根拠は無くても構わない。推測でいいから、教えてもらえないか?』
私に、答えられる力なんて。
『……何も、分からないか?』
思い惑いながらも、小さく頷いた。
表情と呼べるものが何もないサクラの顔は、ただ静かに星空のなかで止まっている。
『それは——残念だな』
答えを諦めたサクラの声に、閉じていた唇を動かして……そっと尋ねた。
『どうして……私に?』
『お前なら、答えを知っているような気がしてね』
『………………』
何も答えられない。
——どうして、何も言えないのだろう。
私はここに、なんのために来たのだったか。
もう用がなくなったのか、サクラは私に背を向けて、月の高く見える方へと——消えてしまうみたいに、行こうとしたから、
『——サクラさんっ』
その手を、引き止めたくて掴んでいた。
掴んだ瞬間——私も、こうして引き止めてもらったことがあった——既視感のようなひらめきがあった。
青い眼が、こちらを振り返る。
答えなんて分からない。
——でも、私が分かるすべてなら。
『みんなっ……サクラさんを待ってます!』
『………………』
『セトも、イシャンも、メルウィンも、アリアも、ハオロンも——きっと、ロキやティアだって。……みんな、今までずっと、一緒にいたから……家族なのに、ひとりで放っておくなんて……』
——“ひとり”が淋しいのは、僕にも分かるから。
私も、知ってる。
ひとりぼっちの夜が、どれほど暗くて長いのか。
『サクラさん……みんなのためにも、一緒に来てください……』
掴んだ手を、サクラは振り払わなかったが、瞳は静かなままで、
『……それは、なんの話をしている? お前の歓迎会ならば、行くつもりはないよ』
『どうしてですか? 私を……歓迎しないからですか……?』
『そうではない。私が行くと、セトが萎縮するからだ。……私はそれを見たくないんだよ』
『……セト?』
答えに含まれた名を、くり返すように尋ねた。
サクラは、私から目を離すことなく、
『私の一番の望みは、あの子を解放することだ』
『かいほう……? 何から……』
——ひょっとすると、新たなる王は、絶望の闇に落ちたこのお城から、王子たちを救い出したかったのかもしれません。
頭に、ティアの声で物語が浮かんだ。
でも——違う。サクラの眼に、直感が否定する。
答えは、
『——私は、私からセトを解放したいんだよ』
『どうして、サクラさんからなんですか……? セトは、サクラさんのことが……大好きなのに……?』
『その理由を、お前に話す気はない』
『……でも、サクラさんのことを……みんな、待ってるんです。ひとりでも欠けたままじゃ……きっと……』
——悲しい。
言葉の先が、星空にとけていく。
どう言ってもサクラは聞き分けてくれないと、分かってしまった。
うつむきそうになった顔を、けれども、サクラの指先によって掬い上げられた。身を屈め、のぞき込むように寄せられた、端整な顔。再度、重ね合わされた視線。
私を見つめる眼は、夜空と同じ色をして、何かを考えるように瞬いた。
『もし、このまま、私の芝居を黙っていてくれるなら——』
くちづけをするような、その距離で。
美しい顔が、新たな約束を——
振り返った私に、少年よりも暗い青を向ける。揺らぐことない瞳は、少年の面影が残っているが——その下の唇は、少年の閉じられたものとは違い、うすく開いた。
『この女性は、この少年を殺すだろうか?』
『………………』
問いかけに、目前の青年を確かめる。
彼は、映像ではない。正しくここにいて、生きている。——殺されていない。
『……昔から知りたいと思っていることのひとつでね。この女性は、本気で——私を殺そうとしていたのだろうか?』
『…………サクラさん、』
『——どう思う? お前の意見を、聞かせてくれないか?』
『………………』
『……頭を開いて答えを確かめようにも、彼女の脳はハウスになくてな。博士のほうは見てみたが、彼の頭に彼女への理解は無かった。彼のなかで、彼女は未知の存在だったようだね』
他人事のように話す唇は、まるで、よくできた人形のようだ。人間になることを夢見て、何度も練習したかのような——でも、人間に必要な大切なものを、最後まで見つけられなかった——出来損ないの人形。
『根拠は無くても構わない。推測でいいから、教えてもらえないか?』
私に、答えられる力なんて。
『……何も、分からないか?』
思い惑いながらも、小さく頷いた。
表情と呼べるものが何もないサクラの顔は、ただ静かに星空のなかで止まっている。
『それは——残念だな』
答えを諦めたサクラの声に、閉じていた唇を動かして……そっと尋ねた。
『どうして……私に?』
『お前なら、答えを知っているような気がしてね』
『………………』
何も答えられない。
——どうして、何も言えないのだろう。
私はここに、なんのために来たのだったか。
もう用がなくなったのか、サクラは私に背を向けて、月の高く見える方へと——消えてしまうみたいに、行こうとしたから、
『——サクラさんっ』
その手を、引き止めたくて掴んでいた。
掴んだ瞬間——私も、こうして引き止めてもらったことがあった——既視感のようなひらめきがあった。
青い眼が、こちらを振り返る。
答えなんて分からない。
——でも、私が分かるすべてなら。
『みんなっ……サクラさんを待ってます!』
『………………』
『セトも、イシャンも、メルウィンも、アリアも、ハオロンも——きっと、ロキやティアだって。……みんな、今までずっと、一緒にいたから……家族なのに、ひとりで放っておくなんて……』
——“ひとり”が淋しいのは、僕にも分かるから。
私も、知ってる。
ひとりぼっちの夜が、どれほど暗くて長いのか。
『サクラさん……みんなのためにも、一緒に来てください……』
掴んだ手を、サクラは振り払わなかったが、瞳は静かなままで、
『……それは、なんの話をしている? お前の歓迎会ならば、行くつもりはないよ』
『どうしてですか? 私を……歓迎しないからですか……?』
『そうではない。私が行くと、セトが萎縮するからだ。……私はそれを見たくないんだよ』
『……セト?』
答えに含まれた名を、くり返すように尋ねた。
サクラは、私から目を離すことなく、
『私の一番の望みは、あの子を解放することだ』
『かいほう……? 何から……』
——ひょっとすると、新たなる王は、絶望の闇に落ちたこのお城から、王子たちを救い出したかったのかもしれません。
頭に、ティアの声で物語が浮かんだ。
でも——違う。サクラの眼に、直感が否定する。
答えは、
『——私は、私からセトを解放したいんだよ』
『どうして、サクラさんからなんですか……? セトは、サクラさんのことが……大好きなのに……?』
『その理由を、お前に話す気はない』
『……でも、サクラさんのことを……みんな、待ってるんです。ひとりでも欠けたままじゃ……きっと……』
——悲しい。
言葉の先が、星空にとけていく。
どう言ってもサクラは聞き分けてくれないと、分かってしまった。
うつむきそうになった顔を、けれども、サクラの指先によって掬い上げられた。身を屈め、のぞき込むように寄せられた、端整な顔。再度、重ね合わされた視線。
私を見つめる眼は、夜空と同じ色をして、何かを考えるように瞬いた。
『もし、このまま、私の芝居を黙っていてくれるなら——』
くちづけをするような、その距離で。
美しい顔が、新たな約束を——
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