【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

文字の大きさ
8 / 79
ハロー・マイ・クラスメイツ

01_Track07.wav

しおりを挟む
 頬がゆるむ。気づくと口角が上がっている。
 
「ふふふふふ」
《——ヒナ、笑っていないで勉強に集中しよう》
「うわっ、なんで勝手に起動してんだっ?」
 
 寮の自室で、予習復習に励んでいたヒナの傍ら、いきなりチェリーの叱責が飛んだ。
 目を向ければ、机の端で充電していたスマホの画面が光っている。
 
「……びっくりした。チェリー、たまに呼んでないのに反応しちゃうな……古いしバグってんのかな……?」
《ボクは古くないよ。フィードバックを元に修正されているからね》
「チェリーは古いんだよ。正式なチェリッシュはアップグレードして……今はバージョン3らしいよ。高性能なんだろうなぁ……サポートすごいしてくれるんだろうなぁ……」
《ヒナは、ボクじゃ不満かな?》
「いや、お世話になってます。チェリーのおかげで、おれはホームシックにならず毎日やれてる……」
《——ヒナ、洗濯の時間だよ》
「……そういうとこだよ、チェリー。おれの感謝を無視してロボットみたいにさぁ……」
《うん、ボクはAIによるバーチャル・アシスタントだよ。ロボットのようにプログラムされているけど、物理的な形はないよ》

(出た、無機的対応。チェリーのしおるタイミング、いまだに全然わかんないなぁ……)
 
 ムラがある、古いチャットボット。チェリーを残して、ヒナは洗濯物を詰め込んだカゴを抱え部屋を出た。寮の洗濯時間に決まりはないが、単に忘れるのでアラームを設定している。
 
 各フロアに1台ずつ設置されている、洗濯機と乾燥機。個室よりもコンパクトなランドリールームに入ると、洗濯機のランプが……赤い。
 
(誰かの、入ったままだ)
 
 洗濯は終わっているのに、服が残っている。フロアの寮生が少ないのか、今まで洗濯機が埋まっていることはなかった。
 
(どうしよ……これ、ブレス端末に連絡いってるはずだよな……?)
 
 洗濯終了はブレス端末に通知がくる。利用者は何をしているのだろう。
 ヒナも洗濯機の空き情報を確認せずに来たわけなので、あまり批判はできないが……待つには時間が惜しい。戻るのも面倒。
 
(出しちゃお)
 
 持ち主のカゴは置いてあったので、出しておくことにした。
 と思ったが、取り出した服がどうやら……シャツだ。制服のワイシャツ。他もあるけれど、あとは部屋着やら下着やら適当な感じ。
 
(シャツは……シワになるな)
 
 施設育ちのヒナは、日常的に洗濯をやってきた。どんな素材がシワシワになるかも、経験則で分かる。
 カゴに突っ込むのも忍びなく、ランドリールームに常置されているハンガーを通して、頭上に設置された小さな物干し竿ざおに掛けた。そうなると残りの服も放置しておけず、縮まっているのを軽く広げて乾燥機へ。
 
(ここまでやると気持ち悪いかな……でも持ち主の子ぜんぜん来ないしな……濡れた状態だと雑菌が……)
 
 思うとおりに伝えればいいか。相手が嫌そうだったら、会ったときにちゃんと謝ろう。
 自分の服を洗濯機に入れて回し、部屋に戻る。ノートを破って、メモ代わりに。
 
『待てなかったので、出しました。乾燥機に移したけど、迷惑だったらごめん』
 
 ランドリールームに戻ってみたが、何も変わっていない。やはり持ち主は来ていない。
 ノートの端切れを、洗濯バサミで乾燥機の横に留めておいた。
 
 部屋までの短い廊下を歩きながら、今日の一日を振り返って、また頬がゆるんだ。
 楽しかった。壱正は話せば普通にいい子だったし、研究の話も面白かった。ルイは不思議なところがあるけれど、学園生活の話をしている分には普通の生徒。
 
——春休み明けテスト、やだなぁ。
 
 そう言っていたルイに、優秀成績者が集まるBクラスでも、テストぎらいがいるんだと知った。
 遅れて加わった麦は、大人しく控えめで、
 
——大丈夫だよ。どうせ点数は僕が一番下だから……。
 
 フォローになっていないセリフをルイへと掛けていた。
 
 クラスメイトと交流できたことは、カフェテリアで会ったサクラに報告している。
 今日の寮横のカフェテリアには人がいた。入浴を先にしたので、ヒナは夕食が遅くなったのだが、なぜか夕食時からずれたほうが人に会えるという……奇妙な現象。ちらほらとだが、初めて人を見かけた。
 みんな混雑時間を避けようとしているのだろうか。寮横のカフェテリアには、混雑時間なんて存在していないのを知らないのだろうか。
 
 自室に戻って、机と向かい合う。
 
(よーし、洗濯が終わるまで、もうひと勉強だ!)
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...