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ALL FOR ONE
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朝練はした。
体育もサクラに頼んでバスケをさせてもらった。(冬の単元がバスケらしく、入れ替えたらしい)
バスケの勉強もした。(漫画で)
準備は万全。
球技大会の当日。最初のリーグ戦で勝ち上がった2Bは、決勝トーナメントに参加していた。
「おれ、バスケ選手になろうかな……」
ヒナが調子に乗った発言をする。ひとつ前の試合で、ヒナは試合における初シュートを決めていた。シュートが入って歓声を浴びたことが、ヒナは大層気持ちよかったらしい。
決勝ということもあり、体育館のコートにはリーグ戦で敗退した生徒も集まっていた。
「女子もたくさん……こんなに隠れてたんだな……」
休憩でお茶を飲みながら、ヒナがしみじみと見回す。体育館は2階の観客席も埋まっている。女子も男子と等しく存在している。
隣にいた麦は、ヒナの陰に隠れるようにして身を縮めた。
「ヒナくん、すごいね。僕は見られてると思うと緊張しちゃう……」
震える麦に、「大丈夫だよ」と優しく声を掛けたのはルイだった。
「みんな、琉夏くんとハヤトくんばっかり見てるから。君たちのことはあんまり見てなかったから、気にしないで?」
ルイの言葉に水を差されたヒナが、ムッとして怒った。
「いや、おれのことも見てたし! おれも女子の声を浴びたし! なぁっ、竜星!」
「ん~……どぉやろ? うちら、ほぼボール中継やから目立たんしなぁ?」
「おれが目立つ戦略にすればよかった!」
「そんなこと言わんと。ヒナの作戦のおかげで、いい感じやよ? ヒナは参謀やわ」
「(作戦を考えたのは半分チェリーだから、褒められても素直に喜べない!)」
「どぉしたん? なに悩んでるん?」
苦悩するヒナの顔を、竜星が覗きこむ。
離れたところにいたハヤトが二人を呼んだ。
「おい、試合いくぞ。たぶん次が最強だ。バスケ部が2人いる」
ハヤトの言葉を聞いて、隣にいた琉夏がスポーツドリンクのペットボトルから唇を離した。
「桜統のバスケ部なんて大したことねェよな? 全然よゆ~」
琉夏の声は響きやすい。次の相手チームとなるクラスメイトが眉を寄せている。
すると、壱正が低い声で、
「油断はよくない。『勝って兜の緒を締めよ』ともいう。琉夏の挑発は、中学のときからトラブルしか生まない。もっと自重してもらいたい」
つらつらと批判的な意見を述べた。
琉夏は反論するかと思いきや、「ハイハーイ」へそを曲げることなく返事をする。顔も笑っている。
「壱正は昔からうるせェな~? オレのママですかァ~?」
「……私が琉夏の親なら、その髪を黒く染めさせる」
「ヤだね。逆に染め返してやる」
「やれるものなら……」
琉夏と壱正のあいだに、ヒナが「すとーっぷ」両手を広げて割り入った。
「試合だから。ほら、行こうっ」
きまり悪そうな顔をした壱正が、先を行くハヤトを追った。その様子にクツクツ笑っている琉夏を、ヒナがコツンと肘で小突いた。
「壱正は琉夏のこと心配してるんだぞ」
「知ってる。オレって愛されてるからァ~?」
「自分で言っちゃうと……うざいな?」
キャハハと鳴る、高い笑い声。
明るすぎる琉夏の目が、次の対戦相手に向かないことを、ヒナは気づいていた。
コートに整列して、ヒナは横に並ぶ竜星に小声で尋ねる。
「……元Bがいるんだな?」
「うちとヒナの前にいる子ふたり、元Bの……口裏組」
「ふーん」
双方のチーム、頭を下げて「よろしくお願いします」
見合わせた顔で、ヒナは敵に向け笑った。
「2Bが優勝を掻っ攫ってやる! 見てろよ!」
高らかなヒナの宣言は、体育館を満たして反響した。
虚を衝かれて反応に困ったのは、敵チームだけではなく。
味方のハヤトが……遅れて乗っかった。
「おう、やってやる! 余裕で優勝だ!」
竜星は半笑いで便乗。
「何点差になるやろかぁ~?」
壱正は「挑発……」何か言いたげだったが、琉夏の横顔を見て、心を決めたように前を向き、
「申し訳ないが、勝たせてもらう。たかが球技大会なので、広い心で許してほしい」
きっぱりと宣戦した。
「……オレに注意しておきながら、みんな煽ってンじゃん……」
ぽそりと零れる琉夏の不満に、ハヤトが琉夏の背を叩いて気合を入れた。
「やるぞ!」
「おーっ!」
盛り上がる2Bのクラスメイトと、始まる試合。
横の補欠席に避難したルイ・麦・ウタのメンバーが、小さな声で話している。
「熱血って感じ、僕はやだな~? もっとクールにやらない? これで負けたら恥だよね?」
「でもルイくん……参加しないよね?」
「うん、しない。代わりに心を込めて応援しよう。みんなーがんばれー」
「すごく棒読み……」
適当な声援を投げるルイ。その奥で、急に会話から離脱してどこかを見ているウタに、麦は声を掛けた。
「ウタくん、どうかした?」
「……サクラ先生が、観戦にいらっしゃったようですね」
「ぁ……ほんとだ。決勝トーナメントの時間には、顔を出せるって言ってたもんね?」
「ええ。ですが……少々タイミングが悪かったようですね」
「……ぇ?」
「みなさんが過剰な挑発行為をしたときには、おそらく、すでにいました」
「…………ぇ」
サクラへと、麦が慌てて目を向ける。
試合を見守る端整な顔が、にっこり。周りからすると穏やかな笑みに見えるが……
「ふふ、サクラ先生がとても綺麗に微笑んでるね? きっとまた、ヒナくんたちは説教されるんじゃないかな? ……学ばないなぁ?」
揶揄するルイの言葉は意地悪だが、声は優しく楽しげな音をしていた。
体育もサクラに頼んでバスケをさせてもらった。(冬の単元がバスケらしく、入れ替えたらしい)
バスケの勉強もした。(漫画で)
準備は万全。
球技大会の当日。最初のリーグ戦で勝ち上がった2Bは、決勝トーナメントに参加していた。
「おれ、バスケ選手になろうかな……」
ヒナが調子に乗った発言をする。ひとつ前の試合で、ヒナは試合における初シュートを決めていた。シュートが入って歓声を浴びたことが、ヒナは大層気持ちよかったらしい。
決勝ということもあり、体育館のコートにはリーグ戦で敗退した生徒も集まっていた。
「女子もたくさん……こんなに隠れてたんだな……」
休憩でお茶を飲みながら、ヒナがしみじみと見回す。体育館は2階の観客席も埋まっている。女子も男子と等しく存在している。
隣にいた麦は、ヒナの陰に隠れるようにして身を縮めた。
「ヒナくん、すごいね。僕は見られてると思うと緊張しちゃう……」
震える麦に、「大丈夫だよ」と優しく声を掛けたのはルイだった。
「みんな、琉夏くんとハヤトくんばっかり見てるから。君たちのことはあんまり見てなかったから、気にしないで?」
ルイの言葉に水を差されたヒナが、ムッとして怒った。
「いや、おれのことも見てたし! おれも女子の声を浴びたし! なぁっ、竜星!」
「ん~……どぉやろ? うちら、ほぼボール中継やから目立たんしなぁ?」
「おれが目立つ戦略にすればよかった!」
「そんなこと言わんと。ヒナの作戦のおかげで、いい感じやよ? ヒナは参謀やわ」
「(作戦を考えたのは半分チェリーだから、褒められても素直に喜べない!)」
「どぉしたん? なに悩んでるん?」
苦悩するヒナの顔を、竜星が覗きこむ。
離れたところにいたハヤトが二人を呼んだ。
「おい、試合いくぞ。たぶん次が最強だ。バスケ部が2人いる」
ハヤトの言葉を聞いて、隣にいた琉夏がスポーツドリンクのペットボトルから唇を離した。
「桜統のバスケ部なんて大したことねェよな? 全然よゆ~」
琉夏の声は響きやすい。次の相手チームとなるクラスメイトが眉を寄せている。
すると、壱正が低い声で、
「油断はよくない。『勝って兜の緒を締めよ』ともいう。琉夏の挑発は、中学のときからトラブルしか生まない。もっと自重してもらいたい」
つらつらと批判的な意見を述べた。
琉夏は反論するかと思いきや、「ハイハーイ」へそを曲げることなく返事をする。顔も笑っている。
「壱正は昔からうるせェな~? オレのママですかァ~?」
「……私が琉夏の親なら、その髪を黒く染めさせる」
「ヤだね。逆に染め返してやる」
「やれるものなら……」
琉夏と壱正のあいだに、ヒナが「すとーっぷ」両手を広げて割り入った。
「試合だから。ほら、行こうっ」
きまり悪そうな顔をした壱正が、先を行くハヤトを追った。その様子にクツクツ笑っている琉夏を、ヒナがコツンと肘で小突いた。
「壱正は琉夏のこと心配してるんだぞ」
「知ってる。オレって愛されてるからァ~?」
「自分で言っちゃうと……うざいな?」
キャハハと鳴る、高い笑い声。
明るすぎる琉夏の目が、次の対戦相手に向かないことを、ヒナは気づいていた。
コートに整列して、ヒナは横に並ぶ竜星に小声で尋ねる。
「……元Bがいるんだな?」
「うちとヒナの前にいる子ふたり、元Bの……口裏組」
「ふーん」
双方のチーム、頭を下げて「よろしくお願いします」
見合わせた顔で、ヒナは敵に向け笑った。
「2Bが優勝を掻っ攫ってやる! 見てろよ!」
高らかなヒナの宣言は、体育館を満たして反響した。
虚を衝かれて反応に困ったのは、敵チームだけではなく。
味方のハヤトが……遅れて乗っかった。
「おう、やってやる! 余裕で優勝だ!」
竜星は半笑いで便乗。
「何点差になるやろかぁ~?」
壱正は「挑発……」何か言いたげだったが、琉夏の横顔を見て、心を決めたように前を向き、
「申し訳ないが、勝たせてもらう。たかが球技大会なので、広い心で許してほしい」
きっぱりと宣戦した。
「……オレに注意しておきながら、みんな煽ってンじゃん……」
ぽそりと零れる琉夏の不満に、ハヤトが琉夏の背を叩いて気合を入れた。
「やるぞ!」
「おーっ!」
盛り上がる2Bのクラスメイトと、始まる試合。
横の補欠席に避難したルイ・麦・ウタのメンバーが、小さな声で話している。
「熱血って感じ、僕はやだな~? もっとクールにやらない? これで負けたら恥だよね?」
「でもルイくん……参加しないよね?」
「うん、しない。代わりに心を込めて応援しよう。みんなーがんばれー」
「すごく棒読み……」
適当な声援を投げるルイ。その奥で、急に会話から離脱してどこかを見ているウタに、麦は声を掛けた。
「ウタくん、どうかした?」
「……サクラ先生が、観戦にいらっしゃったようですね」
「ぁ……ほんとだ。決勝トーナメントの時間には、顔を出せるって言ってたもんね?」
「ええ。ですが……少々タイミングが悪かったようですね」
「……ぇ?」
「みなさんが過剰な挑発行為をしたときには、おそらく、すでにいました」
「…………ぇ」
サクラへと、麦が慌てて目を向ける。
試合を見守る端整な顔が、にっこり。周りからすると穏やかな笑みに見えるが……
「ふふ、サクラ先生がとても綺麗に微笑んでるね? きっとまた、ヒナくんたちは説教されるんじゃないかな? ……学ばないなぁ?」
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