【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

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スクール・フェスティバル

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「いけ、今や。言ってまえ」
 
 ヒナとハヤトから絶妙に距離を取った位置で、竜星がなんか言っている。
 長身の琉夏を柱にして、ハヤトの動向を(会話は聞こえないが)ひっそりと見守っていたはずが、気づけばがっつり観察していた。無神経な琉夏が邪魔しそうだったので、お菓子を渡して引き留めている。ぬかりない。
 ただ、挙動不審な竜星に琉夏はそろそろ疑問を抱き始めていた。ガリっと音を立ててラムネをみ砕き、
 
 
「竜星、どこ見てンの~?」
「なんも。音楽に耳を傾けてるとこや」
「ふ~ん?」
「………………」
「……でさぁ、明日休みじゃん? どっか遊びに行こ~よ」
「………………」
「……聞いてる?」

 あかん、あいつ言う気ないやろ。何してるんや。鈍感ヒナは言わな伝わらんやろ。
 ぶつぶつ口の中で呟いている竜星に、琉夏が「なァ~、明日どっか行こ~? 竜星が行くって言ったらハヤトもヒナも来るって」ずっと勧誘しているがカケラも返ってこない。
 
「ちょっと黙っててや」
「えェ~?」
「明日なら行ってあげるし動かんといて」
「ほんと? もっかい言って。録音しとく」
「動かんといて」
「そこじゃなくて」
 
 視界を遮るように動く琉夏を、竜星が押さえ込む。
 そんな二人を見たルイが、「何してるの?」両肩を上げて呆れていた。麦とウタは笑っている。日が落ちたのもあって詳細が分からず、壱正だけが(喧嘩ではないな……?)学級委員の目で様子をうかがっていた。
 遠くの校庭でイベントが次々と展開されていくが、屋上は教室と変わらない空気が流れていた。

 ——いや、そんなこともない。
 薄暗くなった視界に、遠くのライトアップを受けてほのかに浮かぶ、非日常めいた世界。
 泣きそうな顔で笑ったヒナを見て、ハヤトは少しばかり意識を変えていた。
 
「ヒナ」

 遠くに投げられていたヒナの目が、呼び声にハヤトを振り返る。涙を隠した瞳は、光を乗せて淡く輝いた。
 
「うん? なに?」
「……学園、やめたりしねぇよな?」
「……うん。夢はなくなったけど……やめたりなんて、しない。せっかく頑張って入ったんだからな」
「……そうか」
「……特待でご飯タダだし?」
「メシかよ」
「ハヤトにだけは言われたくないよ」
 
 突っこみに切り返すヒナの顔は、まだ少し泣きそうだが、前を向こうと笑っている。
 眉の下がった未熟な笑顔が、胸をやわく締めつけ……想いをこぼすように、ハヤトは口を開いていた。
 
「……理由はどうあれ、俺は、お前がここに来てくれてよかった」

 瞳が、開く。驚愕に丸くなったヒナの目が、ハヤトを大きく映した。
 
「——俺は、お前が好きだ」
 
 ハヤトの囁きは、夜風に攫われることなく。
 確かにヒナの鼓膜を揺らして、募る想いを音にした。
 
 ……けれども、
 
「——おう! おれもハヤトが好きだ! 仲良く青春しようなっ!」 
 
 にかっと破顔した、ヒナの晴れやかな表情。
 すべてを吹っ切った実に良い笑顔だったが……そういうことじゃない。

「………………」
「えっ……なんでそこで睨むんだ? ……笑えばいいと思うよ?」
「笑えねぇ。屋上から突き落としてやりてぇ」
「なに言っちゃってんのっ?」
「だからっ! 俺が言ってんのは——」
 
 声を荒らげて訴えようとしたハヤトの本心は、背後から、

「物騒な会話をしているね?」
 
 突如、現れた刺客によって妨害を受けた。
 ハッと背を顧みたハヤト。身長が負けているせいで見上げる羽目になるサクラが、空々しい微笑を浮かべていた。
 
「鴨居さんを突き落としたら、鴨居さんが無事でも狼谷さんには学園から出ていってもらうよ?」

 にこりとした脅しを冗談と捉えたヒナは、呑気のんきな笑みを返す。
 
「その前に警察呼んでください。おれ、刑事さん見てみたいです! 殺人未遂なら来てくれますよね?」
「そうだね」
「事情聴取とかされる……? おれ緊張しちゃいそうだなー?」

 物騒な発言から物騒な話題を繰り広げていく。
 しかめっつらのハヤトがサクラを細くめ上げると、見透かすような微笑みが返ってきた。
 
——そのは、この子が大人になるまで要らないね?
 
 テレパシーか。過保護な兄みたいな心の声が聞こえた。
 
(……あんたは俺が超えてやるから待っとけ)
 
 高くなる目線に意志を込めて強く見返せば、サクラは瞳を伏せるように笑って受け流し、
 
「そろそろ終幕かな?」
 
 屋上には見慣れた顔ぶれが揃いきり、彼方かなたでは花火が上がろうとしていた。
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