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(Bonus Track)
おれだけのサンタクロース
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「なぁ、ハヤト。お前にだけ言うんだけど」
クラスメイトかつ寮生仲間のヒナが、神妙な顔でひっそりとハヤトに囁いてきた。
朝のカフェテリアは静かで人がいない。学園は数日前に冬休みに入っていて、寮生の大半は帰省している。冬季講座も昨日で終わり、残りはオンラインになる。カフェテリアも年末年始は閉まるらしく、ここでヒナとハヤトが共に食事をとるのも年内では残り数日。
おはようの代わりに「メリークリスマス!」と挨拶してきたヒナは、「いただきます」をするなり内緒話の声量で、
「サンタさんって、ほんとにいた」
「………………」
なに言ってんだ、お前。
素直にそう思ったし、素直にそう切り返そうと思ったが……目の前のヒナの顔が、本気だった。思わずパンで口が塞がったかのようにもぐもぐとして目だけを返した。
無言のハヤトに、ヒナは変わらない真面目なトーンで話し続ける。
「昔から、毎年クリスマスプレゼントがあったんだ。25日の朝、おれ宛のボックスに。おれ、てっきりずっと母さんだと思ってたんだけど……違うなってことに、昨日いきなり気づいてさ」
「(気づくの遅ぇな)」
「となると、あのプレゼントは施設からのプレゼントだったのかなって……思うだろ?」
パンを呑み込んで、「おお」
なんの話だろうと思いながらも肯定する。
「でも……今朝も、あったんだ。クリスマスプレゼント。さっき宅配ボックス確認したら、おれ宛に、あったんだ!」
「………………」
少しずつボリュームアップしていく声。あわせてヒナの目も輝きだした。
「信じられないよな? でも、ほんとにサンタさんなんだ。小さい頃からずーっと、おれの欲しいものをピタリと当ててきた。母さんじゃないなら、これはもうっ……本物のサンタさんしかないだろっ?」
いや、サクラ先生だろ、それ。
すぐさま脳裏で答えが出たが、口にできない。ヒナは拳を握って興奮ぎみに瞳をきらめかせている。
「おれ、自分で言うのもなんだけど良い子だし! 調べたらフィンランドにサンタクロース協会があるらしくって、おれって日本の良い子代表でプレゼント貰えてるんじゃないかなっ? すごいよな、おれの欲しい物を必ず届けてくれるんだ。10年以上ずーっとおれだけのサンタさんがいるんだ!」
妙に現実的な要素もありつつ。ヒナがたどり着いた答えにハヤトが返答を考えあぐねていると、カフェテリアのドアに人の気配が。
職員寮の方、開いたドアから入ってきたのは、
「あっ、サクラ先生!」
スーツではなく、黒のタートルネックにツイードのジャケット。幾分ラフな装いをした担任教員の姿があった。
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
休みの日にまで、なんで担任と顔を合わせないといけないのだろう。
疑問に思ったが、自分が帰省をやめたせいだと結論づいた。施設を出てしまったヒナは帰る場所がないらしく、年末年始も寮に残ると言うものだから……「俺も帰る予定ねぇよ」
気づいたら、そう告げていた。帰っても父親は多忙のため不在だろうし、とりたてて問題はない——が、そのときはそんなことまで頭が回っておらず。年末年始も独りじゃないと、喜んだヒナの顔だけが占めていた。
ふたりで、過ごすことになる。
ふたりきりで、年末年始の数日間を、一緒に。
(——なわけねぇよな。保護者を完全に忘れてた)
目の前で交わされる会話に細い目を送る。自然な流れでヒナの横に座ったサクラ。何故ここにいるのか。あんたはクリスマスを過ごす相手がいないのか。
胸中で不満をぶつけているハヤトのじっとりした視線を受け流して、サクラはヒナとクリスマスプレゼントの話をしていた。
「おれ、クリスマスプレゼントにコート貰ったんです! すっごい暖かいし、制服の上からも着られて普段着にもいける。欲しかった理想のコートで……」
熱く語るヒナに、サクラは軽い感じで「よかったね」
素知らぬふうを装っているが、こちらには分かる。あれは絶対やっている。なんならオーダーメイドの高級品を贈っている。絶対に。
(……つぅか、なんで毎年ヒナの欲しいもんを当てられるんだよ)
いくら賢いといっても、ヒナの頭の中まで覗けやしない。
奇跡ともいうべき確率でヒナの欲しい物をピタリと当てているのならば、まだまだ自分はサクラに敵わないことになる。
「おれのサンタさんは、本当におれのこと分かってくれてるな~」
サンタクロースの正体を前にして褒め称えるヒナに、ハヤトは眉を寄せて考えていた。
いつか、自分がヒナにプレゼントを贈れる日が来たとして、この笑顔と同じくらい喜ばせられるだろうか。
悩むハヤトは、ヒナが以前に話していた習慣を忘れている。
——おれ、欲しい物はいつもチェリーと相談して決めるんだ。無駄遣いしたくないから、真剣に会議する。
ハヤトは知らない。
ヒナの頭の中の情報は、わりと簡単にサクラのもとへ流れていることを……。
Happy holidays!
クラスメイトかつ寮生仲間のヒナが、神妙な顔でひっそりとハヤトに囁いてきた。
朝のカフェテリアは静かで人がいない。学園は数日前に冬休みに入っていて、寮生の大半は帰省している。冬季講座も昨日で終わり、残りはオンラインになる。カフェテリアも年末年始は閉まるらしく、ここでヒナとハヤトが共に食事をとるのも年内では残り数日。
おはようの代わりに「メリークリスマス!」と挨拶してきたヒナは、「いただきます」をするなり内緒話の声量で、
「サンタさんって、ほんとにいた」
「………………」
なに言ってんだ、お前。
素直にそう思ったし、素直にそう切り返そうと思ったが……目の前のヒナの顔が、本気だった。思わずパンで口が塞がったかのようにもぐもぐとして目だけを返した。
無言のハヤトに、ヒナは変わらない真面目なトーンで話し続ける。
「昔から、毎年クリスマスプレゼントがあったんだ。25日の朝、おれ宛のボックスに。おれ、てっきりずっと母さんだと思ってたんだけど……違うなってことに、昨日いきなり気づいてさ」
「(気づくの遅ぇな)」
「となると、あのプレゼントは施設からのプレゼントだったのかなって……思うだろ?」
パンを呑み込んで、「おお」
なんの話だろうと思いながらも肯定する。
「でも……今朝も、あったんだ。クリスマスプレゼント。さっき宅配ボックス確認したら、おれ宛に、あったんだ!」
「………………」
少しずつボリュームアップしていく声。あわせてヒナの目も輝きだした。
「信じられないよな? でも、ほんとにサンタさんなんだ。小さい頃からずーっと、おれの欲しいものをピタリと当ててきた。母さんじゃないなら、これはもうっ……本物のサンタさんしかないだろっ?」
いや、サクラ先生だろ、それ。
すぐさま脳裏で答えが出たが、口にできない。ヒナは拳を握って興奮ぎみに瞳をきらめかせている。
「おれ、自分で言うのもなんだけど良い子だし! 調べたらフィンランドにサンタクロース協会があるらしくって、おれって日本の良い子代表でプレゼント貰えてるんじゃないかなっ? すごいよな、おれの欲しい物を必ず届けてくれるんだ。10年以上ずーっとおれだけのサンタさんがいるんだ!」
妙に現実的な要素もありつつ。ヒナがたどり着いた答えにハヤトが返答を考えあぐねていると、カフェテリアのドアに人の気配が。
職員寮の方、開いたドアから入ってきたのは、
「あっ、サクラ先生!」
スーツではなく、黒のタートルネックにツイードのジャケット。幾分ラフな装いをした担任教員の姿があった。
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
休みの日にまで、なんで担任と顔を合わせないといけないのだろう。
疑問に思ったが、自分が帰省をやめたせいだと結論づいた。施設を出てしまったヒナは帰る場所がないらしく、年末年始も寮に残ると言うものだから……「俺も帰る予定ねぇよ」
気づいたら、そう告げていた。帰っても父親は多忙のため不在だろうし、とりたてて問題はない——が、そのときはそんなことまで頭が回っておらず。年末年始も独りじゃないと、喜んだヒナの顔だけが占めていた。
ふたりで、過ごすことになる。
ふたりきりで、年末年始の数日間を、一緒に。
(——なわけねぇよな。保護者を完全に忘れてた)
目の前で交わされる会話に細い目を送る。自然な流れでヒナの横に座ったサクラ。何故ここにいるのか。あんたはクリスマスを過ごす相手がいないのか。
胸中で不満をぶつけているハヤトのじっとりした視線を受け流して、サクラはヒナとクリスマスプレゼントの話をしていた。
「おれ、クリスマスプレゼントにコート貰ったんです! すっごい暖かいし、制服の上からも着られて普段着にもいける。欲しかった理想のコートで……」
熱く語るヒナに、サクラは軽い感じで「よかったね」
素知らぬふうを装っているが、こちらには分かる。あれは絶対やっている。なんならオーダーメイドの高級品を贈っている。絶対に。
(……つぅか、なんで毎年ヒナの欲しいもんを当てられるんだよ)
いくら賢いといっても、ヒナの頭の中まで覗けやしない。
奇跡ともいうべき確率でヒナの欲しい物をピタリと当てているのならば、まだまだ自分はサクラに敵わないことになる。
「おれのサンタさんは、本当におれのこと分かってくれてるな~」
サンタクロースの正体を前にして褒め称えるヒナに、ハヤトは眉を寄せて考えていた。
いつか、自分がヒナにプレゼントを贈れる日が来たとして、この笑顔と同じくらい喜ばせられるだろうか。
悩むハヤトは、ヒナが以前に話していた習慣を忘れている。
——おれ、欲しい物はいつもチェリーと相談して決めるんだ。無駄遣いしたくないから、真剣に会議する。
ハヤトは知らない。
ヒナの頭の中の情報は、わりと簡単にサクラのもとへ流れていることを……。
Happy holidays!
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