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小犬のワルツ
Chap.3 Sec.10
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微睡みのなかにいた。
心地のよい眠りによって弛緩した体は、やわらかな羽毛のぬくもりに包まれて——さらりさらりと、肌を撫でられる。
意識のうわずみを、くすぐられるような。
体に走る心地よさが、何か——おかしい、と。
気づいた瞬間に、目を覚ましていた。
「…………?」
尋ねるような声を出したつもりが、部屋には何も響かなかった。寝起きでうまく発せられなかった喉は、違和感をはっきりと捉えて、細い悲鳴をこぼした。
「……ああ、お目覚めでございますか?」
覆いかぶさるように体を重ねた相手は、ルネの声で優しく囁くと、頬を包むように手を添える。暗闇の広がる部屋では、その顔は見えない。
「なにをっ……しているの……」
「さて、なんでございましょう?」
耳許に近づけた唇で、くすりと鳴らしてみせる。吐息を浴びた耳に熱が宿り、首筋にかけて戦慄が走った。
ふふふ、と。やわらかな微笑みの音をこぼして、
「可愛いお嬢様のもとへ、夜這いに参りました」
「なにを言って……っ」
唇が、戸惑いの声を呑み込む。歯列を割って入る舌先が、わたしの舌を捕らえて熱く絡みついた。
何度も、唇の合わせ方を変えるようにして、深いくちづけを交わされる。力の抜ける体は、眠っているあいだに弄ばれていたのか、すでに蕩けていた。長い彼の指先が入り口を撫でると、ぬるりとした感触があった。
「ん……」
唇が離れると、自然と声がもれる。優しく触れる指先は、くるりくるりと動き回った。
「声を出しても、構いませんよ? ここは、馬車ではありませんから……」
首の根を吸うように、唇が音を立てる。ちゅ、ちゅ、と短い音を響かせて、軽いキスが首筋に落とされていく。その跡を結ぶように舌先が這うと、耐えきれない吐息が唇からあふれた。
目覚めのおぼつかない脳が、夢かうつつかも分からずに、官能をひらめかせていた。
「ルネっ……」
「なんでございましょう?」
「……なんで……」
「……理由が、必要でございましょうか?」
普段よりも甘い声が、なめらかに耳をくすぐる。
「お嬢様は、〈優しいルネ〉がお好みでございましょう? 嘘が下手ながらも、私との約束を守ってくださっているお嬢様に……ご褒美を差し上げようかと思いまして」
ごほうび——?
言葉だけが、頭に響く。
意味を捉えるよりも先に、その優しく滑らかな声が、耳許で、
「——愛しております。この世の誰よりも、私が、お嬢様をお慕いしております」
歌姫のピアノよりも、はるかに——甘く、とろけるような余韻が、耳を侵した。
じわりと浮かんだ涙が、どんな感情なのかも分からない。入り混じる気持ちで、ひどい——とさえ思った。欲しかった言葉を、こんなかたちで、こんな遣いかたで吐くなんて——酷い。
「……うそよ」
こぼれ落ちる涙に呟けば、温かな唇が、見えるはずもないのに——目許のひとしずくを、キスで掬いあげた。
「偽りではございませんよ」
「……うそよ、やめて……思ってもないことを……言わないで……」
「——本当に、私は、お嬢様だけを愛しく思っておりますよ」
「………………」
闇に溶けるように、涙があふれる。優しすぎる嘘は、あまりにも残酷だった。
——それなのに、うれしい、などと。
わずかでも高鳴る胸を、どうすればよいのか——。
ざわめく心のままに、深く沈む熱を、受け入れていた。
濡れそぼった中を貫かれながら、隙間なく唇を重ね合わせて、互いの吐息を閉じこめた。離れても、何度でも。すがりつくように、その舌先を追い求める。次第に境界は分からなくなって、ひとつに合わさっていく。
——いっそこのまま、ひとつに溶けてしまえたら。
願いに応えるかのように、動きが強まった。放された唇は高い嬌声と、いとしいひとの名を奏でる。
とろけた蜜口が濡れた音を立てると、その卑猥な響きが思考を掻き回した。
奥まで刺さるたびに腰が重なり、握った手を——まるで、ワルツを踊るときのように、わずかの間もなく合わせて。
「ルネっ……」
せっぱ詰まった声が、呼びかける。
応える声が、耳に寄る。
「——どうされました?」
「……わたし、ほんとうは……ずっと、ずっと前からっ……ルネのことが……」
——すきなの。
想いは、届かなかった。
伝えるはずだった言葉は、薄い唇によってきつく塞がれ、舌は搦めとられる。激しいキスによって、想いはすべて封じ込められた。
呼吸すらも奪い取り、熱く触れていた唇が、ようやく離れると。
彼は自身の指先を舐め、濡らしたそれを、繋がった入り口の上——小さく主張する肉芽へと、重ねた。
「ひぁっ……!」
脳裏で閃光が走り、腰が引けるほどの快感が中を締めつけた。擦れる刺激が、いっそう強く感じられる。彼の硬さも、よりいっそう。
——もう、頭の中から、まともな思考なんて吹き飛んでいた。
喉を突いて出る喘ぎ声は、言葉のかたちを結べない。
ふっと吐息で笑うルネが、とろりとした蜜の声で優しく囁いた。
「一晩中、愛して差し上げますよ……可愛いお嬢様」
心地のよい眠りによって弛緩した体は、やわらかな羽毛のぬくもりに包まれて——さらりさらりと、肌を撫でられる。
意識のうわずみを、くすぐられるような。
体に走る心地よさが、何か——おかしい、と。
気づいた瞬間に、目を覚ましていた。
「…………?」
尋ねるような声を出したつもりが、部屋には何も響かなかった。寝起きでうまく発せられなかった喉は、違和感をはっきりと捉えて、細い悲鳴をこぼした。
「……ああ、お目覚めでございますか?」
覆いかぶさるように体を重ねた相手は、ルネの声で優しく囁くと、頬を包むように手を添える。暗闇の広がる部屋では、その顔は見えない。
「なにをっ……しているの……」
「さて、なんでございましょう?」
耳許に近づけた唇で、くすりと鳴らしてみせる。吐息を浴びた耳に熱が宿り、首筋にかけて戦慄が走った。
ふふふ、と。やわらかな微笑みの音をこぼして、
「可愛いお嬢様のもとへ、夜這いに参りました」
「なにを言って……っ」
唇が、戸惑いの声を呑み込む。歯列を割って入る舌先が、わたしの舌を捕らえて熱く絡みついた。
何度も、唇の合わせ方を変えるようにして、深いくちづけを交わされる。力の抜ける体は、眠っているあいだに弄ばれていたのか、すでに蕩けていた。長い彼の指先が入り口を撫でると、ぬるりとした感触があった。
「ん……」
唇が離れると、自然と声がもれる。優しく触れる指先は、くるりくるりと動き回った。
「声を出しても、構いませんよ? ここは、馬車ではありませんから……」
首の根を吸うように、唇が音を立てる。ちゅ、ちゅ、と短い音を響かせて、軽いキスが首筋に落とされていく。その跡を結ぶように舌先が這うと、耐えきれない吐息が唇からあふれた。
目覚めのおぼつかない脳が、夢かうつつかも分からずに、官能をひらめかせていた。
「ルネっ……」
「なんでございましょう?」
「……なんで……」
「……理由が、必要でございましょうか?」
普段よりも甘い声が、なめらかに耳をくすぐる。
「お嬢様は、〈優しいルネ〉がお好みでございましょう? 嘘が下手ながらも、私との約束を守ってくださっているお嬢様に……ご褒美を差し上げようかと思いまして」
ごほうび——?
言葉だけが、頭に響く。
意味を捉えるよりも先に、その優しく滑らかな声が、耳許で、
「——愛しております。この世の誰よりも、私が、お嬢様をお慕いしております」
歌姫のピアノよりも、はるかに——甘く、とろけるような余韻が、耳を侵した。
じわりと浮かんだ涙が、どんな感情なのかも分からない。入り混じる気持ちで、ひどい——とさえ思った。欲しかった言葉を、こんなかたちで、こんな遣いかたで吐くなんて——酷い。
「……うそよ」
こぼれ落ちる涙に呟けば、温かな唇が、見えるはずもないのに——目許のひとしずくを、キスで掬いあげた。
「偽りではございませんよ」
「……うそよ、やめて……思ってもないことを……言わないで……」
「——本当に、私は、お嬢様だけを愛しく思っておりますよ」
「………………」
闇に溶けるように、涙があふれる。優しすぎる嘘は、あまりにも残酷だった。
——それなのに、うれしい、などと。
わずかでも高鳴る胸を、どうすればよいのか——。
ざわめく心のままに、深く沈む熱を、受け入れていた。
濡れそぼった中を貫かれながら、隙間なく唇を重ね合わせて、互いの吐息を閉じこめた。離れても、何度でも。すがりつくように、その舌先を追い求める。次第に境界は分からなくなって、ひとつに合わさっていく。
——いっそこのまま、ひとつに溶けてしまえたら。
願いに応えるかのように、動きが強まった。放された唇は高い嬌声と、いとしいひとの名を奏でる。
とろけた蜜口が濡れた音を立てると、その卑猥な響きが思考を掻き回した。
奥まで刺さるたびに腰が重なり、握った手を——まるで、ワルツを踊るときのように、わずかの間もなく合わせて。
「ルネっ……」
せっぱ詰まった声が、呼びかける。
応える声が、耳に寄る。
「——どうされました?」
「……わたし、ほんとうは……ずっと、ずっと前からっ……ルネのことが……」
——すきなの。
想いは、届かなかった。
伝えるはずだった言葉は、薄い唇によってきつく塞がれ、舌は搦めとられる。激しいキスによって、想いはすべて封じ込められた。
呼吸すらも奪い取り、熱く触れていた唇が、ようやく離れると。
彼は自身の指先を舐め、濡らしたそれを、繋がった入り口の上——小さく主張する肉芽へと、重ねた。
「ひぁっ……!」
脳裏で閃光が走り、腰が引けるほどの快感が中を締めつけた。擦れる刺激が、いっそう強く感じられる。彼の硬さも、よりいっそう。
——もう、頭の中から、まともな思考なんて吹き飛んでいた。
喉を突いて出る喘ぎ声は、言葉のかたちを結べない。
ふっと吐息で笑うルネが、とろりとした蜜の声で優しく囁いた。
「一晩中、愛して差し上げますよ……可愛いお嬢様」
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