【R18】好奇心に殺されたプシュケ

藤香いつき

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小犬のワルツ

Chap.3 Sec.10

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 微睡まどろみのなかにいた。
 心地のよい眠りによって弛緩しかんした体は、やわらかな羽毛のぬくもりに包まれて——さらりさらりと、肌を撫でられる。
 意識のうわずみを、くすぐられるような。
 体に走る心地よさが、何か——おかしい、と。

 気づいた瞬間に、目を覚ましていた。

「…………?」

 尋ねるような声を出したつもりが、部屋には何も響かなかった。寝起きでうまく発せられなかった喉は、違和感をはっきりと捉えて、細い悲鳴をこぼした。

「……ああ、お目覚めでございますか?」

 覆いかぶさるように体を重ねた相手は、ルネの声で優しくささやくと、頬を包むように手を添える。暗闇の広がる部屋では、その顔は見えない。

「なにをっ……しているの……」
「さて、なんでございましょう?」

 耳許に近づけた唇で、くすりと鳴らしてみせる。吐息を浴びた耳に熱が宿り、首筋にかけて戦慄せんりつが走った。
 ふふふ、と。やわらかな微笑みの音をこぼして、

「可愛いお嬢様のもとへ、夜這よばいに参りました」
「なにを言って……っ」

 唇が、戸惑いの声をみ込む。歯列を割って入る舌先が、わたしの舌を捕らえて熱く絡みついた。
 何度も、唇の合わせ方を変えるようにして、深いくちづけを交わされる。力の抜ける体は、眠っているあいだにもてあそばれていたのか、すでにとろけていた。長い彼の指先が入り口を撫でると、ぬるりとした感触があった。

「ん……」

 唇が離れると、自然と声がもれる。優しく触れる指先は、くるりくるりと動き回った。

「声を出しても、構いませんよ? ここは、馬車ではありませんから……」

 首の根を吸うように、唇が音を立てる。ちゅ、ちゅ、と短い音を響かせて、軽いキスが首筋に落とされていく。その跡を結ぶように舌先が這うと、耐えきれない吐息が唇からあふれた。
 目覚めのおぼつかない脳が、夢かうつつかも分からずに、官能をひらめかせていた。

「ルネっ……」
「なんでございましょう?」
「……なんで……」
「……理由が、必要でございましょうか?」

 普段よりも甘い声が、なめらかに耳をくすぐる。

「お嬢様は、〈優しいルネ〉がお好みでございましょう? 嘘が下手ながらも、私との約束を守ってくださっているお嬢様に……ご褒美を差し上げようかと思いまして」

 ごほうび——?
 言葉だけが、頭に響く。
 意味を捉えるよりも先に、その優しく滑らかな声が、耳許で、

「——愛しております。この世の誰よりも、わたくしが、お嬢様をお慕いしております」

 歌姫のピアノよりも、はるかに——甘く、とろけるような余韻が、耳をおかした。
 じわりと浮かんだ涙が、どんな感情なのかも分からない。入り混じる気持ちで、ひどい——とさえ思った。欲しかった言葉を、こんなかたちで、こんな遣いかたで吐くなんて——ひどい。

「……うそよ」

 こぼれ落ちる涙につぶやけば、温かな唇が、見えるはずもないのに——目許のひとしずくを、キスで掬いあげた。

「偽りではございませんよ」
「……うそよ、やめて……思ってもないことを……言わないで……」
「——本当に、私は、お嬢様だけをいとしく思っておりますよ」
「………………」

 闇に溶けるように、涙があふれる。優しすぎる嘘は、あまりにも残酷だった。
 ——それなのに、うれしい、などと。
 わずかでも高鳴る胸を、どうすればよいのか——。

 ざわめく心のままに、深く沈む熱を、受け入れていた。
 濡れそぼった中を貫かれながら、隙間なく唇を重ね合わせて、互いの吐息を閉じこめた。離れても、何度でも。すがりつくように、その舌先を追い求める。次第に境界は分からなくなって、ひとつに合わさっていく。

 ——いっそこのまま、ひとつに溶けてしまえたら。

 願いに応えるかのように、動きが強まった。放された唇は高い嬌声と、いとしいひとの名を奏でる。
 とろけた蜜口が濡れた音を立てると、その卑猥な響きが思考を掻き回した。
 奥まで刺さるたびに腰が重なり、握った手を——まるで、ワルツを踊るときのように、わずかの間もなく合わせて。

「ルネっ……」

 せっぱ詰まった声が、呼びかける。
 応える声が、耳に寄る。

「——どうされました?」
「……わたし、ほんとうは……ずっと、ずっと前からっ……ルネのことが……」

 ——すきなの。

 想いは、届かなかった。
 伝えるはずだった言葉は、薄い唇によってきつく塞がれ、舌はからめとられる。激しいキスによって、想いはすべて封じ込められた。

 呼吸すらも奪い取り、熱く触れていた唇が、ようやく離れると。
 彼は自身の指先をめ、濡らしたそれを、繋がった入り口の上——小さく主張する肉芽へと、重ねた。

「ひぁっ……!」

 脳裏で閃光せんこうが走り、腰が引けるほどの快感が中を締めつけた。こすれる刺激が、いっそう強く感じられる。彼の硬さも、よりいっそう。
 ——もう、頭の中から、まともな思考なんて吹き飛んでいた。

 喉を突いて出るあえぎ声は、言葉のかたちを結べない。
 ふっと吐息で笑うルネが、とろりとした蜜の声で優しく囁いた。

「一晩中、愛して差し上げますよ……可愛いお嬢様」
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