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オペラ座の幻影
Chap.5 Sec.5
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——唇を許してしまった。
とっさのことで立場的にも不可抗力だったとはいえ、そんな理屈が通じるだろうか。思い悩む胸はしくしくと痛み、夜中にルネがやってくるまで眠れやしなかった。
責め立てられるのだと不安に思って迎え入れたが、口を開いたルネは、
「ここ最近、きちんとお休みになっていらっしゃいますか?」
意外にもわたしの体を心配するようなセリフを。〈優しいルネ〉のほうで、ベッドに身を起こすわたしの顔をのぞきこんでくるものだから、困惑に眉を寄せてしまった。
「……怒ってないの?」
「怒られるようなことがございますか?」
「……約束を、すこし、破ったから……」
「ああ……」
思い当たった表情で、しかし怒ることなく、微笑みのまま頬に優しく触れた。
「小犬に咬まれた傷なら、私が消毒いたしましょうか」
ふっと唇を落として、柔らかく皮膚を合わせる。唇を食むようなキスが優しく繰り返され、だんだんと深まるにつれて、体がベッドに倒れ込んでいた。
「……え」
「……どうされました?」
戸惑いに声をもらせば、ルネが目を合わせて尋ねてくる。
なぜか、今後はもう彼と体を合わせることはないと思っていたから、当たり前のような展開に動揺していた。
「……脅さなくても、わたしはもう……誰にも話さないから……」
ぽそぽそと話してみると、なんとなく察したルネが、わたしの額から髪を梳くように指を通しながら、
「眠れていないのでしょう? お嬢様が倒れては困りますから……安眠を差し上げますよ」
「……安眠を、くれる?」
「ええ」
艶やかに微笑む唇で額にくちづけると、そのまま肌をたどって、頬や首筋に唇で触れていく。くすぐるような浅い感触で、肩や腕——指先まで。
いとしいものを愛でるみたいに、優しいキスを残していく唇は、慈しみしかないというのに。
肌に唇が重なるたび、触れた場所がじわりと熱を帯びる。体の底に、甘い疼きがひらめく。
「……ルネっ……」
「……なんでございましょう?」
「こんなの……安眠なんて、できない……」
「さようでございますか? では……中断しましょうか……?」
唇を寄せたまま話されると、吐息が肌を撫でるせいでぞわぞわする。鎖骨に掛かる息が、耐えきれず肌を震わせた。
自然ともれる熱い吐息に、顔を離したルネが首を傾けて問いかける。
「いかがなさいますか?」
「………………」
良き執事として尋ねる顔は、優しい。わたしを想うような瞳で、真摯なまなざし。
でも、ほのかに笑みを纏う唇が、甘く誘惑している。
答えをためらっている間に、長い指が肌をなぞった。耳の後ろから滑り込み、戯れるようにして、首根までをさわりとくすぐる。
「ん……」
勝手に口から出た吐息に、ルネは笑って「続けましょうか?」と。答えを待たず、今度は指先も合わせて肌をなぞっていく。
唇は首筋に優しく吸いつき、手は脚をするすると撫で、体の熱は煽られるばかり……
「……お嬢様、じっとしていてくださいね?」
悪戯でもするみたいに囁くと、理解しないわたしを残して、ルネは頭を下げた。胸よりも下に——どこへ行くのだろうと恋しく思ってしまったわたしの脚に手を掛けると、すこし強い力で開かせて、
「——あ、やっ」
何をされるのか、理解した瞬間に抵抗しようとしたけれど遅かった。
素肌を晒している脚の付け根へと、薄い唇を当てられる。ぬるりと舌が這う感触に声がこぼれた。
「ルネっ……やめて、恥ずかしい……」
逃げようとしたが、細くなぞりあげるような舌の動きに力が入らず、脚を押さえる手をどかすこともできない。キスの跡をつけるみたいに膨らんだ芽に柔らかく吸いつかれて、喉からは高い声が響いた。
吸いつかれたまま中に指が差し込まれ、優しい動きで動かされると——とろりと頭が溶けそうな心地がする。
「ふっ……んん……」
涙にむせたような声と、濡れた音が鳴っていた。ルネが持ち込んだランプの明かりがゆらゆらとして、ほてった頬を照らしている。
熱くとろける内部は、頼りない指の動きだけでは徐々に物足りなくなっていた。
「ルネ……お願いだからっ……もう、やめて……」
「……やめてほしいのですか?」
顔を上げたルネは、優しく微笑んで首をかしげる。その下で、くちゅりと深く沈む指が、卑猥な音を立てて誘った。
「……ルネが…………」
「聞こえません……なんと仰っているのでしょう?」
「……ルネがいいの。ルネじゃなきゃ、だめなの……だからっ……」
最後まで言わずとも、ルネは何か別のことを思い出したように小さく微笑みの息を落とした。
「——そうでしたね。昔から、甘えるときは口癖のようにそう仰っていましたね」
なんの話をしているのか分からなかった。
けれども、入り口にあてがわれた硬い熱が意識を攫って、もうそれ以上は考えられず——
ぐっ、と。奥まで押し進められる感覚と、指では満たされなかった中をすべて埋め尽くしていく充足感に、官能の熱が強く沸き立った。
はしたない声を抑えようと手で口を覆ったのに、その手はルネによって搦め捕られる。両手とも、指を貝のように互い違いに絡めて、ぎゅっと強く握り込まれた。腰が突き動かされるたびに抑えられない声がこぼれて、乱れるわたしを見つめる炎色の眼に、恥ずかしさで脳が灼けてしまいそうだった。
羞恥なのか快楽なのかも分からない涙が浮かぶと、ルネは少しだけ困ったように笑って、わたしの耳許に唇を寄せ、
「恥じらう顔も、泣き顔も……私は可愛く思いますよ」
熱のこもった声で唱えると、柔らかくキスを交わす。
愛しげに、甘く深く絡みつくそのくちづけは——本当の恋人のようで。
幻の愛の余韻は、その一夜だけは悪夢を払ってくれた。
でも、これは——この先に待ち受ける、本当の悪夢へと招くための餌に思えてならなかったけれど……。
とっさのことで立場的にも不可抗力だったとはいえ、そんな理屈が通じるだろうか。思い悩む胸はしくしくと痛み、夜中にルネがやってくるまで眠れやしなかった。
責め立てられるのだと不安に思って迎え入れたが、口を開いたルネは、
「ここ最近、きちんとお休みになっていらっしゃいますか?」
意外にもわたしの体を心配するようなセリフを。〈優しいルネ〉のほうで、ベッドに身を起こすわたしの顔をのぞきこんでくるものだから、困惑に眉を寄せてしまった。
「……怒ってないの?」
「怒られるようなことがございますか?」
「……約束を、すこし、破ったから……」
「ああ……」
思い当たった表情で、しかし怒ることなく、微笑みのまま頬に優しく触れた。
「小犬に咬まれた傷なら、私が消毒いたしましょうか」
ふっと唇を落として、柔らかく皮膚を合わせる。唇を食むようなキスが優しく繰り返され、だんだんと深まるにつれて、体がベッドに倒れ込んでいた。
「……え」
「……どうされました?」
戸惑いに声をもらせば、ルネが目を合わせて尋ねてくる。
なぜか、今後はもう彼と体を合わせることはないと思っていたから、当たり前のような展開に動揺していた。
「……脅さなくても、わたしはもう……誰にも話さないから……」
ぽそぽそと話してみると、なんとなく察したルネが、わたしの額から髪を梳くように指を通しながら、
「眠れていないのでしょう? お嬢様が倒れては困りますから……安眠を差し上げますよ」
「……安眠を、くれる?」
「ええ」
艶やかに微笑む唇で額にくちづけると、そのまま肌をたどって、頬や首筋に唇で触れていく。くすぐるような浅い感触で、肩や腕——指先まで。
いとしいものを愛でるみたいに、優しいキスを残していく唇は、慈しみしかないというのに。
肌に唇が重なるたび、触れた場所がじわりと熱を帯びる。体の底に、甘い疼きがひらめく。
「……ルネっ……」
「……なんでございましょう?」
「こんなの……安眠なんて、できない……」
「さようでございますか? では……中断しましょうか……?」
唇を寄せたまま話されると、吐息が肌を撫でるせいでぞわぞわする。鎖骨に掛かる息が、耐えきれず肌を震わせた。
自然ともれる熱い吐息に、顔を離したルネが首を傾けて問いかける。
「いかがなさいますか?」
「………………」
良き執事として尋ねる顔は、優しい。わたしを想うような瞳で、真摯なまなざし。
でも、ほのかに笑みを纏う唇が、甘く誘惑している。
答えをためらっている間に、長い指が肌をなぞった。耳の後ろから滑り込み、戯れるようにして、首根までをさわりとくすぐる。
「ん……」
勝手に口から出た吐息に、ルネは笑って「続けましょうか?」と。答えを待たず、今度は指先も合わせて肌をなぞっていく。
唇は首筋に優しく吸いつき、手は脚をするすると撫で、体の熱は煽られるばかり……
「……お嬢様、じっとしていてくださいね?」
悪戯でもするみたいに囁くと、理解しないわたしを残して、ルネは頭を下げた。胸よりも下に——どこへ行くのだろうと恋しく思ってしまったわたしの脚に手を掛けると、すこし強い力で開かせて、
「——あ、やっ」
何をされるのか、理解した瞬間に抵抗しようとしたけれど遅かった。
素肌を晒している脚の付け根へと、薄い唇を当てられる。ぬるりと舌が這う感触に声がこぼれた。
「ルネっ……やめて、恥ずかしい……」
逃げようとしたが、細くなぞりあげるような舌の動きに力が入らず、脚を押さえる手をどかすこともできない。キスの跡をつけるみたいに膨らんだ芽に柔らかく吸いつかれて、喉からは高い声が響いた。
吸いつかれたまま中に指が差し込まれ、優しい動きで動かされると——とろりと頭が溶けそうな心地がする。
「ふっ……んん……」
涙にむせたような声と、濡れた音が鳴っていた。ルネが持ち込んだランプの明かりがゆらゆらとして、ほてった頬を照らしている。
熱くとろける内部は、頼りない指の動きだけでは徐々に物足りなくなっていた。
「ルネ……お願いだからっ……もう、やめて……」
「……やめてほしいのですか?」
顔を上げたルネは、優しく微笑んで首をかしげる。その下で、くちゅりと深く沈む指が、卑猥な音を立てて誘った。
「……ルネが…………」
「聞こえません……なんと仰っているのでしょう?」
「……ルネがいいの。ルネじゃなきゃ、だめなの……だからっ……」
最後まで言わずとも、ルネは何か別のことを思い出したように小さく微笑みの息を落とした。
「——そうでしたね。昔から、甘えるときは口癖のようにそう仰っていましたね」
なんの話をしているのか分からなかった。
けれども、入り口にあてがわれた硬い熱が意識を攫って、もうそれ以上は考えられず——
ぐっ、と。奥まで押し進められる感覚と、指では満たされなかった中をすべて埋め尽くしていく充足感に、官能の熱が強く沸き立った。
はしたない声を抑えようと手で口を覆ったのに、その手はルネによって搦め捕られる。両手とも、指を貝のように互い違いに絡めて、ぎゅっと強く握り込まれた。腰が突き動かされるたびに抑えられない声がこぼれて、乱れるわたしを見つめる炎色の眼に、恥ずかしさで脳が灼けてしまいそうだった。
羞恥なのか快楽なのかも分からない涙が浮かぶと、ルネは少しだけ困ったように笑って、わたしの耳許に唇を寄せ、
「恥じらう顔も、泣き顔も……私は可愛く思いますよ」
熱のこもった声で唱えると、柔らかくキスを交わす。
愛しげに、甘く深く絡みつくそのくちづけは——本当の恋人のようで。
幻の愛の余韻は、その一夜だけは悪夢を払ってくれた。
でも、これは——この先に待ち受ける、本当の悪夢へと招くための餌に思えてならなかったけれど……。
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