とあるクラスの勇者30人

倉箸🥢

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生きて欲しかっただけなんだ

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「うわわわ…!23対23で引き分けだ…!」

スクリーン越しに映し出される坂木先生との戦いを眺めながら皐月は言った。
星流が高らかに放った言葉が誇らしく嬉しさを感じる。

「そろそろ、私たちも動きだそうか?」

芽依がそう言うと、志恩が手早く準備をする。マイクの前で喋るとその音声がリアルタイムで他の皆の耳に付いているイヤホンに届く。そうして誘導する事が出来るのだ。

友樹がマイクに向けてひとつ、息を吸う。

「マイクテスト、マイクテスト、聞こえる?」

*

「え、友樹…?」

凛が小さく答えた。
突然耳から聞こえた聞き馴染みのある声に、皆動揺し始めた。

『しーっ、静かに、今俺達はスクリーン越しに皆を見てるんだ。よければ俺達の指示に従ってほしい。』

友樹は早く、けれど丁寧に伝えた。こんな時に飲み込みの早い花火は小さく答える。

「…おっけぃ、とりあえずよろしくね」

ぼそぼそと聞こえる囁かな声に
坂木先生は気がつくと、察したのか、察していないのか読めない表情で訊ねた。

「どうした?なんか聞こえるのか?」

皆答える言葉が見つからなく、
何故か涼太に視線が集まった。
クラス1番に背が高いからか、自然と、強そうな人に視線が行っていた。

「…え、なんで俺…え…」

涼太は戸惑いながらも集まる視線から逃げるように決意を決めた。

「…………な、なんか虫…?の音が聞こえたような気がして…」

涼太は苦し紛れに答えた。
そうすると坂木先生は嘲笑うかのように痛い所を突いていった。

「…虫?こんな真っ白な意識の世界の中で虫なんかいる訳無いでしょう?本当は?」

「…っ、じゃあ気のせいです!」

涼太は言葉に詰まりながらも反発した。中々に本当の事を言わない涼太に坂木先生は苛立ったのか荒手な行動に出た。

「…わかってんだよ、ほら、見せてみろ。」

「い"っ…! 痛い、やめろ…!」

涼太の腕を後ろに掴み、腕を曲がってはいけない方向に折れない程度に引っ張っていく。
そして涼太の左耳からイヤホンを取り出した。

「ほら、見つけた。誰だ?話してるのは」

坂木先生はイヤホンを耳に付けると
涼太を押し飛ばした。涼太は地面に倒れ込むと先生を睨みつけた。

「…おい、聞こえてる?そこに居るんだろう?」


*

しまった。友樹は瞬時にそう思った。
スピーカーから聞こえる坂木先生の声に
どうも息が詰まる。呼吸ひとつ許されるかもわからない雰囲気に、皆口を塞いだ。

『…1…2…3…4…5……結構いるんだな?』

いくら口を塞いでもやはり息が漏れていたのか坂木先生に呆気なくバレてしまった。
こうなれば仕方がない。
友樹はマイクに向かって声を発した。

「…そうです。今、この場には俺と皐月と将太と志恩と…芽依先輩が居ます」

『…芽依?』

芽依の名前を耳に入れた瞬間、坂木先生の
顔が険しくなった。芽依は焦った様な表情を浮かべると足早にこの場を立ち去った。

『…まあ、いいや。後で話を聞いてみようか。それにしても、見られているのはちょっと気味が悪いからね、言いたい事わかる?』

坂木先生はあえて伝えなかった。
察した友樹は、最後にひとつ、訊ねた。

「…先生は、何故こんな事をするんですか?俺達の為なんですか?」

『…は?』

「集団食中毒で俺達が死んで、それを追いかけるかのように先生方も死んだと聞きました。なんで、こんな事をするんですか…俺は、どうせなら先生2人には…生きてて欲しかった…」

今にも泣きそうな声で、友樹は言った坂木先生も辛そうに顔を歪ませた。
そうして、溜めていたものを爆発させるかのように叫んだ。

『うるせぇな!生きてたってどうしようも無かったんだよ!!どんな気持ちで生きてたか、どんな環境で生きてたか わかるか!?
何処にいようと周りの目が気持ち悪くて!
抉るように記者がやってきて!どんどん薬の量が増えていって!!こんなんじゃ生きてたって仕方なかったじゃないか!!』

感情のままに坂木先生は叫んだ。
林道先生も辛そうに目を逸らすから、余計に友樹は自分の発言に重みを感じた。

『…そんな時に、ふと思い出したんだよ。
いつか放課後に花火さんと話した事をさ。
このクラスがRPGの世界にいたら楽しいと思わないか?って、だったら先生は大魔王になってやるって、話をしてたんです」

花火は目を丸くした。
___あったっけ、そんなこと。
するといきなり奥底に眠っていた記憶が溢れ出した。運動会も、学芸会も、色々な記憶が鮮明に蘇った。

『…あ、』

花火は全て思い出した。
突然溢れ出た記憶に頭が追いついて行かなく、放心状態のまま、突っ立っていた。

『とりあえず…先生はもうどうにもすることは出来ない…もう、全てを終わらせる』

坂木先生はそう放つと意識の世界から消えていった。皆声を上げるも、坂木先生には届かなかった。

「おい志恩!!どうやったら意識の世界から出れるんだ!?」

友樹が焦ったように叫んだ。
志恩はあたふたとマイクに向かい、声を上げた

「今から私がその世界の電源を切るから、そうしたら出てこれるよ!!目を瞑って!」

ぎゅっ、と皆目を瞑る。

「坂木先生を、探すよ!」

志恩は高らかに放つと、意識の世界の電源を落とした。
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