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第二部 白:奈佐原高校チェス同好会feat.鷺沢悠 黒:鮎川凛久 20xx年10月x日
12:白のポーンはナイトに守られていて、取ることはできない(12.h4 Qg6)
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俺が鮎川に、拉致同然でスマホの電波入んない山奥に連れていかれた、その翌朝。
なんかクラスの女子が変だ、と思った。
朝、俺が教室に入っていくなり俺の顔を見て、くすくす笑う。
スマホ片手にその画面と俺の顔を交互に見て、きゃあきゃあ悲鳴混じりに笑う。
何なんだよ、と思っていたら、名簿順が前後だから女子の中ではわりと喋ることの多い西野が、ニキって寝顔めっちゃ可愛いね、と言ってきて愕然とした。
「寝顔? え、ちょっと意味わかんないんだけど」
「二人、絶対デキてるって噂んなってるよ」
そう言うと、西野は自分のスマホの画面を俺に提示してきた。
そこには鮎川の肩に凭れかかって爆睡してる俺の寝顔と、自撮りし慣れたカメラ目線の、いかにも優しげな鮎川の微笑が写っていた。
しかもその鮎川の頭が、ちょっと俺のほうに寄せて傾いてる。
クソ鮎川。
教室じゅうを高速で見回したけど、鮎川の姿はない(鷺沢は一人でいる)。
何なんだよあいつ。
「クッソ鮎川!」
俺が叫ぶと、鷺沢がちょっとうんざりした視線をこっちに向けてくる。
いや悪いのは俺じゃないよ。鮎川なんだよ。
と、その鷺沢が俺のところまでわざわざ来て、「凛久が何かした?」と訊いてきた。
「俺が寝てる隙に撮った画像、女子に晒した」
鷺沢の目のうんざり度がさらに上がった。
だから悪いのは俺じゃないって。
「っていうかさ、凛久の隣で寝るってどういうシチュエーションなの」
「いやなんか話の流れで飯食い行くことんなって、帰りのタクシーでちょっと寝ちゃっただけで」
鷺沢はそこで初めて、少しだけ驚いた顔をした。そりゃそうだろう、俺と鮎川はほとんど口を利いたこともないくらいの、友達とはかけ離れた、というかただ無関係だったんだから。
「どんな話の流れでそうなるわけ? あんたが凛久と関わるなんて知ってたら、もうちょっと早く忠告したのに。凛久って普通に性格悪いから、色々気をつけたほうがいいよ」
何だよ騙されるとこだったよ。
「その情報、昨日までに知っときたかった」
俺が言うと、鷺沢はちょっと肩を竦めた。
「知っててもごはんくらいは行ったんじゃないの」
クソ可愛くない、と思ったら、まあ自業自得だよね、と追い打ちをかけられた。
お前もそこそこ性格悪いな。
ムカつくことに鮎川は、遅刻ぎりぎりで来たと思ったらまっすぐ俺のところに来て、おはようニキ、と言ってわざとらしく俺の肩に手を置いた。
またしても女子のきゃあきゃあ。
「ふざけんなよ」
俺が振り払うと、またしても女子のくすくす。
ツンデレ、とか言ってる奴までいる。
言っとくけど俺は鮎川相手にデレたことは一回もないからな。
「何でこんなことした?」
「ただの気晴らし。それと」
そう答えてから鮎川は俺にめちゃくちゃ顔を近づけて、耳元で囁いてきた。「お前を、あの目つきの悪い奴から略奪したくなったから」
こいつマジで、性根どうにかしたほうがいいんじゃないか。
そこで担任が入って来て、俺は鮎川を睨みつけたものの、鮎川は余裕の笑みを浮かべて自分の席に座った。
クソ鮎川。
昼休み、航太が姿を見せなかったので俺は大宮のところに行った。
昨夜のスタジオ視察の顛末は既にスマホに送られてきていて、その礼を対面で言いたかったのと、鮎川との間に生じた厄介ごとの報告と、それへの対策としてやむを得ず俺と付き合ってることにして欲しいという、もうこれ大宮の目つきが過去一ヤバくなるやつっていう依頼を、しなきゃならなかったから。
「本っ当、申し訳ない」
俺が月曜夜の鮎川との経緯を全部ぶちまけると、大宮は予想通り、過去一ヤバい目で俺を睨んできた。もちろん悪いのは完全にこっちだから、どう言い訳もできない。
背筋が凍る思いの数秒間が無言のうちに過ぎていき、その後で大宮は言った。
別にお前は悪くない、と。
「鮎川が勝手に勘違いして勝手にお前を口説いてきて、お前はそれを切り抜けるために必要な手を指しただけだ。別に、お前が俺に謝るようなことじゃない」
なんて素晴らしく理性的で寛容なんだ、大宮。
そんだけ理性的なのに、目つきだけやっぱ怖すぎるのは何でなんだ。
「一応、確認だけさせてくれ」
「あ、うん何を」
「鮎川が、お前が眠ってるのをいいことに無断で写真撮って、それをさらに無断で、クラスの女子に晒したんだな」
「そう。マジ性格悪い奴でさ」
「今いるのか」
「へ?」
「教室に鮎川、いるのか?」
俺はその時点で初めて気づいた。大宮の目つきが、怖いは怖いんだけどいつもの氷点下じゃない。イメージで言えばいつもの青くて冷たい鬼火じゃなく、木炭の奥で赤い熾火が燃えてる感じ。
「いや、そりゃいるけど、大宮?」
大宮はいきなり、がたん、と椅子を蹴って立ち上がった。
素晴らしく理性的なはずの大宮が、驚いた周囲の視線が集中しているにも関わらず、そのまま教室を出て廊下をずんずん歩き出した。
「いや、ちょっと大宮?」
慌てて後ろから追いかける。
大宮は俺を無視して、歩調を一切緩めないまま俺のクラスの教室に入っていき、押し殺したような絞り出すような声で、鮎川、と呼んだ。
一瞬で教室中が静まり返った。
うわ、どうすんだよ大宮。
当の鮎川は、昨夜俺が見せたツーショットの相手だと気づいたんだろう、腹の立つことに露骨に面白がるような顔つきで立ち上がり、大宮と相対した。
「俺に何か用?」
大宮はいきなり鮎川の胸倉を掴んで、めちゃくちゃガラ悪い奴みたいに至近距離で鮎川を睨みつけた。
「昨日の画像、さっさと消せ。そんでこれ以上、ニキに関わるな」
あの眼つきで至近距離は普通なら怯む。
けど、鮎川はまだ笑っていた。
「お前に口出しされる理由はないと思うけど? ニキが本気でお前と付き合ってるなんて、俺は一瞬も信じてないよ」
「ニキ、こいつ殴っていいか」
大宮が言う。
全然、殴っていいよ。殴っていいけど、殴ったらお前が面倒なことになる。
殴るのは無しで、と俺は答えた。
「ニキ、俺を巻き込んで正解だよ。こいつ、お前の手に負える奴じゃない」
大宮は言って次の瞬間、鮎川の腹に膝頭を叩き込んだ。
なんかクラスの女子が変だ、と思った。
朝、俺が教室に入っていくなり俺の顔を見て、くすくす笑う。
スマホ片手にその画面と俺の顔を交互に見て、きゃあきゃあ悲鳴混じりに笑う。
何なんだよ、と思っていたら、名簿順が前後だから女子の中ではわりと喋ることの多い西野が、ニキって寝顔めっちゃ可愛いね、と言ってきて愕然とした。
「寝顔? え、ちょっと意味わかんないんだけど」
「二人、絶対デキてるって噂んなってるよ」
そう言うと、西野は自分のスマホの画面を俺に提示してきた。
そこには鮎川の肩に凭れかかって爆睡してる俺の寝顔と、自撮りし慣れたカメラ目線の、いかにも優しげな鮎川の微笑が写っていた。
しかもその鮎川の頭が、ちょっと俺のほうに寄せて傾いてる。
クソ鮎川。
教室じゅうを高速で見回したけど、鮎川の姿はない(鷺沢は一人でいる)。
何なんだよあいつ。
「クッソ鮎川!」
俺が叫ぶと、鷺沢がちょっとうんざりした視線をこっちに向けてくる。
いや悪いのは俺じゃないよ。鮎川なんだよ。
と、その鷺沢が俺のところまでわざわざ来て、「凛久が何かした?」と訊いてきた。
「俺が寝てる隙に撮った画像、女子に晒した」
鷺沢の目のうんざり度がさらに上がった。
だから悪いのは俺じゃないって。
「っていうかさ、凛久の隣で寝るってどういうシチュエーションなの」
「いやなんか話の流れで飯食い行くことんなって、帰りのタクシーでちょっと寝ちゃっただけで」
鷺沢はそこで初めて、少しだけ驚いた顔をした。そりゃそうだろう、俺と鮎川はほとんど口を利いたこともないくらいの、友達とはかけ離れた、というかただ無関係だったんだから。
「どんな話の流れでそうなるわけ? あんたが凛久と関わるなんて知ってたら、もうちょっと早く忠告したのに。凛久って普通に性格悪いから、色々気をつけたほうがいいよ」
何だよ騙されるとこだったよ。
「その情報、昨日までに知っときたかった」
俺が言うと、鷺沢はちょっと肩を竦めた。
「知っててもごはんくらいは行ったんじゃないの」
クソ可愛くない、と思ったら、まあ自業自得だよね、と追い打ちをかけられた。
お前もそこそこ性格悪いな。
ムカつくことに鮎川は、遅刻ぎりぎりで来たと思ったらまっすぐ俺のところに来て、おはようニキ、と言ってわざとらしく俺の肩に手を置いた。
またしても女子のきゃあきゃあ。
「ふざけんなよ」
俺が振り払うと、またしても女子のくすくす。
ツンデレ、とか言ってる奴までいる。
言っとくけど俺は鮎川相手にデレたことは一回もないからな。
「何でこんなことした?」
「ただの気晴らし。それと」
そう答えてから鮎川は俺にめちゃくちゃ顔を近づけて、耳元で囁いてきた。「お前を、あの目つきの悪い奴から略奪したくなったから」
こいつマジで、性根どうにかしたほうがいいんじゃないか。
そこで担任が入って来て、俺は鮎川を睨みつけたものの、鮎川は余裕の笑みを浮かべて自分の席に座った。
クソ鮎川。
昼休み、航太が姿を見せなかったので俺は大宮のところに行った。
昨夜のスタジオ視察の顛末は既にスマホに送られてきていて、その礼を対面で言いたかったのと、鮎川との間に生じた厄介ごとの報告と、それへの対策としてやむを得ず俺と付き合ってることにして欲しいという、もうこれ大宮の目つきが過去一ヤバくなるやつっていう依頼を、しなきゃならなかったから。
「本っ当、申し訳ない」
俺が月曜夜の鮎川との経緯を全部ぶちまけると、大宮は予想通り、過去一ヤバい目で俺を睨んできた。もちろん悪いのは完全にこっちだから、どう言い訳もできない。
背筋が凍る思いの数秒間が無言のうちに過ぎていき、その後で大宮は言った。
別にお前は悪くない、と。
「鮎川が勝手に勘違いして勝手にお前を口説いてきて、お前はそれを切り抜けるために必要な手を指しただけだ。別に、お前が俺に謝るようなことじゃない」
なんて素晴らしく理性的で寛容なんだ、大宮。
そんだけ理性的なのに、目つきだけやっぱ怖すぎるのは何でなんだ。
「一応、確認だけさせてくれ」
「あ、うん何を」
「鮎川が、お前が眠ってるのをいいことに無断で写真撮って、それをさらに無断で、クラスの女子に晒したんだな」
「そう。マジ性格悪い奴でさ」
「今いるのか」
「へ?」
「教室に鮎川、いるのか?」
俺はその時点で初めて気づいた。大宮の目つきが、怖いは怖いんだけどいつもの氷点下じゃない。イメージで言えばいつもの青くて冷たい鬼火じゃなく、木炭の奥で赤い熾火が燃えてる感じ。
「いや、そりゃいるけど、大宮?」
大宮はいきなり、がたん、と椅子を蹴って立ち上がった。
素晴らしく理性的なはずの大宮が、驚いた周囲の視線が集中しているにも関わらず、そのまま教室を出て廊下をずんずん歩き出した。
「いや、ちょっと大宮?」
慌てて後ろから追いかける。
大宮は俺を無視して、歩調を一切緩めないまま俺のクラスの教室に入っていき、押し殺したような絞り出すような声で、鮎川、と呼んだ。
一瞬で教室中が静まり返った。
うわ、どうすんだよ大宮。
当の鮎川は、昨夜俺が見せたツーショットの相手だと気づいたんだろう、腹の立つことに露骨に面白がるような顔つきで立ち上がり、大宮と相対した。
「俺に何か用?」
大宮はいきなり鮎川の胸倉を掴んで、めちゃくちゃガラ悪い奴みたいに至近距離で鮎川を睨みつけた。
「昨日の画像、さっさと消せ。そんでこれ以上、ニキに関わるな」
あの眼つきで至近距離は普通なら怯む。
けど、鮎川はまだ笑っていた。
「お前に口出しされる理由はないと思うけど? ニキが本気でお前と付き合ってるなんて、俺は一瞬も信じてないよ」
「ニキ、こいつ殴っていいか」
大宮が言う。
全然、殴っていいよ。殴っていいけど、殴ったらお前が面倒なことになる。
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