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第二部 白:奈佐原高校チェス同好会feat.鷺沢悠 黒:鮎川凛久 20xx年10月x日
18:白の躊躇と黒の誤算(18. Bd6 Bxg8)
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鷺沢をしばらく鮎川と会わせたくない、という無茶なメッセージが昨夜、航太から送られてきて(同じクラスなんだからどうやったって会っちゃうだろ)、どうすればいいんだよと思ってたら、鷺沢は登校してこなかった。
そして、鮎川も来てない。
これはなんかマズい状況なのか、と思って航太に返信してみたけど、既読がつかない。
航太まで来てないって解ったのは、昼休みになってからだった。
なんか面倒なことになってなければいいんだけど、トラブル続きの俺には楽観できない。
そしたら昼休みが終わる頃になってやっと航太から、鷺沢と一緒に家にいる、と返って来た。
何だ、鷺沢は航太と一緒にいんのか。
じゃあ鮎川はどこ行ったんだよ?
こっちは朝から大宮に付き添われて登校して、大宮は俺を教室まで送って来てチャイムが鳴るぎりぎりまで一緒にいて周囲をざわつかせて、鮎川が来なくて肩透かしを食って、明らか機嫌を損ねて自分の教室に戻って行った。
「誰か鷺沢さんの居場所を知ってる人? 昨夜から家に帰ってないらしいんだけど」
担任が入ってきたと思ったら開口一番そう言った。
爆速でまた航太にメッセージ送る。
〈鷺沢が行方不明扱いになってる〉
〈昨日からずっとうちにいる〉
〈それ担任に言っていい?〉
鷺沢に確認してるっぽい間があって、返事が来た。
〈別にいい〉
「あの俺、知ってます」
担任は自分が訊いておきながら、まさかそんなあっさり手が上がると思ってなかったらしく大袈裟に「本当か!」と反応した。
「他のクラスの友達んちにいるらしいです」
「そうか? それで別に、何も変わった様子はないのか?」
「体調悪くて休むって、その友達の親が連絡入れたって言ってます」
「いや学校には電話あったらしいんだけど、本人のご両親が何もご存知なくて。昨日から帰ってないし連絡もつかないって、大騒ぎになってるんだよ」
まさかの無断外泊。
とりあえず無事で良かった、と言って、担任が航太んちと鷺沢んちに両方連絡入れて、まあ一件落着、みたいな感じになった。
鮎川がいないなら俺の警護をする必要もないっていう判断だろうけど、大宮は昼休みには顔を見せなかった。
それを見越したみたいに、鮎川が大幅な遅刻で登校してくる。
俺の顔をちらっと見て、そのくせ何も言わずに、むっつり黙ったまま自分の席についた。
なんか顔色がめちゃめちゃ悪い。昨夜一睡もしてないみたいに見える。
こういう時、構わずに放っておけ、と俺の本能は警告してくる。
だけど俺の理性は、具合の悪そうな奴を放っとくのか、と咎めてくる。
「鮎川? どうかした?」
声を掛けてみると、鮎川は昨日とは打って変わって不愛想に、どうもしてない、と答えた。
「どうもしてないようには見えないんだけど」
「…悠のせいで面倒なことになっただけだよ」
「鷺沢のせい? それってどういうこと」
だって航太が、鷺沢を鮎川と会わせたくないって言ってきてた。
それは鮎川が鷺沢の害になるっていう意味で、その逆では絶対にない。
「だって実際あいつのせいなんだよ」
ふうん、と思った。
こいつ、話したくない癖に黙ってもいられないわけか。
俺の柄じゃないけど、ここは止むを得ない。
「ねえ鮎川、誰にも言わないからさ、俺にだけ教えてよ」
鮎川の肩に手を掛けて、耳元に囁いてみる。
明らかに、鮎川はちょっとたじろいだ。
「鷺沢が何したわけ?」
質問を重ねると、鮎川は鷺沢への怒りと俺に喋ることのリスクを天秤にかけ、前者のほうが重いと踏んだらしい。
「会う予定だった相手との約束を、すっぽかしたんだよ」
俺はさらに鮎川に身体を寄せた。
「それと鮎川と、どういう関係があんの」
「俺が段取りした予定だったから」
なるほど。鮎川は俺が何も知らないと思ってるわけだ。
「あいつ昨夜からずっとスマホの電源切ってて、それで相手が俺に文句言ってきて、代わりに俺が呼び出された」
「それで?」
もう充分、察しはついてたけど、嫌がらせに訊いてやった(最近、大宮の陰険な性格がうつってきた気がする)。
鮎川は横目で探るように俺を見て、それからすぐその目を背けた。
「お前に関係ないだろ」
それが答えだった。
要するに、行かなかった鷺沢の代役。
解答にたどり着く方法はひとつじゃない。
チェスの下手な俺にだって、一応それなりの脳味噌は備わってる。
俺は俺なりに考えて、やっぱ月曜の夜七時は怪しい、と踏んでた。
そもそも夜に人目の届かない場所を選んでるっていうのが引っ掛かったし、航太がその同じ部屋で鷺沢に迫られたっていうのも気になった。
大宮が偵察に行った結果、鮎川と鷺沢の線は無し、という結論にはなったけど、じゃあそこで鷺沢が会ってる奴は本当に無害なのかっていうと、そこのところの保証は全然されてない。
「ひとつ確認したいんだけど、鷺沢とはまだ連絡つかない?」
「ああ」
鷺沢が航太んちにいるってこと、遅刻してきたこいつは知らないわけだろ。
「それじゃ、鷺沢に何かあったんじゃないかとか思わない? 事件とか事故とか体調悪くしてるんじゃないかとか、そういう心配、ちょっとでもしないわけ?」
鮎川は鼻で笑った。「お前、お人よしなのな。あいつは逃げたに決まってんだろ」
こいつ、実はそんな頭良くないのかも。
自分が既に喋り過ぎだって気づかないのか?
「もっと早く逃げれば良かったのに、鷺沢って変に律儀だよね」
俺が言うと、鮎川はようやく俺に訝しむような目を向けてきた。
「悠から何か聞いたのか」
ひりついてるな、と思った。
俺はさらに鮎川の耳元に口を寄せた。
「鷺沢は何も喋ってないよ。喋るわけがない。もし同じ立場だったら鮎川だって絶対、学校の奴なんかに喋らないだろ?」
鮎川は愕然とした顔で俺を見つめてきた。
駄目だ、なんか楽しくなってきた。
「俺が言いたいのはさ、お前みたいな奴にはお似合いの展開になったってことだよ」
言ってやった、けど、そこで俺は我に返った。
俺と鮎川の至近距離での執拗な囁き合いは、周囲の連中の注目の的になっていた。
まずった。
俺が今やらなきゃいけないのは大宮と付き合ってるフリで、鮎川とデキてるフリじゃないのに。
そして、鮎川も来てない。
これはなんかマズい状況なのか、と思って航太に返信してみたけど、既読がつかない。
航太まで来てないって解ったのは、昼休みになってからだった。
なんか面倒なことになってなければいいんだけど、トラブル続きの俺には楽観できない。
そしたら昼休みが終わる頃になってやっと航太から、鷺沢と一緒に家にいる、と返って来た。
何だ、鷺沢は航太と一緒にいんのか。
じゃあ鮎川はどこ行ったんだよ?
こっちは朝から大宮に付き添われて登校して、大宮は俺を教室まで送って来てチャイムが鳴るぎりぎりまで一緒にいて周囲をざわつかせて、鮎川が来なくて肩透かしを食って、明らか機嫌を損ねて自分の教室に戻って行った。
「誰か鷺沢さんの居場所を知ってる人? 昨夜から家に帰ってないらしいんだけど」
担任が入ってきたと思ったら開口一番そう言った。
爆速でまた航太にメッセージ送る。
〈鷺沢が行方不明扱いになってる〉
〈昨日からずっとうちにいる〉
〈それ担任に言っていい?〉
鷺沢に確認してるっぽい間があって、返事が来た。
〈別にいい〉
「あの俺、知ってます」
担任は自分が訊いておきながら、まさかそんなあっさり手が上がると思ってなかったらしく大袈裟に「本当か!」と反応した。
「他のクラスの友達んちにいるらしいです」
「そうか? それで別に、何も変わった様子はないのか?」
「体調悪くて休むって、その友達の親が連絡入れたって言ってます」
「いや学校には電話あったらしいんだけど、本人のご両親が何もご存知なくて。昨日から帰ってないし連絡もつかないって、大騒ぎになってるんだよ」
まさかの無断外泊。
とりあえず無事で良かった、と言って、担任が航太んちと鷺沢んちに両方連絡入れて、まあ一件落着、みたいな感じになった。
鮎川がいないなら俺の警護をする必要もないっていう判断だろうけど、大宮は昼休みには顔を見せなかった。
それを見越したみたいに、鮎川が大幅な遅刻で登校してくる。
俺の顔をちらっと見て、そのくせ何も言わずに、むっつり黙ったまま自分の席についた。
なんか顔色がめちゃめちゃ悪い。昨夜一睡もしてないみたいに見える。
こういう時、構わずに放っておけ、と俺の本能は警告してくる。
だけど俺の理性は、具合の悪そうな奴を放っとくのか、と咎めてくる。
「鮎川? どうかした?」
声を掛けてみると、鮎川は昨日とは打って変わって不愛想に、どうもしてない、と答えた。
「どうもしてないようには見えないんだけど」
「…悠のせいで面倒なことになっただけだよ」
「鷺沢のせい? それってどういうこと」
だって航太が、鷺沢を鮎川と会わせたくないって言ってきてた。
それは鮎川が鷺沢の害になるっていう意味で、その逆では絶対にない。
「だって実際あいつのせいなんだよ」
ふうん、と思った。
こいつ、話したくない癖に黙ってもいられないわけか。
俺の柄じゃないけど、ここは止むを得ない。
「ねえ鮎川、誰にも言わないからさ、俺にだけ教えてよ」
鮎川の肩に手を掛けて、耳元に囁いてみる。
明らかに、鮎川はちょっとたじろいだ。
「鷺沢が何したわけ?」
質問を重ねると、鮎川は鷺沢への怒りと俺に喋ることのリスクを天秤にかけ、前者のほうが重いと踏んだらしい。
「会う予定だった相手との約束を、すっぽかしたんだよ」
俺はさらに鮎川に身体を寄せた。
「それと鮎川と、どういう関係があんの」
「俺が段取りした予定だったから」
なるほど。鮎川は俺が何も知らないと思ってるわけだ。
「あいつ昨夜からずっとスマホの電源切ってて、それで相手が俺に文句言ってきて、代わりに俺が呼び出された」
「それで?」
もう充分、察しはついてたけど、嫌がらせに訊いてやった(最近、大宮の陰険な性格がうつってきた気がする)。
鮎川は横目で探るように俺を見て、それからすぐその目を背けた。
「お前に関係ないだろ」
それが答えだった。
要するに、行かなかった鷺沢の代役。
解答にたどり着く方法はひとつじゃない。
チェスの下手な俺にだって、一応それなりの脳味噌は備わってる。
俺は俺なりに考えて、やっぱ月曜の夜七時は怪しい、と踏んでた。
そもそも夜に人目の届かない場所を選んでるっていうのが引っ掛かったし、航太がその同じ部屋で鷺沢に迫られたっていうのも気になった。
大宮が偵察に行った結果、鮎川と鷺沢の線は無し、という結論にはなったけど、じゃあそこで鷺沢が会ってる奴は本当に無害なのかっていうと、そこのところの保証は全然されてない。
「ひとつ確認したいんだけど、鷺沢とはまだ連絡つかない?」
「ああ」
鷺沢が航太んちにいるってこと、遅刻してきたこいつは知らないわけだろ。
「それじゃ、鷺沢に何かあったんじゃないかとか思わない? 事件とか事故とか体調悪くしてるんじゃないかとか、そういう心配、ちょっとでもしないわけ?」
鮎川は鼻で笑った。「お前、お人よしなのな。あいつは逃げたに決まってんだろ」
こいつ、実はそんな頭良くないのかも。
自分が既に喋り過ぎだって気づかないのか?
「もっと早く逃げれば良かったのに、鷺沢って変に律儀だよね」
俺が言うと、鮎川はようやく俺に訝しむような目を向けてきた。
「悠から何か聞いたのか」
ひりついてるな、と思った。
俺はさらに鮎川の耳元に口を寄せた。
「鷺沢は何も喋ってないよ。喋るわけがない。もし同じ立場だったら鮎川だって絶対、学校の奴なんかに喋らないだろ?」
鮎川は愕然とした顔で俺を見つめてきた。
駄目だ、なんか楽しくなってきた。
「俺が言いたいのはさ、お前みたいな奴にはお似合いの展開になったってことだよ」
言ってやった、けど、そこで俺は我に返った。
俺と鮎川の至近距離での執拗な囁き合いは、周囲の連中の注目の的になっていた。
まずった。
俺が今やらなきゃいけないのは大宮と付き合ってるフリで、鮎川とデキてるフリじゃないのに。
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