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星彩館物語第3話 私の中の核
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桧山晴はどうしても高校生のうちに独り立ちをしたくて単身上京し、東京都心からやや離れた場所にある星彩館に身を寄せている。
独り立ちをしたかったのに特にこれといった理由もなく、なんとなく「本格的に絵の勉強をしてみたい」という心にもない動機でイラストレーションや漫画制作・アニメーション学科のある紺碧学園に入学してしまった。
もちろん絵を描くのは好きだし授業は楽しいし、将来的に絵で食っていきたいと思っている。
「だけど、本当にこれで良いのかな?」
絵に対する情熱が無いわけじゃない、晴から見ても自分より絵が下手で情熱なんか無い生徒は沢山いる。
そう遠くない未来でドロップアウトしていく生徒だっているだろう、晴は晴なりに将来のビジョンがあってそれに向かって努力は続けている。
だけど、自分には何があるだろう? 絵を描き続けているから構図の取り方も線の取り方も綺麗になっていくし、自信はある。
だけど、晴は周囲に比べて「核となるもの」が無い。
それでも絵は描けているが、将来の事を考えるとゾッとする。
絵描き、芸術家にとって「核となるもの」は永久機関、動力源のようなものだ。
核がある人間は強いな、と晴は常々感じている。
例えば晴の右前方の席に座っている朝香麻弥朝香麻弥。彼女には才能が無いと晴は思っていたが、ある時間から急激に絵が上達した。
いや、上達しただけではなくその絵がオーラを放つようになった。と言うべきか。
彼女の描く絵には彼女の魂が宿っている、彼女の絵からは彼女の存在を感じる。
何故そんなに上手くなったのか、何故彼女の描く絵からはこんなにも力強さを感じるのか晴は面と向かって聞いたことがある。
すると、こんな答えが返ってきた。
「絵を描こうっては前からずっと思ってたんだけど、ある日、私の心の中に誰かが囁きかけたような気がしたの。見てごらん、世界はこんなに美しいんだよ。って」
世界はこんなに美しいんだよ——言葉だけ聞けばなんて薄っぺらいのか、だけど、彼女の言葉は本物だった。
薄っぺらい言葉をさも本当のことのように語るとすれば、それは病気か何かだ。
でも、例え病気か何かだろうとそれが彼女の核であるならば、絵描きとしては晴よりもずっと上のステージにいると言えるだろう。
「芸術家の人生とは、狂気の旅である——か」
詠人知らず、晴が気まぐれに読んだ本に確かそんな事が書いてあった。
「正気のまま、トップアーティストになれないかな」
教室に差し込む西陽がキツくなってきたので次の授業までに提出するアナログイラストのラフを一旦切り上げる、構図は大体定まったので細部を決めていく段階に入る。
贅沢な願いを口にしながら晴は教室を立ち去る。
◆◆◆◆◆◆◆
ジャージからセーラー服に着替えて帰路を辿る、紺碧学園は私立だけあって設備は充実しているが古臭いセーラー服だけが晴の不満だった。
星彩館まではおよそ徒歩25分、帰ったら取り敢えず夕飯の支度でもしようか。
昨日作り置きしておいた肉じゃががまだ残っているから、それをリメイクしてカレーにでもしてしまおうか。
「肉じゃがカレー、和風になって結構美味しいんだよね」
経験上、星彩館の近くには学園の生徒はあまり通らない。
だからそんな世帯じみた独り言を言っても構わない、本当は平々凡々などこにでもいる女子なんだ、私は。
晴は身長も163cmとやや高めで、目はくりっとした丸い童顔寄りだが表情の堅さから気難しそうな印象を持たせる。
でもカレーは好きだし、可愛いものは好きだし、部屋はアクセサリーで飾ってある。
でも、そんな自分を見せてしまったら弱みを握られてしまうような感覚があって学園の誰にも見せていない。
「カレールウ、ウチにあったかな」
確かまだ残っていたはず、もし無かったら管理人さんのところへ行って分けてもらおうかな。
「あ、お帰りなさい!!」
通い慣れた道を歩き、門をくぐる。
ここに住み始めて1年ほど経ったが、晴の知らない人がいる。
星彩館は住民同士でよく遊んだり、話したりするから顔も声も知っているが……
聞き覚えのない声、見覚えのない姿、もしかしたら噂になっていた新しく来た人だろうか?
「えぇと、桧山晴ちゃん! だよね?」
「あ、はい。貴女は?」
「私、遠坂侑李って言います! つい昨日からここに引っ越してきました!」
遠坂侑李と名乗った晴よりも年上に見える女性は100点満点の笑顔を見せると、軽く敬礼のような真似事をしてみせた。
晴よりも背は低く、スタイルは普通だし、化粧だってあまり慣れていないように見えるが……だが、何故だろう?
不思議と晴の胸は高鳴っていた、彼女の脳内パルスが彼女の肉体に告げる。
「見てごらん、彼女がキミの運命を変える人だよ」
独り立ちをしたかったのに特にこれといった理由もなく、なんとなく「本格的に絵の勉強をしてみたい」という心にもない動機でイラストレーションや漫画制作・アニメーション学科のある紺碧学園に入学してしまった。
もちろん絵を描くのは好きだし授業は楽しいし、将来的に絵で食っていきたいと思っている。
「だけど、本当にこれで良いのかな?」
絵に対する情熱が無いわけじゃない、晴から見ても自分より絵が下手で情熱なんか無い生徒は沢山いる。
そう遠くない未来でドロップアウトしていく生徒だっているだろう、晴は晴なりに将来のビジョンがあってそれに向かって努力は続けている。
だけど、自分には何があるだろう? 絵を描き続けているから構図の取り方も線の取り方も綺麗になっていくし、自信はある。
だけど、晴は周囲に比べて「核となるもの」が無い。
それでも絵は描けているが、将来の事を考えるとゾッとする。
絵描き、芸術家にとって「核となるもの」は永久機関、動力源のようなものだ。
核がある人間は強いな、と晴は常々感じている。
例えば晴の右前方の席に座っている朝香麻弥朝香麻弥。彼女には才能が無いと晴は思っていたが、ある時間から急激に絵が上達した。
いや、上達しただけではなくその絵がオーラを放つようになった。と言うべきか。
彼女の描く絵には彼女の魂が宿っている、彼女の絵からは彼女の存在を感じる。
何故そんなに上手くなったのか、何故彼女の描く絵からはこんなにも力強さを感じるのか晴は面と向かって聞いたことがある。
すると、こんな答えが返ってきた。
「絵を描こうっては前からずっと思ってたんだけど、ある日、私の心の中に誰かが囁きかけたような気がしたの。見てごらん、世界はこんなに美しいんだよ。って」
世界はこんなに美しいんだよ——言葉だけ聞けばなんて薄っぺらいのか、だけど、彼女の言葉は本物だった。
薄っぺらい言葉をさも本当のことのように語るとすれば、それは病気か何かだ。
でも、例え病気か何かだろうとそれが彼女の核であるならば、絵描きとしては晴よりもずっと上のステージにいると言えるだろう。
「芸術家の人生とは、狂気の旅である——か」
詠人知らず、晴が気まぐれに読んだ本に確かそんな事が書いてあった。
「正気のまま、トップアーティストになれないかな」
教室に差し込む西陽がキツくなってきたので次の授業までに提出するアナログイラストのラフを一旦切り上げる、構図は大体定まったので細部を決めていく段階に入る。
贅沢な願いを口にしながら晴は教室を立ち去る。
◆◆◆◆◆◆◆
ジャージからセーラー服に着替えて帰路を辿る、紺碧学園は私立だけあって設備は充実しているが古臭いセーラー服だけが晴の不満だった。
星彩館まではおよそ徒歩25分、帰ったら取り敢えず夕飯の支度でもしようか。
昨日作り置きしておいた肉じゃががまだ残っているから、それをリメイクしてカレーにでもしてしまおうか。
「肉じゃがカレー、和風になって結構美味しいんだよね」
経験上、星彩館の近くには学園の生徒はあまり通らない。
だからそんな世帯じみた独り言を言っても構わない、本当は平々凡々などこにでもいる女子なんだ、私は。
晴は身長も163cmとやや高めで、目はくりっとした丸い童顔寄りだが表情の堅さから気難しそうな印象を持たせる。
でもカレーは好きだし、可愛いものは好きだし、部屋はアクセサリーで飾ってある。
でも、そんな自分を見せてしまったら弱みを握られてしまうような感覚があって学園の誰にも見せていない。
「カレールウ、ウチにあったかな」
確かまだ残っていたはず、もし無かったら管理人さんのところへ行って分けてもらおうかな。
「あ、お帰りなさい!!」
通い慣れた道を歩き、門をくぐる。
ここに住み始めて1年ほど経ったが、晴の知らない人がいる。
星彩館は住民同士でよく遊んだり、話したりするから顔も声も知っているが……
聞き覚えのない声、見覚えのない姿、もしかしたら噂になっていた新しく来た人だろうか?
「えぇと、桧山晴ちゃん! だよね?」
「あ、はい。貴女は?」
「私、遠坂侑李って言います! つい昨日からここに引っ越してきました!」
遠坂侑李と名乗った晴よりも年上に見える女性は100点満点の笑顔を見せると、軽く敬礼のような真似事をしてみせた。
晴よりも背は低く、スタイルは普通だし、化粧だってあまり慣れていないように見えるが……だが、何故だろう?
不思議と晴の胸は高鳴っていた、彼女の脳内パルスが彼女の肉体に告げる。
「見てごらん、彼女がキミの運命を変える人だよ」
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