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星彩館物語4話 性癖と恋愛と私と漫画
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恋愛感情というのは所詮子供を作る機能の副産物、性欲の上澄みに過ぎない。そう、彼女は信じている。
性欲や子作りに縛られないからボーイズラブや百合というジャンルが好きなわけではないが、真面目に恋愛するより他人の恋愛に想いを馳せる方がずっとずっと楽しい。
だが、恋愛に想いを馳せる方が楽しいのは確かだがその想いを具現化して産むのはなかなか難しいものだと彼女——佐野昴は痛感していた。
よく『産みの苦しみ』なんて言葉を耳にするが、昴にとっての産痛は創作者としての苦しみである。
「オアァ……」
通常、漫画の作成手順はネーム→下書き→セリフ→ペン入れ→効果処理(仕上げ)といった手順を踏む。
ストーリーを考えるパートがネーム段階であり、ネームが通ったら後は迷いなく作画をしていくのだが、だからといって作画が楽であるというわけでは決してない。
人によっては脚本形式で書いてからネームに移る場合もあるらしいが、昴の場合はネームとシナリオ作成をまとめてやる。
その方が楽だというわけではない、しかし脚本を書いてネームに移ると脳の処理が変わるのかシナリオを大きく変更してしまうという事が起きるためシナリオを書く手順が無駄になるのだ。
「ウゥオ……」
「大丈夫? さっきから唸ってるけど」
「ダメかもしんない……」
漫画家には締切が二つある事が多い、まず一つがネーム締切で、もう一つが原稿締切だ。
担当編集は提出されたネームを読んで面白いか否かを判断する、ネームが面白くなければいかに作画が丁寧であろうと読者には決してウケない。
特に、昴が描いている漫画ジャンルのボーイズラブは読者のハードルが非常に高い。
たかがBL、されどBL、男性同士の恋愛は女性からの支持が厚いが生半可なものを出せば袋叩きに遭うものなのだ。
なので、ネームを描いても描いてもボツにされてしまうのだ。
そしてそのネームの締切が明日に迫っており、プレッシャーと焦りで昴の自我は崩壊しかけているのだ。
「エナドリ、要る?」
「要るゥ……」
「地獄の底から声出してるねえ」
佐野昴のすぐ近くでイラストレーションの作業をしていた石蕗飛鳥は冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、手渡す。
石蕗飛鳥は元々佐野昴の幼馴染であり、現在はプロのイラストレーターとして活動している。
大人になったら一緒に東京で絵を描きながら暮らそうと約束して、大人になったから一緒に暮らしている、そんな関係だ。
「あんまり根を詰めても良い事ないよ? 締切は明日なんだよね?」
「明日だから悩んでるんだよぉ、私って作業速度遅いから余裕なくて」
相変わらず真面目な女だ、などと飛鳥は思う。
人の期待には応えようとしてしまう、もちろん期待に応える事が出来なければ漫画家など続けたくても続けられない。
もう少し肩の力を抜いても良いんじゃないだろうか、とはいえ締切をぶち抜いてしまったら廃業まっしぐらだ。
「昴、こんな時は自分の欲望に忠実になるんだよ」
「欲望に……というと?」
「例えばさ、某ネコ型ロボットが爆発的にヒットしたのってなんでも願いを叶えてくれそうじゃだからでしょ?」
「う、うん……」
「つまりさ、こんなBL読みたいッ!! っていうBLがあれば、それを書けばいいんだよ! 今書いているのって基本的に読み切りでしょ?」
「なるほど……」
◆◆◆◆◆◆◆
漫画家・佐野昴の担当編集、北大路史乃はコミック「雪月花」において非常に安定した作品を世に出す敏腕編集である。
そのモットーは「ただ売れるだけでも、面白いだけでもダメ。面白くて売れるが正義」である。
少年漫画、少女漫画、青年誌と転々と歩き渡り、現在は日本特有の文化であるBL市場へとやってきた。
「昨日送ってくれたネームを読んだんだけど」
北大路のネームの感想は読者の感想と等しく緊張する、どんなに良質なネームだろうと、どんなに良質な完成原稿であろうとピクリとも笑わない。
彼女が笑う時は読者からのリアクションがポジティブな時だけ。
ネームが好感触なのかダメなのか全く分からないし、悪い時は欠点をただ淡々と指摘してくるので精神が保たないのだ。
もちろん、改善点も同時に述べてくれるので直し甲斐もあるのだが——
「はい……」
「これは、なんなのかしら?」
だが、今回はやや毛色が違う。
北大路はやや困惑している様子だった、こんな表情は今まで見た事がない。
まるで怪奇事件にでも巻き込まれたかのようだ。
「なんなの、と言いますと?」
「理解が及ばない、というか……えっと、ヤバい」
「ヤバい」
「心から愛している人に触れたら砂化するって何、人類絶滅まで秒読みとかいきなりブチ込まないで」
「最近、どうにも私自身の性癖を入れてないなって。こう……苦しみの先にある愛というか」
「しかも、機械に支配されているとか、人間の無感情化が進んでいるとか、アイデンティティに悩んで死を選ぶカップルとか、ディストピアもいいところだよ!? 重い、重いって!! 読み切りでやる内容じゃないって!! しかも同性愛が迫害されてる世界とか、BL雑誌でやる事じゃないよ!? やべぇって!!」
「やっぱ、ダメですか?」
「採用ッッッッ!! このまま作画作業入ってしまいましょう」
呆気に取られたが、どうやら性癖に従うのは最善手らしい。
性欲や子作りに縛られないからボーイズラブや百合というジャンルが好きなわけではないが、真面目に恋愛するより他人の恋愛に想いを馳せる方がずっとずっと楽しい。
だが、恋愛に想いを馳せる方が楽しいのは確かだがその想いを具現化して産むのはなかなか難しいものだと彼女——佐野昴は痛感していた。
よく『産みの苦しみ』なんて言葉を耳にするが、昴にとっての産痛は創作者としての苦しみである。
「オアァ……」
通常、漫画の作成手順はネーム→下書き→セリフ→ペン入れ→効果処理(仕上げ)といった手順を踏む。
ストーリーを考えるパートがネーム段階であり、ネームが通ったら後は迷いなく作画をしていくのだが、だからといって作画が楽であるというわけでは決してない。
人によっては脚本形式で書いてからネームに移る場合もあるらしいが、昴の場合はネームとシナリオ作成をまとめてやる。
その方が楽だというわけではない、しかし脚本を書いてネームに移ると脳の処理が変わるのかシナリオを大きく変更してしまうという事が起きるためシナリオを書く手順が無駄になるのだ。
「ウゥオ……」
「大丈夫? さっきから唸ってるけど」
「ダメかもしんない……」
漫画家には締切が二つある事が多い、まず一つがネーム締切で、もう一つが原稿締切だ。
担当編集は提出されたネームを読んで面白いか否かを判断する、ネームが面白くなければいかに作画が丁寧であろうと読者には決してウケない。
特に、昴が描いている漫画ジャンルのボーイズラブは読者のハードルが非常に高い。
たかがBL、されどBL、男性同士の恋愛は女性からの支持が厚いが生半可なものを出せば袋叩きに遭うものなのだ。
なので、ネームを描いても描いてもボツにされてしまうのだ。
そしてそのネームの締切が明日に迫っており、プレッシャーと焦りで昴の自我は崩壊しかけているのだ。
「エナドリ、要る?」
「要るゥ……」
「地獄の底から声出してるねえ」
佐野昴のすぐ近くでイラストレーションの作業をしていた石蕗飛鳥は冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、手渡す。
石蕗飛鳥は元々佐野昴の幼馴染であり、現在はプロのイラストレーターとして活動している。
大人になったら一緒に東京で絵を描きながら暮らそうと約束して、大人になったから一緒に暮らしている、そんな関係だ。
「あんまり根を詰めても良い事ないよ? 締切は明日なんだよね?」
「明日だから悩んでるんだよぉ、私って作業速度遅いから余裕なくて」
相変わらず真面目な女だ、などと飛鳥は思う。
人の期待には応えようとしてしまう、もちろん期待に応える事が出来なければ漫画家など続けたくても続けられない。
もう少し肩の力を抜いても良いんじゃないだろうか、とはいえ締切をぶち抜いてしまったら廃業まっしぐらだ。
「昴、こんな時は自分の欲望に忠実になるんだよ」
「欲望に……というと?」
「例えばさ、某ネコ型ロボットが爆発的にヒットしたのってなんでも願いを叶えてくれそうじゃだからでしょ?」
「う、うん……」
「つまりさ、こんなBL読みたいッ!! っていうBLがあれば、それを書けばいいんだよ! 今書いているのって基本的に読み切りでしょ?」
「なるほど……」
◆◆◆◆◆◆◆
漫画家・佐野昴の担当編集、北大路史乃はコミック「雪月花」において非常に安定した作品を世に出す敏腕編集である。
そのモットーは「ただ売れるだけでも、面白いだけでもダメ。面白くて売れるが正義」である。
少年漫画、少女漫画、青年誌と転々と歩き渡り、現在は日本特有の文化であるBL市場へとやってきた。
「昨日送ってくれたネームを読んだんだけど」
北大路のネームの感想は読者の感想と等しく緊張する、どんなに良質なネームだろうと、どんなに良質な完成原稿であろうとピクリとも笑わない。
彼女が笑う時は読者からのリアクションがポジティブな時だけ。
ネームが好感触なのかダメなのか全く分からないし、悪い時は欠点をただ淡々と指摘してくるので精神が保たないのだ。
もちろん、改善点も同時に述べてくれるので直し甲斐もあるのだが——
「はい……」
「これは、なんなのかしら?」
だが、今回はやや毛色が違う。
北大路はやや困惑している様子だった、こんな表情は今まで見た事がない。
まるで怪奇事件にでも巻き込まれたかのようだ。
「なんなの、と言いますと?」
「理解が及ばない、というか……えっと、ヤバい」
「ヤバい」
「心から愛している人に触れたら砂化するって何、人類絶滅まで秒読みとかいきなりブチ込まないで」
「最近、どうにも私自身の性癖を入れてないなって。こう……苦しみの先にある愛というか」
「しかも、機械に支配されているとか、人間の無感情化が進んでいるとか、アイデンティティに悩んで死を選ぶカップルとか、ディストピアもいいところだよ!? 重い、重いって!! 読み切りでやる内容じゃないって!! しかも同性愛が迫害されてる世界とか、BL雑誌でやる事じゃないよ!? やべぇって!!」
「やっぱ、ダメですか?」
「採用ッッッッ!! このまま作画作業入ってしまいましょう」
呆気に取られたが、どうやら性癖に従うのは最善手らしい。
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