深紅の復讐者

眠音ネム

文字の大きさ
2 / 2

第二話「影と弾丸の契約」

しおりを挟む
「共に、この腐敗した世界を血で洗い流そう」

その言葉が、まだ地下室に響いていた。
血に濡れた床に月光が差し込み、かつての仲間たちの亡骸が冷えていく。
俺の前で、二人の少女が答えを求めるように俯いていた。

「その命を捧げる覚悟はあるか?」

血に濡れた床に月光が差し込む。
俺の前で、二人の少女が俯いていた。

「......僕たちには、もう失うものなんてありません」
足のない少女が答える。
「ただ、約束してください。僕たちを道具としてだけでなく......」

「仲間として扱ってくれることを」
目を失った少女が言葉を継ぐ。

俺は静かに頷いた。
「ああ、約束しよう」

右腕から滴る血が、二人の傷痕へと流れ込んでいく。
やがて血は形を成し始め、失われた足と目を紅く染め上げていった。

「温かい......」
足のない少女の瞳が潤む。

「見える......光が......」
目を失った少女の頬を涙が伝う。

「契約の言葉を告げよ」
俺は二人に告げる。
「お前たちの存在意義を」

足のない少女が静かに立ち上がる。
血で作られた足が、確かな存在感を放っている。

「僕は、ヴェイン様の影」
彼女の声が響く。
「姿を隠し、ただあなたの一歩の影に従うのみ」

目を失った少女も顔を上げる。
血で作られた瞳が、紅く輝いている。

「私は、ヴェイン様の一発の弾丸」
彼女の声が重なる。
「ただ狙いを定め、命じられるままに」

その瞬間、二人の体内を巡る血が鮮やかに光を放った。

「私の名は、ルナ」
「僕の名は、シャドウ」

「我らは今より、あなたの血と共に生きることを誓います」

月明かりの中、二つの影が俺の後ろに並ぶ。
かつて失ったものを取り戻した二人は、もはや哀れな囚人ではない。
俺の復讐の刃となる、暗殺者の姿があった。

「さあ、行こう」
俺は二人に告げる。
「まずは、この国の闇を知る必要があるな」

「......影霧シャドウミストのことですか?」
シャドウの声が、わずかに震えた。

俺は振り返る。
暗殺者組織・影霧シャドウミスト。騎士団長として、その存在は把握していた。
だが、目の前の少女がその名を知っているとは。

「お前は......」

「はい」
シャドウは血で作られた足を見つめながら答えた。
「僕たちは......かつての影霧シャドウミストの暗殺者です。裏切られ、見捨てられた」

暗滅隊あんめつたいとの密約により」
ルナが継ぐ。
「仲間を売り、自分たちだけが生き延びる。それが影霧シャドウミストのやり方でした」

俺は二人を見つめる。
囚われの少女ではない。暗殺者だった彼女たちが、なぜここに。
そして思い出した。極秘任務の内容が、あまりにも不自然だったことを。

「なるほど」
俺は小さく笑う。
「つまり、お前たちは都合の良い囚人として利用されたというわけか」

「はい。逃げられない囚人として」
シャドウの血で作られた足が、闇に溶けるように消える。
「だから、最初の標的は......」

影霧シャドウミストに」
ルナの紅い瞳が、夜の闇を貫くように輝く。
「私たちを裏切った、あの組織への復讐を」

月下の地下室に、三つの影が落ちる。
これは、血塗られた復讐の始まりに過ぎない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...