私も異世界転移したいのですが!

空城誠

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第一章:異世界への転移と混乱

【第一話】何気ないある夏の日

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 20XX年、初夏。蝉がけたたましく鳴く昼下がり、高校の夏休み登校日が終わった私こと天津あまつこよりは、友人三人と駅まで連れ立って歩いていた。

「そういえばさー、コヨはあのニュースみた?」

「え、あのニュースってなに?」



 友人の一人であるレンは、小さい扇風機を顔に当てながら目を輝かせてスマートフォンを目の前にかざしてくる。そこには、大きな見出しで“無差別的な犯行も視野に入れて捜査拡大”と書かれていた。しかし、詳しく記事を読み進める前に、スマートフォンをひっこめられてしまう。

「ああ、日本中で急に目覚めなくなった人たちが何人も出て、救急車で運ばれたってやつね」

 そういえばそんなニュースもあったような。たしか一番最初にニュースになったのは、毎朝生放送に出ている有名なアイドルが寝坊したかと思ったら、昏睡こんすい状態で運ばれた、みたいなものだったけれど。

「それがさ、どんなに検査しても深く眠っているって事しか分からないんだって。しかも、その人たちに共通の繋がりも無くって、無差別テロ? とか、そんな路線で調べてるんだってさー、怖いよね!」

 無差別テロはまたちょっと違うような。そんなツッコミを入れる前に、ニュースの話の輪に入っていなかったミイとアリーが、話に割り込んでくる。

「あーそれ、私のお母さんの方の親戚のおじさんがさ、三日前に農協の人が運ばれたの見たって言ってたよ」

「えぇーまじで! そのうち皆寝ちゃったりしてね!?」

「どこの映画ですか、それ」

 女子高生の会話なんて、最終的にきゃあきゃあ言っていればおわる(※偏見)。私は心の中で彼女たちの会話にツッコミをしつつ適当に相槌を打ち、そうしている間に最寄り駅に辿り着いていた。

「じゃあ、4日後にモールのアイス屋さん前でね!」

 いつの間にか決まっていた遊ぶ約束をスマートフォンにメモしながら、他の三人と惜しくない別れを告げる。

 私が乗る電車は上り線、彼女たちが乗るのは下り線。時間が進むごとに距離は離れていく。

 けれど会話アプリを起動したら、先ほどの会話の続きが始まっていた。三人は一緒にいるのだから、直接喋ればいいのに……。そう思いつつ、また適当な返信を打ちながら、自宅の最寄り駅まで無駄な話を楽しんだ。


◇◇◇


 約束の四日後の朝。夏休み真っ只中だというのにいつも通りの時間に目覚めてしまい、もう少しうだうだしようとスマートフォンを手に取る。会話アプリのコメント通知が来ていたので、早起きしたのは私だけではないという事実にニヤケつつ、グループのタイムラインを開いた。

アリー《おはようです。今日は何時の待ち合わせだったか覚えてる人はいますか?》

-----------------------------------
 アリー。本名、有栖川ありすがわ 凛里りり。二人姉妹の姉で、グループの中では一番しっかりもの。誰に対しても敬語だけれど、たまーに敬語が崩れる時がある。キモカワイイマスコットキャラクターが好き。
-----------------------------------

 そういえば、何時だったかな? もしかしたら決めてないかもしれない。そうコメントを打とうとして、新しいコメントがついたから指を止める。

レン《たぶん時間決めてない!おはよ(*˙︶˙*)ノ》

----------------------------------- 
 レン。本名、穂山ほやま 花蓮かれん。一人っ子でグループのムードメーカー。運動神経抜群でボーイッシュな見た目とは裏腹に、可愛いものが好き。
-----------------------------------

 レンはコメントの後に、可愛いペンギンが太陽に抱きつきながら「おはよう」と言っているスタンプを四つ連続で送ってきた。相変わらず朝からテンションが高い。

《おはよう~。そいえば決めてないね。モールだし12時はどう?》

 とりあえず、私も幼児アニメの看板キャラクターが挨拶をしているスタンプを送りつけておく。すると、アリーからは漫画のマスコットキャラが親指をたてて「賛成でごわす」と言っているスタンプが送られてくる。……このキャラが好きだというアリーの感性は、未だ謎に包まれている。

レン《あたしもおけ。あとはミイだけだよ!》

-----------------------------------
 ミイ。本名、瀬名せな 美色みいろ。ミステリアスで、何人兄弟かとか家がどこにあるのかとかさっぱりわからない。わかるのは、寝坊助ねぼすけで遅刻魔だというのと、学校でも一目置かれてるくらいのオシャレさんだということくらい。でも私たちは、実はアニメと漫画が強烈に好きだということを知っている。
-----------------------------------

《ミイはまだ寝てるんじゃない?》

アリー《あはは、そうかもですね》

ミイ《起きてるよー。皆、テレビ見てないの?》

 やっときたミイのコメントは、意外なものだった。

ミイ《アイドルの島崎さん目覚めたらしいよ。しかも、他に寝てた人も同じタイミングで起きたって》

 ミイのコメントを見て、私はすぐにリビングに向かった。そこでは、島崎の隠れファンだったらしい母が涙を流して喜んでいる。テレビでは緊急ニュースとして、目覚めた人たちの様子を読み上げていた。

 目覚めた人たちは皆健康状態も良く、念のためあと一日検査してから退院するという事。そして、島崎は明日のこのニュース番組に出演するという事。最後に、大事な話をしたいから、できるだけ多くの人に観てほしいと言っている事。

 泣いている母をほっといてタイムラインに視線を落とすと、私と同じようにテレビを見たらしい二人から、立て続けにコメントが来ていた。

レン《やばいね! 大事な話ってテロの事かな?》

アリー《テロではないかと……。でもどんな話か気になりますね》

《それよりも、母が隠れ島崎ファンだったらしくて、ずーっと泣いてるんだけど》

ミイ《草。今日モールでグッズ買ってあげたらどう?》

 花の女子高生達には、どこかの誰かが一斉に目覚めた事より今日の予定の方が重要だ。話題は自然とモールの事になり、お昼になにを食べたいとか、どこのお店に寄りたいとかをひとしきり語り合った後、出かける仕度をするために会話を一旦止める。

 母はというと、泣き疲れて何もやる気が起きないようだった。父はまだ起きてこない時間だったから、今日は私が朝ごはんを作る。といっても人数分のトーストを焼いて、目玉焼きとベーコン、そしてサラダを用意するだけだからそんなに大変でもない。
 父が起きてくるまで待てないので先に食べて、母にも食べるように伝える。母のやる気が復活するまでは、もうしばらくかかりそう。私はさっさとモールに行くために、身支度を整えることにした。

 モールは、私の家から電車で一時間ほどかかる。その間にスマートフォンでゲームをしたり、やっと仕度をはじめた他の三人の尻を叩いたりしていれば、あっという間についてしまうけれど。そして早くついた分自分が好きなものを物色して、待ち合わせの時間になってからは皆で楽しくお喋りしながら、ご飯を食べたりデザートを食べ歩いたり、各個人の買い物に付き合ってモール近くのカラオケで喉が枯れるまで歌って……、夕飯の時間をとっくに過ぎた頃、満足感を覚えながら家に帰る。母は怒っていたが、島崎のブロマイドをあげると途端に上機嫌になったのでおとがめは無しになった。

 あっという間に一日が終わる。朝のあのニュースの事なんて頭の片隅にすら残っていないくらい、友達と遊ぶのは疲れるけど楽しかった。私は夏休みの宿題のことも何もかも忘れて、お風呂にも入らずに眠ってしまう。

 夢の中で心地いい波に揺られている私は、翌日朝のニュース番組でとんでもない話が飛び出すなどと、これっぽっちも想像していなかった。
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