ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season3

転生ーZombieー

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 昨日、深夜。ポラリスの体に異変が起こった直後、痛みに眠るように気絶したポラリスの体は尚も変化を起こし続けていた。

 超免疫オール・レジスタンス。それがポラリスの持つ素質タレントの名前である。これはあらゆる病原体や異物に対して抗体を作り出し無力化する能力である。しかし通常は抗体の作成には時間がかかるため即効性の毒や感染症には全く効果がなく、風邪を引くことがない程度の素質として認識されていた。それに加えて危険性のない異物についても常に過剰に発現しているため栄養やエネルギー、魔力などのリソースが無駄に割かれ、ポラリスの身体の成長や運動能力を大いに損なわせていた。
 普段ならば黒尸菌のような即効致死性の細菌に対しては無力であるはずである。しかし二つの要因により超免疫が黒尸菌に打ち勝ったのだ。
 まず一つ目の要因がここ数日間でのポラリスの急激な成長である。本人は知らないが魔力が少ないだけで日々の修練から魔力操作の才能センスも中級の魔術師程度はあった。それがエストレアやシリウスなど、強者のそばで戦うことでその魔力に当てられ、魔力の出力法を自然と会得しており超免疫は強化されていた。
 二つの目の要因はカーネルから貰った薬である。この薬は内臓の働きを弱め、“休眠”させることで黒尸菌による細胞の破壊を防ぎ進行を遅らせるものであった。内臓の働きが抑えられたことでその分のエネルギーを超免疫に当てることができ、かつゾンビ化までの進行が遅れたことで抗体の作成が間に合ったのだ。

 しかしポラリスの体に起こった変化はそれだけではない。抗体により瀕死に陥った黒尸菌はそれでも生き残ろうとポラリスの体内で変異を起こした。彼の体との共存を目指したのである。彼の体と超免疫はそれを受け入れ、その力に耐え得るよう体を作り替え、黒尸菌は彼の細胞と共生することとなった。


 ポラリスが眠りについてから数時間後、彼は朝日の光で目を覚ました。まず最初に感じたのは自身の体への違和感である。いや、違和感というよりまるで今まで付けられていた鎖から解き放たれたような開放感と全能感。とにかくまるで生まれ変わったような感覚であった。これがゾンビの感覚かと思ったがどうも違うようである。理性や自分の思考はしっかりと保たれているし肌の血色は健康そのものだ。
 次に彼を襲ったのは空腹感である。まるで一週間は何も食べていないような飢餓が彼を襲った。アイリーンからもらったサンドイッチを鞄から取り出すと無心に貪った。
 ここで更に変化に気づく。いつもよりも匂いと味に彩りを感じた。嗅覚に関してはわずかに入れられた胡椒にすら鼻腔を痛めた。またサンドイッチは食材本来の味を感じ分け、アイリーンが隠し味として用いている特性のソースの材料まで当てることができた。味覚が強化したことで感じたことだが彼女が今回作ったサンドイッチはわずかにしょっぱかった。

 食事を終えると次は鎧の窮屈さを感じた。耐えられなくなり上半身の鎧と服を脱ぎ捨てると近くの商店の窓ガラスで自分の体を確認する。
 一晩のうちに身長は数センチ伸び、体格も見違えるほど逞しくなっていた。   
 体格だけでなく容姿にも少なからず変化が生じており、顔面の右上が他の皮膚と比べて白くなっていた。またその部分の前髪は赤毛から真っ白く染まっており、瞳の色もブラウンから鮮明な紅色になっていた。

 ポラリスは脱ぎ捨てた服を片付けようと畳むと、懐から一枚の紙切れがこぼれ落ちた。
 それを拾い上げて眺めると宛名に月の影の名前が書かれていた。ポラリスはネクロマンシー研究会から出た後、月の影に手を肩に置かれたことを思い出す。おそらくあの時にこの紙切れを懐に忍ばせたのだろう。
 紙切れには手書きの地図が書かれており、その場所がここから近いことに気づくと他に行くあてもないためとりあえず向かってみることにした。

 地図に描かれていた骨董商の倉庫にたどり着くと扉の鍵は空いており容易に中に入ることができた。中には無数の箱が埃を被って置かれていたがその中に一つ、異様な魔力を放つ大きな箱が置かれており、それが目的のものだと感じることができた。
 箱を開けると中には近衛隊の鎧と大きな刃の槍、そして走り書きが書かれた紙切れが入っていた。


 これを私以外の誰かが読んでいるということは、予言通りこの国に厄災が襲ったのだろう。そして私は恐らくもうこの世にはいない。これを読む者が誰なのか、私が知り得る者なのか、これから知り合う者なのか、それとも出会うことがない者なのかは“導きの欠片”は教えてくれなかった。ただ“導きの星ポラリスという言葉が頭に響くばかりであるので君のことをポラリスと呼ばせてもらう。
 ポラリスよ、ここにある装備は”導きの欠片“、ひいては運命が君のために選んだ物だ。この大槍は初代戦士ギルドマスター、タイクンの遺物であり名を“ディールークルム”と言う。タイクンはこの槍で夜の神を殺し、夜明けを取り戻したことから、“神殺しの槍”とも呼ばれている。この槍は邪なるものを払い、主の放つ魔力によって大きさ、長さを自在に変えることができる。
 次に鎧だが、これは何の変哲もない近衛隊に支給されるものだ。何故鎧が近衛隊の物なのかは私にも分からぬが私が“視た”ものをそのまま用意したつもりだ。これらの品が君の役に立つことを願う。
 ポラリス、私が死ぬ前にどうか君と出会えていることを願う。そして君が清らかなる魂を持つ真の救世主であることも。
 最後に私が“視た”君についての明確な予言を知らせておく。君は戦士達の聖地に向かわなければならないらしい。そしてそこでは強大な敵に立ち向かうことになるだろう。私の予言は非常に抽象的であるためこれは私の解釈なのだが恐らく戦士達の聖地とは闘技場のことだ。この予言が君の“導き”となることを願う。
 月の影

 
 これらの品々は月の影がこの災害パンデミックが起きるよりも前に用意した物なのだろう。そして月の影は恐らく本当に死んだのだと直感で感じた。
 ポラリスは心の中で祈るように月の影に礼を言うと用意された装備をつけ始めた。不思議なことに鎧は今のポラリスの体格にぴったりであり普段と変わらぬ身のこなしができた。

 次に大槍、“ディールークルム”に目を向ける。刀身はとても大きく剣状で、槍というより薙刀、あるいはグレイブに近い。刀身の色は飲み込まれるような暗黒色の中に太い一筋の金色の線が刻まれており、まさに“夜明け”を連想させた。箱に入っている状態では片手で持てるほど小ぶりであったがポラリスが手に取ってみると淡く光り、彼の身の丈にあった長さへと変わった。全体のバランスも良く、取り扱いやすいだけでなく絶大な魔力も感じる逸話通り神も殺し得るほどの槍である。
 一通りの身支度を終えると今まで愛用してきた金剛製の槍と暁の両槍を携え、闘技場へと駆けて行った。
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