ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Final Season

黄昏ーTwilightー

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 外は薄暗く、夕日が空を紅色に染めている。大聖堂に続く大通りにはまるでポラリス達を出迎えるかの様にゾンビが整列し、花道を作っていた。

「これは……」
「完全に誘われているな……」

 異様な光景に息を呑む。しかし罠だと分かっていても彼らは進むしかなかった。エストレアを救うために。この街から脱出するために。

 ポラリスの脳裏に自分を送り出してくれた皆の期待に満ちた顔、エストレアの衰弱した顔が映る。迷っている暇は無い。“ディールークルム‘を強く握り直すと大聖堂までの道を歩む。

「……しかし驚きだな。教会はゾンビを完全に支配できるのか」

 道の端で大人しく立つゾンビを見てシリウスが独言る。

「この街にばら撒かれた黒尸菌はデネブ由来のものだからな。思念である程度は操れる様だ」
「!!じゃあ自分でも出来るんじゃ!?」

 ポラリスはゾンビの一体に向かって何か思念を飛ばし続ける。しかしゾンビは微動だに動かない。
 ポラリスの顔が真っ赤になり額からおびただしい汗が噴き出たところでカーネルが肩を叩く。

「無駄だ。お前の黒尸菌は恐らくお前に合わせて変異し、既に別物だ。……それにお前とデネブでは魔力も別格だ」

 その言葉にポラリスは肩を落とした。

「……おい……」

 シリウスが道の先から感じる気配に立ち止まる。それに連られてポラリス達も立ち止まり、遠方を注視する。

 そこに現れたのは山。少なくともポラリスにはそう感じた。
 遠くからでも感じる圧倒的な威圧感。そして近づくにつれて新たに感じるもう一つの圧倒的な魔力の存在感。
 遠くの人影が近づくにつれ、剛山ザハクと開闢の魔女ターニャがその姿を現した。

「!!……シリウスさん……」
「ああ、分かっている……」

 シリウスの目には多少の悲哀が混じっていたがその顔付きに迷いはなく真っ直ぐに二人を見つめていた。

「……俺がやる……下がってろ」

 シリウスはダーインスレイブを引き抜くとかつて仲間だったものに斬りかかった。

 七英傑で最強は誰なのか。それは人が集まると必ずと言っていいほど起こる議論であった。勿論、七英傑一人一人の力は常人の理解をはるかに超える。しかし、超人が集まれば順位を付けたがるのが世の常である。
 さて、この議論が酒の場で始まると大体は日が上るまで決着は付かず、意見の食い違いから殴り合いになることもしばしばである。七英傑の力を伝聞のみで知る“ラウム国外”では。

 ラウム国内における七英傑に関する議題はもっぱら「誰が”最強に近い“のか」に帰結する。ラウム国民は一人の例外も無く最強は誰なのか知ってるのだ。

ーーそれほどまでに

 ポラリスが瞬きを終えた時には目の前にいたはずのシリウスは遥か遠方に消えていた。

ーー勇者シリウスの力は絶大である。

「……ザハク……ターニャ……」

 二体の首筋から血が舞う。

「……また逢おう……」

 二体は自身が斬られたことすら理解できず、その体が地につくと同時に燃え上がり、荼毘に付された。

 ポラリスはその場に立ち尽くすシリウスに駆け寄った。

「シリウスさん!!」
「ああ、大丈夫だ。……ただ、祈っていただけだ」

 シリウスは鋭い視線を大聖堂に向ける。

「悪趣味な野郎だ……さっさとケリをつけよう」
「ああ、国王様達も頑張ってくれているが無駄に出来る時間は無い」

 一行は大聖堂までの道のりを急ぐ。

 
 闘技場の医務室では国王による懸命な治療が行われていた。黒尸菌により破壊された内臓をその都度修復していく。先の見えない作業だが疲労を見せる暇もない。

「姉ちゃん、大丈夫か!?」

 大量の汗をかきながら“時間減速”の魔法陣に魔力を込めるアイリーンをナナシが気遣う。
 アイリーンは言葉を発する余裕も無い様でただナナシの問いに頷いた。

「旦那……急いでくれ……」

 一同はただ祈ることしかできなかった。


 ようやく大聖堂が見えてきた。肌にじっとりと絡みつく空気にポラリスの背中から汗が噴き出す。
 その時、一羽のカラスがポラリス達の下に羽ばたきながらやって来た。烏が近づくごとに足が三本生えている異形であることがわかった。
 ポラリス達は武器を構え、迎撃の準備をする。

「待て。我は月の影の使いだ」

 ポラリス達の頭上で羽ばたきながら烏は言葉を発する。ポラリス達は尚も怪訝な顔をするが“月の影“の名を聞くと警戒しながらも武器を納めた。烏は自身の安全を確認するとポラリスの肩に乗り、話を続ける。

「月の影、月下の蝶両名はデネブとの戦闘に敗れ死亡。月の影は死の間際に以前より契約をしていた我に汝たちに伝言をするよう申し付けた」

 烏は月の影達とデネブの戦闘の様子と月下の蝶の命でデネブの力が蘇ったこと、デネブの能力が自身の言葉を現実にすることであることを細かく伝えた。

「以上が月の影が見た全てだ」
「なるほど……俺たちの魔力で魔法を発動されるのは厄介だな……」

 シリウスは烏の話を聞き、デネブ攻略の方法を思索する。相手はかつて自身の先祖と共に戦った英雄でありさらに異世界の力を得ている。自分一人では手に余るだろう。

「そんな強大な相手、どうやって倒せば……」

 弱気な言葉とは裏腹にポラリスの目は諦めておらず、シリウスと同様に打倒の方法を思索している。
 やはり鍵となるのはデネブと同様に黒尸菌を克服したポラリスか。シリウスは改めてポラリスを見て力を測る。魔力は自分の全力の半分程度だが未だに奥底に眠る絶大な力を感じた。戦力としてはまさに予測不能である。

「では我の仕事は終わった」
「あの、一体何処へ?」

 自分の肩から飛び立つ烏にポラリスは尋ねる。

「我は月の影と契約しこの世に受肉した身。契約が終われば現世うつしよから去り、再びの契約を待つのみだ」

 再びポラリス達の頭上で羽ばたく烏の体は次第に塵のように風に消えていく。

「……これは我の仕事では無いのだが……“必ず勝て”……月の影の最後の思いだ」

 そう言い残すと烏の体は完全に消え去った。
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