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Final Season
教皇ーHierophantー
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しくじった。
壁に叩きつけられた傷を癒しながらポラリスは思う。大聖堂に到着する前にデネブへの対策としてシリウスから自身の魔力操作を常に全力で行うこと、不用意に近づかないことを言い聞かされていた。
しかし、デネブが人の命を軽んじるのを聞くと、いても立っても居られず飛びかかってしまった。
ポラリスはぼんやりとデネブの方を見やる。そこにはシリウスとデネブが剣を激しく交わらせている光景が広がっていた。
自分も向かわなければならない。しかし自分の魔力操作の熟練度では奴の素質を防ぐことはできないだろう。ポラリスは頭を悩ませる。
「神の鉄槌……荒れ狂う獅子……駆ける牡鹿!!」
シリウスは様々な魔法、技を惜しげなく用いてデネブを攻め立てる。しかしその攻撃は避けられるか直撃したとしても決め手にかけ、すぐに回復されてしまっていた。
「さすがはアルタイルの子孫。魔法も剣技も一級品だ。私も肝が冷えるよ」
言葉とは裏腹にデネブの表情は涼しげである。その様相がシリウスをさらに苛立たせる。
「汚い口でその名を呼ぶな!!……世界樹!!……黒き炎!!」
大聖堂の床から巨大な木の根が生えるとデネブの体を拘束しそのまま大樹を形成する。次いで巨大な黒炎の柱が樹木ごと全てを焼き尽くした。
「少々暑いな……“冥府の吹雪は全てを凍らす”」
黒炎の柱は凍りつき、一瞬にして巨大な氷柱に成り代わった。
「“軍神の剣舞に皆切り刻まれる”」
デネブの言葉と共に氷柱は次々と崩れゆき、見えぬ斬撃がシリウスを襲った。
「神速!!」
シリウスは自身を加速させ、まさに“神速”の斬撃を紙一重で躱しデネブとの距離を取った。
(黒尸菌による回復力と身体能力。それに加えて奴自身の高度な魔法。……だがやはり一番面倒なのは奴の素質か……。ならば……)
シリウスは背後の長椅子にぎゅうぎゅうに詰めて座っている教徒をちらりと見る。
数は五百人ほど。皆、デネブに催眠魔法をかけられているのか虚な目で虚空を見つめ、手を合わせて何かに祈っている。
シリウスは教徒たちに魔法の照準を合わせるとその手を僅かに震わせながらも魔力を込めた。
「そんな顔をするな。シリウス」
デネブの言葉は慈愛に満ちていた。不意のその言葉にシリウスは何かに包み込まれるような感覚に陥り、練り上げた魔力は散っていく。
「君が苦しむことはないんだ。どれ、私が救ってやろう」
デネブが教徒たちに手をかざすと次々と口から血を吐き出し、もがき始めた。
「貴様!!何を!!」
我に帰ったシリウスはデネブに叫ぶ。
「私の素質、“言霊”は私の言葉を、聞いた者の魔力で実現させる能力だ。彼らは私が強大な魔法を使う為に用意していたんだが、それももう必要ないらしい」
デネブが話している間にも教徒たちは次々と倒れていく。しかしシリウスの前に立つ狂気は気にせず続ける。
「そもそも“言霊”による魔法では君を倒すに至らないだろう。……そして何より君と剣を交じわせることで分かった」
シリウスの背筋に悪寒が走った。
「私の今の力、魔力はベガやアルタイルさへ超えるだろう。……“言霊”などという他人任せの能力を使わなくともな」
デネブは今までの表情を破り捨てたかの様に、狂気に満ちた表情となる。
刹那、シリウスの目の前からデネブの姿が消える。シリウスは己に迫る危機を本能で察知すると自身の体を以前戦ったバーゲンの素質で黒い霧と化すと、デネブの剣筋が霧を撫でた。この間、わずか瞬き程度であった。
シリウスはデネブから距離を取り、霧化を解くと驚愕の表情を浮かべる。霧化したはずの自身の右肩から左脇にかけて僅かに筋が入ったかと思うと勢い良く鮮血が吹き出した。
シリウスは片膝をつくと急いで治癒魔法で処置する。
「……まさかその剣……」
シリウスはデネブの持つ宝石で装飾がなされた小剣に目をやる。
「ご名答だよ。この“黄昏“は君の剣と同様に因果を無視して相手を斬り付ける」
デネブは自身の剣を見せびらかす。青い刀身に一筋の橙色の線が入っていた。
シリウスは傷の回復を終え、立ち上がる。デネブはそれを待っていたかの様にシリウスに剣の先を向ける。
「その剣、開放しておくといい。でなければ……折れるぞ」
再びデネブの姿が消える。シリウスは剣に魔力を込め、その力を開放すると防御に意識を集中させる。
目の端で何とか鋒を捉えると自身の首を狙う剣筋を何とか防ぐ。しかし、防いだ剣ごと体が吹き飛ばされそうになるほどの力。シリウスの目は紅く煌くと狂戦士が発動し、何とか耐え抜くことができた。
その後、幾度も交わる剣と剣。その度に散る火花。シリウスはデネブの猛攻を凌ぐもしかし、確かにその攻撃は彼の体力を、精神を削っていった。
剣でここまで追い詰められるのはシリウスにとって初めての体験である。デネブの剣技は目で追うのがやっとであり、自身の長年の経験から次の手を予測して何とか防いでいた。
「ぐっ!!」
次第にシリウスの体に傷がつき始める。このままでは部が悪い。シリウスはデネブから距離を取ろうとするがその判断の誤りにすぐに後悔することとなった。
ずしゃっ。鈍い音とともに距離を取る為に力を込めていた右足に熱い痛みが広がる。シリウスが目をやると自分の右足の腿にデネブの剣が突き刺さり、そのまま地面まで貫通してシリウスの体をその場に拘束していた。
「すまないな。そろそろ終わりにしよう」
デネブはシリウスの顔先に手をやると魔法陣を展開する。
爆発魔法か。自身の窮地にシリウスは自分でも驚く程冷静に魔法陣の分析をする。この距離で受ければまず助からないだろう。自分に死が迫るものの、シリウスの眼は諦めずデネブを睨みつけていた。
「そんな眼で見るなよ。あの世でアルタイルによろしく頼むよ。……あの世が有ればな」
デネブの魔法が発動するその時、両者の間にもう一つの刃が割り込んだ。
壁に叩きつけられた傷を癒しながらポラリスは思う。大聖堂に到着する前にデネブへの対策としてシリウスから自身の魔力操作を常に全力で行うこと、不用意に近づかないことを言い聞かされていた。
しかし、デネブが人の命を軽んじるのを聞くと、いても立っても居られず飛びかかってしまった。
ポラリスはぼんやりとデネブの方を見やる。そこにはシリウスとデネブが剣を激しく交わらせている光景が広がっていた。
自分も向かわなければならない。しかし自分の魔力操作の熟練度では奴の素質を防ぐことはできないだろう。ポラリスは頭を悩ませる。
「神の鉄槌……荒れ狂う獅子……駆ける牡鹿!!」
シリウスは様々な魔法、技を惜しげなく用いてデネブを攻め立てる。しかしその攻撃は避けられるか直撃したとしても決め手にかけ、すぐに回復されてしまっていた。
「さすがはアルタイルの子孫。魔法も剣技も一級品だ。私も肝が冷えるよ」
言葉とは裏腹にデネブの表情は涼しげである。その様相がシリウスをさらに苛立たせる。
「汚い口でその名を呼ぶな!!……世界樹!!……黒き炎!!」
大聖堂の床から巨大な木の根が生えるとデネブの体を拘束しそのまま大樹を形成する。次いで巨大な黒炎の柱が樹木ごと全てを焼き尽くした。
「少々暑いな……“冥府の吹雪は全てを凍らす”」
黒炎の柱は凍りつき、一瞬にして巨大な氷柱に成り代わった。
「“軍神の剣舞に皆切り刻まれる”」
デネブの言葉と共に氷柱は次々と崩れゆき、見えぬ斬撃がシリウスを襲った。
「神速!!」
シリウスは自身を加速させ、まさに“神速”の斬撃を紙一重で躱しデネブとの距離を取った。
(黒尸菌による回復力と身体能力。それに加えて奴自身の高度な魔法。……だがやはり一番面倒なのは奴の素質か……。ならば……)
シリウスは背後の長椅子にぎゅうぎゅうに詰めて座っている教徒をちらりと見る。
数は五百人ほど。皆、デネブに催眠魔法をかけられているのか虚な目で虚空を見つめ、手を合わせて何かに祈っている。
シリウスは教徒たちに魔法の照準を合わせるとその手を僅かに震わせながらも魔力を込めた。
「そんな顔をするな。シリウス」
デネブの言葉は慈愛に満ちていた。不意のその言葉にシリウスは何かに包み込まれるような感覚に陥り、練り上げた魔力は散っていく。
「君が苦しむことはないんだ。どれ、私が救ってやろう」
デネブが教徒たちに手をかざすと次々と口から血を吐き出し、もがき始めた。
「貴様!!何を!!」
我に帰ったシリウスはデネブに叫ぶ。
「私の素質、“言霊”は私の言葉を、聞いた者の魔力で実現させる能力だ。彼らは私が強大な魔法を使う為に用意していたんだが、それももう必要ないらしい」
デネブが話している間にも教徒たちは次々と倒れていく。しかしシリウスの前に立つ狂気は気にせず続ける。
「そもそも“言霊”による魔法では君を倒すに至らないだろう。……そして何より君と剣を交じわせることで分かった」
シリウスの背筋に悪寒が走った。
「私の今の力、魔力はベガやアルタイルさへ超えるだろう。……“言霊”などという他人任せの能力を使わなくともな」
デネブは今までの表情を破り捨てたかの様に、狂気に満ちた表情となる。
刹那、シリウスの目の前からデネブの姿が消える。シリウスは己に迫る危機を本能で察知すると自身の体を以前戦ったバーゲンの素質で黒い霧と化すと、デネブの剣筋が霧を撫でた。この間、わずか瞬き程度であった。
シリウスはデネブから距離を取り、霧化を解くと驚愕の表情を浮かべる。霧化したはずの自身の右肩から左脇にかけて僅かに筋が入ったかと思うと勢い良く鮮血が吹き出した。
シリウスは片膝をつくと急いで治癒魔法で処置する。
「……まさかその剣……」
シリウスはデネブの持つ宝石で装飾がなされた小剣に目をやる。
「ご名答だよ。この“黄昏“は君の剣と同様に因果を無視して相手を斬り付ける」
デネブは自身の剣を見せびらかす。青い刀身に一筋の橙色の線が入っていた。
シリウスは傷の回復を終え、立ち上がる。デネブはそれを待っていたかの様にシリウスに剣の先を向ける。
「その剣、開放しておくといい。でなければ……折れるぞ」
再びデネブの姿が消える。シリウスは剣に魔力を込め、その力を開放すると防御に意識を集中させる。
目の端で何とか鋒を捉えると自身の首を狙う剣筋を何とか防ぐ。しかし、防いだ剣ごと体が吹き飛ばされそうになるほどの力。シリウスの目は紅く煌くと狂戦士が発動し、何とか耐え抜くことができた。
その後、幾度も交わる剣と剣。その度に散る火花。シリウスはデネブの猛攻を凌ぐもしかし、確かにその攻撃は彼の体力を、精神を削っていった。
剣でここまで追い詰められるのはシリウスにとって初めての体験である。デネブの剣技は目で追うのがやっとであり、自身の長年の経験から次の手を予測して何とか防いでいた。
「ぐっ!!」
次第にシリウスの体に傷がつき始める。このままでは部が悪い。シリウスはデネブから距離を取ろうとするがその判断の誤りにすぐに後悔することとなった。
ずしゃっ。鈍い音とともに距離を取る為に力を込めていた右足に熱い痛みが広がる。シリウスが目をやると自分の右足の腿にデネブの剣が突き刺さり、そのまま地面まで貫通してシリウスの体をその場に拘束していた。
「すまないな。そろそろ終わりにしよう」
デネブはシリウスの顔先に手をやると魔法陣を展開する。
爆発魔法か。自身の窮地にシリウスは自分でも驚く程冷静に魔法陣の分析をする。この距離で受ければまず助からないだろう。自分に死が迫るものの、シリウスの眼は諦めずデネブを睨みつけていた。
「そんな眼で見るなよ。あの世でアルタイルによろしく頼むよ。……あの世が有ればな」
デネブの魔法が発動するその時、両者の間にもう一つの刃が割り込んだ。
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