ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Final Season

出動ーMarchingー

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「ちっ。こっちにも、うじゃうじゃいやがる……」

 物陰に隠れてゾンビの群れの様子を窺いながらナナシが呟く。

「くそっ、時計塔まであと少しなのに……」

 ナナシは目の前の時計塔を悔しそうに睨みつけた。


 時は数分前に巻き戻る。ナナシ達は闘技場の医務室でエストレアの治療を見守っていた。その時、シリウスからの念話が届く。

『皆んな、聞こえるか。時間がないから要点だけ話す。デネブは倒し、治療薬は手に入った』
「まじか……流石旦那達だぜ!!」

 ナナシは一同を盛り上げる様に叫んだ。外の見張りに行ったチャックを除いた一同の顔が明るくなる。

『だが、デネブの策略で街中のゾンビ共が一斉に城に向かっている。俺たちもすぐに向かうが恐らく城の周りは闘技場も含めてゾンビ共で埋め尽くされるだろう。……そこで無理も承知で頼むんだが誰か、時計塔の鐘を鳴らして少しでもゾンビを誘導して欲しい。……鐘を鳴らした後は時計塔に籠っていれば俺達が必ず助け出す。……ぐっ……頼むぞ……」

 シリウスは未だに残るダメージから一旦そこで念話は途切れた。
 ヤンは辺りを見回す。倒れているエストレアとその治療にあたる国王とアイリーン。まだ幼いルーナとジョシュとカレン。そして恐らく戦闘力は無いであろうナナシ。恐らくゾンビとの戦闘は避けなければいけないことからチャックよりは身軽で素早い自分が適任だろう。
 ヤンがその旨を伝えようとした時、扉が勢いよく開き、見張りをしていたチャックが入ってきた。

「皆、ちょっと来てくれ!!」

 ヤンとナナシは闘技場に取り付けられた窓へと連れてこられるとそこから見える光景に絶句する。
 道はゾンビに埋め尽くされ、皆一様に城へと目指している。その中には両足をなくしながらも体を芋虫の様に這いずりながら進むゾンビの姿もあった。

「シリウスの言っていることが真実ならば……今俺たちが見ているのはほんの一部だろう」

 チャックの言葉は聞こえているものの、二人は目の前の景色に圧倒されて反応できなかった。

「こ、これじゃあ時計塔にたどり着くどころか一歩も外に出れねえ」

 ヤンは狼狽うろたえる。だが、誰かが向かわなければならない。そうしなければ城の脱出路までたどり着くどころか闘技場内までゾンビが入り込みかねない。
 チャックとヤンが絶望し絶句する中、一人の男が声を上げる。

「……俺がいく」

 ナナシの発言に二人は目を丸くした。

「俺の素質タレントは短い間だけだが気配を完全に消す能力だ。屋内を伝って行けば見つからずに時計塔までたどり着くこともできるはずだ」
「……しかし、それでも死にに行くようなものだ。……行かせるわけにはいかないな」
「そうだぜ。……情けないが入り口の守りを固めてシリウス達の帰りを待つべきだ」

 チャックとヤンはナナシを引き留める。しかし、ナナシは真っすぐに彼らの瞳を見ると決意を口にする。

「……俺は今までクソみたいな人生を送ってきた。親は赤子の俺を捨てたし学も無かったからコソ泥をしてその日さへ生きていられれば良かったんだ。実際、俺もそれで満足だった。……だけど、そんな屑の俺をポラリスの旦那はそれでも助けてくれた。……俺もよくわからねぇけど……俺も皆を守るために何かしたいんだ。何ていうか……そうしろと俺の運命が言っているんだ」

 ナナシの顔は怯えながらもその奥には決して揺るがない意志が宿っており、二人はそれ以上何も言えなかった。

 ナナシは闘技場を出ると目の前の大通りを横切り向かいの商店へと入っていった。ゾンビ達はナナシが目の前を通り抜けても見向きもせず何事もないようにただ城を目指して進んでいた。

 ナナシは以前から泥棒として、裕福層が多く住むこの地帯の地形は大体把握しており、家屋伝いに時計塔を目指し屋外を通る必要がある時は彼の素質タレントで気配を完全に消して進んで行った。

 そして現在はこうして時計塔の目の前で手をこまねいていた。というのも目的地までに広がる大通りはそれまで以上に広く、通過している間に素質タレントが時間切れになってしまう可能性があった。
 
「……早く行かねーと」

 ナナシは自分たちのためにボロボロになった国王やポラリスの姿を思い出す。何故彼らにここまで心を動かされたのはナナシ自身にも分からなかった。

 意を決して素質タレントを発動して通りを恐る恐る横切る。ナナシの能力は自身の発する気配や音を完全に遮断するものであり、それは人の目の前を横切っても一切気付かれないほどである。しかし欠点としては持続時間が短くかつ能力の停止が自分でも分からないこと、発動中は走るなど激しい動きが出来ないことが挙げられ、ナナシはゾンビ達の目の前を高鳴る心臓を必死に押さえながら進んでいた。

(……まだ続いているな……いや、余計な事を考えるな……)

 普段のナナシは十秒もこの能力を持続させることが出来ず、歩き始めて二十秒は経過してなおゾンビ達に気付かれない現状は奇跡と言っても良かった。
 しかしナナシには奇跡を喜ぶ暇もなく、ただ無心に目の前の扉まで足を進める。

 目の前で気づく。扉は部外者の侵入を妨げるために固く施錠されていた。しかしナナシは焦らない。懐からピンセットを取り出すと鍵穴に差し込み、解錠を試みた。

 その時、偶然通りかかったゾンビがしゃがみ込むナナシの背中につまずいた。ゾンビは不思議そうに辺りをキョロキョロと見回す。ナナシはたまに向けられるゾンビからの視線と冷や汗で張り付く背中のシャツの不快感で吐き出しそうになった。

 解錠を初めて数秒後、鍵穴から音がし扉を引くとガチャリと音を立てて開いた。

(……よし、後は鐘を鳴らすだけだ)

 気を抜いたのが悪かったか、或いは単純な時間切れか。ナナシの背中をじっとりとした視線が突き刺す。
 ナナシは振り返りもせず急いで時計塔に入り込み鍵を閉める。その直後、外から扉を叩く振動が始まり、それは次第に強くなった。ナナシは扉を必死に押さえ込むと傍の本棚に気づき扉の前に押して塞いだ。

「……これでしばらくは持つはずだ。さて……」

 気が遠くなるほど長い螺旋階段を目にする。鐘を鳴らす装置は時計塔の最上部にありこの螺旋階段を登り切らなくてはならない。
 ナナシは気を取り直すと階段の一段目に足をかけた。


 ポラリス達は時には屋根伝いに、時には戦闘をしながらなんとか闘技場まで無事に戻ってくることができた。
 
「しかし……予想以上に数が多かったですね。……ナナシさんは大丈夫でしょうか」

 医務室に向かいながらポラリスが話す。ナナシが時計塔に向かったことは念話テレパシーですでに伝わっていた。

「……今は奴に賭けるしかない。エストレアを助けたら俺が救出に向かう。お前は皆を連れて城に向かってくれ」

 話しているうちに医務室に到着し、その扉を開ける。そこには汗まみれになりながら魔法陣に魔力を込めるアイリーン、懸命に治療を続ける国王、そして苦しみながらも何とか息のあるエストレアの姿があった。

「よかった!!……間に合った」
「ポラリス君、シリウスさん……」

 ポラリス達の姿を見たアイリーンは気を抜いたのか意識を失うように倒れるがその体をシリウスが支える。

「……がんばったな。もう大丈夫だ」

 シリウスの言葉にアイリーンは安心したように目を瞑り、気を失った。

「国王、懸命な治療感謝します。後は私にお任せください」
「……おお、やったのか!!」

 今まで魔法陣の中にいて外界から遮断されていた国王はポラリス達の姿を見てデネブを討ち取ったことを悟り、喜びの声を上げる。
 カーネルは治療薬の入った試験管を取り出すと中の液体を注射器に移し替えエストレアの左腕に注入した。

 するとエストレアの顔色はみるみると血の色が戻っていきついに意識を取り戻した。

「……うっ……ポラリス……?」
「エストレアさん!!」

 エストレアは目をかすませながらもポラリスの顔を見るとポラリスは彼女を熱く抱擁した。


「……!!あのナナシが!?」

 国王はデネブを討ち取ってから今までのことをシリウスから聞くとナナシの心配をしながら何かを考え始めた。

「ええ。俺は彼の救助に行ってきます」

 その時、鐘の音が響いた。時計塔の鐘は魔法によって街中至る所で増幅されるため街全体に同じ音量で響いていく。

「!!あいつ……やったのか!!……父上達は先に城へ向かってください」
「いや……」

 立ち上がるシリウスを引き留めると国王は医務室の出口へと向かった。

「ナナシの下へは儂が向かう。お前は皆を守って城へ向かえ」
「ち、父上、正気ですか!?」

 国王の意図が読めず、シリウスはたじろぐ。

「大丈夫、策ならある。……必ず合流する。それまで私の国民達を頼むぞ」

 そう言うと国王は闘技場の地下室へと向かっていった。
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