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火に渦巻くは歴史の咎
ep.38 色々と訳がございまして
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3人は汚れた間欠泉広場をあとにして、この日最後の場所となる火の神殿へ向かった。
クロハの提案で露店に寄って買い食いをしながらまずは南地区へ。神聖な神殿へ続く通りということもあってその大通りは他の地区以上に綺麗にされていた。辺りを見渡してもほとんどごみが落ちていない。毎日誰かが清掃しているのだろう。
火の神殿は大通りの先にあり圧倒的な存在感を放っていた。四方を鋭利な金属柵で囲われており、衛兵も数多く配置されていた。一般人はまず近寄ることができないだろう。
3人は巡礼者に交じって近づけるだけ柵に近づいた。それでも柵や衛兵が邪魔をして神殿がよく見えなかった。
「そこの君たち。もっとよく見たいとは思わないか?」
衛兵の1人が近寄ってきてこっそり声をかけてきた。
「はい。できることなら」
エスカが答えると衛兵はにやりと笑った。
「いい場所を知っている。そこからなら柵にも俺たちにも邪魔されることはないぞ」
「本当ですか?」
「ああ。もちろんタダというわけにはいかないが」
衛兵は小声で話しながら静かに手を差しだした。
「案内料というわけですね。おいくらですか?」
「うーん。できれば酒がこう何杯も飲めるくらいには」
具体的な額を明かさない衛兵の手にエスカは銀貨1枚を載せた。
「これでどうですか?」
「まだ足りないなあ……」
不満そうな顔の衛兵。エスカは銀貨1枚を追加で載せた。
「ではこれで足りますか?」
「もう一声。毎日の楽しみが酒しかないんだ。頼むよ」
「……分かりました。ですがこれ以上はお支払いできません」
懇願されて追加の銀貨。結局ぼったくりのようになってしまった。
「まいどあり。じゃあ君たちにはこれを」
衛兵は懐から1枚の紙を取りだしてエスカに渡した。それは秘密の場所までの道が描かれた地図だった。有料だけあって丁寧に描かれており迷うことはなさそうだ。
「上手いだろ? 俺は地図を描くのが得意なんだ」
「ええ。これなら迷うことはなさそうです」
「くれぐれもこのことは他言無用でな。できればその紙はあとで燃やしてくれ」
衛兵はそう言い残して仲間のもとに戻っていった。
「もしも値段に見合わぬ場所だったら暴露してやろうぞ」
「クロハさん。その心配はないと思いますよ。地図自体もしっかりしていますし、ああして素顔を晒しているので嘘はつけないはずです」
地図を売った衛兵は自分の定位置に戻り仲間と親しげに話していた。
「しかしこの目で見てみるまでは何とも言えん。とりあえずそこへゆこうぞ」
「そうですね。とりあえず行ってみましょう。えっと、私についてきてください」
エスカは地図を見ながら先導して2人をその場所へ連れていった。
秘密の場所は近くの雑木林を抜けた先にある古びた石段を上がったところにあった。そこは高台で視界が開けていた。切株がいくつもあるので伐採したのだろう。
「まあっ! ここからならよく見えますね」
「ちと遠いが、なかなか見やすいではないか」
エスカとクロハは仲良く並んで上から神殿を見下ろし眺めていた。ここなら柵にも人間にも邪魔されないので好きなだけ外観を見ることができる。
センリは2人から少し離れた場所で火の神殿をじっと見ていた。あの場所へセレネが毎日お勤めに行っている。中がどうなっているかは分からないが、時間的にセレネはもう城へ帰っているだろう。
「あの、センリさん。こちらのほうがよく見えますよ」
エスカは声をかけてセンリの服の裾をきゅっと控えめに引っ張った。センリは無言でついていって最も見やすい場所を譲ってもらった。
「もし、あの中で一生を過ごせと言われたらお前たちはどうする?」
「嫌に決まっておるっ! 何にもできんではないかっ! もし我があんな狭い箱の中に閉じ込められたら退屈ですぐ死んでしまうわっ!」
クロハは体をぱたぱたと動かして断固拒否の意思を示した。
「私も嫌ですね。あの中にずっといては大好きなみなさんとお話ができなくなってしまいます。想像するだけでもとても辛い。……でも、それがセンリさんと一緒ならきっと耐えられると思います」
エスカというと悲しい顔をしたあとにセンリへ笑みを向けた。
「……エスカよ。我はそのさりげないやり方に感心するぞ」
「え? 私、何かしましたか?」
「いや、分かっていないのならそれでよい」
クロハは小さく手を振ってその話題を終わりにした。エスカは不思議そうに小首を傾げていた。
###
秘密の場所には誰も来ることがなく、3人はそれぞれ景色を眺めたり昼寝をしたり少し話をしたりでのんびりと時間を過ごしていた。気がつけばあっという間に数時間が経過していてようやくセンリが重い腰を上げた。
「俺はもう帰るぞ」
「あ、それなら私も帰ります」
エスカはとっさに立ち上がろうとして膝枕していたクロハの頭を地面に落とした。
「……ぐッ」
クロハは一瞬だけ呻いて重いまぶたを上げると体を起こした。
「なんじゃ、もう朝か……」
「ごめんなさい。つい反射的に……」
「なぜ謝っておる。何のことか分からんぞ」
クロハは寝ぼけていてエスカが何をしたか分かっていなかった。
「大丈夫、そうですね」
エスカはクロハの後頭部を手で触って確認した。腫れている部分はないようだ。
「エスカ。いったい何をしておる?」
「い、いえ。なんでもありません。そろそろお城へ帰りましょう」
クロハは小首を傾げたまま立ち上がり体をはたいた。横向きに寝ていたので片方の頬には服の跡が見事に付いていた。
###
3人は城下まで歩いて戻り、そこから行きと同じ馬車に乗って城へ帰った。
部屋の方向が違うのでセンリとクロハはそこでエスカと別れた。エスカは名残惜しそうな顔で「夕食の席でまた会いましょう」と言葉を残して小さく手を振った。
2人になったセンリとクロハは横に並んで廊下を歩いていた。前方に料理を載せた手押し車を押す女給仕の姿が見える。クロハは彼女に駆け寄って声をかけた。
「それが今晩の夕食か?」
「え? あ、はい。そうです」
「ほう。これはなかなか。しかし夕食にしてはちと早いのう。どこの誰へ持っていくつもりじゃ?」
「これはアルテ様のお食事です。夜はいつも部屋でお召し上がりになるので」
「どうしてじゃ?」
「それはその……色々と訳がございまして」
「ほほう。訳ありとな。我に聞かせてみよ」
興味を持ったクロハに女給仕は表情を曇らせた。
「大変申し訳ありませんが、私の口からそれをお話しすることはできません」
「それはつまり本人に聞けと言うことかえ?」
「…………」
さすがにはいと答えるわけにはいかず女給仕は困っていた。それを見兼ねたのかセンリはうしろからクロハの耳を引っ張った。
「いたたたたっ! いきなり何をするっ!」
「馬鹿やってないで行くぞ」
引っ張るだけ引っ張ったらセンリは手を放してそのまま歩いていった。
「痛いではないかっ! 我の大事な耳が千切れたらどうするつもりじゃ!」
クロハはぶすっとした顔で女給仕から離れてあとを追いかけた。女給仕はほっとした表情を浮かべていた。
丁字路に差し掛かって左へ曲がったセンリとクロハ。2人の視界に向こうからやってくる女給仕の姿が入った。よくよく見ればさきほどの女給仕と瓜二つだ。
2人は怪訝そうに眉を動かして一緒に丁字路のところまで引き返した。視線を向けるとやはりそこにはさきほどの女給仕がいた。そして振り返るとそこにもまた女給仕がいた。
「まるで生き写しのようじゃ。双子かのう」
クロハは2人を何度も見比べて言った。
クロハの提案で露店に寄って買い食いをしながらまずは南地区へ。神聖な神殿へ続く通りということもあってその大通りは他の地区以上に綺麗にされていた。辺りを見渡してもほとんどごみが落ちていない。毎日誰かが清掃しているのだろう。
火の神殿は大通りの先にあり圧倒的な存在感を放っていた。四方を鋭利な金属柵で囲われており、衛兵も数多く配置されていた。一般人はまず近寄ることができないだろう。
3人は巡礼者に交じって近づけるだけ柵に近づいた。それでも柵や衛兵が邪魔をして神殿がよく見えなかった。
「そこの君たち。もっとよく見たいとは思わないか?」
衛兵の1人が近寄ってきてこっそり声をかけてきた。
「はい。できることなら」
エスカが答えると衛兵はにやりと笑った。
「いい場所を知っている。そこからなら柵にも俺たちにも邪魔されることはないぞ」
「本当ですか?」
「ああ。もちろんタダというわけにはいかないが」
衛兵は小声で話しながら静かに手を差しだした。
「案内料というわけですね。おいくらですか?」
「うーん。できれば酒がこう何杯も飲めるくらいには」
具体的な額を明かさない衛兵の手にエスカは銀貨1枚を載せた。
「これでどうですか?」
「まだ足りないなあ……」
不満そうな顔の衛兵。エスカは銀貨1枚を追加で載せた。
「ではこれで足りますか?」
「もう一声。毎日の楽しみが酒しかないんだ。頼むよ」
「……分かりました。ですがこれ以上はお支払いできません」
懇願されて追加の銀貨。結局ぼったくりのようになってしまった。
「まいどあり。じゃあ君たちにはこれを」
衛兵は懐から1枚の紙を取りだしてエスカに渡した。それは秘密の場所までの道が描かれた地図だった。有料だけあって丁寧に描かれており迷うことはなさそうだ。
「上手いだろ? 俺は地図を描くのが得意なんだ」
「ええ。これなら迷うことはなさそうです」
「くれぐれもこのことは他言無用でな。できればその紙はあとで燃やしてくれ」
衛兵はそう言い残して仲間のもとに戻っていった。
「もしも値段に見合わぬ場所だったら暴露してやろうぞ」
「クロハさん。その心配はないと思いますよ。地図自体もしっかりしていますし、ああして素顔を晒しているので嘘はつけないはずです」
地図を売った衛兵は自分の定位置に戻り仲間と親しげに話していた。
「しかしこの目で見てみるまでは何とも言えん。とりあえずそこへゆこうぞ」
「そうですね。とりあえず行ってみましょう。えっと、私についてきてください」
エスカは地図を見ながら先導して2人をその場所へ連れていった。
秘密の場所は近くの雑木林を抜けた先にある古びた石段を上がったところにあった。そこは高台で視界が開けていた。切株がいくつもあるので伐採したのだろう。
「まあっ! ここからならよく見えますね」
「ちと遠いが、なかなか見やすいではないか」
エスカとクロハは仲良く並んで上から神殿を見下ろし眺めていた。ここなら柵にも人間にも邪魔されないので好きなだけ外観を見ることができる。
センリは2人から少し離れた場所で火の神殿をじっと見ていた。あの場所へセレネが毎日お勤めに行っている。中がどうなっているかは分からないが、時間的にセレネはもう城へ帰っているだろう。
「あの、センリさん。こちらのほうがよく見えますよ」
エスカは声をかけてセンリの服の裾をきゅっと控えめに引っ張った。センリは無言でついていって最も見やすい場所を譲ってもらった。
「もし、あの中で一生を過ごせと言われたらお前たちはどうする?」
「嫌に決まっておるっ! 何にもできんではないかっ! もし我があんな狭い箱の中に閉じ込められたら退屈ですぐ死んでしまうわっ!」
クロハは体をぱたぱたと動かして断固拒否の意思を示した。
「私も嫌ですね。あの中にずっといては大好きなみなさんとお話ができなくなってしまいます。想像するだけでもとても辛い。……でも、それがセンリさんと一緒ならきっと耐えられると思います」
エスカというと悲しい顔をしたあとにセンリへ笑みを向けた。
「……エスカよ。我はそのさりげないやり方に感心するぞ」
「え? 私、何かしましたか?」
「いや、分かっていないのならそれでよい」
クロハは小さく手を振ってその話題を終わりにした。エスカは不思議そうに小首を傾げていた。
###
秘密の場所には誰も来ることがなく、3人はそれぞれ景色を眺めたり昼寝をしたり少し話をしたりでのんびりと時間を過ごしていた。気がつけばあっという間に数時間が経過していてようやくセンリが重い腰を上げた。
「俺はもう帰るぞ」
「あ、それなら私も帰ります」
エスカはとっさに立ち上がろうとして膝枕していたクロハの頭を地面に落とした。
「……ぐッ」
クロハは一瞬だけ呻いて重いまぶたを上げると体を起こした。
「なんじゃ、もう朝か……」
「ごめんなさい。つい反射的に……」
「なぜ謝っておる。何のことか分からんぞ」
クロハは寝ぼけていてエスカが何をしたか分かっていなかった。
「大丈夫、そうですね」
エスカはクロハの後頭部を手で触って確認した。腫れている部分はないようだ。
「エスカ。いったい何をしておる?」
「い、いえ。なんでもありません。そろそろお城へ帰りましょう」
クロハは小首を傾げたまま立ち上がり体をはたいた。横向きに寝ていたので片方の頬には服の跡が見事に付いていた。
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3人は城下まで歩いて戻り、そこから行きと同じ馬車に乗って城へ帰った。
部屋の方向が違うのでセンリとクロハはそこでエスカと別れた。エスカは名残惜しそうな顔で「夕食の席でまた会いましょう」と言葉を残して小さく手を振った。
2人になったセンリとクロハは横に並んで廊下を歩いていた。前方に料理を載せた手押し車を押す女給仕の姿が見える。クロハは彼女に駆け寄って声をかけた。
「それが今晩の夕食か?」
「え? あ、はい。そうです」
「ほう。これはなかなか。しかし夕食にしてはちと早いのう。どこの誰へ持っていくつもりじゃ?」
「これはアルテ様のお食事です。夜はいつも部屋でお召し上がりになるので」
「どうしてじゃ?」
「それはその……色々と訳がございまして」
「ほほう。訳ありとな。我に聞かせてみよ」
興味を持ったクロハに女給仕は表情を曇らせた。
「大変申し訳ありませんが、私の口からそれをお話しすることはできません」
「それはつまり本人に聞けと言うことかえ?」
「…………」
さすがにはいと答えるわけにはいかず女給仕は困っていた。それを見兼ねたのかセンリはうしろからクロハの耳を引っ張った。
「いたたたたっ! いきなり何をするっ!」
「馬鹿やってないで行くぞ」
引っ張るだけ引っ張ったらセンリは手を放してそのまま歩いていった。
「痛いではないかっ! 我の大事な耳が千切れたらどうするつもりじゃ!」
クロハはぶすっとした顔で女給仕から離れてあとを追いかけた。女給仕はほっとした表情を浮かべていた。
丁字路に差し掛かって左へ曲がったセンリとクロハ。2人の視界に向こうからやってくる女給仕の姿が入った。よくよく見ればさきほどの女給仕と瓜二つだ。
2人は怪訝そうに眉を動かして一緒に丁字路のところまで引き返した。視線を向けるとやはりそこにはさきほどの女給仕がいた。そして振り返るとそこにもまた女給仕がいた。
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