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火に渦巻くは歴史の咎
ep.37 神様なんかじゃない
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「……あの、それはどういうことでしょうか?」
エスカは刺激しないように優しく理由を尋ねた。
「あそこにいるのは悪魔だ! 神様なんかじゃない! みんなまんまと騙されおって!」
ルキは大声を出して空の酒瓶を振り回した。
「ル、ルキさん。お客様になんてことを」
慌てて走ってきた店主はルキを羽交い絞めにして店外へと連れだした。
「迷惑な輩じゃのう。いなくなって清々したわ」
「あの方、火の神殿のことを悪魔と言っていましたね。何かあったのでしょうか」
「エスカ。気に留める必要はない。所詮酔っぱらいの戯言じゃ」
「…………」
センリは黙って考え込んでいた。あの酔っぱらいの戯言が心に引っかかったのだ。
「どうした? 主よ。そんな真剣な顔をして」
「なんでもない。少し考え事をしてただけだ。それよりもあいつの言った悪魔の住処とやらに行ってみたいわけだが」
「まさか主まであの酔っぱらいの戯言を信じるとは……」
「信じるか信じないかじゃない。面白そうだからだ。もしも火の神が本当に悪魔だったら傑作だろ?」
「なるほど。そういう考え方なら確かに面白そうじゃな。のう、エスカ」
「面白いか面白くないかは置いておくとして、火の神殿は近くまで行けませんがそれでもよろしいですか? おそらく遠くから外観を眺めるだけになると思います」
「ああ。それで構わない」
とりあえず一度行ってみて場所を覚えることがセンリの目的だった。
「そろそろ出ましょうか」
全員がお茶を飲み終えて一息ついた頃、エスカが席を立った。それに続いて2人も席を立ち、それぞれ勘定を済まして店を出た。さきほど店の外に連れだされたルキの姿はどこにもなかった。
3人は間欠泉を見るために東地区へと向かった。南地区にいたのでまず来た道を戻り東地区へと続く通りを歩いていった。通りの途中には『この先、間欠泉』と書かれた看板が設置されていた。街の観光名所なので見にいく人々もやはりいた。
一行は彼らに交じって間欠泉のある広場まで歩いた。温泉の噴き出す穴は柵にぐるりと囲われていて人々はその柵の前に立っていた。
「なーんじゃ、何も噴き出しておらんではないか」
クロハは柵に寄りかかって不満そうな表情を浮かべた。
「クロハさん。間欠泉は常に見られるわけではありません。定期的に噴き出すそうなのでそれまで待つ必要があります」
「そんな話は聞いておらんぞ。我は待つのは嫌じゃ」
「ごめんなさい。でももう少しで見られると思います。すでにこれだけの人々が集まっているのがその証拠です」
間欠泉を一度でも見れば見物客は満足して帰っていくだろう。しかし今ここには多くの人々がいて今か今かとその瞬間を待っていた。エスカの言うことはあながち間違いではないだろう。
「つまらんのう待つというのは。のう、主よ。我に愛の言葉を囁いてはくれぬか。そうしてくれればこの退屈な時が大いに華やぐ」
「馬鹿を言うな」
センリは上目遣いですり寄ってきたクロハの頭を軽く叩いた。
「……むうう。主はいつもそうじゃ。我に対しては手厳しい。エスカに対しては甘いのにのう」
「俺がこいつに甘いだと?」
センリはエスカのほうを向いた。目が合ってエスカはにっこりと笑った。
「うむ。甘々じゃ。主の態度を見れば分かる」
「馬鹿馬鹿しい。寝言は寝て言え」
鼻で笑うセンリを見てクロハは頬を膨らました。
「エスカばっかりずるいぞ。我にも優しくしてほしい」
「あの、クロハさん。そう感じるのは気のせいだと思います。センリさんは決して私に甘くはありません」
「おい、聞いたか」
センリが顔を向けるとクロハは「……むうう」と言って拗ねた。
「けれど……最近になって甘さとは違う優しさを時より感じるようになりました」
エスカは満たされた表情を浮かべて惚けた。それを見たクロハはにやりと笑った。
「おい、聞いたか」
「…………」
クロハに同じ言葉を言い返されて苛立ったセンリは顔を背けた。
「くだらん茶番はもういい。勝手にしろ」
「なら勝手にさせてもらうぞ」
そう言ってクロハはセンリの腕に自分の腕を絡ませた。いちいち引き剥がすのも面倒になりセンリはそのまま放置した。
「ク、クロハさん。それはずるいです」
エスカは居ても立ってもいられなくなりクロハの反対側で同じように腕を絡ませた。
2人の美女に挟まれる1人の男。傍から見れば羨ましくも奇妙な光景。しかし当人は鼻の下を伸ばすどころか眉間にしわを寄せて温泉の噴き出す穴を睨みつけていた。
###
「おっ! ついに来おったか!」
目を見開いて声を上げるクロハ。半刻ほどかかってようやく穴を満たすお湯がブクブクと泡立ち始めた。前兆に気づいた周囲の人々は柵から身を乗りだしてその時を待った。
水面の泡立ちや蒸気がだんだん激しくなって、ついにその時が訪れた。
ごうごうごうと大きく鳴り響く音ともに柱のような温泉が一気に噴き出した。見物客はみな喜びの声を上げて拍手をした。
ここの3人も噴き上がる間欠泉を見上げて口を開けていた。
「おおっ! すごいではないかっ!」
「すごいですね。空まで届いてしまいそうです」
皆が楽しみにしていた間欠泉は十数秒ほどで終了した。見物客は満足げな顔で立ち去り始めた。センリたちも満足して帰る雰囲気になっていた。
「な、なんだあれはッ!」
遠くから怯えた声が聞こえた。それは見物客の声。
大声にみなが振り返ると間欠泉の穴から黒い蒸気が噴き出していた。多くの見物客が見守る中、それは自ら凝集して異形の化け物へと姿を変えた。目もなく耳もなく大きく裂けた口が特徴的な四足のそれは濡れた表皮を持ち身体から黒い水を滴らせていた。
さきほどまで喜びの声を上げていた見物客の声は一斉に悲鳴へと変わった。家族連れは親が子供を守るようにして抱きかかえ、恋人たちも手を繋いで逃げようとしていた。
化け物は彼らには目もくれず牙を剥き出しにしてセンリへ飛びかかった。
センリはその場で化け物を迎え撃つことに。組まれた腕を引き離し、間近に迫ったところで裏拳打ちを決めて払いのけた。
「キエエエエエエエエエエエエエエッ!」
甲高い声を上げた化け物。黒い水と涎を周囲に撒き散らしながら吹っ飛ばされて岩に激突した。その瞬間、水風船のように体が破裂して辺りを黒い粘着性の水でびっしょりと濡らした。運悪くその水が顔にかかった女性は悲鳴を上げてその場で嘔吐した。
「センリさん。今のはいったい……」エスカが振り向く。
「分からん。だが微かに魔族の臭いがした」
センリは手の汚れた部位を柵に擦りつけながら言った。
「それは本当ですか? この国にも魔族の脅威が……」
エスカは目を見開いて深刻な表情を浮かべた。
「あいつは手駒だな。本体は別の場所にいるはずだ」
「やはりそうであったか。いくら探知しても見つからないはずじゃ」
クロハは近くに操っている本体がいると睨んでいた。が、センリの言葉を聞いて精神集中を切った。
「センリさん。その本体がどこにいるか分かりますか?」
「さあな。あいつは独立型の手駒だ。常に魔力供給が必要な紐付きの雑魚とは訳が違う」
「それはつまり本体はかなりの力を持っているということでしょうか」
「どうせ期待外れだろうが、もしかするともしかするかもな」
この国に潜む強敵の存在にセンリは少年のように心を躍らせた。
エスカは刺激しないように優しく理由を尋ねた。
「あそこにいるのは悪魔だ! 神様なんかじゃない! みんなまんまと騙されおって!」
ルキは大声を出して空の酒瓶を振り回した。
「ル、ルキさん。お客様になんてことを」
慌てて走ってきた店主はルキを羽交い絞めにして店外へと連れだした。
「迷惑な輩じゃのう。いなくなって清々したわ」
「あの方、火の神殿のことを悪魔と言っていましたね。何かあったのでしょうか」
「エスカ。気に留める必要はない。所詮酔っぱらいの戯言じゃ」
「…………」
センリは黙って考え込んでいた。あの酔っぱらいの戯言が心に引っかかったのだ。
「どうした? 主よ。そんな真剣な顔をして」
「なんでもない。少し考え事をしてただけだ。それよりもあいつの言った悪魔の住処とやらに行ってみたいわけだが」
「まさか主まであの酔っぱらいの戯言を信じるとは……」
「信じるか信じないかじゃない。面白そうだからだ。もしも火の神が本当に悪魔だったら傑作だろ?」
「なるほど。そういう考え方なら確かに面白そうじゃな。のう、エスカ」
「面白いか面白くないかは置いておくとして、火の神殿は近くまで行けませんがそれでもよろしいですか? おそらく遠くから外観を眺めるだけになると思います」
「ああ。それで構わない」
とりあえず一度行ってみて場所を覚えることがセンリの目的だった。
「そろそろ出ましょうか」
全員がお茶を飲み終えて一息ついた頃、エスカが席を立った。それに続いて2人も席を立ち、それぞれ勘定を済まして店を出た。さきほど店の外に連れだされたルキの姿はどこにもなかった。
3人は間欠泉を見るために東地区へと向かった。南地区にいたのでまず来た道を戻り東地区へと続く通りを歩いていった。通りの途中には『この先、間欠泉』と書かれた看板が設置されていた。街の観光名所なので見にいく人々もやはりいた。
一行は彼らに交じって間欠泉のある広場まで歩いた。温泉の噴き出す穴は柵にぐるりと囲われていて人々はその柵の前に立っていた。
「なーんじゃ、何も噴き出しておらんではないか」
クロハは柵に寄りかかって不満そうな表情を浮かべた。
「クロハさん。間欠泉は常に見られるわけではありません。定期的に噴き出すそうなのでそれまで待つ必要があります」
「そんな話は聞いておらんぞ。我は待つのは嫌じゃ」
「ごめんなさい。でももう少しで見られると思います。すでにこれだけの人々が集まっているのがその証拠です」
間欠泉を一度でも見れば見物客は満足して帰っていくだろう。しかし今ここには多くの人々がいて今か今かとその瞬間を待っていた。エスカの言うことはあながち間違いではないだろう。
「つまらんのう待つというのは。のう、主よ。我に愛の言葉を囁いてはくれぬか。そうしてくれればこの退屈な時が大いに華やぐ」
「馬鹿を言うな」
センリは上目遣いですり寄ってきたクロハの頭を軽く叩いた。
「……むうう。主はいつもそうじゃ。我に対しては手厳しい。エスカに対しては甘いのにのう」
「俺がこいつに甘いだと?」
センリはエスカのほうを向いた。目が合ってエスカはにっこりと笑った。
「うむ。甘々じゃ。主の態度を見れば分かる」
「馬鹿馬鹿しい。寝言は寝て言え」
鼻で笑うセンリを見てクロハは頬を膨らました。
「エスカばっかりずるいぞ。我にも優しくしてほしい」
「あの、クロハさん。そう感じるのは気のせいだと思います。センリさんは決して私に甘くはありません」
「おい、聞いたか」
センリが顔を向けるとクロハは「……むうう」と言って拗ねた。
「けれど……最近になって甘さとは違う優しさを時より感じるようになりました」
エスカは満たされた表情を浮かべて惚けた。それを見たクロハはにやりと笑った。
「おい、聞いたか」
「…………」
クロハに同じ言葉を言い返されて苛立ったセンリは顔を背けた。
「くだらん茶番はもういい。勝手にしろ」
「なら勝手にさせてもらうぞ」
そう言ってクロハはセンリの腕に自分の腕を絡ませた。いちいち引き剥がすのも面倒になりセンリはそのまま放置した。
「ク、クロハさん。それはずるいです」
エスカは居ても立ってもいられなくなりクロハの反対側で同じように腕を絡ませた。
2人の美女に挟まれる1人の男。傍から見れば羨ましくも奇妙な光景。しかし当人は鼻の下を伸ばすどころか眉間にしわを寄せて温泉の噴き出す穴を睨みつけていた。
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「おっ! ついに来おったか!」
目を見開いて声を上げるクロハ。半刻ほどかかってようやく穴を満たすお湯がブクブクと泡立ち始めた。前兆に気づいた周囲の人々は柵から身を乗りだしてその時を待った。
水面の泡立ちや蒸気がだんだん激しくなって、ついにその時が訪れた。
ごうごうごうと大きく鳴り響く音ともに柱のような温泉が一気に噴き出した。見物客はみな喜びの声を上げて拍手をした。
ここの3人も噴き上がる間欠泉を見上げて口を開けていた。
「おおっ! すごいではないかっ!」
「すごいですね。空まで届いてしまいそうです」
皆が楽しみにしていた間欠泉は十数秒ほどで終了した。見物客は満足げな顔で立ち去り始めた。センリたちも満足して帰る雰囲気になっていた。
「な、なんだあれはッ!」
遠くから怯えた声が聞こえた。それは見物客の声。
大声にみなが振り返ると間欠泉の穴から黒い蒸気が噴き出していた。多くの見物客が見守る中、それは自ら凝集して異形の化け物へと姿を変えた。目もなく耳もなく大きく裂けた口が特徴的な四足のそれは濡れた表皮を持ち身体から黒い水を滴らせていた。
さきほどまで喜びの声を上げていた見物客の声は一斉に悲鳴へと変わった。家族連れは親が子供を守るようにして抱きかかえ、恋人たちも手を繋いで逃げようとしていた。
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センリはその場で化け物を迎え撃つことに。組まれた腕を引き離し、間近に迫ったところで裏拳打ちを決めて払いのけた。
「キエエエエエエエエエエエエエエッ!」
甲高い声を上げた化け物。黒い水と涎を周囲に撒き散らしながら吹っ飛ばされて岩に激突した。その瞬間、水風船のように体が破裂して辺りを黒い粘着性の水でびっしょりと濡らした。運悪くその水が顔にかかった女性は悲鳴を上げてその場で嘔吐した。
「センリさん。今のはいったい……」エスカが振り向く。
「分からん。だが微かに魔族の臭いがした」
センリは手の汚れた部位を柵に擦りつけながら言った。
「それは本当ですか? この国にも魔族の脅威が……」
エスカは目を見開いて深刻な表情を浮かべた。
「あいつは手駒だな。本体は別の場所にいるはずだ」
「やはりそうであったか。いくら探知しても見つからないはずじゃ」
クロハは近くに操っている本体がいると睨んでいた。が、センリの言葉を聞いて精神集中を切った。
「センリさん。その本体がどこにいるか分かりますか?」
「さあな。あいつは独立型の手駒だ。常に魔力供給が必要な紐付きの雑魚とは訳が違う」
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