ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第01話 世界一平和な逆襲(前)

09.世界が見つめる中で

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 ***

 テレビの中。
 ヴァンの分身の一人であるヴァン[記者対応]が無数の記者たちに囲まれていた。

『ヴァン様! 奥様の安否は⁉︎』
『どう対応されるのでしょうか⁉︎ 宣言通りこの国を捨ててしまうのですか⁉︎』
『あの写真は本当にご自宅で撮影されたものなんでしょうか⁉︎』

 質問攻めである。その様子をヴァン[ミオ]はソファーで第二夫人・ミオと並んで観ていた。スナキア家の頭脳であるミオはヴァンが生み出したこの状況に満足げに頷いていた。

「フフ、大騒ぎねぇ♡」
「国家存亡の危機だからな」

 ヴァンは「妻が誘拐された」という情報をあえてメディアに流した。自宅に侵入した誘拐犯(実際は下着泥棒)たちの写真のおかげで信憑性と話題性がグッと高まった。ヴァン・スナキア夫人に何者かが危害を加えたとなればヴァンの動向が注目される。国内のあらゆるメディアが生中継していた。

 首都アラムの路上にヴァン[記者対応]を中心に人だかりができている。背後に映る空は夕刻に迫って赤らんでおり、まるでこの世の終わりのような雰囲気だ。

「ヴァンさん、どうやってこんなところに人を集めたのぉ?」
「あー……」

 ヴァンはこれから、この国に向けてとんでもないことをやらかす。誘拐を利用してメディアを集めたのはそれを国民に見せつけるためだ。撮影しやすい場所に記者を集めたかったが、こちらから街の中を会見場に指定すれば作為的で怪しまれただろう。

「色々あってな。後で話すよ」
「?」

 話せば長くなる。このヴァンとミオは実際の放送を観て国民に適切な映像が届けられているかチェックするのが仕事だ。今は画面を注視しておかねば。

 ヴァン[記者対応]が説明する。

『犯人は俺との交渉が目的でしょう。後継を作れと要求してくるんだと思います。少なくとも交渉が終わるまで妻は無事だと思うのですが……』

 記者たちがざわめく。もしその交渉で誘拐犯が勝利すればこの国に待望のスナキア・ベビーが生まれる。国民たちにとってこの誘拐劇は一転して朗報となるだろう。色んな意味で国民たちはこのニュースから目が離せない。

「この国の人たち全員見てるでしょうねぇ」
「多分世界中見てるさ。俺がウィルクトリアを捨てると宣言した瞬間ミサイルを撃ち込むために」

 もちろんそんなことさせるつもりはない。とはいえもしどこかの国が先走って実行に移してしまっても、本日は大量のヴァンがこの国の上空を監視している。どれほどの規模の攻撃でもあっさり防いでしまうだろう。国民に気づかれることすらなくだ。

「それにしても攫われる役をジルに任せちゃって申し訳ないわねぇ……」
「『私がやる』って言い張ってたよ」
「流石キャプテン・ジルーナねぇ」

 ヴァンと最初に結婚した第一夫人であるジルーナは妻たちのリーダー的な立ち位置だ。少し危ない役割だが進んで名乗り出てくれた。ちなみにこの番号には嫁いだ順番以上の意味はなく、ヴァンは全員を平等に愛しまくっている。

「これからジルが映るんでしょう? ちゃんと顔は隠してるぅ?」
「ああ。犯人からヘルメットを借りた。誘拐犯の俺もジルも厚着して身体にタオルも巻いてる。体型もヒントになるかもしれないからな」

 これからジルーナを連れたヴァン[誘拐犯]が画面の中に登場する手筈になっている。妻の正体は全力で隠さなければならないので対策は十全にさせてもらった。彼女は「太って見えるじゃん」と嫌がっていたが。

 その時ふいに、画面の中のヴァン[記者対応]が硬直する。そして、

『犯人の魔法の気配だ……!』

 ハッとした表情を見せ、取材陣を置き去りに飛行魔法で首都上空に飛んでいった。

「始まったわねぇ♡」

 記者たちはざわつきながらも、大慌てでカメラでヴァンの姿を追った。高度数百メートル。あっという間にヴァン[取材対応]の姿は小さくなる。そして彼が追う先には、テレポートと飛行魔法を駆使して逃げる謎の男。ヴァン[誘拐犯]だ。

「あ、ジル!」

 カメラがヴァン[誘拐犯]をしっかり捉える。ジルーナを小脇に抱えていることが視認できた。ヴァン[誘拐犯]の服装はメディアに流した写真と一致するため、取り逃がした誘拐犯グループの一人だと思ってくれるだろう。

「……ちょっとヴァンさん! もっと、こう、お姫様抱っことかしてあげてよぉ」
「ジルがああしてくれって言うんだよ。多少乱暴に持った方がリアルだからって」

 ヴァンだって安全な抱っこか身体が密着するおんぶを所望していた。だがこの誘拐劇を本物に見せるためには細部にこだわった方がいいという彼女の主張には頷くしかなかったのだ。

「まあ、自作自演だなんてバレたら大変だけどぉ……。あ、ヴァンさん、もうちょっと高く飛んだ方がいいんじゃない?」
「これだけ離れれば魔法の気配で俺だってバレることはないと思うぞ。あと追いかけてる俺の方が魔力強いからそっちの気配に紛れる」
「これだけマスコミが集まってるとみんな『他の局より良い映像を撮りたい』って思うでしょう? ファクターにカメラ持たせて飛んでくるかもぉ」
「ん、なるほど」

 ミオの監修の元で微調整していく。離れ過ぎてカメラに映らなくなるのも困るので良い塩梅の距離を探した。これからヴァンがこの国に向けてしでかす事を、しっかりくっきり国民にお届けしてもらわなくては。

「フフ、ヴァンさん対ヴァンさんね♡」

 いよいよ上空でヴァン[記者対応]がヴァン[誘拐犯」と対峙した。睨み合ったまま動かない両者。どうにか状況を整理して実況するアナウンサーの騒がしい声がテレビから流れる。

『じょ、女性を抱えた男が空を飛んでいます! あれがヴァン・スナキア夫人、そして誘拐犯なのでしょうか⁉︎ こ、この国は一体どうなってしまうのでしょうか⁉︎」

 今や世界中が、ウィルクトリアの首都アラム上空に注目していた。見せつける準備は整ったというわけだ。────あとはここに、彼らを呼び出すだけだ。
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