ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第01話 世界一平和な逆襲(前)

10.ヴァン最大の秘密

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 ***

「ヴァン! かかってこい!」

 ドレイク大将が叫ぶ。ウィルクトリア軍演習地。三万人に分かれたヴァンと三万の兵が戦闘を繰り広げていた。とはいえ、攻撃しているのは兵だけだ。

「俺を倒してみろヴァン! いつまで様子見している気だ⁉︎」

 ドレイクの声にはやや焦りが見えた。ヴァンに傷一つでも付ければ勝利というこの戦い。こっそり仕込まれていた兵が傷ついてもヴァンの負けという罠に、ヴァンは妻のおかげで気づいている。そしてヴァンが気づいていることに兵たちも気づき始めているようだった。

 だが兵たちは決して落胆はしていなかった。彼らにとってヴァンとの対決はあくまでサブプランである。本当の目的はできるだけ長い間ヴァンを大量に分身させておくことなのだろうし、ヴァンが攻撃してこないのはかえって好都合と見える。

「そちらこそもっと本気で攻撃してきたらどうですか?」
「クッ……! 調子に乗るなよヴァン!」

 ドレイクと戦っているヴァン[ドレイク]は彼を挑発する。この勝負のルールからすると、ヴァンには兵たちに魔力を使い果たさせる以外に勝ち筋がない。

 しかしヴァンにも計画がある。実はヴァンとしても彼らにまだ消耗してほしくなかった。彼らにはこの後大仕事に取り組んでもらわねばならないからだ。あえて挑発したのは、「挑発に乗ってはいけない」と心を引き締めさせるためだ。ヴァンと軍の利害が一致したことで、参加人数の割には穏やかな戦闘となっていた。

 ただ一人、ドレイクだけが気を吐いていた。恐らく彼だけは「ヴァンに傷をつける」という勝利条件を狙っている。

「食らえ!」

 ドレイクは顔が血の気で染まるほどの力を込めて砲撃魔法を放つ。ヴァンはそれをデコピンで打ち消した。

「ヴァン! いい加減目を覚ませ!」

 ドレイクは威力が足りないのであれば手数だとばかりに、火炎魔法と雷撃魔法を織り交ぜて連打する。彼は若くして大将まで上り詰めた男。ヴァンを除けば世界最強である。

 「今のお前を見て、初代スナキア家当主ルーダス様はさぞ嘆いているだろうな!」

 ヴァンは彼の攻撃にピッタリ同じ威力の魔法をぶつけ、一つ一つ丁寧に撃ち落とす。

「三百年前の方ですよ?」
「あの方の意志は今もお前の中にある! お前が宿すルーダス・コアにな!」

 ──ルーダス・コア。

 スナキア家当主が一子相伝で受け継いできた膨大な魔力源。それがヴァンの逸脱した魔力の正体だ。

 持ち主の魔力を数百倍に増幅する効果を持ち、スナキア家当主を他のファクターと比較にならないくらい強くする。ひいてはウィルクトリアを覇権国家足らしめる根拠であり、国家の秘宝である。

「まったく不公平だ……! そのコアが俺にあれば……!」

 ドレイクは恐らく全兵が抱いてあるであろう希望を口にした。だがそれは叶わない。

「コアを継承できるのはコアを持った俺の実子だけです。それと────」

 言いかけた言葉を飲み込む。
 ……ヴァンは国民に大きな隠し事をしていた。

 ルーダス・コアの真の継承条件は、コア保持者と愛する人との実子。愛妻家だったと伝えられる初代ルーダスの気質が反映されているのか、配偶者を本当に愛していなければ彼の力を受け継がせることができない。

 しかし、ヴァンは異常性癖のせいでビースティアしか愛せない。愛する妻とは子どもを作れず、愛していない相手と子どもを成しても力は渡せない。

 つまり、────

 国民がどれだけ熱望しようと、どんな計略を仕掛けてこようと、どの道ヴァンには何もできないのだ。こんな事実がウィルクトリアに知られてしまえば、彼らは即座に他国を殲滅しようとするだろう。殺される前に殺さなければと、凄惨な戦争に踏み切ってしまう。

(このままじゃ俺の性癖のせいで世界が滅んでしまうんだ……! 俺の目が黒い内にウィルクトリアを立て直さなければ……!)

 国家改革はヴァンが絶対にやり遂げなければならない使命だ。真実を隠したまま、どれだけ国民が抵抗しようと、自分の代で完遂する必要がある。ヴァンも必死なのだ。

「ルーダス様はこの国の救世主だった! ただの人間だった彼が突如として魔力に目覚め最初のファクターとなった! そして世界大戦で滅亡寸前に追い詰められたこの国を救ってくださった!」

 砲撃戦で有効打は難しい。そう判断したらしいドレイクはテレポートでヴァンの背後を取り、魔力を込めた肘鉄を打った。

「その子孫であるお前がやっていることはなんだ⁉︎ この国を終わらせるつもりか⁉︎」

 しかしヴァンはテレポートで背後を取り返す。反撃を警戒したドレイクがテレポートと高速飛行を織り交ぜてヴァンと距離を取る。隙だらけの背中。だが、やはりヴァンは攻撃を加えない。

「確かにルーダス様はこの国に平和をもたらしました。ですが時代は変わったんです! 俺はこの国の姿を変え、世界を平和にしたい!」
「ぬかせ! お前はこの国一つすら守れず混乱に陥れているだけだ!」
「この国だって守っています! “終末の雨”をお忘れですか⁉︎」
「このままお前が後継を作らなければあの悲劇は繰り返される! それを防げと言っている!」
「国民が力を合わせれば防げます! 俺一人に全てを託しているのが諸悪の根源だ!」

 いつの間にか二人は対峙して叫び合うだけになっていた。だが意見は真っ向から対立し、このまま話していても埒が開かない。

「……!」

 ────その時、首都アラム上空にいるヴァン[誘拐犯]から交信が届く。「セットアップ完了」と。

 いよいよヴァンは計画を実行に移す。三万のヴァンが一斉に飛行魔法を使い、上空へと昇っていった。そして全ての兵に向けて声を張り上げる。

「空中戦だ! ついてこれるか?」

 ヴァンは不敵に微笑んだ。ただでさえ硬いヴァンのバリアは遠距離攻撃ではビクともしない。兵たちは否応なしに空中戦を強いられる。彼らはヴァンを追従せざるを得ない。

 やがて三万の兵全てが飛行する。ヴァンはそれを確認し、狙い通りとほくそ笑んだ。そして三万のヴァンは一斉にそれぞれの対戦相手の背後へとテレポートし、

「死にたくなかったらそのまま飛んでおけ」

 風の中で小さく呟いた。そして彼らの肩に触れ、さらにテレポートする。

「「「⁉︎」」」

 兵たちを連れ去った先は、首都アラム上空。現在、世界中のメディアがカメラを向けている場所だ。

「な、なんの真似だヴァン!」

 ドレイクは声を荒げる。ヴァン[ドレイク]が兵の群れの中からさらに上空に抜け出し、兵たちを見下ろした。

「お望み通り、そろそろこちらからも攻撃をしようと思いまして」

 真っ赤な空を背負って微笑むヴァンは、きっと兵からは悪魔のように見えたことだろう。
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