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第02話 世界一平和な逆襲(後)
02.開戦の気配濃く
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ヴァンはネイルド共和国内を飛び回った。一刻も早くこの国の大統領に会わなくてはならない。
軍事作戦中の国家元首を見つけ出すのは困難を極める。安全で秘匿された場所にいるはずだ。だがヴァンには分身とテレポートと透過魔法がある。あらゆる軍事基地、政府機関に潜入し、各建造物の構造まで調べ上げる。
「……?」
ある軍事施設の地下二階に不自然な空間を発見する。並んだ二つの部屋が妙に狭く、間にもう一部屋分の空間がありそうだ。ヴァンは思い切ってそこへテレポートする。
……当たりだ。そこにはネイルド共和国の大統領が居た。ヴァンは透過魔法を解除する。
「ヴァ、ヴァン・スナキア⁉︎」
大統領は突如現れたヴァンを見て驚愕する。ヴァンは敵意がないことをアピールするために両手を挙げた。
「突然失礼致します。少々お時間を頂けますか」
「……っ! それどころじゃないよ。君の国のせいでこちらは大変なんだ」
大統領は眼鏡の下でヴァンを睨みつけた。一国の長にしてはまだ若く、四十代前半程度に見える。綺麗に分けられた金髪からは清潔感が漂う。見るからに意志の強そうな男だ。
「その件についてです。ウィルクトリアのアシュノット総理に脅迫されてミサイル基地を稼働させた。そうですね?」
「……ああ」
「そのせいでギリザナと臨戦体勢に入ったという情報を掴んでおります。俺はそれを止めに来ました」
「止める……? あちらが攻めて来ているのに、こちらだけ武器を捨てろと言うのかい?」
「俺は分身でギリザナの大統領とも接触しています。あちらも必ず撤退させます」
ヴァンは軍事作戦中の国家元首探しという作業を二セット行っていた。あちらも説得に入っている。
「ちなみに、分身とはこういうものです」
「……!」
ヴァンはあえて分身を実践して見せる。魔導士・ファクターはウィルクトリアが独占している種族であり、他国民は魔法に馴染みがない。両国の首脳と同時に交渉ができるのだと、実感させなければならない。
「……気味が悪いものだね」
大統領は二人のヴァンを見比べ、吐き捨てるように呟いた。だがあちらの首脳にも接近していることは信じてもらえたようだ。彼自身ヴァンが突然やって来るという体験をしている。国内でもトップシークレットであるはずのこの部屋にヴァンが容易く辿り着いたことで説得力は増しているはずだ。
「ネイルド共和国はギリザナに撃とうとした訳ではないと伝えてはいるのですが……」
「信じないだろう? ウィルクトリアから『ウィルクトリアを撃て』と指示されたなんて話は」
ご指摘の通り、説得は難航している。
常識的に考えて自国を攻撃しろと迫る国家元首などいない。ネイルド共和国側が必死で真実を語ってもあちらからは下手な言い訳に聞こえるだろう。
元々両国の軋轢が根深いことも話をややこしくしている。三百年前の世界大戦の時点で両国は既に対立しており、双方とも大きな被害を受けている。少しの刺激で爆発しかねない火薬庫のような地域だ。
さらに恐ろしいのは、両国とも北と南という大規模な軍事同盟に参加していること。一度戦いが始まれば瞬く間に戦火は延焼し、世界大戦が始まってもおかしくない。
おそらく総理はあえてそこを突いた。戦争を誘発させてヴァンに多重分身で対応させたかったのだ。「君ば放っておけないだろう?」と薄ら笑う姿が目に浮かぶ。
「一応、こちらからもギリザナにウィルクトリアの指示だった証拠を見せたよ。捏造と断じられただけだったがね」
「……」
証拠があるのか。総理の責任を追求するためにもぜひ見せてほしいところだ。だが今優先すべきは戦争の阻止。
「だからもう何も言ってくれるな。いずれ戦わなければならない相手だったんだよ」
「そんな相手はいません。誰にもです」
ヴァンは懸命に訴えかける。
「ご存知かもしれませんが、ウィルクトリアのアシュノット総理と俺は立場が異なります。俺は自国も他国も守りたいんです」
「事情は大体察している。君の人騒がせな結婚劇は世界中が注視しているからね。……そんな君を変えるために、ネイルド共和国は巻き込まれたんだろう?」
「……はい」
大統領からすれば総理もヴァンも似たようなものだ。ヴァンが後継を作らないせいで総理が動いてしまったのだから。ヴァンの言葉は決して響かない。
────であればやり方を変えよう。
「戦闘はどこでどのように行われるんですか?」
現地へ赴き、戦いを始める前に全ての兵を戦闘不能な状況に追い込む。もちろん平和的な方法でだ。
「あちらとも接触している人間に言えるものか。国家機密だ」
「しかし────」
「力づくで奪うかい? 君の国はいつもそうだね」
「……」
嫌われたものだ。世界から搾取を続けている暴君は。
「自分で探します」
また分身が要る。大忙しだ。
「落ち着いたらまた来ます。改めてお話を」
ヴァンは会釈し、ネイルド共和国とギリザナの国境線上にテレポートする。
ヴァンはネイルド共和国内を飛び回った。一刻も早くこの国の大統領に会わなくてはならない。
軍事作戦中の国家元首を見つけ出すのは困難を極める。安全で秘匿された場所にいるはずだ。だがヴァンには分身とテレポートと透過魔法がある。あらゆる軍事基地、政府機関に潜入し、各建造物の構造まで調べ上げる。
「……?」
ある軍事施設の地下二階に不自然な空間を発見する。並んだ二つの部屋が妙に狭く、間にもう一部屋分の空間がありそうだ。ヴァンは思い切ってそこへテレポートする。
……当たりだ。そこにはネイルド共和国の大統領が居た。ヴァンは透過魔法を解除する。
「ヴァ、ヴァン・スナキア⁉︎」
大統領は突如現れたヴァンを見て驚愕する。ヴァンは敵意がないことをアピールするために両手を挙げた。
「突然失礼致します。少々お時間を頂けますか」
「……っ! それどころじゃないよ。君の国のせいでこちらは大変なんだ」
大統領は眼鏡の下でヴァンを睨みつけた。一国の長にしてはまだ若く、四十代前半程度に見える。綺麗に分けられた金髪からは清潔感が漂う。見るからに意志の強そうな男だ。
「その件についてです。ウィルクトリアのアシュノット総理に脅迫されてミサイル基地を稼働させた。そうですね?」
「……ああ」
「そのせいでギリザナと臨戦体勢に入ったという情報を掴んでおります。俺はそれを止めに来ました」
「止める……? あちらが攻めて来ているのに、こちらだけ武器を捨てろと言うのかい?」
「俺は分身でギリザナの大統領とも接触しています。あちらも必ず撤退させます」
ヴァンは軍事作戦中の国家元首探しという作業を二セット行っていた。あちらも説得に入っている。
「ちなみに、分身とはこういうものです」
「……!」
ヴァンはあえて分身を実践して見せる。魔導士・ファクターはウィルクトリアが独占している種族であり、他国民は魔法に馴染みがない。両国の首脳と同時に交渉ができるのだと、実感させなければならない。
「……気味が悪いものだね」
大統領は二人のヴァンを見比べ、吐き捨てるように呟いた。だがあちらの首脳にも接近していることは信じてもらえたようだ。彼自身ヴァンが突然やって来るという体験をしている。国内でもトップシークレットであるはずのこの部屋にヴァンが容易く辿り着いたことで説得力は増しているはずだ。
「ネイルド共和国はギリザナに撃とうとした訳ではないと伝えてはいるのですが……」
「信じないだろう? ウィルクトリアから『ウィルクトリアを撃て』と指示されたなんて話は」
ご指摘の通り、説得は難航している。
常識的に考えて自国を攻撃しろと迫る国家元首などいない。ネイルド共和国側が必死で真実を語ってもあちらからは下手な言い訳に聞こえるだろう。
元々両国の軋轢が根深いことも話をややこしくしている。三百年前の世界大戦の時点で両国は既に対立しており、双方とも大きな被害を受けている。少しの刺激で爆発しかねない火薬庫のような地域だ。
さらに恐ろしいのは、両国とも北と南という大規模な軍事同盟に参加していること。一度戦いが始まれば瞬く間に戦火は延焼し、世界大戦が始まってもおかしくない。
おそらく総理はあえてそこを突いた。戦争を誘発させてヴァンに多重分身で対応させたかったのだ。「君ば放っておけないだろう?」と薄ら笑う姿が目に浮かぶ。
「一応、こちらからもギリザナにウィルクトリアの指示だった証拠を見せたよ。捏造と断じられただけだったがね」
「……」
証拠があるのか。総理の責任を追求するためにもぜひ見せてほしいところだ。だが今優先すべきは戦争の阻止。
「だからもう何も言ってくれるな。いずれ戦わなければならない相手だったんだよ」
「そんな相手はいません。誰にもです」
ヴァンは懸命に訴えかける。
「ご存知かもしれませんが、ウィルクトリアのアシュノット総理と俺は立場が異なります。俺は自国も他国も守りたいんです」
「事情は大体察している。君の人騒がせな結婚劇は世界中が注視しているからね。……そんな君を変えるために、ネイルド共和国は巻き込まれたんだろう?」
「……はい」
大統領からすれば総理もヴァンも似たようなものだ。ヴァンが後継を作らないせいで総理が動いてしまったのだから。ヴァンの言葉は決して響かない。
────であればやり方を変えよう。
「戦闘はどこでどのように行われるんですか?」
現地へ赴き、戦いを始める前に全ての兵を戦闘不能な状況に追い込む。もちろん平和的な方法でだ。
「あちらとも接触している人間に言えるものか。国家機密だ」
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