ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第02話 世界一平和な逆襲(後)

07.最適化演算

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「だってあたしカワイイんですもん。存在が凶器になっちゃうのは仕方のないことなんです☆」

 自分で言うのだ、キティアは。しかし全く否定できない。彼女はおそらく「カワイイ」を擬人化した存在であり、さらに猫耳と尻尾という破滅的なトッピングも加えた究極完全生命なのである。

 メイクを知らぬ男性からはすっぴんと思われかねない程度のナチュラルメイクは「自然体でカワイイあたし」を人工的に演出していた。外ハネのミディアムヘアーをベースに編み込みとピンを駆使した複雑なヘアアレンジは重ねに重ねた研究の成果。夫婦だというのにあえて敬語を使うのは何だか放っておけない後輩の女の子感を出すための計算だ。

「他にいくらでも方法あったってのに……」

 彼女の美貌は確かに見事な結果をもたらした。しかし夫の心にモヤモヤを残した。

「でもヴァンさんだってカワイイ妻のために頑張れて嬉しかったですよね~? ほら見てくださいよ。今日もこんなにカワイイんですよ~?」

 キティアはヴァンの袖を摘む。何ともあざとい上目遣いだ。

「い、今更そんな顔しても騙されんぞ」

 可愛いんだから全部許せ、ということなのだろう。ヴァンは懸命に抵抗を見せる。キティアのキラキラした瞳が、一転してジトッと曇った。

「『今更』ってどういうことですか。ヴァンさんはいつまでもあたしにドキドキする義務があるんです。訂正して謝罪してください」
「うっ……!」

 ドスの効いた低音はヴァンの腹部に響いた。

「あ! 言っとくけど、いつもこんなことしてるわけじゃないですからね! ナンパされるような隙は見せてません。ヴァンさんの計画のためにやむなくです」
「それにしては楽しそうだったけどな……」

 未だ不満げなヴァンを見て、キティアは深く息を吐く。そして後ろで手を組んで、一転、少し申し訳なさそうに切々と語る。

「別にあんな奴らにチヤホヤされようと嬉しくも何ともないですよ。……あたしはヴァンさんが妬いてくれてるのが嬉しくて」
「……」 
「ヴァンさんいっつも『俺には嫉妬する権利なんてない』とか言うから、あんまそういうとこ見せてくれないじゃないですか。でも嫉妬ってされる方は嬉しいもんですよ?」

 やむを得ない事情があったとはいえ複数の妻と結婚している身である。ヴァンは日頃嫉妬心を抱くことがあってもできる限り堪えている。

「でも嫌な気持ちにさせちゃってごめんね。……大丈夫ですよ。あたしはヴァンさんのです」

 キティアは「信じて」と懸命に訴えるかのようにヴァンを強く抱きしめた。腕だけではなく尻尾も使ってくれた。本来彼女はどれだけモテようが他の男は歯牙にもかけずヴァンだけを向いてくれる子だ。ヴァンは彼女の言葉を受け入れ、彼女以上に強く抱きしめ返す。するとキティアは大層嬉しそうにヴァンの胸元に顔を擦り付けた。

「ちなみにどれくらい気分良いもんなんですか? 誰もが思わず愛してしまう美女を独り占めしてるって」
「……さ、最高」
「そっか、良かった~。ヴァンさんがカワイイ奥さんをもらえて幸せそうで~」
「本当にブレないな君は……」

 なんにせよこれでヴァンの計画は全て整った。形や程度は違えど妻たちが協力してくれたからに他ならない。

「他にヴァンさんを助けられることないかなぁ……」

 しかしキティアはまだ自分が貢献できることはないかと考え込んでいた。持ち前の小悪魔っぷりでわがままを言ったり圧をかけてきたりもするが、根っこのところでは忠実で献身的な良妻。ヴァンに対してだけは尽くすタイプなのだ。

「あ、ヴァンさん。そういえばミサイルって本当に撃たれたんですか?」 
「か、確認中だ」

 戦争の話になってしまうため、ヴァンは回答を濁す。

「あらー、お疲れ様です。何にもないといいですけど……。もう、ヴァンさんにこんなに分身させないでほしいです」
「本当にな……」
「あ、じゃあミサイル包囲網を最適化して人数減らしましょうか?」
「!」

 ミサイルはウィルクトリアに飛んでこない。しかし総理には自分の策を進めてほしいし、最終的に「ヴァンは大量に分身したままでも強い」と見せつけるため包囲網は崩せない。とはいえ総理に宣言した二十六万二千百四十四人という数字はあまりに膨大過ぎて、衛星で確認しても数え切れないだろう。こっそり減らしてもバレやしない。

「助かるが……で、できるか?」
「任せてください。カワイイと計算高いはセットですから☆」

 彼女はいつもの決め台詞を口にした。────この手の計算は彼女の十八番だ。

「ヴァンさんを等間隔に置いて半球状の包囲網を作ってるんですよね? 直径は?」
「百六十キロ」
「間隔っていうのは?」
「五百メートル間隔だと万全だ」
「『半球面上に一様かつ規則的に分布する点』ですか……。面白いけど、超ややこしいですね」

 まさか自分が数学の問題の点になるとは思わなかった。

「半球じゃなくて球に内接する正二十面体でいいですか? 下の四面削れば大体ドームみたいな形になりますし」
「あ、ああ。構わないが……、何でだ?」
「正二十面体の面は正三角形なので扱いやすいんです。正三角形ってより小さい正三角形に簡単に等分できますから、等間隔に配置するの楽だと思います。ヴァンさんも大きい球を一つ作るより三角形をたくさん作る方がやりやすいでしょ?」
「頭いい……っ!」
「フフ、理解は分割からですよ」
「名言……!」

 早速他の分身にも共有しておこう。

「直径……っていうか最長の対角線が百六十キロってことは……、え~っと、各面は一辺が八十四キロの正三角形になります。五百メートル間隔だと一辺を百六十八等分する形になりますね。この方法なら二十一万九千六百七十九人で済むので四万二千四百六十五人節約できます。小数点以下雑に丸めてるんでちょっとずれると思いますけど」
「す、凄すぎる……」

 多分「え~っと」の間に滅茶苦茶な暗算をしている。計算高いってこういうことじゃないとヴァンは思う。だが助かった。ちょうど援軍を欲しているヴァンがいる。

(こちらヴァン[キティア]。ティアのおかげで分身を四万二千四百六十五人減らせることになった。両国首脳の捜索に回せる)
(た、助かる……!)

 これだけいればそう時間はかからないだろう。ヴァンはミサイル包囲網の分身にも連絡を取り、配置換えに乗じてネイルド共和国とギリザナに移動するよう指示した。約四万人減ることになるがキティアの提示した方法なら見栄え上はより統制された配置になる。総理の目は誤魔化せるだろう。

 両首脳の説得とアラム攻撃。────大詰めが同時に迫る。
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