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第03話 ショーほど悲惨な商売はない
03.妻に内緒の大仕事
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***
スナキア邸、一階、ダイニング。
八時から九時までの間に各々好きなタイミングでここに来て朝食を摂る決まりになっている。テレポートで通勤時間ゼロのヴァンに合わせているため比較的ゆったりだ。シャワーを浴び終えたヴァンはメインシェフ・ミオとサブ・エルリアによるクラブハウスサンドと野菜たっぷりのミネストローネを静かに楽しんでいた。
普段はこの場で手帳を開き、一日の予定を確認している。大抵において軍以外にも赴いて国家改革のための様々な仕事に従事することになる。どこにどれだけの魔力を割いた分身を何人派遣するのか。大まかに計画を立てておかねばならない。だが本日は────、
「ヴァンさん、コーヒーよぉ♡ ……あれ? 手帳はぁ?」
「今日はいいんだ」
「ふ~ん?」
ヴァンはしれっとした表情でミオからコーヒーを受け取った。手帳はあえて部屋に置いてきたのだ。何かの拍子で中を見られては困る。
数ある仕事の中に一つ、絶対に妻には知られたくない案件がある。
決して危険なものではなく国家がピンチなわけでもない。それでもとにかく内緒にしておきたい特殊な業務である。
「ナスが余ってるわねぇ。夕食当番の子たちに何か考えてもらわないとぉ」
「ナスでしたら<検閲されました>以外にも色々と使い道がありますものね」
ミオは隣接するキッチンの中でエルリアと談笑を始めた。幸いなことに疑問に思われなかったようだ。ヴァンが予定確認の時間として利用していることで、この朝食の場は妻同士で盛り上がるのが定番の流れになっている。今はただなるべく存在を消して妻の会話に耳を傾けていよう。
「おはよっ! 今日も家族でご飯だねっ!」
「あら、ヒューちゃんおはよう♡」
第六夫人・ヒューネットが純粋無垢な笑顔と共に現れた。今日も天真爛漫だ。彼女は服こそパジャマから白いワンピースに着替えていたが、頭にはまだタオルが巻かれていた。ミオはそのタオルに視線を送り、くすりと笑う。
「教えた通りできてるじゃない、羊さんタオル♡」
「うんっ! ヒューはもうマスターしたんだよっ!」
タオルを三つ折りにして細長くし、両端を何度か巻いてゴムで固定。折った部分を開いて頭にかぶる。すると巻いた部分が羊の耳のようになるのだ。頭にタオルを巻いている間、猫耳フェチの夫が少し寂しげな目になることに気づいたミオが開発した技である。
「ヴァンさんどうだった?」
「うーんっ、ややウケだねアレは……」
ヒューネットは腕を組み訝しげな表情を作る。そして一瞬だけヴァンに視線をくれた。これもこれで可愛いぞと、ヴァンは熱い眼差しをお返しする。
「濡れたままだと傷つきやすいからすぐドライヤーするのよぉ?」
「うんっ! ちゃっと食べてちゃっと乾かすよっ!」
ヒューネットは言い残し、一人分の食事が載せられているトレーを持ってテーブルについた。
「フラムもおはよっ!」
ヒューネットはすでに着席していた第四夫人・フラムに告げる。しかしフラムはサンドイッチを噛むのに必死で返事ができず、のっそりと頷くだけだった。多分完食までに朝食時間をフルに使うであろうペースだ。
「おはようですー」
続いて第三夫人・シュリルワがやってきた。大人っぽさを目指したであろうシックな色のタートルネックに着替えを済ませ、太い二本の三つ編みも完成済み。今日をテキパキ生きる準備は完璧といったご様子だ。
「ミオはいつまで経ってもエプロンが似合わんですね」
シュリルワはキッチンに立っているミオを一瞥してニヤリと含み笑いを見せる。ミオはすらっとした体型ゆえかどんな雑な服を着ても撮影中のスーパーモデルのようで、逆に家庭的な雰囲気は妙に馴染まない。────だがそれがいい。と、ヴァンは思っている。
「シュリちゃんは今日も小っちゃくてお人形さんみたいねぇ。着せ替えて遊んでいーい?♡」
ミオは負けじとシュリルワを挑発し、子どもをあやすような目でシュリルワの頭を撫でくりまわした。この二人はいつもこうだ。不仲だからではない。遠慮なくズカズカ言い合える域にまで達しているのだ。
スナキア家の妻たちは非常に仲が良い。本来ギスギスしてもおかしくない関係のはずなのに、彼女たちは互いを「家族」と呼び、日々楽しそうに共に暮らしている。一人一軒別荘があるというのに、「一緒にいたいから」とあえてここスナキア邸本宅での同居を選んでいるほどだ。
妻同士で良い関係を築いてくれること自体は本当に得難いことだ。それに、そんな関係に至った理由も分かる。
「ミオ、エルの足引っ張らなかったです?」
「もう。お姉さんだってそこそこできるのよぉ? あ、お膝に乗せて食べさせてあげよっか?♡」
じゃれ合うような二人の会話を見守っていた第七夫人・エルリアが、やや呆れ気味に呟く。
「まーた先輩方がプロレスを始めましたか。どうせなら私と三人でキツめの<検閲されました>をしませんか?」
「こ、この変態はホント困ったもんです……!」
「まあ! 私変態ではありませんよ。性欲の貯蔵庫がダム並みなだけです!」
「そ、それを変態って言うんじゃなぁい?♡」
エルリアは隠語を放ったばかりとはまるで思えないほど麗らかな動作でエプロンを外す。その下はエレガントなオフホワイトのブラウスとドレッシーなタイトスカート。お料理特化スタイルからお上品スタイルに一瞬で変身だ。
「ミオさん、私たちもそろそろ食べましょうか」
「そうねぇ。……あ、シュリちゃん? スープのおかわりあるから遠慮なくねぇ♡ 昨日ちょっと呑みすぎたんでしょ?」
「うっ!」
シュリルワはなぜそれをとばかりに目を泳がせた。ミオからすればシュリルワのその目が普段よりちょっと赤いことなど出会い頭にお見通しだったようだ。ミオはエルリアの猫耳に口を寄せ、シュリルワにも聞こえる程度の音量で内緒話を始める。
「多分お酒の力を借りて甘々のデレデレ状態でヴァンさんを襲ったんだわぁ♡」
「まあ! 録画とかはないんでしょうかね? <検閲されました>あたりまでされたんでしょうか⁉︎」
「だ、黙るです! お下品チームめ!」
シュリルワはそそくさとその場を離れてテーブルに向かった。ミオは自分のトレーを手に取ってシュリルワを追尾する。二人の小競り合いは厄介なお姉さん・ミオの勝利で決着だ。
「朝から元気だよ……」
「あ、ジル♡」
ジルーナがぽつりと溢しながら入室する。ミオはその姿を認めるや否や自分のご飯をテーブルに置き、ジルーナの手を引いて小走りでキッチンの奥へ向かった。
「ジルには一番上手にできたやつあげるぅ♡」
「えー? ヴァンにあげたら?」
「いいのよぉ、あの人は」
ミオはまるで工作の授業で作った作品をママに見せるかの如くはしゃいでいた。ジルーナも呆れたような態度を見せつつ口元は緩んでいる。キャリアの長い二人の連帯感は八人の妻のどの組み合わせより強かった。
「はい、あーん♡」
ミオは早朝にヴァンにやったようにミニトマトを差し出す。普段のジルーナならハイハイ自分で食べるからと雑に処理するところだろう。しかし、彼女は素直に食べた。
「あれぇ?」
当のミオも驚いていた。……ヴァンは気が気ではなかった。あれは思いっきり甘えんぼの日の症状だ。そして頭が回り何でもお見通しのミオに隠し事をするのは至難の業。バレなければいいが……。
「ど、どうもね」
ジルーナは咳払いをして冷静を取り繕う。ミオのコメントを待たず、矢継ぎ早に二の句を次いだ。
「ミオ、ごめん。今日は私お部屋でゆっくり食べていいかな? お休みだしぼーっとしたくて……」
ジルーナはみんなといるとどんどんボロが出ると予想したらしい。甘えんぼの日だと知られるなんて大人の沽券に関わるとは彼女の談である。
「いいけど……大丈夫? もしかして具合悪いのぉ……?」
ミオはどこか気怠げなジルーナを心配し、彼女の両肩を掴む。その瞬間、ジルーナの体にビクッと力が入るのがヴァンからも見えた。おそらく反射的にミオに抱きついてしまいそうなところを堪えたのだ。
「べ、別に元気だけど?」
ジルーナは目を逸らし、平坦な声で答える。
「本当にぃ? 隠し事はなしよ、ジル」
「そう? じゃあ今度ミオに甘えんぼの日が来たら教えてよ」
「うっ! そ、それはイヤ!」
ジルーナは自分の状況を逆手に取ってミオの追及を退けた。機転の効く彼女らしいやり口だ。
「本当に平気だよ。ありがとね。あ、あとでシェフに感想言うね」
ジルーナはミオに優しい眼差しを送り、トレーを持って自室に戻っていく。ミオはまだ納得しきっていない様子だったが、何も言えずその背中を見送った。
「……ねえ、ジルちょっと変じゃなかった? 珍しく部屋着のままだったしぃ、髪も結んでなかったしぃ。何かあったのかしらぁ……」
「んー? 単に一人になりたい気分なんじゃないです? ここだと騒がしいですから」
シュリルワは視線を横に流し、フラムとヒューネットを確認する。
「ヒューちゃん、あのねぇ、おはよぉ」
「い、今っ⁉︎ フラムまだ噛んでたのっ⁉︎」
「……ほら、騒がしいです」
妻たちは二人居れば賑やかになり、三人居れば大騒ぎになる。全員集まる朝食のテーブルは静けさとは程遠い。ゆっくり休みたいのであれば自室にいるのが好ましいのは間違いない。
「そうだといいんだけどぉ……。全体的にこう、いつもより弱々しかったというか……」
「ジルが弱々しい? あんま想像付かんですね。国中を敵に回しても結婚してやろうって女ですよ?」
「ま、まあそうなのよねぇ……」
ヴァンの初めての結婚は世間から非難轟々だった。その炎上っぷりは二回目以降の比ではない。事前に予想できたこと。それでもジルーナは突撃したのだ。心の奥に秘めた意志の強さは折り紙付きだ。
「国中が敵でもシュリたちが味方なんだから大丈夫です。本当に困ってたら相談するでしょうし」
「……そうねぇ」
ミオは渋々ながら納得したご様子だった。バレずに済んで何よりだ。────しかし、今度はヴァンにピンチが訪れる。
「ヴァン様、今日のご予定は? 私何かお手伝いできるでしょうか?」
エルリアがサンドイッチを食べながらそれとなく問う。あの仕事のことを知られるわけにはいかない。
スナキア邸、一階、ダイニング。
八時から九時までの間に各々好きなタイミングでここに来て朝食を摂る決まりになっている。テレポートで通勤時間ゼロのヴァンに合わせているため比較的ゆったりだ。シャワーを浴び終えたヴァンはメインシェフ・ミオとサブ・エルリアによるクラブハウスサンドと野菜たっぷりのミネストローネを静かに楽しんでいた。
普段はこの場で手帳を開き、一日の予定を確認している。大抵において軍以外にも赴いて国家改革のための様々な仕事に従事することになる。どこにどれだけの魔力を割いた分身を何人派遣するのか。大まかに計画を立てておかねばならない。だが本日は────、
「ヴァンさん、コーヒーよぉ♡ ……あれ? 手帳はぁ?」
「今日はいいんだ」
「ふ~ん?」
ヴァンはしれっとした表情でミオからコーヒーを受け取った。手帳はあえて部屋に置いてきたのだ。何かの拍子で中を見られては困る。
数ある仕事の中に一つ、絶対に妻には知られたくない案件がある。
決して危険なものではなく国家がピンチなわけでもない。それでもとにかく内緒にしておきたい特殊な業務である。
「ナスが余ってるわねぇ。夕食当番の子たちに何か考えてもらわないとぉ」
「ナスでしたら<検閲されました>以外にも色々と使い道がありますものね」
ミオは隣接するキッチンの中でエルリアと談笑を始めた。幸いなことに疑問に思われなかったようだ。ヴァンが予定確認の時間として利用していることで、この朝食の場は妻同士で盛り上がるのが定番の流れになっている。今はただなるべく存在を消して妻の会話に耳を傾けていよう。
「おはよっ! 今日も家族でご飯だねっ!」
「あら、ヒューちゃんおはよう♡」
第六夫人・ヒューネットが純粋無垢な笑顔と共に現れた。今日も天真爛漫だ。彼女は服こそパジャマから白いワンピースに着替えていたが、頭にはまだタオルが巻かれていた。ミオはそのタオルに視線を送り、くすりと笑う。
「教えた通りできてるじゃない、羊さんタオル♡」
「うんっ! ヒューはもうマスターしたんだよっ!」
タオルを三つ折りにして細長くし、両端を何度か巻いてゴムで固定。折った部分を開いて頭にかぶる。すると巻いた部分が羊の耳のようになるのだ。頭にタオルを巻いている間、猫耳フェチの夫が少し寂しげな目になることに気づいたミオが開発した技である。
「ヴァンさんどうだった?」
「うーんっ、ややウケだねアレは……」
ヒューネットは腕を組み訝しげな表情を作る。そして一瞬だけヴァンに視線をくれた。これもこれで可愛いぞと、ヴァンは熱い眼差しをお返しする。
「濡れたままだと傷つきやすいからすぐドライヤーするのよぉ?」
「うんっ! ちゃっと食べてちゃっと乾かすよっ!」
ヒューネットは言い残し、一人分の食事が載せられているトレーを持ってテーブルについた。
「フラムもおはよっ!」
ヒューネットはすでに着席していた第四夫人・フラムに告げる。しかしフラムはサンドイッチを噛むのに必死で返事ができず、のっそりと頷くだけだった。多分完食までに朝食時間をフルに使うであろうペースだ。
「おはようですー」
続いて第三夫人・シュリルワがやってきた。大人っぽさを目指したであろうシックな色のタートルネックに着替えを済ませ、太い二本の三つ編みも完成済み。今日をテキパキ生きる準備は完璧といったご様子だ。
「ミオはいつまで経ってもエプロンが似合わんですね」
シュリルワはキッチンに立っているミオを一瞥してニヤリと含み笑いを見せる。ミオはすらっとした体型ゆえかどんな雑な服を着ても撮影中のスーパーモデルのようで、逆に家庭的な雰囲気は妙に馴染まない。────だがそれがいい。と、ヴァンは思っている。
「シュリちゃんは今日も小っちゃくてお人形さんみたいねぇ。着せ替えて遊んでいーい?♡」
ミオは負けじとシュリルワを挑発し、子どもをあやすような目でシュリルワの頭を撫でくりまわした。この二人はいつもこうだ。不仲だからではない。遠慮なくズカズカ言い合える域にまで達しているのだ。
スナキア家の妻たちは非常に仲が良い。本来ギスギスしてもおかしくない関係のはずなのに、彼女たちは互いを「家族」と呼び、日々楽しそうに共に暮らしている。一人一軒別荘があるというのに、「一緒にいたいから」とあえてここスナキア邸本宅での同居を選んでいるほどだ。
妻同士で良い関係を築いてくれること自体は本当に得難いことだ。それに、そんな関係に至った理由も分かる。
「ミオ、エルの足引っ張らなかったです?」
「もう。お姉さんだってそこそこできるのよぉ? あ、お膝に乗せて食べさせてあげよっか?♡」
じゃれ合うような二人の会話を見守っていた第七夫人・エルリアが、やや呆れ気味に呟く。
「まーた先輩方がプロレスを始めましたか。どうせなら私と三人でキツめの<検閲されました>をしませんか?」
「こ、この変態はホント困ったもんです……!」
「まあ! 私変態ではありませんよ。性欲の貯蔵庫がダム並みなだけです!」
「そ、それを変態って言うんじゃなぁい?♡」
エルリアは隠語を放ったばかりとはまるで思えないほど麗らかな動作でエプロンを外す。その下はエレガントなオフホワイトのブラウスとドレッシーなタイトスカート。お料理特化スタイルからお上品スタイルに一瞬で変身だ。
「ミオさん、私たちもそろそろ食べましょうか」
「そうねぇ。……あ、シュリちゃん? スープのおかわりあるから遠慮なくねぇ♡ 昨日ちょっと呑みすぎたんでしょ?」
「うっ!」
シュリルワはなぜそれをとばかりに目を泳がせた。ミオからすればシュリルワのその目が普段よりちょっと赤いことなど出会い頭にお見通しだったようだ。ミオはエルリアの猫耳に口を寄せ、シュリルワにも聞こえる程度の音量で内緒話を始める。
「多分お酒の力を借りて甘々のデレデレ状態でヴァンさんを襲ったんだわぁ♡」
「まあ! 録画とかはないんでしょうかね? <検閲されました>あたりまでされたんでしょうか⁉︎」
「だ、黙るです! お下品チームめ!」
シュリルワはそそくさとその場を離れてテーブルに向かった。ミオは自分のトレーを手に取ってシュリルワを追尾する。二人の小競り合いは厄介なお姉さん・ミオの勝利で決着だ。
「朝から元気だよ……」
「あ、ジル♡」
ジルーナがぽつりと溢しながら入室する。ミオはその姿を認めるや否や自分のご飯をテーブルに置き、ジルーナの手を引いて小走りでキッチンの奥へ向かった。
「ジルには一番上手にできたやつあげるぅ♡」
「えー? ヴァンにあげたら?」
「いいのよぉ、あの人は」
ミオはまるで工作の授業で作った作品をママに見せるかの如くはしゃいでいた。ジルーナも呆れたような態度を見せつつ口元は緩んでいる。キャリアの長い二人の連帯感は八人の妻のどの組み合わせより強かった。
「はい、あーん♡」
ミオは早朝にヴァンにやったようにミニトマトを差し出す。普段のジルーナならハイハイ自分で食べるからと雑に処理するところだろう。しかし、彼女は素直に食べた。
「あれぇ?」
当のミオも驚いていた。……ヴァンは気が気ではなかった。あれは思いっきり甘えんぼの日の症状だ。そして頭が回り何でもお見通しのミオに隠し事をするのは至難の業。バレなければいいが……。
「ど、どうもね」
ジルーナは咳払いをして冷静を取り繕う。ミオのコメントを待たず、矢継ぎ早に二の句を次いだ。
「ミオ、ごめん。今日は私お部屋でゆっくり食べていいかな? お休みだしぼーっとしたくて……」
ジルーナはみんなといるとどんどんボロが出ると予想したらしい。甘えんぼの日だと知られるなんて大人の沽券に関わるとは彼女の談である。
「いいけど……大丈夫? もしかして具合悪いのぉ……?」
ミオはどこか気怠げなジルーナを心配し、彼女の両肩を掴む。その瞬間、ジルーナの体にビクッと力が入るのがヴァンからも見えた。おそらく反射的にミオに抱きついてしまいそうなところを堪えたのだ。
「べ、別に元気だけど?」
ジルーナは目を逸らし、平坦な声で答える。
「本当にぃ? 隠し事はなしよ、ジル」
「そう? じゃあ今度ミオに甘えんぼの日が来たら教えてよ」
「うっ! そ、それはイヤ!」
ジルーナは自分の状況を逆手に取ってミオの追及を退けた。機転の効く彼女らしいやり口だ。
「本当に平気だよ。ありがとね。あ、あとでシェフに感想言うね」
ジルーナはミオに優しい眼差しを送り、トレーを持って自室に戻っていく。ミオはまだ納得しきっていない様子だったが、何も言えずその背中を見送った。
「……ねえ、ジルちょっと変じゃなかった? 珍しく部屋着のままだったしぃ、髪も結んでなかったしぃ。何かあったのかしらぁ……」
「んー? 単に一人になりたい気分なんじゃないです? ここだと騒がしいですから」
シュリルワは視線を横に流し、フラムとヒューネットを確認する。
「ヒューちゃん、あのねぇ、おはよぉ」
「い、今っ⁉︎ フラムまだ噛んでたのっ⁉︎」
「……ほら、騒がしいです」
妻たちは二人居れば賑やかになり、三人居れば大騒ぎになる。全員集まる朝食のテーブルは静けさとは程遠い。ゆっくり休みたいのであれば自室にいるのが好ましいのは間違いない。
「そうだといいんだけどぉ……。全体的にこう、いつもより弱々しかったというか……」
「ジルが弱々しい? あんま想像付かんですね。国中を敵に回しても結婚してやろうって女ですよ?」
「ま、まあそうなのよねぇ……」
ヴァンの初めての結婚は世間から非難轟々だった。その炎上っぷりは二回目以降の比ではない。事前に予想できたこと。それでもジルーナは突撃したのだ。心の奥に秘めた意志の強さは折り紙付きだ。
「国中が敵でもシュリたちが味方なんだから大丈夫です。本当に困ってたら相談するでしょうし」
「……そうねぇ」
ミオは渋々ながら納得したご様子だった。バレずに済んで何よりだ。────しかし、今度はヴァンにピンチが訪れる。
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