ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)

06.戦うと決めた相手

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 ***

 戦争の全貌が明らかになった。

 ラフラス・スナキアが生来の病弱であることは秘匿されていた。しかしここ数年本格的に公に姿を表さなくなったことで一部の国民が彼の健康状態を疑問視。主治医からカルテを盗み出し現状を把握。もはやラフラスは長くないと悟った犯人は国を裏切る決意をし、身の安全と金を対価にこの情報を他国に渡した。

 スナキア家当主の弱体化は各国政府に知れ渡り、秘密裏に全世界合同での軍事攻撃が計画される。裏切り者がラフラスを暗殺すると同時に、二百三十一の国から計四千百二十のミサイルが発射された。

 しかし、ラフラスの嫡男、ヴァン・スナキアの抗戦によりこれを防ぐ。被害を受けたのはラクハの一部地域のみ。敵国は発射可能なミサイルの大半を撃ち尽くし、当面の間再撃は不可能と見られる。

 犠牲者はラクハの二十三名と、ラフラス・スナキア・ウィゼール、リネル・ハンゼル・ラクトロスの二名。攻撃規模に対し、被害は軽微。


 スナキア邸、本宅。

 引き払わせていた使用人たちが集結していた。代表者を務める男が、ダイニングテーブルで顔を伏せているヴァンに告げた。

「……本当に、ヴァン様のおかげです」
「いえ……犠牲者を出してしまいました」

 ────あのとき、ヴァンは確かに死んだ。しかし、ラクハに残した分身が生き残っていた。分身魔法は純然たる自身の分割。このヴァンもまたヴァン・スナキア本人だ。

 ミサイルに対処した俺は死の直前に交信魔法で全ての記憶と経験を共有していた。ヴァンは覚えている。懸命にこの国を守ったことも、最期の最期で力が及ばなかった無力さも、死の恐怖も。

 こちらのヴァンに与えられていた魔力は僅か数百分の一。力は大きく削がれた。ルーダス・コアは失われていないようだったが、ヴァンにはもう一度この国を守る力は残されていなかった。

 ヴァンはこの事実を誰にも言えずにいた。

 終結から数日。父の葬儀を終え、戦勝記念式典とやらを終え、疲弊しきっていた。勝利の手応えなどまるでない。国中に英雄と讃えられても何も響かない。

 ヴァンは、そしてこの国は、あまりに多くのものを失った。

「ヴァン様、今後のお話を……」

 使用人の一人が申し訳なさそうに声をかける。

「ヴァン様の……その、保護者となる方をこちらで選定しております」

 ヴァンは十二歳にして天涯孤独となった。今やこの国の秘宝であるヴァンを見守る役が必要とのことらしい。

「差し当たって第一候補はラグランジュ家になります。スナキア家とは遠縁でございますし、ご子息のドレイク様とヴァン様は親しくされていると伺いました」
 ヴァンは顔を上げる。ドレイクの弟になれると思うと心は躍るのだが、
「……親は要りません。俺は一人で生きます。国のために俺は早く大人にならなければ。自分の面倒は自分で見ます」
「し、しかしヴァン様……」
「申し訳ないですが使用人も不要です。俺は独り立ちするべきです」

 使用人たちのどよめきを無視して一方的に話を続ける。

「もちろん、皆さんの生活は保証します。細かいことはまた後日決めましょう。今は休ませてください」
「ヴァン様! それはなりません!」
「いいんです」
「いいはずがありません!」

 使用人たちは譲らない。ヴァンはうんざりしてため息を漏らす。すると代表者が困りきった顔で妥協案を出した。

「せ、せめて一人はお側で仕えさせてください。ヴァン様の身に何かあっては……」
「……仕方ありませんね。では──」

 ダイニング内を見回す。数十人の中から一人を選抜する。実のところ、ヴァンは一人だけ残すつもりだった。しかしそれは使用人としてではない。

「ジル」

 リネルさんの娘・ジルーナの名前を呼ぶ。

 本人はソファーの上でうずくまり、微動だにしない。腫らした目。荒れた唇。父を失った痛みがあまりに重く、反応できるような心境ではないようだ。

 代わって異を唱えたのは代表者。

「ヴァ、ヴァン様……。それは……」

 眉を八の字にする彼に、ヴァンはジルーナに聞こえないように小声で告げる。

「彼女には他に家族が居ないそうです。行く場所もありません。一人残すというのなら、彼女しかあり得ません」
「しかし……!」
「しつこいですよ。これ以上何か言うなら、テレポートで無理矢理立ち退かせます」

 代表者は一歩、二歩と退く。ヴァンの意志は堅いと見たようで、深い息と共に頷いた。他の使用人たちに退出を促し、やがてダイニングに残されたのはヴァンとジルーナだけになった。

 ヴァンはおもむろに立ち上がり、ジルーナの居るソファーに歩み寄る。

「……すまない。君を口実にした。あんなに大勢に構われてはかえって気が滅入る」

 単に人払いに利用しただけという口ぶりで非礼を詫びる。彼女を選んだ意図は知られたくない。家族を失ったという残酷な真実を思い出させてしまう。

 ジルーナは泣き尽くして枯れた声で囁く。

「い、いえ。ですが私、あまりお役に立てないかも……」
「いや。君を働かせはしないよ。俺は自分のことは自分でやるから」

 彼女を慮った言葉ではあるが、ヴァンは実際そうするつもりだった。少し落ち着くのを待ってから、彼女を適切な引き取り手の元へ届けなければ。

「……申し訳ありません。お気遣いをさせてしまったんですよね……。ヴァン様だって……お父様を亡くされたばかりなのに……」
「……」

 ヴァンの真意は見抜かれていたようだ。無理もないかもしれない。お互い同じ立場なのだ。

「……私たち、一人なんですね」

 こんなにも寂しげな声を、生まれて初めて耳にした。いっそ自分も死んでいればよかったとでも思っていそうな雰囲気だった。

「違うよ。君と俺で二人だ。そういうことにしよう」
「……!」

 ジルーナの小さな肩が震え、目から涙が零れる。もううんざりするほど泣いただろうに、また泣かせてしまった。

 ────ふと、ヴァンの目からも涙が伝う。

「……あ、あれ?」

 止まらない。止められない。同じ立場の彼女の悲しみに触れ、今まで懸命に意識の外に押しのけていた痛みが、ついにヴァンを襲った。

 涙を拭いながらヴァンは決意した。──この国を変えなくてはならない。

 スナキア家の力を背景に他国から富を奪い続けてきた害悪国家。世界中から殺意を向けられて当然だ。国民たちは日頃からろくに働きもしないくせに敵を作り、いざとなればヴァンが命懸けで守ってやらねばならない。

 歪んでいる。間違っている。このままでいいはずがない。国民たちの性根を叩き直し、ウィルクトリアを清く正しい国へと導く。世界との和平を果たし、もう誰も大切な人を失わなくていい国にするんだ。

 ついに世界最強の力を手に入れたヴァンが戦うと決めた相手は、────守らねばならない母国だった。
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