ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)

20.何もかも都合よく

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 ***

 入籍の翌朝。七時きっかり。

「ジル、朝だよ」

 隣で眠るジルーナの頭を撫でる。

「……ん、んん……」

 ジルーナは少しずつ目を開いていく。その瞳を覗き込むと、ある瞬間彼女はギョッと体を凝らせて掛け布団を掴み、顔の大部分を覆い隠した。

「ど、どうした?」

 ジルーナはジトっとした視線を送りながら息混じりのか細い声を漏らした。

「ヴァンは……えっちだ」
「……ん?」
「ヴァンはえっちな人だったんだ……!」

 熱を出して寝込んでいる子どものように顔を紅潮させて、ヴァンを咎めるような目を向ける。昨夜のことを思い出しているらしい。

「あれじゃ尻尾も耳も削れて無くなっちゃうよ……」
「それは困る……!」 

 ヴァンは思う存分猫耳と尻尾を触るという夢をついに叶えたのだった。しかしやり過ぎてしまったのかもしれない。

「ひ、引いたか?」
「ううん。……ハハ、やっぱりヴァンもただの男の子なんだなって、嬉しかったよ」
「な、何て寛大な妻なんだ……!」

 ヴァンは頭を抱え、新妻の偉大さに打ち震える。

「私がどれだけヴァンを好きか分かった?」

 追い討ちとばかりにジルーナはドヤ顔を見せつけた。可愛すぎる。

 起きて一分足らず。もう胸一杯だ。起きたら隣に好きな人がいるなんて、実に素晴らしい朝だ。しかもそれが毎日続くなんて、結婚とはこれほど幸福なものなのか。

「まあヴァンって初めて会ったとき私の顔より先にパンツを見た人だもんね。そりゃえっちか」
「あれは不可抗力だろ……!」

 世界を揺るがした翌日とは思えない呑気な会話を繰り広げながら、ヴァンはベッドサイドに落ちていたTシャツを拾い上げさっと袖を通した。そして意気揚々と卓上の端末を開いて入札状況を確認する。

「どうなってるの?」
「……これは、どうだ?」

 開始直後は国ごとの入札が多かったが、やがて一国家の資産だけでは太刀打ちできない金額まで釣り上がったようだ。世界は三百年前の戦争の陣営を基軸に大きく二つのグループを形成して──

「ウィルクトリアと三つ巴になる……はずなんだけどな」

 現状、母国から入札はなかった。

「ねえ、ウィルクトリアが負けたらさ、戦争になっちゃうよね」
「間違いなくな」

 他国に買われたらヴァンへの最初の指令は「ウィルクトリアを焦土にしろ」に違いない。総理は死に物狂いで抵抗するだろう。

「本当に大丈夫なの……?」
「ああ。多分、中途半端に入札を繰り返して吊り上がるのを警戒しているんだと思う。他の陣営の心を折るくらいの額を一発目から積んでくるさ」
「なるほどねぇ……」

 ジルーナはそう呟きつつもまだ少し心配そうだった。もう少し安心材料を提供しておくか。

「この国は長年世界中から搾り上げてきただけあって金はたくさんある。実は死ぬ気でかき集めれば他の国が全部手を組んでも勝てるんだよ」
「でも、それってこの国にあるってだけで総理がすぐに使えるお金じゃないでしょ?」
「ああ、だから政府が国民から巻き上げるよ。ピンチだから仕方ないんだ~って言ってな。嫌われるだろうな総理は」
「うわっ……! そこまで狙ってたんだ……!」

 総理はこの窮地に対応するため支持率を落とす手段でも使わざるを得ない。そもそも国家の心臓たるヴァンを反乱に走らせてしまっただけで大失態だ。次の選挙が今から楽しみだ。

「あと、実はこの国には呆れるほどデカい財源があるんだよ。俺の銀行だ」
「え? それはヴァンのお金じゃん。それに経営にお金が必要なところに融資する銀行って言ってなかったっけ?」

 はてと首を傾げるジルに俺は解説を添える。

「企業が資産の一部を寄付に使うのは何もおかしくない。この国は企業法も穴だらけだから、借りた金額の大部分を注ぎ込めるはずだ」

 莫大な資産にモノを言わせて融資金額も審査基準も振込までの日数もかなり甘くしてある。入札期限までには充分間に合うよう調整済みだ。

「ただ、借りたからにはしっかり経営しないと詐欺や横領で捕まる。事業を続ける限り返済の義務はないから嫌でも真面目にやるよ。海外の専門家たちの監査・指導が入るしそうそう失敗することもない」
「でも国を助けるためにリスクを負って借金してくれる会社なんてあるの? この国にある会社って少ないし小さいんでしょ?」
「いなきゃ総理は困るから、必死で交渉するはずだ。国内企業が有利になる法律を作ったりな」

 外資系企業に市場を占拠されている状況にテコ入れせざるを得なくなるだろう。今回の競売事件は単なる攻撃ではない。国家改革を一気に進める一手でもある。

「この騒動でついでに働ける場所もいっぱい作ったってこと?」
「それだけじゃない。働く人も増えるぞ。融資額に応じて国民を雇わないといけない契約だからな」
「素直に働く人いるかな? あんなだよ? この国の人たち」
「大勢いるさ。政府に貯金を徴収されて困る国民が大量発生するんだ」
「えぇ⁉︎ そこに繋がるの⁉︎」

 働く場所も労働者も生まれるように誘導する。あんなにも苦労した国家改革が、邪道を選べば随分とスムーズだ。

 ただし、殲滅戦争を未然に防ぐための警護に魔力のほとんどを使う羽目にはなっている。短期決戦に持ち込んで正解だった。この警戒体制を死ぬまでノーミスで続けるってのは流石に無謀だ。今回は奇襲だったことも大きい。

 今後総理はいつでもカードを切れる体制を取るだろう。こんな無茶ができる機会はそう多くない。充分な成果を挙げられるように考え尽くすべきだ。今回はまあ、合格点と言っていい。

「……何? じゃあこの一件だけでウィルクトリアにガツンと痛い目見せて、総理には選挙に響く嫌がらせして、働ける場所をたくさん作って、しかも法律で守って、国の人たちを就職させて、私の安全も確保しちゃったってこと?」
「まあな。でも一番大事な部分が抜けてるぞ。金の使い道の件」
「あ、それもあった……。ねえ、やっぱ私恥ずかしいよ。ヴァンは私のこと大事にするために考えてくれたんだろうけど、私にそこまでされる価値があるとは思えないよ」

 ヴァンは目をカッ開いて抗議した。

「あるに決まってるだろ。ジルの結婚がきっかけでこの国が変われば、世界中の人たちが救われるんだぞ? 俺なんか軽々超える英雄だよ」
「うぅ~……。自分は辞めたからって気楽に言うじゃん……」
「あと、そんなの抜きにしたってジルは世界一可愛いし、健気だし、頼りになるし、料理も上手だし、意志が強くてかっこいいし、世界一可愛いし──」
「贔屓目過ぎるぅ……」

 ふにゃふにゃと力なく声を絞るジルーナを眺めながら、ヴァンは金の使い道を発表する二週間後を心待ちにしていた。

 世界は思い知るはずだ。これほどの愛妻家はいないと。
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