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第07話 如何に愚かな喧嘩を売ったのか(過去編)
07.協定
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ヴァンは何の策もなくあんな得体の知れない男とジルーナを二人っきりにする男ではない。面談に介入はしないし好きに話させてはいたが、妻の身に危険が降り注ごうものならすぐに割って入ろうと会話だけは聞かせてもらっていた。ファクターの魔法には五感を強化するものがある。リビングのドア、ジルーナの部屋自体のドア二枚を隔てていても丸聞こえだ。
「ジル……! また無茶なことを……!」
顔と名前を明かすなんて認められるはずがない。だが鉄の意志を持つ彼女は言い出したら聞かない。今回ばかりはどうにか言いくるめなければ。
ジルーナが世間に向けて「私が妻です」と言い張ってもヴァンが肯定しない限り国民は誰も信用しない、────なんてこともない。彼女はヴァンの妻である証拠を一つだけ持っている。
二人の結婚は公式の記録に一切残っておらず、ジルーナの身分証明書には「ジルーナ・ハンゼル」と記載されたままだ。だが「一つくらいヴァンと結婚したって証が欲しい」といじらしくねだられてしまったヴァンは、どうにか「ジルーナ・スナキア・ハンゼル」と印字されている正式なIDカードも用意した。結婚したことを誰にも言えない窮屈な生活をさせてしまっている以上、それくらいはしてあげたかった。
勿論、普段は旧姓の方を使ってもらう約束になっている。スナキア入りの方は絶対に誰にも見られないように保管してもらわなければならない。……彼女は、それを全世界に向けて公開するつもりだ。
ジルーナの案よりも有効な再発防止策を用意して説得するしかない。アイディアはすでにあるのだが、果たして納得させられるかどうか────。
「……待たせたな」
ガルーノが部屋から出てきた。そして、
「お前の嫁さん世間に姿を晒すとか言ってるぞ! 絶対止めてやれ!」
「はい……!」
早速その件を報告してきた。
「つーか、すまん。その流れで名前を聞いちまったぜ……。俺は止めたんだが……」
「そ、そうですか。まあ彼女がいいなら……」
ガルーノは義理堅くも約束を守れなかったことを詫びた。彼は本当にビースティアに対しては優しい人だった。ヴァンには厳しかろうがジルーナの身を案じてくれる人なら味方ということにしておいていいかもしれない。
「……ん⁉︎ お前、怪我はどうした? さっきボコボコにしただろうが」
ヴァンは現在、すっかり無傷である。
「健康な分身と合流したので全部治りました」
ヴァンはさっぱりと言い切る。スカルチュアの本部に送った分身など一万分の一程度しか魔力を割いていなかった。大半はジルーナのそばに居る方に寄せていた。怪我の具合も一万分の一まで落ち着く計算だ。
「何だかやるせねぇな……。もう一回やっとくか?」
「いや、痛かったし散々殴られた記憶はあるんですよ……。無駄なんでもう諦めてください」
ヴァンとジルーナのことを「いい夫婦」と言っていたくせに。ヴァンにはその言葉をかけてくれる様子はない。まあ、認めてもらえたようなのでこちらからも何も言うまい。
「それで、犯人の情報は?」
やっとこの話ができる。早急にとっ捕まえて地獄を見せてやらなければ。
「あー……、期待させたようで悪いんだがよ、首都アラムの繁華街に出没するってことしか分からねえ」
「!」
「度々ウチの若いもんが見かけてる。ウチも元々アイツを追ってんだ。だが毎回テレポートで逃げられちまうんだよ。アイツも図に乗って堂々と飲み歩いてやがる」
情報と呼ぶには些細。だが、
「充分です。ありがとうございます」
ヴァンの手にかかればもう見つけたようなものだ。
「分身で網を張ります。アラムくらいならくまなく監視できますから」
せいぜい直径二、三キロ程度の街。大海でクジラを探すよりよほど簡単だ。テレポートと透明化の魔法を使って全部の建物の全部の部屋をチェックすることだってできる。手配書で顔は判明していることだし、三分もあれば絶対に見つけ出す。
「ま、マジかよ……。三万くらいになれるんだったか? それにしても足りるか?」
卒業スピーチで披露した三万の分身を見ていたらしい、あんなもの本気ではない。
「あれは『人の一生は三万日』ってくだりに合わせただけです。あれからも修行はしてますし、二十万くらいは常時作れます」
「バケモンかよ……!」
現在アラムに居るであろう人間たちに一対一で付くことすら可能な人数だ。数メートル間隔でヴァンがひしめき合い、交信魔法で連携を取って効率的に創作するネットワークを作れる。
「早急に解決します。……それで今回の件は怒りを収めてもらえますか? 今後の対策も後でメディアに発表しますから」
「お、おう」
「そしてガルーノさん、提案なんですが」
「何だ?」
「もし今回の犯人のようにスカルチュアの手に負えない犯罪者が居るなら僕が対処します。今後も僕を使ってくれませんか?」
せっかくビースティアを守るという目的を共にする組織があるのだ。協力関係を築ければ互いに利がある。
ガルーノは得意げに鼻を鳴らす。
「それは俺の部下になるって認識でいいのか?」
「えぇ……? ま、まあ、いいですけど」
この際何だって構わない。ついこの前まで英雄だったのに、気づけばマフィアの一員とは。本当に結婚を機にヴァンの人生はガラッと変わってしまった。
「よし、じゃあ早速命令だ。俺を家に帰せ。さっきのアラムのアジトだ」
「……分かりましたよ。どうせ僕もアラムに行くので」
テレポートさせるためには対象に触れる必要がある。二人は握手をした。────あくまでテレポートのためだ。
ヴァンは何の策もなくあんな得体の知れない男とジルーナを二人っきりにする男ではない。面談に介入はしないし好きに話させてはいたが、妻の身に危険が降り注ごうものならすぐに割って入ろうと会話だけは聞かせてもらっていた。ファクターの魔法には五感を強化するものがある。リビングのドア、ジルーナの部屋自体のドア二枚を隔てていても丸聞こえだ。
「ジル……! また無茶なことを……!」
顔と名前を明かすなんて認められるはずがない。だが鉄の意志を持つ彼女は言い出したら聞かない。今回ばかりはどうにか言いくるめなければ。
ジルーナが世間に向けて「私が妻です」と言い張ってもヴァンが肯定しない限り国民は誰も信用しない、────なんてこともない。彼女はヴァンの妻である証拠を一つだけ持っている。
二人の結婚は公式の記録に一切残っておらず、ジルーナの身分証明書には「ジルーナ・ハンゼル」と記載されたままだ。だが「一つくらいヴァンと結婚したって証が欲しい」といじらしくねだられてしまったヴァンは、どうにか「ジルーナ・スナキア・ハンゼル」と印字されている正式なIDカードも用意した。結婚したことを誰にも言えない窮屈な生活をさせてしまっている以上、それくらいはしてあげたかった。
勿論、普段は旧姓の方を使ってもらう約束になっている。スナキア入りの方は絶対に誰にも見られないように保管してもらわなければならない。……彼女は、それを全世界に向けて公開するつもりだ。
ジルーナの案よりも有効な再発防止策を用意して説得するしかない。アイディアはすでにあるのだが、果たして納得させられるかどうか────。
「……待たせたな」
ガルーノが部屋から出てきた。そして、
「お前の嫁さん世間に姿を晒すとか言ってるぞ! 絶対止めてやれ!」
「はい……!」
早速その件を報告してきた。
「つーか、すまん。その流れで名前を聞いちまったぜ……。俺は止めたんだが……」
「そ、そうですか。まあ彼女がいいなら……」
ガルーノは義理堅くも約束を守れなかったことを詫びた。彼は本当にビースティアに対しては優しい人だった。ヴァンには厳しかろうがジルーナの身を案じてくれる人なら味方ということにしておいていいかもしれない。
「……ん⁉︎ お前、怪我はどうした? さっきボコボコにしただろうが」
ヴァンは現在、すっかり無傷である。
「健康な分身と合流したので全部治りました」
ヴァンはさっぱりと言い切る。スカルチュアの本部に送った分身など一万分の一程度しか魔力を割いていなかった。大半はジルーナのそばに居る方に寄せていた。怪我の具合も一万分の一まで落ち着く計算だ。
「何だかやるせねぇな……。もう一回やっとくか?」
「いや、痛かったし散々殴られた記憶はあるんですよ……。無駄なんでもう諦めてください」
ヴァンとジルーナのことを「いい夫婦」と言っていたくせに。ヴァンにはその言葉をかけてくれる様子はない。まあ、認めてもらえたようなのでこちらからも何も言うまい。
「それで、犯人の情報は?」
やっとこの話ができる。早急にとっ捕まえて地獄を見せてやらなければ。
「あー……、期待させたようで悪いんだがよ、首都アラムの繁華街に出没するってことしか分からねえ」
「!」
「度々ウチの若いもんが見かけてる。ウチも元々アイツを追ってんだ。だが毎回テレポートで逃げられちまうんだよ。アイツも図に乗って堂々と飲み歩いてやがる」
情報と呼ぶには些細。だが、
「充分です。ありがとうございます」
ヴァンの手にかかればもう見つけたようなものだ。
「分身で網を張ります。アラムくらいならくまなく監視できますから」
せいぜい直径二、三キロ程度の街。大海でクジラを探すよりよほど簡単だ。テレポートと透明化の魔法を使って全部の建物の全部の部屋をチェックすることだってできる。手配書で顔は判明していることだし、三分もあれば絶対に見つけ出す。
「ま、マジかよ……。三万くらいになれるんだったか? それにしても足りるか?」
卒業スピーチで披露した三万の分身を見ていたらしい、あんなもの本気ではない。
「あれは『人の一生は三万日』ってくだりに合わせただけです。あれからも修行はしてますし、二十万くらいは常時作れます」
「バケモンかよ……!」
現在アラムに居るであろう人間たちに一対一で付くことすら可能な人数だ。数メートル間隔でヴァンがひしめき合い、交信魔法で連携を取って効率的に創作するネットワークを作れる。
「早急に解決します。……それで今回の件は怒りを収めてもらえますか? 今後の対策も後でメディアに発表しますから」
「お、おう」
「そしてガルーノさん、提案なんですが」
「何だ?」
「もし今回の犯人のようにスカルチュアの手に負えない犯罪者が居るなら僕が対処します。今後も僕を使ってくれませんか?」
せっかくビースティアを守るという目的を共にする組織があるのだ。協力関係を築ければ互いに利がある。
ガルーノは得意げに鼻を鳴らす。
「それは俺の部下になるって認識でいいのか?」
「えぇ……? ま、まあ、いいですけど」
この際何だって構わない。ついこの前まで英雄だったのに、気づけばマフィアの一員とは。本当に結婚を機にヴァンの人生はガラッと変わってしまった。
「よし、じゃあ早速命令だ。俺を家に帰せ。さっきのアラムのアジトだ」
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