101 / 117
第07話 如何に愚かな喧嘩を売ったのか(過去編)
11.ヴァン・ネットワーク
しおりを挟む
ヴァン[ジル]はテレビを指差し、ついでにヴァン[ラルド]に「ちゃんとやれよ」と交信しておく。
『……俺が原因ではないが、今回の事件のきっかけであったことは認める。だからこそ犯人逮捕には全力で取り組んだ。再発防止策も用意している』
一転して落ち着いた声で、国民に語りかけるように話す。
『犯人の捜索は二十万の分身を等間隔で配置して行った。今後は同様の施策を国中で行う。今回のような犯罪だけではなく、ついでにあらゆる犯罪を防止してやる」
今回は首都アラム限定だったが、明日からは範囲を広げて国中の監視をすることにした。ざっと計算したところ人がいる地域に限ればおよそ三十メートル間隔で配置できそうだった。
『警備中は魔法で視覚と聴覚を強化する。何か危険な目に遭いそうな時は”助けて”と叫んでくれればすぐに駆けつける。この国の、どこにいてもだ。……これ以上の抑止力はないだろう』
ヴァンに監視されていると分かれば犯罪者は動けない。あえて言明しなかったが、きっちり透明化の魔法も使わせてもらう所存だ。さらに────、
『なお、ビースティアの女性に対するあらゆる犯罪は、”将来的に俺の妻になるかもしれない女性”に対する犯罪と認識し、ヴァン・スナキア夫人保護法の対象とする』
決め手はこれだ。ビースティアの女性を十把一絡げにして妻として扱い、全員を保護する。今後今回のような事件が起きれば本来の罪状に加えてヴァン・スナキア保護法の餌食にもなりプラス十年、二十年は食らうことになるだろう。
『繰り返す。ビースティアの女性に対するあらゆる犯罪は俺の妻への犯罪と同等と見做す。……全ての猫耳は俺のものだ」
せっかくの機会なのでビースティアフェチの変態であることを改めて刷り込んでおこう。
────画面の前でジルーナが固まっていた。
「……無茶!」
数秒後、やっと口を開いた。
「国中見張るつもり……⁉︎ いつも……⁉︎ ずっと……⁉︎」
「しばらくは常に。まあ、俺が見ているってイメージが定着してきたら徐々に減らすさ。たまに抜き打ちする程度にまでな」
「力技すぎ……! 私が名乗り出た方が絶対良いじゃんか!」
ジルーナはヴァンの負担を慮った結果、少し怒っていた。
「と、ところで俺の変態発言についてはいいのか?」
「変態なのはもう分かりすぎるくらい分かってます!」
「そ、そうか……」
普通はこっちで怒るんじゃないかと思ったのに。もちろん、あれは本意ではなくただの国民に向けた脅し文句のようなものなのだが。
ジルーナは全然納得していないようで、唇を尖らせていた。
「私ヴァンが大変なのは嫌なんだけど」
「俺はジルが危険なのは嫌なんだ」
二人は自然と立ち上がり相対する。相手を慮った発言とは裏腹に、お互い表情は険しい。絶対に譲れない戦いだからだ。
「ジル、顔や名前を明かしたって全部解決するわけじゃないんだ。同じ名前の人が誤解されるかもしれないし、顔が似ている人だって……、いや、こんなに可愛い子はいないが、────とにかく別のリスクが生まれるだけだ」
「ムゥ……」
「大体、ジルの言う通りにしたって結局俺はジルの護衛を強化しなきゃいけなくて大変だよ。そっちの方が精神的に疲れる。いつも気が気じゃない」
「んん……」
「だから今回は俺にやり方を任せてくれ。必ず何とかするから」
「……ヴァンばっかり頑張るんじゃなくて私も何かしたいのに」
眉を八の字にしてしょんぼりするジルーナの頭を、ヴァンはポンポンと撫でた。ついでにちょっと猫耳も触った。本当は全部ヴァン一人で背負い込みたいところだが、それではかえって嫌がるだろう。そういう妻だ。だからヴァンはジルーナにも重要な仕事を任せるつもりでいた。
「君にも頑張ってもらうよ。これから大変だぞ?」
「え?」
「……知っての通り分身は燃費が悪い」
ジルーナは何かに気づいたように口と目を開いた。
「これから毎日すっごいお腹が空くってこと?」
「ああ。修行してた三年間より食べると思う」
常時二十万人に分かれるとなれば尋常じゃない量の食事を必要とする。ジルーナには毎日炊き出しのような量を作ってもらうことになるだろう。ヴァンは働き、ジルーナはヴァンが働けるように支える。役割を分担しているだけで、お互い大変なのは変わらない。
「あ、あの時よりも……。それは腕がなるね」
「よろしくな。……俺そろそろジルの料理が食べたいし。もう一ヶ月も食べてないからな」
「世界中で美味しいもの食べたじゃんか」
「世界中探してもジルが作ったものより美味しいものはなかったろ?」
ヴァンはご機嫌を取るためでも自分の案に納得させるためでもなく、本心からそう告げた。
「あら、そんなに好き? フフ、ヴァンって私のご飯で育ったもんね」
ジルーナはクスリと笑い、大きく頷いた。
「分かった! じゃあお互い頑張ろうね」
どうにか納得していただけたようでヴァンはホッと胸を撫で下ろす。二度と彼女が「顔と名前を明かす」なんて無茶を言い出さないように、徹底的にあらゆる犯罪を未然に防がねばならぬとヴァンは意気込んだ。ご褒美に大好きな妻のご飯が待っているならきっと何だってやり遂げられる。そう確信しながら。
ヴァンが行う施策はメディアによって”ヴァン・ネットワーク”と名付けられ、ウィルクトリアの治安維持に大いに貢献することになる。そしてこれを通じ、ヴァンは様々なビースティアの女性と出会っていく。
『……俺が原因ではないが、今回の事件のきっかけであったことは認める。だからこそ犯人逮捕には全力で取り組んだ。再発防止策も用意している』
一転して落ち着いた声で、国民に語りかけるように話す。
『犯人の捜索は二十万の分身を等間隔で配置して行った。今後は同様の施策を国中で行う。今回のような犯罪だけではなく、ついでにあらゆる犯罪を防止してやる」
今回は首都アラム限定だったが、明日からは範囲を広げて国中の監視をすることにした。ざっと計算したところ人がいる地域に限ればおよそ三十メートル間隔で配置できそうだった。
『警備中は魔法で視覚と聴覚を強化する。何か危険な目に遭いそうな時は”助けて”と叫んでくれればすぐに駆けつける。この国の、どこにいてもだ。……これ以上の抑止力はないだろう』
ヴァンに監視されていると分かれば犯罪者は動けない。あえて言明しなかったが、きっちり透明化の魔法も使わせてもらう所存だ。さらに────、
『なお、ビースティアの女性に対するあらゆる犯罪は、”将来的に俺の妻になるかもしれない女性”に対する犯罪と認識し、ヴァン・スナキア夫人保護法の対象とする』
決め手はこれだ。ビースティアの女性を十把一絡げにして妻として扱い、全員を保護する。今後今回のような事件が起きれば本来の罪状に加えてヴァン・スナキア保護法の餌食にもなりプラス十年、二十年は食らうことになるだろう。
『繰り返す。ビースティアの女性に対するあらゆる犯罪は俺の妻への犯罪と同等と見做す。……全ての猫耳は俺のものだ」
せっかくの機会なのでビースティアフェチの変態であることを改めて刷り込んでおこう。
────画面の前でジルーナが固まっていた。
「……無茶!」
数秒後、やっと口を開いた。
「国中見張るつもり……⁉︎ いつも……⁉︎ ずっと……⁉︎」
「しばらくは常に。まあ、俺が見ているってイメージが定着してきたら徐々に減らすさ。たまに抜き打ちする程度にまでな」
「力技すぎ……! 私が名乗り出た方が絶対良いじゃんか!」
ジルーナはヴァンの負担を慮った結果、少し怒っていた。
「と、ところで俺の変態発言についてはいいのか?」
「変態なのはもう分かりすぎるくらい分かってます!」
「そ、そうか……」
普通はこっちで怒るんじゃないかと思ったのに。もちろん、あれは本意ではなくただの国民に向けた脅し文句のようなものなのだが。
ジルーナは全然納得していないようで、唇を尖らせていた。
「私ヴァンが大変なのは嫌なんだけど」
「俺はジルが危険なのは嫌なんだ」
二人は自然と立ち上がり相対する。相手を慮った発言とは裏腹に、お互い表情は険しい。絶対に譲れない戦いだからだ。
「ジル、顔や名前を明かしたって全部解決するわけじゃないんだ。同じ名前の人が誤解されるかもしれないし、顔が似ている人だって……、いや、こんなに可愛い子はいないが、────とにかく別のリスクが生まれるだけだ」
「ムゥ……」
「大体、ジルの言う通りにしたって結局俺はジルの護衛を強化しなきゃいけなくて大変だよ。そっちの方が精神的に疲れる。いつも気が気じゃない」
「んん……」
「だから今回は俺にやり方を任せてくれ。必ず何とかするから」
「……ヴァンばっかり頑張るんじゃなくて私も何かしたいのに」
眉を八の字にしてしょんぼりするジルーナの頭を、ヴァンはポンポンと撫でた。ついでにちょっと猫耳も触った。本当は全部ヴァン一人で背負い込みたいところだが、それではかえって嫌がるだろう。そういう妻だ。だからヴァンはジルーナにも重要な仕事を任せるつもりでいた。
「君にも頑張ってもらうよ。これから大変だぞ?」
「え?」
「……知っての通り分身は燃費が悪い」
ジルーナは何かに気づいたように口と目を開いた。
「これから毎日すっごいお腹が空くってこと?」
「ああ。修行してた三年間より食べると思う」
常時二十万人に分かれるとなれば尋常じゃない量の食事を必要とする。ジルーナには毎日炊き出しのような量を作ってもらうことになるだろう。ヴァンは働き、ジルーナはヴァンが働けるように支える。役割を分担しているだけで、お互い大変なのは変わらない。
「あ、あの時よりも……。それは腕がなるね」
「よろしくな。……俺そろそろジルの料理が食べたいし。もう一ヶ月も食べてないからな」
「世界中で美味しいもの食べたじゃんか」
「世界中探してもジルが作ったものより美味しいものはなかったろ?」
ヴァンはご機嫌を取るためでも自分の案に納得させるためでもなく、本心からそう告げた。
「あら、そんなに好き? フフ、ヴァンって私のご飯で育ったもんね」
ジルーナはクスリと笑い、大きく頷いた。
「分かった! じゃあお互い頑張ろうね」
どうにか納得していただけたようでヴァンはホッと胸を撫で下ろす。二度と彼女が「顔と名前を明かす」なんて無茶を言い出さないように、徹底的にあらゆる犯罪を未然に防がねばならぬとヴァンは意気込んだ。ご褒美に大好きな妻のご飯が待っているならきっと何だってやり遂げられる。そう確信しながら。
ヴァンが行う施策はメディアによって”ヴァン・ネットワーク”と名付けられ、ウィルクトリアの治安維持に大いに貢献することになる。そしてこれを通じ、ヴァンは様々なビースティアの女性と出会っていく。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる